〔詰み〕
タチノは全力で逃げていた。聖騎士が既に進行方向してる道に先回りしていたから、遠回りしようと考え、逃げていた。聖騎士にバレず、逃げていた。しかし......
聖騎士はまたもや固まっていた。流石に一人の死刑囚を捕まえるだけにこれほどまで多くなくてもいいのではないか。
何故これほどまでに聖騎士が集まっているのかと言うと、単純にタチノの強さや殺人歴にも関係していた。
タチノの強さはS、A、B、C、D、E、Fの強い順で並べたランクで表すと、Bランクの強さを誇る。上から三番目とて、弱い訳では無い。....否、Sランクは規格外と言える。Aランクは超人。Bランクは達人。タチノの力はもしかすると、Aランクに届くかも知れない強さを持っている。
のたが...
「もう聖騎士はこんなにいやがるのか...なら、こっちは地下水路から行ってやる!俺ながら凄い事を思いつくぅ!」
頭が少し悪い事もあって、戦い方も単純でBランク、もしくはCランクかも知れないと言われていた。
そんなタチノはマンホールから地下水路に続く道へ辿る。だがそこには聖騎士は居ない。タチノはなるべく足音を立てずにゆっくり歩いていた。タチノは靴を脱ぎ、片手で靴を持ち、ひたすら静かに歩く。
「いや、ここで一晩寝るか?......よし。ここで一旦休むか」
タチノは地下水路で休憩を取ろうと決める。丁度、少し広い空間を見つけ、その中で休憩をとるタチノ。
袋の中から飲み物を出す。
キャップをあけ、そのまま一気にグイグイ飲んでいく。袋の中にはもう一本飲み物がある。
とりあえずお菓子と袋にたまたま入っていた馬刺しを取り出す。
「美味そうだな......久しぶりの肉だ...ちゃんと味付けもしないとなぁ〜?」
そう言って馬刺しと一緒に入ってたタレを満遍なくかける。美味しい匂いが広まる。
タチノは馬刺しを食いちぎる!タレは床にタレてしまう。だが、食べることだけに集中しているタチノには関係ねぇ!!食べる!食べる!食べる!食べるぅぅぅ!
まるで獲物を狩る肉食動物の如く!!美味いのか、顔が少し微笑んだァ!!なんだこいつ!!この顔を表すには!!この言葉がお似合いだ!!
キモ!!
「あ?」
タチノは不意に誰かに向けて睨む。
「まあいいか。とりあえず、計画を立て直すか...」
タチノは計画を立てようとしていた。自分の足でも計画的に行かなければ、捕まるかも知れないという不安もあった。前回タチノが捕まった時もそうだ。強盗で計画も無しに、ずっと走り回っていた結果、呆気なく捕まってしまったのだ。
だが、その時に聖騎士を......四人殺した。それが原因で死刑が確定。半年牢屋に居たのだ。だが、牢屋に居た時、脱出の計画とその後の計画を立てていたのだが、脱出の計画を立て、直ぐに刑務所を脱獄してしまう。だからその後の事は余り考えていなかったのだ。
「さて...とりあえず地下水路が何処に繋がっているのかは分からねーが、まず地下水路を明日に出る。そしたら安全な所まで逃げるしかねーな。とりあえずこの国を出る事を目標に動く。食料は奪う。完璧だな!───」
「そんなんで良く脱獄なんて図ったなぁ」
「っ!?誰だ!?」
不意にタチノの後ろには見知らぬ声の人物がそこにはいた。その人物は明らかに変な格好をしていた。
───青いスーツに赤いマント。顔は普通で寝癖が少しついている男。ハチオだった。
「何故ここが分かった!?」
「何故って...マンホール入っていくのが見えたから?」
「見ていたのか!?」
「おん」
流石にタチノもハチオがマンホールに入るところを見られていたなんて予想外だった。確かに四方八方見ていたはずだ。タチノは、ハチオが何処で見ていたのか不思議でならないでいる。
「(どっから見ていたんだ?俺は確かに注意深く周りを見渡していたはずだ。俺の視界には誰一人映らなかった。いつ見ていた?!こいつはいつ、俺を見ていたんだ?!)」
タチノは久しぶりに鼓動が早くなる。目の前の人物が何者なのか。不思議でしかなかった。
「とりあえず、眠ってもらうぞ?」
「ぐははははは!お前が何者であれ、俺はこんな所で終わるわけにはいかねーんだよ。お前が眠れや!永遠になぁ!!」
タチノは遂に戦闘態勢に取り、今は目の前の人物を殺すのが先だと考え、拳で対抗する!!
タチノは物凄い速さで地下水路の壁を蹴りながらハチオの周りをグルグル回っていた。それも残像が見えるぐらいに速く。
「どうだコスプレ野郎!これが俺だぁぁ!!この速さこそが、俺の武器!!ぐははははは!」
タチノはスピードを上げる。何十人と言うタチノがハチオを囲む。タチノが全方向からハチオに向け、攻撃をする!!!しかしその一瞬。残像じゃない本体──タチノをハチオは見ていた。
バァァン!
その音は凄まじい打撃音だった。紛れもなくその攻撃は人を殺せるであろう。ハチオは......
「この程度か?」
「ッ?!」
無傷で立っていた。それも鼻をほじりながら。
タチノは訳が分からなかった。何故ハチオが生きているのか。なんで無傷なのか。なんで鼻をほじっているのかも。
タチノの頭には二つの文字が浮かんだ。
〔詰み〕
タチノは思った。何故こんな奴がこの国に居たのかと。何故こんな奴が無名なのだろうかと。
目の前の男は強すぎた。一件普通の変なコスプレイヤーにも見える。だが、戦うと一瞬にして実感する。
絶対に勝てない。詰んでいる──と。それほどまでに目の前の男は規格外だった。タチノはそこまで戦闘という経験をした事がない。
だがそこまで経験が無いタチノにも分かった。まともに戦えば───死ぬと。
自分の速度を見破られたのが分かったし、全力パンチも効かない相手。そんなのもう──逃げるしかなかった。
「うわぁぁぁぁ!!」
タチノは全速力で逃げる。それも今までよりもずっと速く。聖騎士なんて関係ない。今はあいつから逃げなければ。あいつから何としてでも逃げなければ。聖騎士よりも遥かに恐ろしいあいつから逃げなければ。
タチノは逃げ続ける。後ろを振り向く。しかしハチオはついてきていなかった。流石に撒いたかと思った次の瞬間。
「俺が鬼な?」
不意に体が前にある方向から聞き覚えのある声がした。首を前に向ける。そこには──奴が居た。
「ぐばばばばばば」
タチノは走っている途中で......ショックで気絶してしまった。なのに足はまだ動いていた。体は自分が気絶している事すら気づいていなかった。
ハチオはタチノを止める。するとその場でタチノは崩れ落ちる。
「あの...え?終わり?ちょ...もっと鬼ごっこしたかった...」
ハチオはというと、まだタチノと追いかけっこをしていたかったという気持ちで居た。何故気絶したのかはハチオにも分かっていなかった。
因みにハチオがタチノと初めて会話した時眠ってもらうと言っていたのだが、あれはああ言えば攻撃を仕掛けてきて、戦闘が続くんじゃないのかと思って放った言葉だったのだが、攻撃してきたと思ったらタチノは逃げてしまう。だから次は追いかけっこしようと言うことで、俺が鬼と伝える為に先回りしたのだが、訳もわからず気絶してしまう。ハチオは何故気絶したのか不思議で仕方がなかった。
「ま、とりあえず運ぶか」
ハチオはちゃんと聖騎士達にタチノを届ける事にする。若干口から泡が出てるタチノだが、その泡がタチノを担いだ時にハチオのマントに着いてしまう。
「あ?!なんかびちゃって言っぞ!?ちょ!!」
そう言いながらハチオはタチノをぶん投げ、自分のマントを見る。そこにはタチノの唾液もついていて......ハチオの顔は怒りで震えていた。
「このマント......高かったんだからなぁァァァァ!!!!!!!染みになったらどうすんだこんにゃろぉぉお!!!!!!!うおぉおぉおぉぉぉ!!!!!!!」
ハチオは頭を抱えしばらくその場で膝をつきながら絶叫していた。
「臭くなるぅぅぅぅ!!!俺のマントぉぉぉぉぉおおおお!!!」
そしてその声が地上にいる人達にも聞こえたとか聞こえなかったとか....