鬼ごっこの始まり
あの銀行強盗から一週間経った頃。
ハチオは家でごろごろしていた。
「あぁ〜暇だぁぁ...」
ハチオはそんな事を呟きながらベッドの上で寝っ転がっている。
何故暇なのかと言うと、あの銀行強盗以来、一度もハチオはヒーローらしいことはしていな...くもなかった。
それでもハチオは暇だったのだ。
「平和なのは良いんだけど、実質ヒーローやってる割には事件とかそう言う所に行っても、大体が聖騎士様方が退所しちゃうから俺やることないなぁ...」
そう。大きな事件などそういった物は、主に聖騎士が解決してしまう。
聖騎士というのはこの国を守る為に存在する。そして国の王や貴族と言った偉い家系などを24時間365日護衛する大変な仕事だ。
そして聖騎士になるには実力が無ければ務まらない。現に弱い者は殺人犯に殺されたりしている。
そう言った被害で貴族も殺されたり、と言うことが無いように、実力ある者しか聖騎士にはなれない事になった。
《ここで最新ニュースです》
ハチオはテレビを見る。
《先程、タチノ死刑囚が逃亡しました。恐らく今は23区か24区に逃亡中との事です。23区、24区の外にいる人は直ちに、避難してください。只今、聖騎士が向かっています。密やかに建物や地下に避難してください。タチノ死刑囚の『異能』は『激速』。足が速いです。23区、24区に住む住民は密やかに避難してください。そして目撃した場合、直ちにご連絡ください。繰り返します──》
ハチオは真剣な顔になり、今テレビに映る死刑囚の顔を見た。頭はスキンヘッド。眉毛は濃く、一重で目が細く、髭を少し生えている。
「よし、覚えた。行くか」
ハチオはパジャマから青いスーツ、赤いマントを着用する。
「さあ、鬼ごっこの始まりだ」
マントは今日も風で揺れていた。
┌┐
└┘
タチノ死刑囚は物凄い速さで逃げていた。
「ぐははははは!!!俺様は最速!!誰にも追いつかれない!!捕まったあの時は油断したが、走ってる俺は絶対二捕まえられん!ぐははははは!」
タチノは自分の足の速さに自惚れしていた。そしてタチノの目の前には叫ぶ主婦達がいた。
「とりあえず食料を確保しておくか」
そう言ってタチノは主婦の目の前で止まる。
「ヒィィ!」
「おいババァ。その食べ物寄越せ。さもなくば、殺すぞ?」
「分かりました分かりました!!どうぞ!!」
そう言って主婦は震えながら右手に持っていた袋をタチノに渡す。
中には飲み物とお菓子など食べ物も入っていた。
「例を言うぞババァ。ぐははははは!!!」
タチノは袋を抱えてまた走り出す。
袋の中を漁り、チョコレートを出す。
タチノはチョコレートを口に入れる。
「久々のチョコレート...懐かしいぜ...」
チョコレートを走っているのにも関わらず、どんどん口に運んでいく。
いつの間にかチョコレートは無くなっていた。
タチノは裏路地に入る。姿を隠しながら移動していく為だ。その為には変装も必要だ。
裏路地を抜けるとそこは、運良く商店街だった。警報を聞き、店はシャッターで閉まっていた。
「お?服はっけーん」
タチノは服がある所まで走る。服装は白のシャツに灰色のスウェットパンツを着た。囚人服はゴミ箱に脱ぎ捨てた。
「このままじゃ顔でバレるな...帽子とマスクも着けていくか」
そう言って仮面とマスクを盗む。変装はバッチリ。これでバレないだろうとタチノは思った。
「さて、とりあえずこれでバレないはずだ!ぐはははははは!!!」
タチノはデカい声で笑ってみせた。
そして近所の住民達はというと、既に通報していた。何故なら、この商店街の店には防犯カメラが設置してある。そしてタチノは囚人服を着たまま、服を漁っている映像を中に居た住民は見ていた。
タチノが見つかるのも時間の問題である。タチノは逃げ切るのであろうか...
┌┐
└┘
ハチオは空を飛びながらタチノ死刑囚を探していた。
「うーん?どこだぁ?」
ハチオは目を細めながら遠くを見渡していた。
しかし殆ど住民は外に出ていなかった。そんな中、カツアゲしてる少年たちがいた。ハチオは現場に向かう。
「君たち、かつあげとかやめた方が良いよ?」
「あ?」
「なんだてめぇ?」
かつあげしてる少年たちがハチオに振り向く。少年たちはハチオの服装を見るや否や...
「ぶふぁwおまwその服ださww」
少年たちは大爆笑。涙を流しながら笑う少年まで。かつあげされている子は涙をその場で崩れて泣いていた。
「...君達。ちょっとあっちで“OHANASI”しようか?」
ハチオは完全にキレていた。それもムカムカした顔で。少年たちは流石にヤバいと思い、逃げようとするが、ハチオは逃がすはずも無かった。
ハチオは少年たちを捕まえた後、少しOHANASIをして、カツアゲされた子の元へ戻った。
「よし。彼達は、もうカツアゲはしないらしい。それとこれ。今までかつあげされてきたお金を彼等から返して来てもらったよ。ちゃんと気をつけろよ?あと、他の物も返してもらえよ?」
「あの...その...ありがとう...ございます...」
良くわからない大人に突然カツアゲされた少年達からお金を返して来てもらったなんて、怪しく極まりない。しかし、ハチオはお金をカツアゲされていた子の手元に渡した。
「じゃあな」
ハチオはカツアゲされていた子に手を振り、再びタチノ死刑囚を探す為、その場から飛んで離れた。
「何者だったんだろう...あの人...」
少年は不思議に思いながら彼が見えなくなるまで、空を見ていた。
「ハヤマ...」
「っ!?」
「悪かった。これから俺達はお前を守る!」
「絶対にお前は俺達が守るから!」
「えっ?」
カツアゲ達の態度の変わり様は異常だった。本当に何者だったんだろうかと少年──ハヤマは元カツアゲ達に苦笑いを浮かべながら内心で思っていた。
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