06 武器屋
「うっ……もう、朝か…」
もうすでに日が出てきていた。この宿の窓にはカーテンはなく、窓からの光がそのまま入ってきているので少し眩しい。
いや、もしかしたらこの世界自体にカーテンなんてものは存在しないのかもしれない。
ベットから起き上がり、ひとまず着替えを済ませる。部屋に洗面台が無いので、一階にある共用のものを使わなければならないのだが、この姿で行くとまずい。
一階に行くと、もうすでに数人の冒険者が朝食をとっていた。時計を見ると、まだ朝の7時半ほど。もう少し寝ていても良かったかもしれない。
「お嬢ちゃん、よく眠れたかい?」
「ぐっすりでしたよ」
起きたら、ベットが固すぎて体が痛いなんてこともなかったし。
「朝食はもう食べるかい?」
「はい、お願いします」
食事の準備をしている間に洗面台に向かい、顔を洗いに行く。
洗面台に行くと驚いたことに蛇口には青い宝石が付いていて、水道管とかは繋がっていなかった。蛇口を回すと普通に水が出た。特に不便な事はなかったが不思議だ。魔法の類だろう。
水の魔石
魔力を流す事で水を出すことができる。使うと徐々に小さくなっていき消滅する。
鑑定をしてみると、水の魔石と言うらしい。この魔石に魔力をあらかじめ流しておいて、蛇口で止めているのか。
そういえば水を見て思い出したんだが、昨日風呂に入ってないな。やっぱり日本人だからか、1日でも風呂に入らないと不快感を覚えるな。
この宿に風呂はなかったが、どこにあるんだろうか?銭湯とかあればいいんだけど。
戻って、近くにあったテーブルに座るとおばさんが朝食を持ってきてくれた。
サンドイッチだ。小さめのが3つで、卵が二つ、肉が一つだ。
にしても、食パンなんてあるんだ……
昨日の夕食は美味しかったが、少し量が多かった。食べきれなかったというわけではないが、少々きつかった。この体だからか、前よりも食べられる量が減っていたのに、昨日の夜気がついた。
だか、朝食は流石に心配なさそうだ。
「はむっ……美味しいけど、うーん」
厚焼きタマゴサンドにかじりついた。味も薄くなく、美味しいんだが何か違う。もう一つのタマゴサンドのパンをめくってみる。
あ、何もなってない。マヨネーズとかマスタードは流石に無いのか。
「美味しいから、無くてもいいけど……はむっ」
肉サンドの方も食べてみる。肉の細切れが挟んであるが、塩で味付けされているみたいだ。
「あぁ〜、美味しかった」
「そりゃ良かったよ」
俺の独り言に反応しておばさんが答えてくれた。
「もう行くのかい?」
「今日は予定があるから、早いうちに行きたいんだ」
今日最初に行くのは武器屋だ。そのあとギルドに行って依頼を受けるか、受けなくても街を出て魔物を少し買ってみようと思う。
「それじゃあ……」
「おい、嬢ちゃん俺たちと遊ばねぇ?」
そう言って宿を出ようと思ったのだが、体格のいい男に絡まれる。後ろにもう二人男がいる。ただでさえ、大きいのに俺が小さくなっているから余計に大きく感じる。
「そんな時間はないんでね」
がたいのいい男が出してきた手を払いのける。こっちは野郎に構ってる時間などないのだ。
「何するんだよ、いてぇじゃねぇーか?これは落とし前つけてもらわねぇとな!」
痛いわけないだろ、身体強化も何も使ってない状態だから、ただの少女と変わらないよ。
肩を掴んで顔を近づけてくる。酒クサッ、酔ってんのかコイツ。
そんなに顔近づけんな!気持ち悪い。
「おい、やめな!この宿で勝手なことするんじゃないよ!」
「るせぇ!」
注意をした宿のおばさんに怒鳴りつける。
「いい加減、キモい」
身体強化を発動させ、思いっきり肘をみぞおちに叩き込む。ついでに、腹を抑えてうずくまっていたから顔面を蹴り上げてやった。すると後ろにあったテーブルを巻き込みピンポン球の様に転がっていく。
ちょっと、面白かった。
周りが俺の行動に呆然としている中、これに懲りたら、もう近づくなよ? そう言い残して、宿を出たがしっかりと反省しているだろうか?
◇
「ここか…」
見上げると武器屋の看板がある。アドルフに教えてもらったオススメの武器屋だ。
今にも潰れそうな外観だが本当に大丈夫か?
中に入ると、鉄の剣や銅の剣、槍、盾、鎧が並べられている。鑑定してみたが、並んでいる商品の中に飛び抜けていいものはなかった。
「あ、いらっしゃい。久しぶりのお客だな」
15.6歳の少女が声をかけてきた。俺と同じぐらいか?あ、そうだった。今の俺12.3歳の外見なんだった。
「えーと、剣が欲しいんだけど。金貨5枚くらいでお願いできる?」
安いものを買って、すぐに壊れてしまったら困るので少し、高めに言ってみる。
「その金額なら、その辺に置いてあるものじゃダメだね。ちょっと待ってて」
一瞬悩むそぶりを見せて、店の奥に消えていく。
この店、あの子が店長なのか?服屋の時は他にも人がいたけど、この店はあの子一人しか居ない。
「お、またせ!」
奥から剣を抱えて持ってからのを繰り返し、何本かの剣が並んだ。
「これが金貨5枚くらいの剣か」
試しに一本持ってみる。真っ黒な剣だった。持ってみると魔力が籠っているのがわかる。なんか禍々しい様な気がするが……
「この剣ってどんな剣なんですか?」
「それはですね、呪いの剣です。確かに強い剣なんですが、徐々に呪いに飲み込まれるのでご注意を」
え、何それ怖い。この禍々しい魔力はそうゆうことか。
俺は持っていた剣を手放して横にある剣を手に取る。
これからも魔力が感じられる。でもさっきと違ってなんとなく神秘的な感じがする。きっと悪いものじゃないな。
「これはどんな剣なんですか?」
「それは、ある魔術師が強力な聖魔法を込めたんです。悪魔なら効果は抜群。普通の魔物でもcランク程度なら一撃で仕留められます」
無茶苦茶強いじゃん。それで金貨5枚って安いな。流石アドルフさんのオススメの店だ。
「すごいじゃないですかこの剣」
「そうでしょ。ですが欠点があってですね、一回聖魔法を発動すると剣が耐えきれずに砕け散ります」
え?何その剣、使い道なさすぎるでしょ。感心した俺がバカだったのか。なんなのこの店まともな武器置いてないの?
「じゃあこの剣は?」
俺は隣にあった剣を指差す。豪華そうな剣で明らかに強力そうだ。
「その剣は、少し重いですね」
本当にそれだけだろうか?ジト目で見つめてみる。
あ、おい!目をそらすんじゃない。
「よいしょ」
あれ?びくともしませんが?ちょっとどころか重すぎない?身体強化を全力で使ってやっと持ち上げられたよ。
「その剣、何故が重量が増加する魔法がかけられているんです」
俺の顔を見ずに、乾いた笑い声で言った。
誰だよそんな意味のない魔法かけたの。どんだけ重いものを持ちたいんだ。筋トレか?
この子も何故こんな剣ばっかり持って来たんだろう?
「ねぇ、ここってアドルフさんのオススメの店だよね?」
「え?違いますよ。その店は一つ隣ですね」
「……そっかまたね」
「待ってください!帰らないでください!この店全然客が来なくてこのままじゃ潰れちゃいますよ!」
出て行こうとする俺の足にしがみついてくる。そりゃこんな武器ばっかりだったら客も来なくなるだろう。誰も呪われた剣とか砕け散る剣、持てない剣を買うわけないだろ。
「潰れようが無くなろうが知らん。俺は隣の店に行く」
「待って、待ってください。もう一本だけもう一本だけ見ていってください。業物があるんですよ!」
「どうせ、何かしらの問題を抱えているんだろ?」
「本当に最高の一本ですから!もんだいなんてかかえてませんからぁぁぁあ!」
はぁ、そこまで言うなら見てみよう。仕方ないこのままでは、俺が店を出てもいつまでもついて来そうだ。
「見るから、でも一本見てダメだったらそれで終わり」
「分かりました。……これです」
取り出した剣は、透明度の高い水色。素人でも見ただけで業物だと分かってしまうオーラがある様な気がする。
持って見ると、これにも何か魔法がかけられている様で、魔力を流してみる。
「何も起きないな……」
「あ!そんな無闇に魔力流さないでくださいよ。もし、爆発とかする魔法がかけられていたらどうするんですか?」
「確かにそうだった。悪い」
「分かればいいです。あと、それにかけられているのは、切れ味上昇です。もう一つ特徴的なのは頑丈ですね。なんの金属かわからないんですけどとにかく頑丈なんですよ」
切れ味が良くて、頑丈か。とりあえずそれぐらいでいいか。なんとなく手に馴染む感じがするし、見た目も神秘的だ。
「なら、これを買うよ」
「本当ですか!?ありがとうございます!」
俺が買うと言った瞬間パァッと顔を笑顔にして詰め寄ってくる。どれだけこの店ピンチだったんだ?
その後、俺は金貨5枚と大銀貨5枚で剣を購入した。
さてこの後はギルドに行って依頼をするか、森に入って魔物を狩りに行くかだな。