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37 召喚士

  「おい、ルシア! ルシア!」


  体から力が抜けてしまったのか倒れそうになるルシアの体を支えて呼びかける。


  特に今すぐ命に関わるような致命的な怪我は無いみたいだがもう見ているだけで痛々しい。

  本当にアドルフ達が戦えるようになるまで待たずにこっちに来てよかった。


  「ルシア、これポーションだから飲んでくれ」


  「……分かった」


  絞り出したような返事をしたあと上級ポーションの瓶の蓋を開けて渡すとゆっくりと飲んでくれた。


  「お姉ちゃん、この先にレックスお兄ちゃん達がいるの」


  「うん、分かってる」


  ここまで来る途中に何人か森にいるようだったので近づいてみたら鎧を着た騎士がいた。

  近づいたら、この先に行くな と言われたのでボコボコにしてレックス達の居場所を聞いたので大体の方角と距離は把握している。


  「ルシア、動けるか?」


  「魔力枯渇のせいであんまり動けない。

  走るのとかはちょっと厳しいけど、上級ポーションのおかげ五分もあれば走れるようにはなると思う」


  魔力枯渇?

  何それ? いや、そのまんまの意味か……魔力って無くなるもんなんだなやっぱり。

  今までバンバン魔法使ってるけど魔力が減ってる感覚も無いからなぁ。魔力もチートなのか?


  まぁ、そんな事どうでも良いか。

 

  「じゃあ、ここで五分ゆっくり待ってる時間はないから背負って行くからね」


  そうルシアに一言いってから地面に座り込むルシアを背負おうとするが、足だけでなく腕も魔力枯渇でまともに動かないらしく、しがみつけないらしい。


  それなら仕方ないのであれにしよう。


  俺はルシアの膝のあたりと腰あたりを持って抱き上げる。


  「え、お姉ちゃん、これって……」


  お姫様抱っこである。

  ここは森の中、しかも最奥なので周りに人は居ないのだがルシアは恥ずかしいらしい。

  目に見えてわかるくらい顔が赤く染まっている。まるでリンゴだ。

  お姫様抱っこで照れるルシア……かわゆい。


  もしこれが、この世界に来る前の姿で出来たならどんなに良かった事だろうか……。


  「ルシアー、行くぞー」


  俺が抱き抱えているので落ちることはないのだが一応声をかけてから走り始める。


  そこら中に俺よりも数倍背の高い木が立ち並んで居て足場は悪いが、身体強化を全力で使って走ればレックス達のところまでそう時間はかからないだろう。




  ◇◇



  ルシアを抱っこして走り始める事五分。

  木々が立ち並ぶ中でも少しだけ開けた場所が少し先に見えた。


  「フフッ、あと少しだ。

  あと少しで私の忠実なる最強のしもべが誕生する」


  誰の声だろう?

  話から察するにレックス達を連れ去った貴族の声だろうか。


  スピードを緩める事なく声の聞こえた方へ走る。


  開けた場所に出ると小太りな男がレティシアさんの横に立ち、他のレックス達は一人一人地面から出た鎖で固定されている光景が広がっていた。

  鎖で繋がれているレックス達の地面には魔法陣が描かれていた。

  さらにレティシアが鎖に繋がれて立っている地面にも魔法陣が描かれておりその魔法陣から線がまっすぐ伸びて奥のさらに大きな魔法陣へとつながっていた。


  「ん? なんなんだね君達は?

  ここは現在立ち入り禁止の筈だ。まさか! 私の儀式を邪魔しに来たのでは無いだろうな!」


  いや、その通りですけど。

  てか、それ以外にここに来る理由がないだろ。


  「ステラさん! ルシア!」


  レックスが絶望の中から希望を見つけ出したような表情で叫ぶ。


  「ルシア、降りられるか?」


  「うん、もう大丈夫。魔力も少し回復したし」


  ルシアを降ろしてそのまま貴族ーーテオドルとレティシアの元へ走る。

 

  この儀式は召喚士の魔力が無ければ発動しない。

  なら、さっさとあの魔法陣からレティシアを出せばいいだけだ。


  「貴様、やっぱり儀式を邪魔しに来たのだな!

  ふざけるな、たかが平民の分際でぇぇぇぇぇえ!」


  テオドルが自分の腰につけてあった短剣を抜く。

  護身用なのか、それとも短剣が普段使っている武器なのかは分からないが、構え方が素人から見た俺でもわかるほど適当だし、握っている手が震えている。

  おそらく前者だろう。

  どちらにしろ俺の脅威じゃない。


  「もう、おせぇよ」


  身体強化された身体で数十メートルの距離をつめる。


  鎖を斬るために剣を取り出して、鎖めがけて振り下ろす。


  だが、鎖を断ち切る前に薄い黄色の壁に阻まれる。

  その黄色の壁はレティシアとテオドルを包むようにして半球型に広がる。


  「……なんだこれ?」


  「あぁ、そうだった。そうだったよ。

  念のため、攻撃された時に結界魔法が発動するようにしておいたんだったよ」


  おい、マジか。

  身体強化して振った剣で傷一つつかない結界か。

  魔法を使えばこの結界を破壊できるかもしれないけどレティシアごと当たったらやばいからな。

  ライトニングとかだったら二人とも死んじゃうし。

  あの貴族は死んでもいいけどな。


  「チッ、面倒なもん持ってんな」


  この結界を壊すよりレックス達の鎖を切って魔法陣から出した方がいい。


  直ぐにその場に背を向けてレックス達の方へ走り出す。

  すでにルシアが鎖を斬ろうとしているみたいだが、刀で簡単に金属製の鎖は切断できないようだ。

 

  「ルシア! どいて!」


  レックスの鎖を斬ろうとしていたルシアをその場から離れされる。

  近くにいたら斬りにくい。


  「やめろぉぉぉお! 私の儀式を邪魔するんじゃない!」


  走りながら剣にも魔力を流して切れ味を上昇させておく。

  そのまま、走りながらレックス、グロリア、ヴィル、ノーラと四人分の鎖を外す。


  「ありがとうございます。ステラさん」


  「礼はいいからグロリアたちを魔法陣から出せ!」


  いつから囚われているのかよく知らないが、レックス以外はまともに動けそうにないらしい。


  俺がヴァルを、ルシアがグロリアを、レックスがノーラを魔法陣から引きずり出す。


  「これで、とりあえずレックス達は助かったな」


  グロリア達を少し遠くの木にもたれ掛からせる。


  「レックス、これ三人に飲ませといて」


  レックスに下級ポーションを三つ渡す。

  ポーションは傷や魔力を回復するだけだから、特に目立った外傷もないグロリア達に効果があるのか分からないが何もしないよりははマシだろう。


  「わ、分かりました」


  「レティシアお姉ちゃんは……?」


  「大丈夫、今から助けに行くから」


  そう言って、結界の方へ走る。


  レックス達がこれで死ぬことは無くなったがこのままレティシアの魔力が流れれば誰にも操作できない強化された魔物を解き放つ事になる。

 

  正直、何が出てきても勝てそうな気がするがこの世に絶対なんてものは存在しない。

 

  「貴様ぁぁぁぁぁぁ! 許さんぞ!」


  テオドル何か叫びながら結界からこちらに出ようとして結界に阻まれている。


  おいおい、中からも出れないのかよ。


  結界を破壊しようと剣で何度も切り込むが破壊される様子は微塵もない。

  さっきより強く切り込んだのでいけるかと思ったがそんな簡単ではないらしい。


  「ステラ、さん。……レックス達を、連れて、逃げてください。

  もう、じかんが、ない」


  レティシアは魔力を吸われているのか息切れしながら言葉をつなぐ。


  「すいません、それはできません」


  今ここで逃げれば、ルシアは必ず残る。

  俺はルシアに守ると言ったのだ。ここから逃げてルシアが魔物に襲われれば約束を果たせなくなる。

 

  ここから逃げるという選択はルシアの為に絶対にしない。


  「そん、な。は、やくーー」


  レティシアが何かを言いかけた時、魔法陣が白く光り輝いた。

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