01 召喚されました
「……ここは?」
もうろうとする意識の中、頭をおさえながら立ち上がる。
辺りを見渡すと白い空間にいた。右を見ても左を見ても、どこまでも白い空間がつづいていた。俺が今立っている場所も地面に立っているのか、浮いているのかもわからないような不思議な空間だ。
よくよく見ると俺の学校のクラスメイトもいるようだ。何人かは意識があるようだが、15名ほどの内8名くらいはまだ意識がない。
何があったんだったけ?そう思い記憶をたどって行く。
確か俺はさっきまで学校にいたはず……
「あぁ、そうだった」
思い出した。教室で弁当を食ってたら急に床に魔法陣が現れたんだ。その魔法陣の光が視界を真っ白に染めたのが最後に記憶が途切れていた。
◇
俺が意識を覚ましてから、一時間ほどたっただろうか。俺はあれから何をするでもなく呆然と立ち尽くしていた。この一時間この空間がなんなのか俺たちに何が起こったのか何も分かっていない。
俺はただクラスメイトが目覚めるのを待つくらいしかやることが無い。
周りの起きているクラスメイトも叫んだり意味もなく暴れたり、それを止める子がいたりでとてもこの状況の事について話し合える状態じゃなかった。
「おい、晴人!ここどこだよ!?」
バッと俺の隣で意識を失っていた俺の親友、重蔵が俺の方を向いて話しかけてくる。
やはり目覚めてからの第一声は俺と変わらないようだ。
身長180センチに短く切りそろえられた髪、鍛え上げられた肉体、あまり頭は良くないのできっと才能の半分くらいは筋肉に使われたんだろうな。
哀れだ。
「おい!晴人聞いてるのか?ここはどこだ?何だよこの白い場所!?」
俺の服を掴んで ぶんっぶんっ と揺さぶってくる。
「知るか! 落ち着け、ここで騒いでも何も分かんなぁだろ?」
まぁ、騒がなくても何も分からないような気がするが。
「確かにそうだが、本当になんなんだ?これってもしかして晴人がよく読んでる本の異世界転移って奴なんじゃないのか?」
「もしそうだったら、心が躍るけど……これはその類かも知れないが厄介ごとだったらごめんだぞ。俺は異世界で最強になってハーレムを作りたいんだから」
俺はよく学校で異世界召喚、転移、転生のラノベをよく読んでいる。
だが、現実と夢の区別はつけているつもりだ。だから異世界召喚や転移なんてあるわけがないそう思っていた。
だが、たった今その考えは頭から消えた。これは異世界とかその類で間違いない。
俺は重蔵に言いながら斜め上を指差す。
そこには肩ほどの長さの髪の少女がいた。思わず息を飲むくらい美しかったその少女だか、そんな事よりも目を引いたのが白い翼だった。
翼といっても鳥のような小さなものではない。1メートル以上はあるであろう翼を付けている少女を見ているとある言葉が頭に浮かぶ。天使という言葉が。
そんなもの存在するわけがない。ほとんどの人間がそう言うだろうがこの姿を見れば誰もが納得するだろう。これは天使だと。
「そろそろ、全員目覚めましたか。ではまず貴方達を召喚した理由を話しましょうか
簡単に言うと、貴方達を異世界に送るためにここに召喚しました」
一部の馬鹿どもから歓声が上がり興奮気味に騒ぎ始める。
「ふざけるな!そんなことに付き合ってられるか!」
「家に帰してよぉ……うっ、うっ」
「そうだぞ! こんなの犯罪だ! 分かってるのか!」
「重蔵、うるせぇから耳横で叫ぶな。それと静かにしてた方が身のためだと思うぞ……」
「え? それってどうゆう意味だ?」
ふざけるな と声をあげる者、泣き崩れる者だいたい状況はこの二択に別れた。
はぁ……馬鹿が。
俺たちがいくら声を上げようと状況は変わらない。
むしろ状況を悪くするかも知れない。
あの天使は俺たちなんかとは格が違う。本能が、魂が警鐘を鳴らしている。
俺たちを異世界に行かせることが目的であるなら皆殺しなんて事はないだろうが、一人二人殺される可能性はないわけじゃない。
「異世界に行く貴方達には、魂に刻まれたスキルが発現するようにしてあります。要するにチートとまではいきませんが、それなりの強さを最初から得られるでしょう。
異世界に行った後は自由にしていただいて構いません。魔王や勇者になっても良い、静かに暮らしていただいても」
クラスメイトたちの声には反応することなく淡々と話をしていく。
「あとは、行けばわかるでしょう。何か質問はありますか?」
あ、一応質問は聞いてくれるんだ。
「じゃあ一つ質問。それ、お前らに何の得があるんだ?」
内心ガクブルしながら質問をする。
天使は全く表情を変えず、こちらを向いて答えた。
「私たちは、主人に造られた存在、主人の考えは分かりかねます」
本当に分かっていないのか、それとも喋らないだけなのか。
「そんな事、どうでも良いじゃねーか晴人。俺、異世界で勇者になるわ」
重蔵が後ろから肩を組んでキメ顔をしてくる。
お前も、異世界行けてバンザーイの人間か……
さっきまで犯罪だぞっ! とか言ってたじゃねぇか。どうゆうことだよ。
「おい重蔵、なんの目的もないのに俺たちを異世界に送ってしかも、何をしてもいいなんておかしいだろ?」
天使に聞こえないように小声で重蔵の耳元でしゃべる。
「あまり、考えすぎない方が良いこともありますよ。
貴方達と私では勝負にもならない。勘付かなければ命をとるつもりはありません」
飛んでいた天使が、一瞬で俺の目の前に現れる。なんの予備動作もなく。よくよく考えてみたら浮いているときも羽を動かしてなかった。
飛んでいるというより、その場にただいたというような感じだった。
「わかった。そうするよ」
素直に返事し意味のわからない出来事に乾いた笑みを浮かべる。それと同時に恐怖を感じる。圧倒的、絶対に逆らってはいけないそう感じてしまうのだから。
「賢明な判断です。人間の命は余りにも脆い。私達に邪魔と判断されれば直ぐに消されてしまう。
私達には敵対しない方が良い。覚えておいた方が良いですよ」
そう言って天使は、微笑んだ。
今まで表情を一切変えなかったのに、微笑んだ。このことに言い知れぬ恐怖を感じ俺は無言でうなづいた。
「他に質問はありませんか?……では転送します。」
天使の言葉と同時に俺たちの下に大きな魔法陣が描かれる。徐々に光が増していき、やがて視界を真っ白に焼く。それを最後に俺は意識を失った。
「せいぜい、役にたってください。我が主人のために……」
誰も居なくなった真っ白な空間で、天使は誰に言うでもなく呟いた。