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泣き虫の魔女  作者: 雪夜群青
『小さな海賊船』編
3/27

海賊船

(ほんとに私、なんでこんなに馬鹿なんだろ……)


 海賊旗を見上げながら、コスモスはまた泣きそうになった。


 海賊は女子供をさらって南の帝国に売り飛ばすという噂がある。いや、売り飛ばされるならまだましな方で、今自分が忍び込んでいるのが見つかれば殺されてしまうかもしれない。かと言って今さら船を降りることもできない。船はとうに港を離れているのだ。


(早く隠れなきゃ………で、でも、どこに?)


 おろおろとあたりを見回すが、どこに隠れればいいか分からない。向こうに置いてある樽の中がいいだろうか。いや、樽は誰かに開けられてしまうかもしれない。船内はさらにいけない。どこにどのような部屋があるか分からないし、逃げ場がなくなりそうな気がする。


 その時だった。


「おい、誰だテメェ」


 明らかに喧嘩腰の声がした。ぎょっとして振り向くと、ひどく目付きの悪い、ボサボサ髪の少年がコスモスを睨み付けていた。


「ひ……!」


 人を脅すのに慣れたその目は、コスモスを震え上がらせるのには十分だった。

 コスモスはすぐさま逃げ出そうとした。しかし、


「おっと、逃げるなよ」


 黒髪に黒い目の少年が躍り出て、行く手を塞いだ。


「あ……あ……」


 コスモスがおろおろしている内に、続々と人が集まってくる。



「どうした、船長に副船長」


「敵か!?」


「ケンカでもしてんのかぁ?」


「遊んでんだったらオレも混ぜろ――!」



 コスモスは瞬く間に、十人あまりの海賊に囲まれた。絵に描いたような窮地だ。

 しかし、そこには一つおかしなところがあった。あまりにおかしかったので、思わず声が漏れた。


「……こ、子供……?」


 海賊達は、全員がコスモスと同じくらいの歳に見える子供だった。




    *****




「……んで、どうする? コイツ」


 黒髪黒目の少年――ハヤブサと呼ばれている――がコスモスを指差して言った。


「どうすっかなぁ」


 隣で、背の高い少年――コンドルと呼ばれている――がのんびりと言った。



 ここは海賊船の一室。椅子に座らされたコスモスを囲み、少年海賊達による取り調べの真っ最中だ。


「つまり君は生活に困っていて、盗みのために船に忍び込んだ。そこではじめて、この船が海賊船だと知った。……これで合ってるね?」


 落ち着いた雰囲気の少年が、コスモスに合わせるようにしゃがんで尋ねた。この少年はヨタカと呼ばれている。


「は、はい、そうです」


 コスモスは硬い動きで頷いた。その顔は蒼白だ。


(な、なんでこんな話になってるんだろ)


 緊張と恐怖のせいでもはや自分が喋る内容すら半分も理解していない彼女は、それでもどうにか自分が魔女であることだけは隠し通していた。そして、必死に正体をごまかす内に、なぜかコスモスは物乞いと盗みで生きる孤児だということになってしまったのだった。


(……孤児だってことだけは合ってる)


 コスモスは、苦手な嘘を吐いたことにさらに緊張を覚えた。


 海賊達は、コスモスを見てゲラゲラ笑ったり、何やら話したりしている。どうやら怒っているわけではなさそうだということは分かるが、それでも不安なものは不安だ。コスモスが目を泳がせていると、ハヤブサと目が合った。ハヤブサはニヤリと笑い、意味ありげに片目をつぶってみせる。そして、彼は後ろを振り返った。


「まあ、これはもう決まってるようなもんなんだけどさ。一応聞いとくぜ。こいつ、どうする?」


 その視線の先には、一人の少年がいた。部屋の奥に乱雑に置かれた木樽の上で、片膝を立てて座っている。最初にコスモスを見つけた目付きの悪い少年。トンビと呼ばれていたはずだ。


 トンビはハヤブサの声に応じて、うつむいていた顔を上げた。尖った目がコスモスを捉えた。今にも殴りかかってきそうな目だ。


「ひっ」


コスモスは涙目になる。


 トンビは木樽から飛び降りると、コスモスの方につかつかと歩いてきた。すっかり固まったまま椅子に座る彼女の前に立ち、ギロリと睨みつける。


「立て!!」


「はいぃっ!」


 トンビが突然怒鳴った。コスモスは弾かれたように立ち上がる。するとトンビはなぜか、自分の頭に手を当てた。そして、その手をすっと水平に滑らせる。前方へ伸ばされた腕は、コスモスの頭のほんの少し上を通り過ぎた。


(な、何やってるんだろ、この人……)


 コスモスが困惑していると、なぜか周囲から押し殺した笑い声が聞こえてきた。


「な? 気に入ったろ?」


 ハヤブサが声を震わせてトンビに問う。その顔はもはや満面の笑みを浮かべている。


 トンビは笑う海賊達を睨みつけた。それでも海賊達が笑うのをやめないので、彼はいまいましげに眉間に皺を寄せ、コスモスを見やった。そして、コスモスに向かって言った。


「テメェ、感謝しろよ! 今日からテメェはウチの船員だ!!」



「よっしゃあーーっ!!」


「雑用係、確保ーーーーっ!!」


 海賊達が歓声を上げた。


「え………せ、船員? わ、私が?」


 コスモスは面食らった。話が急すぎる。どうしてそうなったのか分からない。彼女は来ない助けを求めてあたりを見回した。ハヤブサがその肩に腕を回し、ニヤリとする。


「いや――、お前なら大丈夫だと思ってたぜ! は――、面白ぇ!」


 何が大丈夫だったのか。何が面白いのか。コスモスの頭は限界を迎えていた。さっぱり訳が分からないが、どうやら助かったらしい。

 コスモスがおどおどと目を泳がせていると、相変わらずトンビがコスモスを睨んでいるのが見えた。トンビはコスモスに見られているのに気付くと、フンッとそっぽを向き、


「とりあえず、そいつはテキトーに働かせておけ。後は任せた」


 とだけ言うと、乱暴に扉を開けて出て行ってしまった。


「新入り、覚えとけよ。あれがウチの船長だ。あんなんだけどな」


 ハヤブサが、トンビが出て行った扉を指して言った。


「んで、おれが副船長だ。よろしくな」


 ハヤブサは自分を指した。


「は、はい、よろしくお願いします」


 コスモスはペコリと頭を下げた。

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