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問答2

「そ、それだけはお許し下さいッ!」


 土下座で愛馬シノノメの命乞いをする勇者アカツキ。


 驚きだった。それは魔王ヨイヤミの予想とまるで真逆だったからだ。


 魔王ヨイヤミがいままで会ってきた人間、勇者や、王を名乗る人間達は、形勢が悪くなったとみると、周りに侍らせていた人間達を犠牲にしてでも自分だけは助かろうと必死だった。それが今回は家畜である。「これで助かる」と家畜を差し出し、敵前逃亡したところを後ろから焼き殺してやろうかと思っていたのに、目の前の人間の青年は、魔王を前にして家畜ごときの命乞いをしているのだ。


 予想と違った反応に驚き戸惑う魔王ヨイヤミの前で、更に驚くことが起こった。


 馬が魔王と青年の間に入り込み、魔王ヨイヤミへ向かって頭を下げたのだ。まるで自身を食べてくれとでも言いたいかのように。


「し、シノノメッ、お前はそんなことしなくていいんだ!」


 取り乱す勇者アカツキ。


 状況が飲み込めず困惑する魔王ヨイヤミへ腹心が声を掛ける。


「魔王様、何でも人間というのは我々が竜を駆るように、馬に乗り移動するのだと聞いたことがあります」

「馬に乗る、だと? こんなもの、我々が走った方が速いではないか。人間とはそんなに脆弱なのか?」


 この日何度目か驚き、魔王ヨイヤミが勇者アカツキをよくよく見れば、背に弓矢を背負っている。


(なるほど、我々が狩りをするために竜に乗るように、人間は馬に乗るのだな)


 得心する魔王ヨイヤミ。そこでまたイタズラ心に火がつく。


「つまりその馬は私への贈答用に連れてきた家畜ではなく、自身の相棒であると申したいのだな?」

「はいッ、その通りです」


 平伏しながら答える勇者アカツキ。


「よかろう。ならばそれを今証明して見せよ」

「証明……でございますか?」

「そうだ。そこに小島が見えるな?」


 それは湖の中央に浮かぶあの小島のことだった。首肯する勇者アカツキ。


「あそこにあるリンゴを、その馬に乗りこの湖を一周するうちに、その弓で射抜いて見せよ。それもただの一矢でだ。できれば馬の命を助けてやろう」

「本当ですかッ!?」


 破顔する勇者アカツキに、「う、うむ」と思わず言い淀む魔王ヨイヤミ。


(この者は助かる命に自身が入っていないことに気付いているのだろうか? 何にせよ、やる気に満ちているところを見るに、弓は飾りではなく、相当自信があるということか)


 目の前の青年をじっくり観察する魔王ヨイヤミ。それを知ってか知らずか、ただ鈍感なだけか、勇者アカツキは愛馬シノノメに額をつけ、首を撫でて落ち着かせている。



「魔王様のお戯れにも困ったものだ。あの様な不貞の輩、直ぐにでも首をはねてしまえばいいものを」


 腹心のひとりがボソリと口にする。


「そう言うな。お忙しい魔王様だからこそ、たまにはこういった余興がなければ、気も休まらんだろう」

「それに少し興味があるわ。私達じゃあんな脆い木、木ごと燃やすか、凍らすか、切り刻んで終わりだもの。矢一つであんな小さな果実を射抜けるものかしら?」

「バカか貴様は。できるわけないから魔王様はああ仰られたのだ。あの人間と馬が魔王様に殺されるのは決定事項だ」


 などと腹心達が好き好きに口にする中、勇者アカツキは黒馬シノノメにさっと乗り上がる。


 弓矢と愛馬の状態を確認すると、矢筒の中の矢の数を数え、「足りるかな?」と口にしたかと思うと、おもむろに愛馬と共に湖の周りを駆け始めた。


 嘆息する腹心達。


「ただのバカだったな。複数ある矢のうちの一本が当たれば良いわけじゃない。最初の一本が当たらなければ、そこでお終い……」


 そこで言葉に詰まる腹心のひとり。それも当然だろう。自身が話し終わる前に、勇者アカツキは第一射目を見事に小島のリンゴに当ててみせたのだから。


 驚く腹心達。だがそれだけでは終わらなかった。勇者アカツキは第二射、第三射と一本のリンゴの木になる他のリンゴの実も次々と当てていく。


 結果、勇者アカツキが湖を一周して戻って来た頃には、小島にあるリンゴの実全てに勇者アカツキが撃った矢が刺さっていたのだった。

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