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邂逅

 旅立ったアカツキ青年いや、勇者アカツキを待ち受けていたものは、厳しい自然、数々の困難、凶悪な魔族達……、などと言うことはなく、行く先々での歓待だった。


 我々の大事な生け贄だ、と各国各地の領主達が勇者アカツキをもてなした。


 他の勇者達ならばその歓待も、人間の脅威である魔族を討伐するために旅立った自分達に対する、当然の事と受け入れていたかもしれないが、自分が魔族の土地まで旅をする理由を知る勇者アカツキにとってそれは、まるで魔族に美味しく食べて貰う為に肥え太らせられる、家畜になった様な気分だった。


 そんな勇者アカツキの心を癒してくれたものがあった。一緒に旅をする愛馬シノノメである。


 王から賜ったその黒馬は、確かにとても優秀な駿馬だった。


 各国各地の領主と豪華な食事をしている時も、ふかふかのベッドで寝ている時も、刻一刻と死へ近づいていっている恐怖が、勇者アカツキの心を徐々に凍てつかせていく中、賢いシノノメに乗り山野を駆けている時、また疲れたシノノメを癒すためにエサを食べさせ、その黒毛にブラシをかけてやっている時だけが、勇者アカツキにとって心休まる時であった。


 その入れ込みようは相当なもので、シノノメには重いのではないかと、王から賜ったピカピカの鎧を武具屋に売り払い、一緒に山野を駆け回るのに必要だろうと弓矢に替えてしまった程だ。


 その甲斐があったのか、勇者の血の成せる業か、旅立ちから半年も経ち、魔族の領地へ足を踏み入れる頃には、弓の腕は相応の戦士と言ってよい程になっていた。


 そう、勇者アカツキは魔族の治める地にやって来たのだ。



 そこはとても静かな林野だった。


 生えているのはリンゴの木で、真っ赤に熟した実は今にも落ちそうである。


 奥には湖があり、その中央には小島。その小島にも熟したリンゴの木が一本だけ生えていた。


「ここで一休みしよう」


 勇者アカツキがそう言って愛馬から降りると、シノノメはパカパカと奥の湖へと進み、湖の水を飲み始める。


 勇者アカツキはその光景を慈しむ様に眺めながら近くにあったリンゴの木の根元へ腰掛けた。


 見上げれば真っ赤に熟したリンゴがある。手を伸ばすのは自然なことだった。


 シャクリとかじったリンゴの甘酸っぱくなんと美味しいことか。勇者アカツキはあっという間に一個のリンゴを食べきっていた。


 まだまだ食べたい、と次のリンゴに手を伸ばしたところで一つの視線に気付く。シノノメだ。


 主人を恨めしそうに見つめる愛馬を気遣わない勇者アカツキではない。


 リンゴを二つもぎ取ると、シノノメのもとへ歩み寄り、片方を食べさせてあげるのだった。


 ここまでの旅の疲れがあったのかもしれない。両者は「美味い美味い」と、脇目も振らずどんどんリンゴを食べ進めていく。


「そんなに美味いか?」

「ええ、こんなに美味しいリンゴは食べたことがありません」

「そうか、私の為に何年もかけて育てられたリンゴは、そんなに美味いか」


 ギクリとする勇者アカツキ。


 自分に声を掛けてきたのは誰なのか? 声の方へ振り向くと、そこにはまるで新月の夜の様な黒いドレスを着こなした、二本の角を生やす、美しい女性が立っていた。

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