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版図

 両手を床につき、愕然とする勇者アカツキ。


(今、魔王ヨイヤミは何を言った? 今、どうゆう状況だ? 今、何をするべきだ?)


 この一年のことが頭の中をぐちゃぐちゃに駆け廻り、段々視野が狭まっていく。暗くなっていく視界の片隅で何かが叫ぶ。


魔王(アイツ)のせいだ!)


 思わず勇者アカツキは魔王ヨイヤミを睨むが、すぐに顔を背ける。


(何を考えている。あの、魔王さんだぞ!)


 深呼吸をして、どうゆうことなのか糺すために、勇者アカツキは魔王ヨイヤミを見遣るが、その目はきつく、相手を睨んでいるようにしか見えなかった。


「よく堪えたな」

「答えになっていません!」

「そう……だな」

「何故、こんなことを……」


 自身を睨む勇者アカツキを、憐れむように見下ろす魔王ヨイヤミ。


「勇者よ、まるで魔王様が貴国を滅ぼしたような口振りだが、それは違うぞ」

「そんなこと分かってるよ!!」


 口を挟んだ腹心を睨み、勇者アカツキは吐き捨てるように叫ぶ。


「この方はそんなことする方じゃない! するなら私を殺してからすればいい話だ! 魔王ヨイヤミは魔族を、同族を救うために魔界からきたのであり、人間を殺すのが目的で人間界に来たんじゃない! そんなの分かってる! じゃあ……じゃあ何で私の国は滅んだんだ?」


 やり場のない怒りと苦しみで、勇者アカツキの顔はぐちゃぐちゃであり、この一年親交を深めてきた魔王ヨイヤミの腹心や部下達にはその辛さが響いてくる。


「……人間だ」


 ボソリとこぼした魔王ヨイヤミの言葉に、勇者アカツキがビクッと反応する。


「……人間?」


 訳が分からず呆然とする勇者アカツキ。


「は? な、何で同じ人間が、私の国を……」

「勇者くん。私は人間のことには詳しくないが、戦争のことには少しは詳しいと自負している」


(何故いまそんなことを言うのだろう? 世界の半分を手に入れたのだから少しどころじゃない)


 と思いながらも、勇者アカツキは魔王ヨイヤミの言葉に聞き耳を立てる。それが知らず知らずのうちに勇者アカツキを冷静にさせていった。


「ことの始まりは噂だった。キミの国だけがまるで攻撃されなくなったことで、周りの国々で噂がたったのだ。「あの国は魔族と内通している」とな」


「なッ?」驚く勇者アカツキ。確かに勇者を生け贄に自国だけ助かろうとするのは、内通と呼ばれれば内通かもしれないが、


「納得できないといった顔だな」

「当然です。これは他の国々でもやってきたことじゃないですか。自国だけが成功したからって……」

「だがそれを知っているのは、各国の王と一部の人間だけなのだろう?」


 言われてハッとする勇者アカツキ。確かに言われて見れば、魔王の元へやってくる勇者達さえ知らなかったのだ。平民がそんなことを知っているはずがない。そして何も知らない平民からしたら、隣の国が魔族と繋がっているなんて、恐怖の対象でしかない。だが、


「だが、それもおかしいです。そうならないように各国の王達が集まってルールを決めたと自国の王が……」

「だから戦争の話なのだよ。勇者くん、キミの国は小さいながらも通交の要衝だと聞いている」

「はい。人と物の流れは活発です。周りは大国だらけなのですが、険しい山々に囲まれているので、自国を通らないと遠回りになるそうで…、ってまさか、自国を手に入れるためにわざと噂を!?」


 頷く魔王ヨイヤミ。


「通交の要衝である貴国を押さえることができれば、他の国々へのアドバンテージになるだろうからな。競って噂も蒔くというものだ」

「そんな……」


それ以上は言葉にならず、嗚咽と涙がただ流れて行くのが勇者アカツキには止められなかった。



 どれ程の時間がたっただろうか。陽は陰り、世界が宵闇に包まれる頃、勇者アカツキの涙は渇れ果てていた。


 おもむろに魔王ヨイヤミが勇者アカツキに問う。


「勇者よ、そなたの望みは何だ」

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