トケイソウ
高層マンションの27階から見える夜景はとても綺麗で、机に向かう先生がぬらりと艶やかに光るペン先から綴る文字は小川が流れるように美しかった。
LEDライトは現代的すぎて好かないと言っていた先生好みのオレンジで温かみのある光が夜とぼんやりコントラストを成している。
鼻と顎のラインはシャープで冷ややかに美しく、うなじは灘らかで女性らしい。鎖骨は少し骨張っていて、胸にかけての曲線は滑らかである。
この人は全て完璧であり、誰も彼女のに蔓延ることは許されない。不可侵の美しさ。こんな大変な人に惚れてしまった。
彼女の物にされたいという欲が止めどなく溢れてくるのを感じる。
「先生……私を貴方のものにしてください……」
思わず陳腐で卑しいセリフが口から零れ落ちた。
「そう…私に縛られたいのね、貴方は。」
「ならば、私が綴りたくなるような事を与えてちょうだい。貴方を文字というしなやかな糸で縛ってあげるわ。」先生は意思の強い目をこちらに向けて挑発気味に言った。
あぁ、この人の言葉はなんて美しいんだろう。深みに嵌っていく。陶酔していく。宗教的とも言えるこの愛は正しい。だって先生が正しいのだから。この愛は正しく美しい事なのだ。私が貴方に与えられるのはこの愛しかない。他には何も無い。貴方が私の全てをを奪い去ってしまった。ならば毎日この愛を伝えていこう。あぁ、はやく貴方に綴られたい。