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勇者の名を語った者  作者: 深川 シンノスケ
一章 犠牲者と復活者
2/2

死と恐怖

その出来事からさらに、一週間が経つ。


建物が壊れる音。何者かが鳴いている音。

奇妙なほどに騒がしい。


そして、俺が窓をのぞいた時、既に街の住人らはかなりのパニック状態になっていた。


それを、さらに刺激するかのように、帝国から、一つのアナウンスが鳴り響く。


「緊急、緊急、魔獣が正門の東、クルーシュ大都会に侵入しました。

戦士達は直ちに戦闘態勢に切り替えてください!!

繰り返します!

戦士達は直ちに戦闘態勢に切り替えてください!!

そして、街の住人は直ちに城への避難をお願いします!!

繰り返します。

街の住人は直ちに城への避難をお願いします!」


非常にまずい事態になっていることを把握する。


まず一つ、アナウンスだけ聞くと、魔獣がこの都会に来たということだ。


クルーシュ大都会に魔獣が来るとなると、大騒ぎじゃ済まなくなる。しかし、もう既に家の外が騒がしい。


しかし、この状況だと、運が良ければ犠牲者は出ないが、運が悪ければ犠牲者は三十万人近くになる。(どの種族かの魔獣にもよるが)それもあって、やけに変な胸騒ぎがする。気のせいだといいのだけれど。


そして、この状況だと、一刻もを争う事態。


部下達は皆、前の砂原の件で活躍してくれたため、休暇を取らせている。なので、戦士又は兵士と呼ばれているものは、俺ら二人と城の者達である。


俺はこんな時に、と魔獣を憎んだ。


そして、俺とヴァルトは素早く身支度を済まして、お互いに掛け合う。


「ヴァルト行くぞ!」

「おうよ! エオン!」


この自体が起こる前、六畳間取りの部屋に居たため、俺はユリユラさんの状況が全く持って皆無であった。


だから、俺はヴァルトに問う。


「おい、ユリユラさんは大丈夫なのか?」

「心配ない。 俺が避難をさせた」

「そ、そうか、なら、こいつらを蹴散らすだけだな」


家から出て、街を見渡す。そして、一つ物申す。 こんな生物見たことない。弱点こそわからない未知の生物。


ツノらしいものが頭にあり、体はふとくて、全長、三メートルにも該当する。色は赤で、まるで危険信号のような色だ。


こんな時に部下がいないなんて、少々後悔するものである。部下達がいれば、未知の魔獣との戦闘の経験が積めるのにと思ってしまう。


そんな時にアナウンスが再度鳴る。


「街の安全の確保に成功しました! これで心置きなく、魔獣と戦えます。 戦士達、どうかこの街をお救いください。 そして御武運を」


他人事みたいに言ってくれるじゃねえか。

まあ、半分くらい俺が悪いのかもしれないしね。


「ヴァルト、今日は腕を振るって、狩りまくるぞー!!!」

「わっかりました、エオン殿!!」


でも正直に五体の魔獣で四方八方にふさがれてしまうと打つ手がない。だから、今は猫の手も借りたいくらい、相手との戦力の差が大きいものである。


「ヴァルト、これは作戦だが後方で援護魔法お願い出来ないか?攻撃が上がるスクリューアップだっけ? お前のモチーフ魔法」

「おうよ! その通りだ! 分かった、作戦というのだから倒せる秘策でも見つかったのかね?」

「いいや、そんなんじゃねえよ。ただ、一体くらい倒せるかなと思う」

「なるほど、了解」


そう言うと、ヴァルトは後方に回り詠唱する。


俺はその数秒で相手の弱点を探る。

敵はなりふり構わず、襲ってくるが武器は棍棒しかなくまるで、トロールみたいにも思う。


そして、ふと思う。トロールなら核が弱点?

もしかして核があるとか?前の植物魔獣だって、核が真ん中にあった。


そう思うと、いても立ってもいられない。


いつもの大剣を胸に向かって、大きく振るう。

すると、魔獣は胸元を腕で守る素振りを見せる。


やはり、そうだったのかとその時俺も確信する。


「ヴァルト、あいつの弱点は核だ!」


「了解! 隊長さん!」


詠唱が終わり、俺にスクリューアップをかけてくれる。エナジードリンクを飲んだかのように力が湧いてくる。


「ヴァルト、ありがとな!」

「おうよ! なら俺もそろそろ暴れようかな!」


核が弱点と知って、俺らは一体、また一体と魔獣を倒す。そこまで強いものではなかったが、一番の修羅場はここ。


ほかのとは違うオーラを漂わせる、この魔獣のボス的存在。体格が違いすぎていて、全長も四メートルに増加している。


そんな、ボスの出現に伴い、俺は気のせいだと思うが、ユリユラの姿を目の当たりにした。

気のせいだと嫌なので、話しかける。


「ユリユラさん! こっちに来るな!なぜ? 城の中にいない?」


「あ、エオンさん! トイレに行っていたら、迷って外に出たみたいで・・・・・・」


「そんな事行ってないで早く城の門に隠れろ!」


「え、え、どこですか?」


この会話に気付いたヴァルトは、ユリユラさんに話しかける。


「おい! ユリユラ、ならば俺の元にこい、俺の元だと、東の正門からそこの黄色い屋根の二階建ての家からすぐだ。安全だと思う」


「わかりました!」


ユリユラさんの件はヴァルトが何とかしてくれるらしく、俺は今目の前にいる魔獣と睨み合いを続ける。様子を疑っていると言えばわかりやすい。


そして、ドタ!っと言う音が聞こえる。

その瞬間魔獣は音の鳴るほうへ、向かって動く。

動く、スピードというものは軍をとうに越していて早すぎる。


「おい! どこに行く!? お前の相手は俺だ!」


俺がいくら言っても、聞く耳を持たない魔獣。


音がなった方の様子を見終えた魔獣は一瞬にして戻ってくる。


そんだけ、早いなら先手必勝。俺は大きく振りかぶる。そして、見事な剣投げを決めて大きな刃が核に突き刺さる。魔獣は血飛沫を出して消滅していく。


恐らく、この魔獣素早さだけ高く、ほかの能力はそれほど無いと思う。


そんな解析を俺は一人げに堂々としていると、涙をポロポロと床に落としながら喚き叫ぶヴァルトの姿がある。


「どうした?」と聞くと何も答えない。


しつこく、「どうした?」と聞くと口を開く。


「ユリユラが死んでいる。 俺は妻も守れない。そんな残念な存在なのか。ならば俺もここで死んで、ユリユラの元に・・・・・・」


頭部だけ残して、体がないユリユラの姿がそこにはあった、ヴァルトには悪いが吐き気が絶えなく続く。


非常に残酷なものである。

俺は何もしてあげれなくて、ただ無情に浸っていた。


━━━━━━━━━━



魔獣討伐から、約一週間が過ぎ、幸い被害はなかった。


今回の魔獣達の餌は人間のようだった。


なので破壊をしたりはしないようだ。


まるで獲物を仕留めに来た動物のようだった。


「ヴァルト、今日はユリユラの葬式だ、絶対来るんだぞ。」

ヴァルトは何も答えない。

一週間何も食べず、飲み物だけ飲んで過ごしていたヴァルトは俺に合わせる顔がなかったみたいだ。

そして、また部屋に閉じこもってしまった。


『君ノセイデショ?』


また聞こえる。でも言われてしまえばそうかもしれない。

俺がもっと「力」を付けてさえいれば、あんな魔獣、木端微塵にでき、ユリユラさんは死ななくて済んだかもしれない。


悔やんでも仕方ない。


俺は身元不明の声を思い出し、


「ありがとう、俺の中の誰か、目が覚めたよ。」と言った。

『ガンバッテネ』

「おうよ!」

訳の分からない、言葉に励まされ、葬式まで後三時間。「強くなる為」ただただクルーシュ大都会を走り続けた。


勝ちたい理由、それは守りたいものがあるから。


守りたいもの、それは……


強くなりたい理由、それは……


「まだまだ、はっきりしてないな俺も。」


独り言を夕日の陰に隠れて、泣きながら叫ぶ。


『守リタイモノヲ見ツケレレバ、モウ何も怖くないよ』

「ありがとう。でも、僕もう行かなくちゃ葬式に。」

『行ってらっしゃい!』

「うん」


心の声。もしもそれが俺の人格のひとつなら、この声は自分が自分自身に励ましてくれているのかもしれない。

しかし、聞こえてくるのは謎に包まれた声。自分自身なのか疑心暗鬼になる。


「守りたいもの…… ね

強くなりたい理由…… ね

そのうち分かるだろう。

よーし、式場に行くか。」



それから、一時間掛けて身支度を済ませて、正装で葬式に向かった。


ユリユラさんの関係者たち、そして、ヴァルトがいた。そして、特にヴァルトは泣いており、俺はやはり顔を合わせずらい。


ユリユラさんのお母さんは泣いているというより、娘の死を受け入れているように見えた。


ユリユラさんのお父さんは娘の死に納得出来ないらしく。怒っていた。


「何故、娘は死んだのだ? 誰かが守ってやれなかったんじゃないか?」

「あなた、そんなはしたないことは式場では言ってはいけません。ヴァルト君にも失礼でしょ?」

「あ、ああ。悪い、娘の死に納得できなくてな。魔獣だっけ?それに殺られたんだろ?」

「まあまぁ落ち着いてください。 魔獣に殺られようが殺られまいが、それはあの子の運命なの、だからそっとしてあげて。」

しかし、俺がユリユラさんを殺した。そう言っても、過言ではない。


ユリユラさんのお父さんは、俺がユリユラさんの家に、住んでいたの事を、許してくれるだろうか?

ヴァルトのせいになるんではないか?それはそれで、理不尽すぎる。


式が終わり、参列者が帰っていく。俺はお父さんに怒られる覚悟で城の正門で呼び止めて話をした。


「あ、あの、ユリユラさんのお父さん……

僕、エオン・ヴァバル・オリランです。ユリユラさんを守れなかった。僕が死なせたと言っても過言ではありません。ですが、僕も精一杯戦士として戦いました。」


「お前か、ユリユラを死なせたのは。

私はユリユラの死は受け入れない。だがな、運命というものは信じよう。

だから、私は怒ったりはしない。しかしだ、その死に様を目にしたお前は、ユリユラを大事にしてくれたと思えん。信用にかけた男だな。まぁ根性だけは認めてあげてもいいだろう。」


訳も分から無かったが、認めてくれたように思う。

しかし、信用は完全に失った。父からも、その話を隣で聞いていた母からも。


ヴァルトは颯爽と家に帰ったので、その場にはいなかった。


「ただいま…… 」

「おかえり、ヴァルト。ご苦労さん、今日は、良く来てくれたね。俺はね、ユリユラがどれだけ、ヴァルトのことを気にしていたか知っていた。だから、その感謝と責任をヴァルトには感じて欲しかった。だから葬式に出て欲しかった。

そうでもしないと、いつまでも現実逃避したまんまだろ? ヴァルトの場合は」


ヴァルトは泣きながらに、俺にしがみついてくる。俺はそのまま眠るまで、一緒にいてやった。


朝日が昇り、翌日となった。


ヴァルトはいつものように話しかけてきた。


またいつも通りの日常が始まった。


ユリユラはきっと今も側にいるはずだから……



ユリユラさんのご遺体は頭部しか残っておらず、後日火葬場にゆくと、火葬場の職員から「これですと、ご遺骨は粉々で何も残らないと思います」と言われたが、何故か、骨と思われるものが、一本だけ残っていた。


それをヴァルトは家に持ち帰り、戦旗に包み大事に保管した。


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