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勇者の名を語った者  作者: 深川 シンノスケ
プロローグ 砂原での戦闘~その後
1/2

戦いと食事

俺はある約束のために覚悟を決める。そして今日も戦い続ける。しかし、そう簡単には上手くは行かない。敵が多すぎる。


見渡す限り、周りには植物型の魔獣がぬるい体液らしきものを垂れ流して、こちらに近付いてくる。


そして、それに気づいたように俺の部下が忠告してくる。


体型がごついだけあって、なかなかに力技が強い印象。そして、ごついのは体型だけじゃない、顔もそれなりにごついものである。


そんな部下が、慌てた口調と渋い声で、叫んでくる。


「隊長! もう一匹そっちに向かっています! 警戒してください」


俺は、そんな部下の忠告を聞き入れ、対象に視線を合わせる。


「悪い、俺が食い止めるから」


俺は、口からこぼれたように独り言を呟く。


なんせ、この砂原での戦闘における全責任は俺にあるからだ。

一人でも生還できない、危ない目に合うなどということは何としても、阻止しなければならない。そして、部下が危険な時は、俺が真っ先に助けに行かなかればならない。

でも、常々思ってしまう。俺ばかりに頼られても、限度があるという事……


暑い熱帯の中、汗ばんだ両手で握りしめている大剣を敵に向かって大きく振る。

忠告相手はそこまでのようだった。あまり、殺った手応えがしなかったからだ。

敵の耐久力はそこまで高くない。(それぞれの敵によるけど)やはり、植物型と言うだけある。

そこまで切れ味のない大剣でも敵を真っ二つにできるほど柔らかい。


目の前の忠告相手を倒し、背後に敵がいない事を確認した。そして、俺は部下たちの様子も同時に確認する。そして、一人苦戦している部下がそこにいる。


「そっちは大丈夫か?」


俺は差程遠くない、気掛かりの部下の元に走っていく。

その部下「フォリダン・ブルダン」はとても、か弱い女性。 装備はいいものの、回避が一切できないという致命的な欠点がある。


だからこそ、そんな部下は隊長の名にかけて、いち早く助けに行かなければならない。


石がないか目線を下する。その矢先にブルダンから、叫び声が聞こえてくる。


「隊長!! 幹みたいのがこちらに…… 」


気持ち悪い表情で大騒ぎしているブルダンは、俺が来たことに気づいた。


「おい! しっかりしろ!」


「隊長、攻撃は当たるんですよ!! でも、回避がなかなかできなくて…… 痛いなこの化け物!」


「全くしょうがねえな~」


そんな事を言い、俺は三段階上に飛んでから砂をも巻き上げ、木の化け物を見事に真っ二つに切り裂いた。切った際に吹き出てくる赤い血の様な液体。

それは、まるで昔の死者を眺めているようで物苦しい。


そんな憂鬱に浸っていると俺の親友のヴァルトがこちらに向かってくる。

そして、両足を揃え状況を説明してくる。


「よ! 隊長さん! そっちの状況はどうだ? こっち方は敵が多すぎて収集がつかない状況になっている。 そこで、俺からの提案。 この任務を中断してさ一旦クルーシュ大都会に帰らないか? そうでもしないと、倒しきれないと思う。 なんせ、切っても切っても湧いて出て、自己再生能力が早すぎる。 おっと! ほらな、こんな話ししている間だにも…… どっりゃーー!!!!!」


ヴァルトは見事な剣さばきで出てくる敵を木っ端微塵に仕留める。


胸元の鉄の鎧がいかにも重たそうな装備に、短剣のサポート向け剣術を兼ね備えている。

しかし、足元はなんでか硬化特化していなく、動きやすい、黒の軍服を履いているので変わった人とも言える。

性格はおおらかで、親しみやすく、色んな人との交流が広そうだが、彼曰くそんなに知り合いはいないとか。


「そうだな、たしかにこの状況だと砂原を離脱して、任務を一時放棄した方がいいな。 よし、その方向で行こう。 この事を部下の皆に伝えてくれ。 俺は飛行船の手配をする。 よろしく頼むぞ! 親友よ!」


「ほーい。 了解したよ~ん。隊長さん!」


なんのために生きるのか、俺はいつも考えている。しかし、その答えは未だ分からないまま、時は刻々と過ぎ去っていく。


「おい、ヒグロ操縦士。 砂原を離れるから急いでほかの四機にも伝えてくれ。俺らはオアシスが見えるあたりに待機するから。 よろしくな」


クマみたいな体型の操縦士、昔は元帝国軍の一流だったらしいが…… 詳しくは知らない。


「おいよ、隊長さん。 おーーい!!お前ら、オアシスの近くに着陸するから、気合い入れろよーー!」


無線機の切るタイミングでヒグロの会話が聞こえてくる。


そこに、汗だくで気持ち悪いヴァルトがやってくる。


「た、隊長さんよ。 伝えてきたぞ。 あと、部下たちも連れてきたぞ。全員。」


「お、流石。 気が利くね。 よーし、お前ら! 事情はヴァルトから聞いたはずだ。 今日はこれにて飛行船に乗り込んでこの砂原を離脱する。 各自そこのオアシスに集合だ。 そこでもう一度点呼を行う。 敵が攻撃してきたら、構わず逃げろ! では行動開始!」


その掛け声とともに、各自に砂原を走り出す。

まるで、草食動物の集団行動のように。


その様子を敵は観察してくるかのように、こちらを向いてくる。

しかし、不思議と敵は攻撃してこない。

なので、あまり執拗に攻撃しなくても、離脱できるものであった。


そんな、悠長にしている時に、タイミングよく小型飛行船と大型飛行船が二機ずつ、砂原に着陸する。


部下達はそれに気づいたのか、大きく手を振る素振りを見せる。


軍服の黒い裾がチラチラと俺らの遠い位置からでも見れるほど、ここでの黒ははっきりしていた。


そして、ヒグロがやってくる。


「よっこらしょっと。 じいさんにはきつい任務だこと。 昔はこんな事で疲れなかったんだけどな。 お前さんもこうなる前に結婚しなさい」


他人事のように話す長老ヒグロはどこか、冴えない表情をしていた。


「よし、みんな乗ったな。 離陸を開始するぞ」


「了解、しました! ヒグロ一次操縦部長!」


「わしをその名で呼ぶなと何度言っておる!」


そんなこんなで離陸ができたのは奇跡と言っていい程幸運だった。敵は幸いにも何もしてこなかった。


「隊員乗船確認完了。 離陸開始、3、2、1 、ローテート。 離陸完了」


そして、離脱して半月が経った。


━━━━━━━━━━



俺は訳あってヴァルトの家に居候している。

「おーい、ヴァルト。 起きろよ! 今日の朝ご飯タラコの煮付けだってよ! お前の大好物じゃねえか!良かったな!」


「なんだって! タラコの煮付けは滅多に作らないユリユラの絶品料理~! これは起きる価値がありそうだ!」


「起きる価値しかないだろ? 特にお前に限ってだけどな。」


「今日も特訓あるんだから、朝ごはん食べたら正門の前でな。」


「おうよ! 分かってるって!」


俺はヴァルトにそう言い聞かせる。そして、先に家を出て、街一番の城の正門で待機する。毎日こんな感じだ。

しかし、ヴァルトは食事が物凄く遅い。なのでたまに観光でもする事にした。


正門から東。ここ〈クルーシュ大都会〉はお偉いさんが集まる街。逆に言えばお金持ちばっかだ。


「さーてと、何を買おうかな?」


観光と言っても普段俺はヴァルトの家に住んでいるし観光と言わないんだけど、何故か無性に観光したくなった。


正門から東を真っ直ぐに歩くと顔馴染みのおじさんがいる。

「おー! よく来たな、小僧。 どうだい?調子の方は?」


「まぁぼちぼちです。部下はしっかり訓練に励んでいますから、いつ敵が来ても問題ないと思いますよ」


「そうかそうか、それは良かった。 なら、小僧よ、これはこちらの気持ちという事で受け取りや~」


「ありがとうございます。」


礼を言い、その場を離れる。


おじさんから貰った、クルライの人参(最高級の野菜)を入れる袋がないため、仕方ないからパーカーに軍服に付属しているでかいポッケに入れて更に足を進める。でも、そろそろ来そうなので今日の観光はここまでとして、正門に再び戻る。


ヴァルトが険しい顔でこちらを見つめていたので、俺からも見つめ返すと笑われた。


「エオン、どこに行ってたんだ?」


「ちょっと買い物していたところだ。って言ってもなんも買ってないけどな。あっ! 最高級の野菜なら貰ったぞ、後でユリユラさんに調理してもらおう。」


「おうよ! 楽しみだ…… でも、その前に訓練だろ。隊長さんよ。」


「よーし、今日も気合い入れるぞ!!!」


城の中へと足を進める。俺達はやはり偉いものなのだろうか? 赤いカーペットの上を歩き、目的の武道室につく。


「では、皆集まってるな。」


「はい! 隊長、副隊長! 全員揃っています。」


「了解した。それと俺とは皆同僚の仲だ。なので隊長では無くエオンと呼んでくれ。ヴァルトもな」


「かしこまりました! エオン様!」


「様が多いけど、そんな感じで宜しい。では訓練に取り掛かる。今日は二時間位で、終わりにする。勿論お前らの頑張り次第だか。」


「わかりました!!」


部下達は声を揃えて礼をすると、また今日も剣術と体術の訓練に励む。少しづつではあるが、成長している。その成長こそが嬉しい限りである。


部下達にきっちり教え、あっという間に一時間が経ちそうな時……

急にでかい耳鳴りに見舞われる。

それと同時に何処かで聞いたことのある声が聞こえる。


『カチタイ?

マモリタイ?

ヤクソクゴトノタメ? 』


頭を抱えている俺にヴァルトは心配してくれている。


「エオン、どうかしたか?」


「い、いや、何でもない。」


「そ、そうか、それなら安心だな。」


透き通るような女性の声だった。

この事は言わない方が身のためと思い、ヴァルトには言わなかった。いや、言えなかった。


「くそ、奇妙だ。」


俺の険しい顔と、怯えた顔に気づいたのかヴァルトは気にかけてくる。


「エオン、今日はやめにしよう。ここは俺に任せて、ゆっくりおかえり。」


「そ、そうだな。なら、お言葉に甘えて。それなら、お前達もここで解散しよう。今日は俺もゆっくりしたい……」


「は、はい!エオン様!」


それぞれと部下が解散していく中、一人の女性部下が話しかけてくる。


「エオン様。 大丈夫で御座いますか? 私、この前この七式団に入会した『ユリユス・ユーラビ・クルカ』と申します。クルカと呼んでください。それではお大事に」


丁寧な喋り方と長い金髪が靡く。そして、何かを見透すような黄金の瞳は何処かで見たことがあるような気がしてならない。


女性は自分の名だけを伝えるとその場を立ち去っていく。


そして、二時間の練習を一時間に縮めた俺は、ヴァルトと一緒に家に帰る。


外は元気な子供が沢山いた。

「おーい、遊ぼうぜ!」

(子供たちは無邪気でいいな~)

そんなことを思いつつ家に着いた。


朝に貰った、最高級の野菜をユリユラさんに渡すと俺は早速部屋に戻り、考える。

だいぶ頭痛も引いたため、少しは楽になった。

(勝つためのビジョンとは? どうしたらもっと強く育てられる?)


今度は耳鳴りはせず、声が聞こえる。

『ナゼ、ソンナニシテマデ、カチニコダワルノ?』

また聞こえる、今日は変な事ばかり起きる。

俺の声なのか? いや、明らかに女性の声。


「くそ!わけわからん。俺は勝ちになんかこだわっていない。ただ戦場で誰も死なせたくないだけ。それがダメだって言うのか?」


俺は思わず大きい声で叫んでしまっていた。


「エオン君、今日は様子が変ですね。 すごく心配です。早く治るといいですけど……」


「大丈夫だ。エオンは自分の病と戦ってるだけだ。何にもないと思うよ。だから、ユリユラ今日は美味しいご飯を作ってくれ」


「まぁまぁ、お優しい。 では、私の得意料理でどうかしら?」


「ああ、頼んだ」


「頼まれました!」


ユリユラは笑顔ではしゃぐ。

その無邪気な顔は昔と変わらない。俺はそんなヴァルトとユリユラの話と行動を部屋のドアから眺めていた。

そして、俺はまた部屋に戻った。


━━━━━━━━━


「おい! エオン!起きろってー!」


「お、おう。 どうも」


「『ご飯』ってユリユラが叫んでたぞ」


「どれくらい寝てた? 」


「どれくらいって、三日くらい。起きないと心配するだろ! 」


「どんな所にだ?」


「まぁ、そ、それは色々な所だ。第一あんたは俺らの隊長。王に選ばれし戦士。いつまでも考えて悩んでいたらいつか死んでしまうぞ!」


「心配かけたな。悪い。ありがとう」


俺はあのあと、ヴァルトとユリユラに心配されながら、七十二時間という長い時間を寝ていたらしい。

訓練はヴァルトがやってくれていて、世話はユリユラがやってくれていたらしい。


そう、俺は時々に深い眠りに付いてしまう、謎の後遺症が残っている。その為、戦場でも発症することがある。しかし、特に病気でもないので調整所に行っても意味がない。


「どーですか? 具合の方は?」


「ユリユラさん…… 心配かけたみたいですね。いつもありがとうございます」


「いえいえ。いつものエオンさんらしくて、いいですよ」


「本当にありがとうございます」


「それで、今日は!私の十八番のカレーライスと、栗ご飯を作りました!是非食べてください! リビングで待ってますね」


「それなら、今行きますしそんな気合い入れてもらわなくても……いいですのに」


「いえいえ、エオンさんも立派な家族ですよ」


「ほ、本当にありがとうございます。」


俺は思わず泣いてしまった。ユリユラさんは本当に優しい。

その温もりに少しの罪と安らぎがあり、目頭が火照っている。

ヴァルトも見ていたが、今回は見逃してくれたらしい。


「ではー! エオンさん! 誕生祭!始まり!」


「俺、昨日誕生日だっけ?」


「何を言っている。エオンには元々誕生日は無い。しかしだな、エオンが眠りから覚めた時、俺達は祝うと決めているんだ。知らなかったのか?」


「そ、そうなのか。そんなに心配かけてるんだな……」


「まぁ、何ていうの? 心配はかけてかけられ返すものだろ? そう思っているのがうちらヴァルト家だよ。だからその涙、ハンカチで拭け。」


「ありがとう。ヴァルト、ユリユラさん。」


「いえ、いえ、とんでもないです。」


俺はヴァルトから貰ったハンカチで涙を拭うと「いただきます」と両手を合わせてカレーライスを口一杯に詰め込んだ。

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