抱***男ランキング1位
「宗哲クン、そのときシオリンは小学生の女の子だっただから。ぴょんぴょんうさぎでもヨクない?」
「はははは。かわいーじゃん、そのチョイス」
可愛すぎだろ。自分でぴょんぴょんうさぎって名乗る小学生。しかも超絶美少女。
「バカにしてっ」
「してねーって」
「シオリンったら、周りの友達が歌って踊るアイドルにキャーキャー言ってたときなのにね」
「マイマイだってはじめしゃちょーに憧れてたじゃん」
「それは、普通に小学生が通る道でしょ、シオリン」
そうか。勝負の相手はカリスマユーチューバーか。って、ぜってー勝てねーじゃん。そもそも何の勝負するつもりなんだ? オレ。
「ねぎまって、あーゆー外見王子系がタイプですか?」
「こらっ、どーしてマイマイには敬語なの?!」
いや、それは、大人の女性として見てるってゆーか、大人の女性にしか見えねーってゆーか、少しでも真面目で誠実に見られたいってゆーか。あ、はじめしゃちょーがタイプなら、その路線じゃねーのか。
「いや、なんとなくだって。////// 」
「ちょっとちょっと、赤くなるなっ。マイマイの胸をちら見すんなっ」
ぱしっ
ももしおに腕を叩かれるオレ。ちら見してねーし。
「ねぇ宗哲クン、シオリンだけと仲良くなっちゃってる。私もそんな風に話したいなー」
「! //////。仲良くなりたいです。しましょう」
「敬語。やだ」
きゅん
拗ねたような目でももしおの向こうから顔を覗かせるねぎま。いつもの大人っぽい雰囲気とは別の顔。すっげーぎゃっぷに心臓がオレの中で捻じれる。
「ねぎまって呼んでる時点で友達っぽくね?」
「だね」
唇の両端をにっこりと上げるねぎま。
ねぎまに話しかけられると、なんというか、どぎまぎするじゃん。
その点、ももしおって。あ、分かった。こいつ、妹に似てるんだ。
オレの妹はバスケ部ポイントガード、体育会系。大食い。ももしおほどの守ってあげたい美少女じゃないけどさ、色白でかわいい。お小遣い欲しさに祖父に媚びは売るが、基本、天真爛漫。
似てる。特に大食いんとこが。
「ちょっとちょっと。マイマイ、みんなにチクるよ」
「へ? チクるって、ももしお、何をチクるんだよ?」
「「……」」
ももしお×ねぎまが黙る。
「あのさぁ、言わないって感じ悪いじゃん。そーゆーことなら、オレ、帰る。オレ、協力したってリスクしかないもんな」
すくっと席を立つ。ももしお×ねぎまは、自分らがそう呼ばれてることも学校で騒がれてることも分かっててさ、上から目線なんだよ。どう考えたってヤバそうな話なのに「私たちとお近づきになれるのよ」くらいの圧を感じるんだよ。ちょっと腹立った。
「待って! 宗哲君はね、学年の抱きたい男ランキング1位なのっ」
ももしおがオレを引き止める言葉を吐き出した。声でかいよ。一瞬、店内の客がオレの方見たじゃん。
「は?」
耳を疑うオレ。確か、オレらの高校って結構な進学校で、女子生徒は品行方正のはず。そう信じてた。
「シオリンったら。もう。宗哲クン、内緒にして。一応、学年の女子だけの話だから」
「あのさ『抱かれたい』じゃねーの?」
「うふっ」
ねぎま、笑ってごまかしてんじゃねーよ。
「えーっと。『抱かれたい男ランキング』はサッカー部とバスケ部が上位っかなー」
ももしおは気まずそうに辛辣なことを告げる。
軽く凹む。平和に生きることをモットーにするオレは、いわゆる草食系。それが、こんな評価を受けることになろうとは。
「っんだよそれ。オレを試したこともないくせに」
実はすっごいかもしんねーじゃん。知らんけどさ。
「「//////」」
ももしお×ねぎまが頬を染める。
「話戻すぞ。CNPとかって男は小汚い爺さん達に近づいて、金を渡したり、ATMに行かせたりしてると。ATMから出てきた小汚い爺さん達は、CNPに紙を渡す」
「振込詐欺かなぁ? 振り込ませるお金を持ってなさそうな人達相手なのに」
ねぎまが斜め上に視線を向けて不思議そう。
「聞こうよ。お爺さんに」
ももしおはストレートに攻めることを考えている模様。
「オレ、ちょっと臭いが。近づくのムリ」
「えー。一緒に聞きに行こうよ。女の子だけじゃ危ないよ。ねぇ、マイマイからも頼んで」
ももしおがねぎまに振るもんだから、泣きぼくろ付きの目がこっちを見つめる。
どきっ
「宗哲クン、変な相談してごめんなさい。それと、ランキングのこと気を悪くしちゃったかな?」
「気にしてねーし」
嘘つきなオレ。割と残念な気持ちでいっぱい。
「私ね、ランキングで宗哲クンのこと知って、遠くから見たことしかなかったけど、今日、結構男っぽいなって思ったよ。だって、みんな見て見ぬふりして通り過ぎてたのに、宗哲クンは大声出してくれたじゃん」
「それは同じ高校の制服だったから」
ねぎまはオレの目から視線を逸らさず話続ける。
「だから、つい宗哲クンに頼っちゃったの。CNPさんはシオリンの憧れの人だから、警察に知らせたくなくて。でも、そうだよね、宗哲クンには関係ないもんね。ごめんね」
最後の言葉で軽く目を伏せるねぎま。長い天然まつ毛が瞳の光を遮る。
「ねぎまだって自分のことじゃないのに。友達思いなんだな」
「ううん。そんなんじゃないよ。2人でなんとかするから大丈夫」
ねぎまが不安そうに眉毛をへの字にした。考え込むように口元に手を持って行くとき、腕が胸元を寄せ肉感的なシルエットが垣間見えた。
「女の子が危ねーって。頼むからさ、オレも一緒に行かせて」
あれ? なんだ? この展開。
どーしてオレ、こんなこと言っちゃってるわけ?
「宗哲クン……」
ん? 気づけばオレの横に座っていたももしおは、3人のゴミを捨て、トレーを片付け終わってイスの後ろに立っている。
「マイマイ、さすが。宗哲君、スマホ出して。LINE登録するから」
我に返ったオレ。
なすすべもなく、言われるがままLINEをふるふる登録。
「じゃ、宗哲君、もう1人声かける人は任せるねー」
ひらひらと手を振り、ももしおが去っていく。その後ろをねぎまが追う。
「宗哲クン、次のランキング投票は『抱かれたい男』に投票するね」
振り向きざまにねぎまが悪戯っぽい目で笑った。
陥落っす。
テニ部のみんな、オレはねぎま派だ。
それにしてもなー。誰を巻き込む?
とりあえず、親友の小田に『ももしお×ねぎまにちょっとした頼まれごとされたんだけど。内緒の。一緒にど?』とメッセージを送ってみた。
『女絡みはパス。カノジョが大事だから』
すっげー。オレ、始めて小田のこと尊敬したよ。BAKAだし、すぐフラれるし、カノジョとケンカすると情けないくらい落ち込んで謝りまくるヘタレだけどさ、ちゃんと断るんだ。へー。
って、感心してる場合かよ。
友達の顔を浮かべては「カノジョなし」って基準で落っことす。そーじゃん、オレの周りってみんなカノジョいるじゃん。
今更気づいて落ち込む。
みんな、確かに去年の高1の夏にはカノジョがいなかった。中学時代からのカノジョがいるってヤツもいたけど、いかにも清い交際でさ。なのに、いつの間にか周りの友達は、大人の階段駆け上りやがって。
帰宅してコリー犬の首に抱き付く。
だきっ
「諭吉ぃ、お前だけ。オレの気持ちが分かるのは」
長毛種の諭吉は、エアコンの部屋で寝ていたせいかヒンヤリとして気持ちいい。
じたばたじたばたじたばた
諭吉は暑苦しそうに顔を背け、オレの腕から逃げて行った。
「お兄ちゃん、おかえりなさい。今日、お母さんとお祖母ちゃん、いないよ」
アイスをペロペロ舐めながら、妹が玄関に出てきた。剥き出しの肩、剥き出しの脚。シャワーの後らしく、頭にタオルを巻いている。
妹って不思議。こんなに露出度が高いのに、いやらしい気持ちが微塵も湧かない。兄の贔屓目じゃなく、プロポーションいいのに。
「飯は?」
「冷蔵庫に豚しゃぶサラダとマッシュポテトが入ってる」
「うぃぃぃ」
すらっとした脚が目の前を横切っていく。妹は、アイスを舐めながら階段を上る。綺麗な脚なんだよな。いい感じに筋肉ついてさ。この脚が他の女の子にくっついてたら、エロイ目でしか見れないだろうに。
「あのね、違うからね」
突然妹がわけの分からないことを言った。
「違うって、何が?」
「この間の少女漫画」
「あのエロいやつ」
しゅっ
うわっ。いきなりスリッパが階段の上から飛んできた。
「アキちゃんとは、違うから」
「は? なにそれ」
「え? あの漫画、読んだんじゃないの?」
「**高校のバスケ部が△△高校のバスケ部に勝つって話だろ? でアホ女がバスケ部のエースと合宿や練習試合でキスばっかするんだろ? 誕生日には風呂でやっ」
「お兄ちゃん!」
しゅっ
オレを目がけて飛んできた、もう片方のスリッパを軽くかわす。
さすがに最後の言葉は中学生にはNGらしい。言わせてもらえなかった。優しいオレは、玄関に転がったスリッパを拾って、妹に投げ返す。
ぽーん
ぽーん
弟だったら間違いなく剛速球で返す。でもさ、女だと甘くなる。綺麗な脚に当てるわけにいかない。受け損ねて間違って顔に当たろうもんなら、家族からハブられる。
「お前がバスケ部のエース狙ってるとか? はははは。ムリだろ」
あれ? 主人公ってアキちゃんだったっけ? どーでもいいから覚えてねーし。
「お兄ちゃん、話しの中身、覚えてないの? アキちゃ……と、なんでもない」
「は?」
「おやすみ」
ぱたぱたぱた
スリッパを履いた妹は逃げて行った。