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自由に生きて自由に死ぬ

食事の後、金曜日の恵比寿のことを話した。


「どんなお店なんだろ」

「居酒屋?」


すかさずねぎまが検索し、お洒落な洋風居酒屋だと分かった。


「あのおっさん、アメリカ株がどーのこーのって言ってなかった?」

「宗哲君、CNPさんはおっさんじゃないの! 神様みたいな人なんだから」

「アメリカ株がらみのなにか? 大学生も来るって言ってたよな」

「私、お化粧すれば大学生に見えるよね?」


うふっとねぎまが微笑んだ。身を亡ぼす好奇心。


「ねぎまちゃん、行くわけ?」

「私も行きたーい!」

「ダメダメダメ。2人とも危険行為はダメ」

「心配しないでよ、宗哲クン。4人なら大丈夫。高校生と大学生の違いなんて、遊んでそうにすれば、宗哲クンだって大学1年生に見えるかも。ミナト君は十分見えるし。シオリンもお化粧を濃くすればOK」


ねぎま、なに気にオレをディスってない?


「4人で?」

「恵比寿のオシャレなお店、行ってみようよ。50人も来るならバレないって」

「そーだよ。隣のテーブルにいたらなんとなく混じっちゃえるかも」

「高校生が行くとこじゃねーって」

「「行きたーい、行きたーい、行きたーい、行きたーい、行きたーい、行きたーい、行きたーい、行きたーい」」


止めるオレにももしお×ねぎまは行きたいコールをする。


「宗哲、ダメって言ったらこの2人、勝手に行きそうじゃん」


ミナトは困った顔。


「もちろん。ね」

「ね」


2人は顔を見合わせて、こてっと首を傾ける。かわいー。


「行くか」

「「やったー」」

「目立たないようにだぞ」

「「うん」」

「遠くから見るだけだぞ」

「「もちろん」」


ホントかなぁ。


「そのお店に電話してみる?」

「は? 宗哲クン、どーして」

「何の集まりか確認する」


ネットで店の番号を調べ、こちらの番号を非表示にして電話をかけた。


「金曜日の7時から50名予約が入ってると思うんですが」

『はい。コメカブクラブ様ですね』

「10名ほど追加ってできますでしょうか?」

『はい。立食パーティですので大丈夫ですよ。若干狭くなるかもしれませんが、隣接するお席とのパーティっションずらして少し広く取りましょか』

「いえ、まだ確定じゃないので、当日までに変更がある場合はお知らせします」

『よろしくお願い致します』

「お願いします」


ぴっ


「宗哲、お前、詐欺師になれるな」

「いいから、コメカブクラブだってさ。検索してみよ」

「聞こえた。検索してるー。あった。アメリカ株の投資家の仲間みたい。恵比寿って言葉も出てる」


ねぎま、素早い。


「CNPさんって、アメリカ株やってるんだ。そっかー。日本株はやってないけど、投資の世界にはいるんだぁ。よかった」

「ももしおちゃん、目的達成しちゃったけど、どーすんの?」

「へ? 達成?」

「シオリンは、CNPさんに投資の世界に戻ってほしかったんでしょ?」

「あ、そっか。んーと。恵比寿に行きたい」


おいおい。


「シオリンったら正直。CNPさんに悪いことしてほしくないってのはないの?」

「どっかなー。分かんない。それよりも憧れのCNPさんと喋ってみたい」

「ふーん。石爺を助けなくていーのかよ」


オレは気高き自由人を思い出した。いくら歳取って体が動かなくなったって、警察に捕まって塀の中で自由じゃなくなった石爺は、石爺じゃないような気がする。オレは若くてぴちぴちで健常者だから分かってないのかもしれない。でもさ、その人がその人らしく生きた方がいいんじゃないのかな?


「考えようによっては、石爺は警察に捕まった方がご飯も食べられるし寝るとこもあるんでしょ? 病気なっても診てもらえるって。宗哲君とマイマイがダン爺から聞いたんだよね?」


それって石爺が望むことなんかな?


「石爺はどうしたいんだろな」

「でもさ、宗哲、石爺はあのままだったら、食べる分も競馬に使うだろうし、冬でも外の水道で体洗うぞ?」

「うーん。自由だもんなー」


自由って難しい。


「石爺がしたいようにすればいいんじゃない?」


そう言ったのはねぎまだった。


「へ?」

「気ままでも食べるものにも着るものにも困る生活か、生活には困らないけど自由のない生活か、石爺が決めることだよ」

「でもマイマイ、冬に泊まるとこなかったら凍死しちゃうかもよ?」

「自由に生きて自由に死ぬんだよ。他の人が決めることじゃないと思う」

「なー、ねぎまちゃん、それって『見殺し』とも言う」

「でもね、競馬ができなくてお酒が飲めなくなってって生活、塀の中での集団生活、あの人に向いてると思う? 辛いんじゃないかな」


オレはたぶん、ねぎまと同じ意見なんだ。それでも「見殺し」って言葉に怯んで、なにも主張できなかった。ヘタレっぷりがハンパない。


少し後味悪くなったとき、ミナトが「iPhoneの場所が動いた」と言った。

8時半、ももしお×ねぎまをみなとみらい駅まで送った。ミナトとオレはどこまでも綺麗なみなとみらい駅の透明な柵にもたれてだらだらと時間を過ごした。


現在iPhoneを捜せを表示してあるのはオレのスマホ。場所が分かったからといって、ミナトのiPhoneを取り返せるとは限らない。


「ももしおちゃんさー、男知らないだろーな。あの脚」

「あそこまでスカートの中を気にしないのってどーなの?」

「見せパンとかって、要するにパンツじゃねーのかって話」

「全く。ははははは」

「なんか今日さ、宗哲がねぎまちゃんを好きになったの、分かった気がした」

「待った。なにその流れ。まさかミナトもとか言うなよ」

「ないって。オレには無理。オレ、基本、分かり易く優しい子がいい」

「あー。石爺の話ね」

「オレ、取りあえず、あの場面で一般的に正しいとされる発言する子じゃないと、ちょっと」

「発言?」

「あーゆー意見を言える子、手に負えねーって」

「強そうだよな」

「ももしおちゃんはイケイケで前に出るけど子供っぽいだけじゃん。ねぎまちゃんは一歩引いてるように見せてるけど、ぜんぜんちげーじゃん。宗哲はそこがいい?」

「かも」

「オレはそーゆー子はパス。守ってあげたいって思えねー」

「いや、守らないとダメだろ。何しでかすか。ミナトもiPhoneを盗聴器替りにするなんて、何しでかすか」

「自分でもびっくりした」

「ミナトに惚れた」

「ははは」


「なー、さっきからiPhoneの場所、ずーっと止まってない?」

「オレも思った」


iPhone所在地を示す青い円が武蔵小杉駅に留まっている。


「なーミナト、ひょっとして、駅に届いてるんじゃね?」

「行ってみる?」

「まず電話で問い合わせる?」

「宗哲、お問い合わせのエキスパートじゃん」


茶化すミナトの横で武蔵小杉駅に問い合わせてみた。iPhoneは拾得物として届けられていた。


「行ってくる」

「オレも行くって」

「宗哲、帰るの遅くなるじゃん」


既に10時。


「ぜんぜん平気」


12時を過ぎる場合には連絡を入れることになっている。連絡を入れれば朝まででもOK。オレの家は男に関してはゆるゆる。妹は別。


「なんかさー宗哲ぅ、1日長かった」

「まだ取りに行ってねーし」

「ももしお×ねぎまちゃん、一緒にいると楽しいよな」

「超絶かわいーしな」

「2人と仲いいって知られたら、やべーよな」


武蔵小杉駅でiPhoneを受け取った。

届けてくれたのは40歳くらいの男性で「落ちてました」と駅員に渡しただけだったそうだ。だよな。服のポケットに入っていましたなんて言ったら、盗ったと疑われかねない。40歳くらいの男性は、たぶんCNP。


「よかったー。オレのiPhone」


ミナトは涙目。

ももしお×ねぎまにiPhoneが無事に戻って来たことを連絡した。


ももしお『マジで』

ねぎま『お疲れさま』


スタンプ付き。2人ともスタンプのチョイスまでかわいいじゃん。



最寄り駅から自宅まで歩くとき「自由に生きて自由に死ぬ」って言葉を思い出していた。

ダン爺に警察に捕まることを望む人がいるって話を聞いたとき、絶望的な未来を抱えた人がいるって悲しくなった。

今は、悲しんだことがお門違いだって思える。「価値観」が違う。

警察に捕まりたいという人は「生きたい」という気持ちを優先する人。オレが絶望と勝手に解釈するのは間違ってる。人によって何を幸せと感じるかってこと。

石爺が自由を選ぶか、生活や生きることを選ぶかは、石爺の価値観に任せられている。


じゃ、オレの価値観ってなんだ?

石爺の気ままな自由、人目すら気にしない自由は羨ましいけど、あの生活をしたいとは思わない。

スポーツができて勉強ができて、友達がいて、オレだけのカノジョがいるってのが充実って価値観? 贅沢を言えば、カノジョとこっそり旅行行きたいし、デート代出したいから金が欲しいって。それしか思い浮かばねーじゃん。薄っぺらー。自分、ぺらっぺらー。自分で自分にがっかりだよ。

ぜんっぜん石爺の方が男としてかっけーじゃん。


だったらダン爺は?

ダン爺は何のためにあの街にいるんだろ。

ま、ダン爺は謎だよな。マジで刑務所から出たばっかりとかかもしんない。元IT企業のCEOかもしんねーし。深堀りしたくねー。


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