髪飾り
ナチュレが髪飾りを着けると、僅かに震えて、音が鳴り始めた。意識していないと、鈴の音に聞こえる。不思議に思いつつ、ナチュレはその音に耳をすませてみる。
「ここに…たし……め…はな…」
かすれて弱々しい声が髪飾りから聞こえる。
「ひゃああああああソルっ!?これ!これ声が聞こえるよ!?」
流石に驚いたナチュレは、思わず飛び上がって声を上げた。「ここに」や「花」ははっきりと聞こえた気はするが…するとソルは、ナチュレの耳元から髪飾りを取り上げ、自分の耳に押し当てた。そしてナチュレと同じように驚く。ナチュレに返そうとソルが手を出すと、偶然手を滑らせて、からん、と音を立てて髪飾りが落ちてしまう。するとどうした事か、くるくると回り出し、やがて花の飾りの方を北東に向けて止まった。
「何処かを、指している…?いや、偶然だよな。」
そう言ってソルが髪飾りを拾い上げ、手のひらに乗せて軽く回す。またしても髪飾りは、花の飾りを北東に向けて止まった。
「何かに、呼ばれている気がする。行こ、ソル」
「何を根拠に言ってんだ?」
そう尋ねられたナチュレは、真剣な顔を思わず崩し、まるで会話をすぐにでも終わらせたいかのようにさらりと言う。
「魔法属の、魔女の勘」
何だそれ、頼りになんねえなあ…と言いながらも、ソルは髪飾りを片手に、北東の方角へ歩いていく。正直言って、ソルもナチュレの勘を信用していた。魔法や魔術に関係する事なら、魔法属は敏感に感知することができる。それを知っていて、ソルはナチュレの言葉を信用したのだ。
北東へ進んでいくと、街からは外れて森が広がっていた。遠くの方に、草のような何かが見える。近くへ寄ってみると、それは花畑のようだ。白い花が広がっていたので、雪に紛れて葉の部分しか見えなかったようだ。円形に広がっている花畑の真ん中に、雪にまみれた人のような白い塊が落ちている。慌ててナチュレが駆け寄り、雪を払うと、それが確実に人であることは分かる。ふわふわとしたウェーブのかかった長い銀髪に、青い薔薇の飾りだろうか…を付けた少女のようだ。寒さのせいかは分からないが、肌は真っ白だ。ナチュレは魔法で軽くして抱え上げ、ソルに目配せすると、人目を避けるようにして来た道を歩いていく。
家に着いたナチュレは、2階にある自分の部屋のベッドでは無く、一階の居間の3人がけ程のソファにそっと寝かせると、自分の部屋だろうか、二階から毛布を持ってきて、少女にかける。
「なあ…ナチュレ。治癒魔法とか使えねえのか?」
ソルに尋ねられ、ナチュレは力無く首を横に振る。
「意識が無い状態で、身体に直接変化を与える魔法は非常に危険だから…」
そう言ってナチュレが湯を沸かしていると、ソファのそばに置いた椅子に座っていたソルが何かに気づく。少女が目を覚ましたようだ。ナチュレが駆け寄り、顔色を確かめた。肌はまだ真っ白だが、深い青の瞳は、少し伏せ気味だがぱっちりと開かれていた。
「ここは…?私は、一体…。」