1 夫婦喧嘩のはじまり
とりあえず、嫁さんの話しを聞いてみようと思う。
「考えたんだけどね」
「うん」
「英雄になって欲しいの」
「うん?」
話しが飛んだ気がする。いや待て、どうして子供が欲しいから英雄になって欲しいに繋がるんだ?わからん。
先を促してみる。
「だからね、あなたに英雄になって欲しいのよ」
「どういうことなんだ?」
「英雄になれば神に近い存在になるから。人間という種族から次元を上げるのよ」
「つまり?」
「私と近い存在になれれば子供が出来る、かも」
つまり、うちの嫁さんは俺に人間を辞めてくれ、ということですか?それに『かも』と?
曖昧じゃなくてハッキリとした答えだったら良かったのにな。
「英雄って簡単になれるものなのか?仮に英雄
になったとしても、子供が出来るかわからないんだな?」
「勇者と神との子供ならいた事があったからね。世界に産まれる勇者って神の導きによって産まれるから、存在としては神の末席にあたるのよ。召喚された勇者は違うけど」
「へぇ。なら英雄は?」
「英雄は神の導きじゃなく、自己の進化でなるもの。神も認める偉業を達成することでなれるものよ」
嫁さんの言ってる事がわかりませんな。
いや、理解したくない、だな。
「勇者とは違うのは神の末席に入るのじゃなくて、自己の存在を上げるだけだからわからないの。神という存在に近づくんだから可能性はある訳よ」
「ちょっと待ってくれ。あれだ、俺に英雄になってくれというのは、神様に認められる偉業を達成してくれというのか?」
「そうよ。あなたやってくれるよね?」
ニッコリと、それはまぁ綺麗な笑みでムチャを言われた。
…うちの嫁さんはいつもこうだ。俺にとって非常に困難な事を頼んでくる。
いや、いつもより酷いな。
「ふぅ。流石に今回は無理だ。俺、普通の村人だぞ?それにもう50歳迎える爺さんだ。神様に認められるような偉業なんて出来っこないさ」
ため息と共に吐き出した言葉に嫁さんは───
と、ここで嫁さんの容姿を説明しておこう。
嫁さんは邪神。神である彼女はやはりこの世では測りきれない程に美しい女性だ。
白銀に輝く銀髪、肌は日の光を浴びたことないぐらいに白い。瞳の色は髪と同じ銀色。
普段はその美貌に柔らかな微笑を携えていて、邪神とは絶対考えられない優しい雰囲気で日々を過ごしている。
簡単に言うと、うちの嫁さん超綺麗でドヤァ!
話しを戻して、───嫁さんは、雰囲気というかオーラ?を怖くしていた。
口もとはまだニッコリしているが目が笑っていない。
あ、ヤバいなコレ。
「私のお願い聞いてくれないの?なんで?子供欲しいんじゃないの?私は欲しいのよ、あなたとの子供」
「いや俺も嫁さんとの子供が欲しく無いわけ無いじゃないか。ただな、さっきも言ったが俺ももう爺さんなんだよ」
俺は嫁さんとは違う、ただの人間だ。
嫁さんと出会ったのは俺が25の時。そりゃ若かったし、嫁さんのお願いもムチャだと思いつつもやりとげたりもした。
それも40歳までだ。
その頃になると身体が言うこと聞かなくなってきたし、嫁さんのお願いもそれほどムチャではなくなった。
ここに来て若い頃よりもムチャな事をお願いされるのは無理がある。
俺はまたため息を吐き、嫁さんを見つめる。
嫁さんは微笑すら無くしていた。
ああ、怖いなぁ…。