1 夫婦喧嘩のはじまり
ある日の朝早く、二十数年連れ添ってる嫁さんに大事な話しがあると言われた。
大事な話しとはなんだろうか、とテーブルを挟んで嫁さんの正面に座ると開口一番、
「私、子供が欲しい」
…目が点になったのは言うまでもない。
え、今?俺もう50歳だよ?嫁さんは―――まぁ今はいいか。
とにかく、俺としては頑張れるのは頑張れるんだが、とある理由があって嫁さんとの子供が出来ないというのは嫁さんもわかってると思うんだがなぁ…
「子供が欲しいって、そりゃ俺も欲しかったが、『私との子供は出来ない』って結婚した時に説明してくれただろう?」
結婚したら子供が欲しいというのは普通のことだ。けど俺達が結婚するにあたって嫁さんに――
『人間って、結婚したら子供を産むのが普通なんでしょ?』
『ああ、普通はそうだな』
『私ね、人間のあなたとじゃ子供を産むことできないよ?それでもいいの?』
『結婚してください』
――とまあ嫁さんからは人間との子供が出来ないって言われてるんだが、それでも嫁さんと結婚したかった俺はプロポーズした。
今になって嫁さんから俺との子供が欲しいと言われても、人間の俺では嫁さんとの子供はできないはずなんだけど、そこのとこどうするんだろうか。
ちなみに、この世界では人間とは違う異なる種族がいる。
獣人、エルフ、ドワーフ………、細かく言うと無数にいると言われているが、どんな異種族同士であろうと子供はできる。
こう言うと俺と嫁さんでも子供が出来るって話しになるんだが、嫁さんに限ってはちょっと――いや、かなり話しが違ってくる。
まず種族どうこうというより、存在の次元が違う、らしい。
うちの嫁さんね、『神様』なんだ。
しかも数百年前に世界を滅ぼす寸前まで追い込んだ魔王を造り出した『邪神』なんだってさ。
そりゃ二十年前から年取ってる感じしないし、教会の聖書にも描かれてる姿形が一緒だし、なによりも超強い。
出会った時にこの世界で最強の魔物である龍種、エンシェントドラゴンをしばいて追い払ったし。
思い出すとヤバいぐらい怖かった。エンシェントドラゴンも嫁さんも両方共。というか俺気絶したしね。
そんなことあったけど結婚まで漕ぎ着けた俺ってどうかしてると思う。
幸せな生活送ってますがね。50歳のジジイになったが、あの頃から変わらず嫁さんを愛してます。
どうやって結婚までいったかはまたいつか話そう。
脇道に逸れたが、こういう理由で嫁さんとの子供が出来ないはずだが、嫁さんは子供が欲しい、と。
目が点にもなるだろうさ。
嫁さんからそう言われたのに、その嫁さんから子供が欲しいって言われるとは。
わからんなぁ。
いや、まぁ、正直に言うと嫌な予感がするのは間違いなくわかる。
二十年数年の付き合いでわかったことで、嫁さんが大事な話しをする時はいつも俺が振り回されるんだ。
今回も、そうなるんだろうなぁ…
もうジジイなんだから加減してほしい。