表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/60

6、不死身の司教

 俺は投擲とうてき武器のブーメランを3人の隣にある木にぶつけた。

 刀ベースなので切れ味もよく、正確に奴らの方へ倒れるよう角度も調整済み。


 ブーメランのベースになっている刀は国立博物館で実際に見たことがあった。

 徳川家に何度も災難を持ち込んだめ、妖刀と言われるようになった村正。

 室町時代中期から江戸初期にかけて作られたらしい。


 実物を見ているのでイメージしやすかった。


 斬鉄剣はアニメでしか見てないが、映像として一度でも見て記憶している物は性能も含めて再現し易いのかも知れない。


 銃や巡視船に搭載されている機関砲も、ネットや新聞で見たことあるので、細部までイメージできる。

 念斬りとは違うかも知れないが、試してみる価値はある。


 支援者らは突然倒れてきた木に驚き、意識をそちらに向けた。同時にブーメランは彼らの足を斬っていく。


 2人分の両足を切断し、残り1人の左足を少し斬って止まり消滅した。

 彼は仲間の異変に気づき素手で止めたのだ。ブーメランに触れた手からは血が流れている。

 その意識は傷ついた己の手足に向いている。

 

 プレイサはそれを見逃さなかった、少し回復した彼女は力を振り絞り最後の1人に斬りかかる。

 彼もそれに気づいたが、攻撃をよけることができず、心臓を一突きされ絶命した。


 一方、リリスは炎系のフレームストライクを放ち司教を燃やそうとしたが右手でそれを制した。


「やっぱりあの程度じゃダメね。魔力が欲しいわ」


 リリスが愚痴っている間に司教は俺たちの目の前までやってきた。


「おやおや、ミルヴィル家の魔女が勢ぞろいですね」


 この司教はアリア達の秘密を知っているようだった。


「私は聖職者で慈悲深い。降参するなら命だけは助けますよ」

「お前たち、こいつに耳を貸してはいけな」

「ご老人には退いていただこう。もう十分生きたでしょう」


 司教が聖職者らしく婆さんに祈りを捧げようとした瞬間、背後からプレイサが斬りかかった。

 奴は一瞬だが、プレイサを意識したので隙ができる。 

 リリスがこれを見逃すはずがなく魔法を放った。

 俺は剣ではなく、ネットで見たガトリング式機関砲イメージして弾を放った。

 ダメ元でやってみたが成功してしまった。


 仲間が全て倒されても焦る様子を見せなかった司教だが、2人から4人分の攻撃が来ると表情をこわばらせた。


 司教はプレイサとアリアの攻撃をかわしたが、俺の機関砲が命中して体が吹き飛び、飛び散った体はリ

リスの魔法で全て焼き払い消失。


 残された彼の残骸は地面に崩れ落ちたが、無傷の頭部が口をひらき声を発した。


「まだ誰か居るのか」


 司教は怒気を含みアリアを睨みつける。

 無表情な彼女もこの時ばかりは青褪めた顔となる。

 それは俺やリリスも同様だ。


「おい、まだ生きてるぞ…」


 ここで婆さんの声が聞こえてきた。


「あれは人をやめている。怪物といっていい」

「どういう事だ婆さん」

「首から下を見てみい」


 言われた通りに視線を移すと、首が再生され次に肩が戻りはじめた。


「ホムンクルスか?」


 婆さんは苦しそうな表情で念話をはじめる。

 霊力は既に使い果たしているので、尽きかけている寿命を使ってるようだ。

 無理をしているのは司教に聞かれないためだ。


『あれは賢者の石の影響を受けている。不死身に近い。黒松明人、リリスよくお聞き」


 婆さんは俺たちに司教の対処方法と今後について話してくれた。


 まず司教は、しばらくすれば元通りになる。

 その証拠に、奴は腕のあたりまで再生しつつあった。


 あれを完全に始末するには、婆さんが持っている賢者の石の欠片を俺たちの石に取り込み、司教を吸収するしかないらしい。


『でも石が無くなれば婆さんヤバいだろ』

『そうよ、何か方法があるはずよ』


 俺とリリスは他の方法を婆さんに進めた。

 しかし…。


『見りゃわかるだろ、もう限界だ。石を持っていても体がもたん。もう十分生きたから楽にさせてくれないか』


 司教を吸収し倒した後は、北のエスターシアに逃げて体制を整えること。


 王都にいるパラケルススという錬金術師を訪ねるように言って、婆さんは俺たちが入ってる石を袋ごと握りしめ、賢者の石の欠片を取り込ませた。

 

『おい婆さん!』

『プレイサ、アリア、あとは任せたよ』

『『はい」』


 2人とも遺言は先ほど聞いていたので、泣き崩れたりする様子は見られない。


『それとアリア、司教の腕が再生したらリリスの石を賢者の石と偽って投げるんだ。そして命乞いするフリをしなさい』

『その隙に俺たちの石が司教を吸収するんだな?』

『その通り』


 賢者の石を吸収した俺たちは、あの石のように深紅の色になりつつあるようだ。


 司教は腕の再生を終え、今は腰のあたりの肉が戻りつつあった。

 ここでノイズが走り司教の声が念話に入り込んでくる。


『何をヒソヒソ話してるのです?私も混ぜてくださいよ。おやおや?目の前には3人しかいないのに5人分の魂を感じますね。誰です?』


 先ほどの怒気はなく、今度は余裕のある声になっていた。

 俺たちの存在にも気づいているようだ。


『遠慮せずにもっと話してくださいよ。懺悔も歓迎しますよ。戒告用の部屋もご用意しましょうか?』


 ◇ ◇ ◇ 


 賢者の石を取り込み終えたので、アリアは俺たちを司教に投げるため袋から取り出した。


『投げろアリア』

「これは賢者の石よ!受け取ってください」


 司教は投げられた俺たちをキャッチすると、舐め回すように見つめ始めた。


「う~ん、深紅の色に魂の香り、そして……ラフィエル様の祝福まで受けてる?」


 ――ラフィエル祝福だと?そんなも受けた覚えはないぞ。


「これは正しく賢者の石。いいのですか渡しちゃって?もう返しませんけどね。クフフフ」

 

 司教は不気味に笑い優越感に浸っているようだ。


「おや?誰か入っていますね。先ほどの2人……、ここに入っていたのですね」


 司教のつぶやきを遮るようにアリアが要望を伝える。


「その代わり私たち全員の身の安全を保障してください」


「はじめから降伏していればよかったのに、このリゲル様を傷つけておいて命乞いとは、厚かましいとは思いませんか?」


 ――こいつはリゲルっていう名だったのか。


「あなた達が襲ってくるから仕方なかったのです」

「魔女は捕らえろと命がでているのです。私は職務に忠実な女神の僕」


 リゲル司教は元の姿に戻っていた。彼は地面に落ちている血に染まり穴だらけの祭服を拾い上げ、再び身につけた。


「この服も弁償して頂かないといけませんね。アリアといいましたか?」


 司教のアリアを見る目が変わった。それは聖職者とは思えない色欲に満ちたものであった。


「どうせ金銭は持っていないでしょう。体で払っ…。いえ、私があたなの穢れた魂を清めて差し上げましょう」


「アリアに触れるんじゃない!」


 姉のプレイサがアリアの前にやって来て剣を構える。


「おやおや、美しい姉妹愛ですね~。では2人まとめて清めるとしましょう。そして私を刺しても無駄です」


 エロオヤジパワー全開で司教がアリアに近づいてきたその時。


「おや?体が…アっ!」バキ、ボキボキ。


 司教の体のあちこちから関節や骨の折れる音がし始めた。


 ――やっと吸収を始めたか。


「こ…これは?」


 この声を最後に司教の体は、まるで折り紙でも折るかのように折りたたまれ、みるみるうちに小さくなっていく。


 最後には俺たちが入ってる石より一回り大きい立方体になったところで止まった。

 もはや人の原型をとどめていない。


『リリス、このグロテスクな塊を吸収するんだよな?』

『そうみたいね、丁重にお断りしたいわ。しかし臭いわね…』


 こんなの見たらしばらく食欲不振になっちまう。


『リリスだと?お前たちは何者だ?』


 この状態になっても、司教の意識はあるようだ。

 完璧に化け物だ。ラフィエル教はこんな奴が多く居るのだろうか。


『まて!なんだこの溶けていく感じは、吸収すると言ったか?やめてくれ』


 一転して、司教が命乞いを始めた。


『残念だけど、これは止まらないんだなー』

『あんなみたいな気持ち悪いもの吸収したらお肌に悪いわ、最悪な日ね』


 リリスは司教を蔑んだ。 


『思い出したぞリリス。お前は悪魔だな。こんなところに閉じ込められていたとはな。クフフフ』

『悪魔じゃないわ。大悪魔よ。さっさと分解されなさい』


 司教がリリスのことを知っていたのは少し意外だった。

 それに不思議なのは、石に封印したのは英雄王なのに、彼がすぐに思い出せないのが腑に落ちない。

 悪魔を封印したのだから、誰もが知ってないとおかしい…。


『私は溶けても復活しますけどね。不死の体ですから。あなた方の石を破砕して元に戻って見せましょ…う。う?』


 吸収が完全に終わったようで、リゲル司教の声は聞こえなくなった。


『黒松明人はレベルが上がりました』

『念斬りのレベルが上がりました』

『イメージのスキルを覚えました』

『吸収のスキルを覚えました』

『吸収のレベルが上がりました』


「これって司教を倒したからレベルアップしたんだよな?」

「そうよ。私の魔力も少し回復したわ。賢者の石のおかげで、魔力が少しだけど自然回復するようになってるわね」


 自然回復するようになったのは凄いことだと思う。賢者の石のパワーを改めて知らされた。


「リリス、俺のステータスを見せてくれ」


 リリスはステータスを見る魔法を唱えた。


=====

名 前:黒松明人

種 族:石

職 業:廃道探索家

レベル:3

経験値:109

体 力:40/40

魔 力:30/30

幸 運:100

知 性:F

戦 術:E

速 さ:F

防 御:S

器 用:F

スキル:念斬りE・スティールF・探索A・吸収D・イメージF

称 号:暗殺者

=====


「レベルが3になってるし、イメージと吸収ってスキル初めてみたわ」

 

 ステータスも少しよくなり、戦術はEになっていた。本当は知性が上がって欲しかったのだが…。


「おいおい、称号が暗殺者なってるぞ」

「きっと司教を吸収したからだわ。暗殺としてカウントされちゃったのね」


 司教以外にも、支援者の2人の両足を切断して失血死させてるので3人分カウントされたのだろう。

 アサシンといえば響きはいいが、結局のところ殺し屋ってことだ。

 平和を愛する俺としては微妙な称号だ。しかもその特典がよくわかっていない。


「アキトさん、石が大きくなりましたね」

「大きく?」

「はい、そして重くなってます」


 アリアは俺たちを心配そうに拾い上げた。


「袋に入るかな?」と心配そうにしながら、うまく詰め込んだ。

 司教を吸収して魔力が増えた分大きくなったのかもしれない。


「あんな司教を吸収して大丈夫なんですか?消化不良とか起こしてませんか?」 

「今のところ大丈夫だな。リリスの魔力が少し戻ったらしいぞ」

「司教を吸収したので1/4まで回復したわ」

「それは良かったじゃないですか」


 劇的に回復したわけじゃなさそうだ。まだまだ魔力は足りていないのだろう。


「ところでプレイサは大丈夫か?」


 周囲を見てみると婆さんの隣に彼女は座っていた。


「婆さんどうなった?」


 アリアは俺たちを婆さんの元へ連れて行ってくれた。

 そこには安らかな顔をして眠りについたティムナが横たわっていた。

 この世界の寿命を考えると、3人分に相当する長い人生を終えたことになる。

 

「逝ってしまったようね…」


 リリスは寂しく友を見送る。

 石に封印される前の彼女を知っている数少ない友人。それが婆さんだった。


 ◇ ◇ ◇ 


 爺さんと婆さんはキャンプをしていた場所に埋葬することになった。


 プレイサによると、爺さんは司教の護衛を倒してから、苦戦していた婆さんを助けようとして命を落としたらしい。


 元々武闘家だったらしいが、不死身の体を持つ司教に勝てるはずがない。

 おそらく爺さんもそれを分かっていて戦ったのだろう。


 2人仲良く転生できるように祈るばかりだ。

                 

 残った4人の埋葬を終え村に戻ろうとした時、心配した村人が俺たちのところにやってきた。


「大丈夫ですか?」


 俺はリリスの魔法を使い、アリアになりすまして代表の老人と話をした。


「支援者達は教会の連中に敗れました。私たちが教会の者を倒しましたが、不審に思った教会が調査隊を送って来る可能性があります」


「ありがとうございますアリア様。確かにそうでございますね」

「村に戻って今後のことを話し合いましょう」

「かしこまりました」


 俺たちは村に戻るため馬を走らせた。

 アリア達の荷物を引っ張っていたロバと荷車も無事だったため、そっちはプレイサが御者となっている。

 

「リリス、村人に混ざっている教会のスパイを探せるか?」

「あいつらと戦って気づいたんだけど、みんな死臭がするのよね。それを探せばいけるかもしれない」


 さっきリリスが臭いって言ってたのはそのことか。

 でも司教は魂の香りと言っていたな。


「奴らってゾンビのように死体から作られてるとか?」

「分からない。でも賢者の石を用いてるなら、私たちも死臭がするってことよね」

「それは勘弁して欲しいな…」


 リゲル司教は謎だらけだ。映画に出てくる無敵のクリチャーと変わらない。


 今回は吸収するという破天荒な方法で倒したが、これが毎回できるとは限らない。

 奴らと戦うためには対策を考える必要がある。

プレイサのロバは速度が遅いのを忘れていた。

既に姿が見えないけど大丈夫かな…。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ