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57、道づくりと深淵の刺客 3

 店の中から店主のエディーが出てきて、お客の人数を聞き始めた。

 俺たちの中で彼と面識があるのはフレデリカだけだ。

 アリアとプレイサはトンネルにいるのでここにはいない。


 俺とリリスは石に入ってたし、サタニキアが現れたのはそのあとからだ。


「次のお客様は…、おや?あなた様は…フレデリカ様ではございませんか!」


 並んでいる客たちが驚くかと思ったが、そんな様子は全くなかった。

 フレデリカという名はそう珍しいものではないのだろう。


 それに上級貴族がこんなところにいるはずがないという、思い込みもあるのだと思う。


「皆さんすいません、こちらの方々は当店の設立を助けて下さった方なので、先に通させていただきます」


 意外なことに文句はでず、それなら仕方ねーなといった声が多かった。

 中には俺に気づいて黒松の旦那がいるなら別に構わないと言ってくれる人もいる。


 少々気恥ずかしい…。


 俺たちは酒場の奥にある個室に通された。

 中に入ると息子のペータが俺たちに話しかけてきた。


「あ、フレデリカのねーちゃん、あれアリアはいねーの?」

「ごきげんよう。アリアさんはトンネルにいますの」


 と言って、フレデリカはペータの頭を撫でた。

 その後ろには姉のグウェンドリンが笑みを浮かべている。


「あの時は本当にありがとうございました。私がここにいるのは皆さんのおかげです」

「いやー照れるわね」とリリスはが言ったが、グウェンドリンの表情はお前は誰だと言った感じだ。


 実体化したリリスと顔を合わせるのは初めてなので仕方のないことだ。


 そして唐突に映像が浮かび上がる。

 アリアが必死に叫んでいる様子が映し出された。


「リリス、式神を調整してくれ」


 トンネルの外に出たアリアが、リリスが連絡用に置いた式神を見つけ助けを求めているのだ。


 ただ音声が入ってこない。


「ちょっと読み取ってみますね」

「君も映像が見えるのか?」


 俺が問いかけるとグウェンドリンは頷いた。

 彼女はそれに加え読唇術も使えるようで、アリアの唇の動きから内容を読みとって話してくれた。


「パラケルススが激化型に襲われてハンニバルが死にかけている、助けてと言ってますね」

「それは大変だぞ」


 俺は即座にみんなの魔力残量を確認。

 フレデリカの魔力をぎりぎりまで、俺とリリス、サタニキアに振り分け彼女が空を飛び俺たちを運ぶことにした。


 現地に到着したら入口に置いてあるオートマタで中に入り、サタニキアは龍脈で魔力を少し補充してから中に入る予定だ。


 そしてフレデリカは、町にいる上級冒険者を緊急招集して馬車でトンネルへ向かうことになった。


  ◇ ◇ ◇ 


 トンネルでは死闘が繰り広げられていた。


 瀕死の部下ハンニバルを助けたいパラケルスス。だが彼女の前にはオルグが立ちはだかり隙を与えてくれない。


 テイラとプレイサも同様で、彼女たちは2つのグループに分断され、互いに連携ができなくなっていた。


 全ては知能を有する激化型の作戦である。


(このままではハンニバルが間に合わない…)


 彼女は下半身が麻痺しており、動くのは上半身のみ。足を斬られて動きが鈍くなったオーク達が彼女を狙っている。


 だが、パラケルススは何度もハンニバルへ接近を試みるが、その都度眼前のオルグがそれを阻む。


 敵も前回に比べ剣術の力を鍛えているようで、パラケルススと互角と言っても過言ではない。


 ハンニバルには刻一刻と死が訪れようとしている。

 パラケルススは捨て身の作戦に出た。魔力を惜しみなく使いオルグの元へ突っ込む。


 これは彼も予想していなかったので、やや驚いたが焦っているのはパラケルススの方。


 どこか無理があるはず、そこを狙おうを彼女の動きをじっくり眺める。

 そしてオルグはパラケルススの弱点を見つけた。


 前回戦った時、オルグが彼女に打撃を与えた場所。腕の継ぎ目。

 その前後の動きがやや鈍くなっているのを見抜いたのだ。


 オルグは迫って来るパラケルススの腕に攻撃を集中させ、破壊、そしてちぎり取った。

 避けた断面からは黒い血が滲み出る。


(やはりあいつはバケモノだ。始末しておかねばならない)


「コノマエノ オカエシ オマエノウデ モラッタ」と言ってオルグはぎこちなく笑った。

 

 彼はパラケルススは、一旦後退して体制を立て直すと予想していた。

 バケモノと言っても所詮は元人間。生まれた時からのモンスターである俺とは格が違うと思っていたのだ。


 たが彼女の動きはオルグの予想を裏切った。

 右腕を囮に使いオルグが油断した隙にハンニバルの元に転がり込んだのだ。


 途中で回復魔法を詠唱し、転がりながら魔法を発動し、瀕死のハンニバルをいくばくか回復させることができた。


 だが彼女の麻痺はそれでも治らない。

 転がってる途中でオーク2体を始末したが、まだ3体はゆっくりこちらを伺っている。


 それに対してオルグはほぼ無傷だ。

 この状況、利き腕を失ったパラケルススには分が悪い。

 もう一度回復魔法を使いたいが、オルグがそれを許すはずがない。


 他方、テイラとプレイサもパラケルススの窮状は把握していた。

 彼女たちも眼前の激化型に集中しつつも、ついついパラケルススの動きを見ていた。


 そんななか、テイラはプレイサに念話で話しかけた。


『プレイサ』

『どうしたの』


『パラケルススが窮地に追い込まれている。もう一度回復魔法を使う機会を作ってやりたいんだ』


 テイラは、眼前のオーガの隙をついてパラケルスス戦っているオルグと名乗るオーガに一撃を加える方法を考えていた。


 そのためにはプレイサの援護が必要となる。


『わかった。なんとか隙ができるようにやってみる』

『頼んだ』


 プレイサはわざと攻撃の仕方を変え、捨て身で突進するような動きを見せる。


 眼前のモンスターが知能を有しているなら、攻撃方法の変化を感じ取るはず。その一瞬の隙をついて、攻撃対象をプレイサが戦っているオーガに変更すれば相手も反応するはず。考えるはずだ。


 プレイサの考えは正解であった。

 テイラと戦っていたオーガは突然横からきたプレイサに気をとられる。


 その隙にテイラはパラケルススが戦っているオーガの背後に一撃を加えることができ、元の場所に戻るまでにハンニバルを狙うオーク1体を仕留めることに成功。


 だが、無理のある作戦のしわ寄せはプレイサが受けることになった。

 

 テイラと戦っていたオーガに攻撃を加えたが、元々プレイサが相手をしていたオーガが彼女の作戦気づいて背後から攻撃を仕掛けてきた。


 その結果、プレイサは背中を浅く斬られてしまう。

 攻撃を受けることを覚悟していた彼女であったが、いざ斬られてみると思った以上に痛かったので思わず悲鳴をあげる。


「パラケルスス様、私のことはもういいです、このままでは我々は全滅します」


 テイラが作ってくれた僅かな時間でパラケルススはもう一度ハンニバルに回復魔法を使うことができた。


 だが、その傷は思った以上に深く、魔法でどうにかできるものではなかった。 

 やや傷口が狭まったが出血は続いている。 


 体力も若干回復したが、その分朦朧としていた意識が戻ると同時に痛みも戻ってきた。

 ハンニバルの表情はさらに険しくなる。


「すまん、もう少し耐えてくれ」


 彼女はオーガとの戦いに復帰する途中、魔法で1体のオークを仕留めた。

 ハンニバルを狙うオークは残り1体、彼女は半身が麻痺した状態でそれと倒す必要があった。


『プレイサ聞こえるか』


 プレイサは念話でアキトの声を聞く。


『大ピンチだ応援を請う』

『プレイサよく聞け、今から5つ数えたら地面に伏せろ。テイラとパラケルススもだ』


 3人から返事を聞いたアキトはカウントダウンを始める。


『リリス、角度はいいか?』

『大丈夫よ』


 俺たちはバラムセーレの魔法増幅効果を使い、リリスの炎魔法でモンスターを焼き払うことにした。


 5

 4

 3

 2

 1


 3人は防御態勢をとりつつ一斉に地面に転がった。

 直後、高温の炎がトンネル上部を襲う。


 オーガは巨体故しゃがむのが苦手である。

 テイラと戦っていたオーガが炎に包まれる。


 眼前のパラケルススが地面に転がり、視界の隅に映るテイラも同じ行動をした。オルガは少し考えたが同じ行動をとることにした。


 転がりきる途中、オルグの顔面すれすれの位置を高温の炎が通り過ぎていく。

 やや高い位置にあった右肩がその炎で焼かれ黒焦げとなる。


 これをまともに食らったら間違いなく死んでいる。

 仲間はほぼ全滅と判断したオルガの行動は早かった。炎をやりすごした彼はいち早く撤退したのだ。


 炎の風圧で地面に転がった激化型のオーク1体を拾い、彼は横穴へ入り通路を崩し塞いだ。

 これはニンゲンが地下洞窟へ入るのを防ぐため、予め用意していた仕掛けである。


 トンネル内には、まだ息のある仲間が残っていたが、彼はそれらを見捨てた。 


  ◇ ◇ ◇


 ブラックパインの指揮所に戻った俺たちは、負傷した仲間の手当に最善をつくす。

 特にハンニバルは危篤状態といってもいいくらいだ。


 町へ運ぶ途中で意識を失った彼女は、虫の息である。

 傷は塞がったが、血が不足しているうえに体力の消耗も激しい。

 助かるかどうかは微妙なところだった。


 オルガが撤退した後も、まだモンスターは生き残っていたが、その多くはあとからやってきた上級冒険者がすべて片づけてくれた。


 トンネル内の戦いでスキルを多用した俺は、久しぶりにレベルアップを知らせるお姉さんの声を聞いた。


 だが今は、その内容よりも今後のモンスター対策をで頭が一杯であった。


「リリスちゃんの炎魔法であれだけのモンスターを倒せたのだから、わたしがいれば余裕で勝てるわよ。ただしトンネルの中ならね」


 サタニキアが、ただしとつけたのは理由がある。

 外部で強力な魔法を使っても、距離が長くなれば効果が拡散し逓減していく。

 だがトンネル内であれば、拡散しにくいので効果はより長くつづく。


「だから工事は中断しなくてもいいわよ」 

「私もサタニキア君の意見に賛成する」


 無くなった腕を新しいものに交換し終えたパラケルススが部屋に戻ってきて、サタニキアの意見に賛成した。

 俺は他の仲間の意見も聞いてみたが反対はなかった。


  ◇ ◇ ◇


 洞窟の深淵、オルガは主のニーズヘッグに腕を献上していた。


「申し訳ございません。仕留めそこないました」

「構わんさ。あのパラケルススの腕をちぎったのだぞ、それだけでも凄い成果だ。僕の目に狂いはなかった。君を長に据えて正解だったよ」


 ニーズヘッグは受け取った腕の眺め、切り口を舐めながらあることを思いついた。


「オルグさぁ、これからもパラケルススの体のパーツを持ってきてくれないかな?」


 それを聞いたオルグはやや驚いた表情をする。

 パラケルススの体をちぎるのは至難の業である。だが主のためならば…。


「承知いたしました」

「僕は決めたよ、すべてのパーツを集めて彼女を作るんだ。そして僕の配下に置く」


「配下でございますか。確かにあれはニンゲンというよりも我々に近い存在ではありますが…」


 パラケルススの身体的なバケモノっぷりは、何度も見ている。

 あれはニンゲンではない。


「その通り、あれはゾンビと変わらない。高度な知能を持ったゾンビのようなもんだね。できれば彼女自身を仲間に加えたいところなんだけど…」


「お言葉ですが、とても加わってくれるとは思えませんが…」

「うん。だから複製するんだ。本物のパーツを使ってね」


 ニーズヘッグはオルグに近寄り、焦げた肩に手を添えた。

 淡い光につつまれた肩は瞬く間に元にもどった。


「ニーズヘッグ様、ありがとうございます」

「期待しているよオルグ。そうだ次は僕も一緒に行くよ。急に生パラケルススを見たくなっちゃった。彼女は美人だしね」

「ニーズヘッグ様の方がお美しいです」


=====

名 前:黒松明人

種 族:石

職 業:廃道探索家

レベル:11→12

経験値:199

体 力:130→150

魔 力:105→135

幸 運:100

知 性:F→E

戦 術:E→D

速 さ:F

防 御:S

器 用:E→D

スキル:念斬りE→D・スティールD→C・探索A・吸収C・イメージE→D・錬丹術C

称 号:にわか錬丹術師→ブラックパインの代官

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