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53、地下に眠る謎のオベリスク

 1週間後、パラケルススの根回しもあり、全て彼女の描いた通りにことは進んでいた。そして、妻のフレデリカは領主となったため、4日前からマギアで執務を行なっている。


「アキト君、これで正式に君たちの領地は統合された」


 と言ってパラケルススはヤムヒルのサインが入った証書を見せてくれた。

 新領地の名称はフレデリカ領。領主はフレデリカ・ライドランドとなっており、黒松明人の名前は欠片もない。


 妻の方が地位が高いので仕方ないが、ちょっとしてやられたような気もする…。


 代わりに新しく作られる町の名は俺の苗字をもじってブラックパイン(黒松)となった。だが町づくりはこれからだ。


「君が町を作ろうとしている場所は本当に恵まれているな。真冬に着工できる場所なんてそうそうない」


 先週、激化型モンスターを倒したあの地域は、冬でも降雪量が少ないため寒さ対策さえすれば工事を行うことができるらしい。


 近くにある川も、上流の温泉が流れ込んでいるため、若干酸性度が高いが冬でも凍結することはない。地熱の高いところに作業小屋を建てれば問題なさそうだ。


「今日中に出発するのかね?」

「その予定だ。あっ、一つだけ聞きたいことがあるんだ」

「何かな」


 パラケルススによって少々強引に結婚させられた俺だが、ここ1週間の出来事を見ていて気になったことがあった。 


「フレデリカと結婚させた本当の理由って、俺に冒険を続けさせるためか?」


 パラケルススは不敵な笑みを浮かべ俺を見る。


「君の勘は鋭いね、その通りだよ。もちろんフレデリカは承諾済みだよ。本当は彼女も君と一緒に冒険をしたそうだがね」


 やはりそうだったか。

 俺がもし領主になってしまった場合、自由に動くことができなくなる。

 自分の領地を放置して旅にでるなんて領主としてあるまじき行為だ。


(確か、パラケルススも俺と一緒にいた方が、予期せぬ事が起こるので楽しいと言っていたな…)


「だけどね、彼女は巫女になってしまった時点で行動は制限されているんだ。ならば…」


 パラケルススは自身の楽しみのために、既に行動が制限されてるフレデリカを正式な領主に据えたというわけだ。


 そのおかげで、俺は今でも自由の身である。

 フレデリカ自身もそれを承諾しているとはいえ、少し可哀そうな気もする。


「アキト君、そこまで悲痛な顔をする必要ないさ。自分の領内はもちろん、エスターシア国内であれば比較的自由に移動できる」


「なるほどね」

「納得してもらえたところで、私の研究施設の設計図を渡しておこう」


 納得はしていないが…。

 時々、執務を放り出させて冒険にでも連れ出してやろう。


 俺はそう心に決めたあと、パラケルススから図面が描かれた巻紙を受け取った。

 ブラックパインにはパラケルススの工房兼研究施設と、ギルドの支部も作られる。

 それに合わせて冒険者向けの宿屋や酒場、武器防具屋といった店も出店の許可を求めてきているので完成した場合はマポより規模が大きな町になるかもしれない。


 ただ、唯一の欠点は中心の町となるマギアと街道が直接繋がっていないことだ。

 これに関しては、リリスとサタニキアの魔法を使役してトンネルを掘らせ、俺の世界にあった地域高規格道路並みの街道を作ろうと思っている。


 現地に移動したらすぐにでも測量するつもりだ。


「アキト、移動はオートマタ使うんでしょ?」

「もちろんだよ」

「石に戻る前にワインを買いに行っていいかしら?」


「リリス君、それならこの店に行きなさい。私の紹介だと言えば秘蔵のワインを出してくれるぞ」


 パラケルススは地図上のある位置を指さした。

 そこはギルドホールからほど近い場所、といっても路地裏だが、地元の人じゃないと分からないような場所だ。容姿が怪しいせいか、彼女は路地裏の店が好みのようだ。


「ほんと!?」


 リリスは上機嫌でパラケルススの執務室を出て行った。

 

「ところで、テハスのギルド支部はどうするんだ?ブラックパインに引っ越したらここの責任者がいなくなるだろ?」


「引き続き私が支部長だよ。テハスとパインを行き来することになる。そこでだ、君が計画している地域なんたら道路というものを、こちらにも作れないだろうか?」


 俺は机に広げられていた地図に視線を移す。

 テハスとブラックパインを1日で結ぶには、ほぼ直線で道を作るしかない。

 道中2つの大きな山を越える必要があった。


「金さえ出してくれれば作れると思う、実際に測量する必要はあるけど」

「ぜひお願いしたい。ドーラの宿場を経由すると2日かかってしまうからね、なるべく1日で行けるようにしたいんだ」


 これは間違いなく難工事だな…、10キロクラスのトンネル4本と谷間に橋梁が……。マギアへの道より厳しいのは確実だ。


「詳しい話はまた次回にしようじゃないか。私はギルドの仕事があるので失礼するよ」

「はいはい」


 町づくりも含めると、でかい公共事業が3つか…。人手の確保も大変そうだな。

 トンネルはリリスに掘らせるとして、橋梁をどうするか考えないといけない。

 地震が多い地域だとすれば、鉄筋を使う必要もある。


 そんなことを考えながら、俺はジルがいるギルドの図書館へ向かった。目前に建物が見えてきたところでサタニキアと出くわした。


「あれ、アキト君じゃない。こんなところでどうしたのよ」

「それはこっちのセリフだ…ってお前、またアレか…」


 衣服が少々乱れていたのと、妙に肌つやが良いので男漁りをしていたに違いない。


 ギルドの関連施設近くは冒険者を相手にしたいろいろなお店が多い。

 冒険者には女性も多いため、それ向けのお店も少ないが存在する。


「こうやって精気を補充しておかないと実体化魔法も使えないからね」


 と言ってウインクしてきた。

 自身の行為を正当化するために俺を絡めてるのだろう。


「こんなところをうろつくなんて、娼館でも探してるのかしら?」

「違うわ!白昼堂々と行くわけねーだろ。ジルのとこへ行くんだよ」

「まぁ、図書館でとジルと…。アキト君って大胆ね」


 サタニキアもリリス同様に淫魔ベースの悪魔なので思考が似ている。こればかりは慣れるしかない。


 俺はサタニキアを無視して図書館に入った。


 一番奥にある閲覧用の机に本が積み上げられていたので、そこがジルの居場所だ。

 彼女は調べ物をする時に、大量の本を積み上げる癖があるので分かりやすい。


 横から覗いてみると、ジルに加えてアリアも座っていた。

 真剣に何かを調べているようで、俺とサタニキアに気づく気配はない。


『アキト君、ちょっとイタズラするから気配消しててね』

『何をする気だ』


 サタニキアはアリアが読んでいるページの挿絵に視線を向けていた。

 ややあって挿絵が立体化し、中に描かれていた人たちが動き出した。


「わっ」と声を出して驚くアリア、普段は表情の変化が乏しい彼女であったが、今は子供本来の顔となっている。


 それを見たジルも同じように固まっていたので、俺は思わず笑ってしまった。

 そこで2人は、サタニキアがイタズラしたことに気づいたのか、抗議の視線を俺たちに向けてきた。俺は無実だ。


「真剣に読んでいたのに驚かさないでください」

「ごめんごめん、あんた達が真剣だったのでついね…、だってわたし悪魔だし~」と悪びれる様子は全くないサタニキアであった。


 ここで俺は疑問を持った。

 挿絵の動きだ。


「サタニキア、あの挿絵ってどういう原理で動いているんだ?」

「あれはね、絵を描いた人の心を読み取ってるの。実際に見たものを描いてるのだとすれば、それだけ動く時間も長いわよ」


 アリアが見ている挿絵は、畑作業をしている女性たちを描いたものだ。


「それでしたら、この本の挿絵を動かしてみてください」


 ジルが開いたのは、とある冒険者の冒険譚を綴ったものだ。

 挿絵は洞窟だろうか、探索の様子を描いた一コマだ。


「いいわよ」


 数瞬後、挿絵が立体化して動き出した。

 絵は単色で描かれているため、まわりの岩の色などは一切分からない。

 ただ地面から水晶と思われる結晶が突き出ていたり、他にも鉱石と思われるものが露出している。


 これが本当に存在している洞窟だとすれば、かなり有望な鉱山に変貌することは間違いない。


 しばらく前に進むと先端部が四角錐となった石柱が現れた。

 柱には何やら絵文字が描かれているようだ。


「これはオベリスクだな。ジル、その挿絵のあたりは何について書かれているんだ?」

「はい、洞窟の奥深くで発見した石柱には古代文明の物と思われる絵と文字を組み合わせたものが描かれていた」


 ジルが次のページを繰ると見覚えのある絵文字が描かれていた。


「エジプトのヒエログリフじゃねーか…」


 なんでこんなところにあるんだ??


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