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5 、謎の支援組織とラフィエル教

 村を支援している隣国エスターシアの謎の団体。


 彼らは、毎月20~30人を脱デシューツさせ、エスターシアへ密入国させている。

 長くても1年我慢すれば必ず隣国へ行けるとあって、デシューツ各地から集まって来るそうだ。

 ここの暮らしだって、彼らが元いた村に比べれば悪くはない。

 むしろ、衣食住が保証されているデスパイズの方が暮らしの質も上だろう。


 ただここは辺境といってもデシューツ領内。ラフィエル教の奴らが度々やって来ては、女子供をさらって行こうとする。


 奴らが来た時は、隣国の支援者たちが対話をする。寄付と称して金品でも渡してるのだろう。


 うまくいった場合、奴らは帰るが決裂した場合は始末しているらしい。この場合は要求額が法外だったのだろう。


 後者の場合は野盗に襲われたという情報を教会にうまく送っているので、討伐隊がやって来たことは一度もないらしい。


 まるで世紀末を描いた漫画の世界だ。

 教会を名乗っているが、女子供をさらいに来る奴らはマッチョでモヒカン頭をしてるに違いない。

 

「今日は決裂したから始末されたということでしょうか?」

「その通りでございます」


 決裂していきなり火刑か…。


「火刑になった者たちは聖職者なのですか?それとも護衛ですか」

「それがよく分からないのです。聖職者にしては学があるように見えませんし、護衛にしては貧相です」


 ただカカシのように立っているだけらしい。

 村人は交渉に参加できないので、彼らが何を話しているかは分からない。

 決裂の場合は司教と護衛はいち早く逃げ、残されたカカシみたいな者たちが毎回火刑にされる。

 

 それを何度も目撃していると疑問を抱き追及しようとする者が出るだろうが、村人はその前に隣国へ移動するので調べた者は誰もいない。


「あの立っている者たちは、魂が抜けたように覇気もなく、支援者たちに抵抗もしませんでした」


 ただ黙って焼かれるだけ。

 あの者たちの正体はなんだろうか。

 これから火刑に処させるのに無抵抗で声も出さないなんて、殺される前から死んでいるようだ。

 ゾンビの方が、まだ抵抗するぶん人間に近いと言える。

 

「支援者はどちらに?」

「先ほどまで居たのですが見当たりませんね。逃げた教会の関係者を追ったと思います」


 3人のうち1人は直ちに教会の者を追い、2人は残された者たちを刑台に縛ってから後を追ったらしい。


 着火は村人の役目。

 刑台上の者と話した場合は、出国させてもらえないので誰も口を聞かない。

 おそらく村人の中に監視役が居るのだろう。きっとこの場にも…。

 

「わかりました」


 隣国の支援者が本物なら逃げた司教達を捕まえて欲しいが、もし違ったら?

 モヒカン頭と繋がっていたら?


 ――考え過ぎか。


 あまり疑いすぎるのもよくない。

 もう一つ、村の噂話についても聞いてみることにした。


「この村の噂についてですが、みなさんは誰からお聞きになったのでしょう?」


 村人は競うように口を開き答え始めた。


 少しでも女神の使徒に好印象を持ってもらい、自分たちを優先的に救済してもらおうと考えているのだろう。


 みんな生きるために必死になっているのが伝わってくる。


 少し時間を要したが話を整理すると、一番多いのは酒場で知り合った商人など、国外から来た者が村のことを広めているようだ。

 

 だとすれば多くの者が村に立ち寄っているはずだ。


「この村に、旅人が立ち寄ることはあるのですか?」

「滅多にないです。ここはエスターシアへ抜ける街道から少し外れていますからね。それに宿屋だってない」


 やはりおかしい。

 立ち寄る人が少ないのに噂だけ広がっている。


 悪い噂と儲け話は広がりやすそうだが、ここには疫病や餓死者もいないし、儲け話もありそうに見えない。


 商人が商売に関係ない話を広めるだろうか?ここの話をしたって誰も儲からないのだ。

 異教の聖職者が教えを説きにデシューツに来たら、直ちに捕まって宗教裁判にかけられる。

 身分を偽って入国できたとしても、酒場で説法するなんて自殺行為だ。


 その時、アリアの家族が待っている方向から爆発音がした。

 俺とリリスは視線をそちらへ向けた。


『何があった?』

『あれは、おばあちゃんのいるところだよ』


「教会の連中の襲撃ですかな?」


 老人が言うと村人たちが騒ぎ始めた。


「皆さん、あの場所には私の従者が待機しています。教会の者に襲われている可能性があります」

「アリア様、支援者が助けてくれますよ」

「万一、支援者が倒された場合、ここを守るものがいなくなりますよ?」

「確かにそうですな」


 これはまずい、一刻も早く戻らないといけない。


「馬を貸していただけませんか?」

「もちろんお貸ししますとも、アレックス早い馬を連れて来てくれ」


 老人の指示を受けアレックスという若者が厩舎へ馬をとりにいった。

 次に逃げた奴らの特徴を聞いておく必要がある。

 それと全員が敵だった場合に備えて、支援者の腕前も確認がいる。


「逃げたのは何人ですか?」

「司教と護衛の2人です」


 司教がこんな辺境まで来るだろうか、しかも馬車1台だけで護衛もろくにいない。


「支援団体の方は戦闘に慣れてらっしゃるのですよね?」

「そうです。元々傭兵だったかも知れませんな」

「ありがとうございます」


 話を終えたタイミングで馬が連れてこられた。


「アリア様、この馬をお使いください。私たちもお供いたしましょうか?」


 全員が敵だった場合を考えると人数がいた方が心強い。

 しかし、相手が手練れだった場合は、無用な犠牲者が増えるだけだろう。


 ここは断っておこう。


「私は女神の使徒、その必要はありません。皆さんに女神様の加護を」


『アリアちゃん少し腕をあげて』

『リリス少しだけ光らせてくれ』

『わかった』『こうですか?』


 村人たちは再度アリアに頭を下げていた。

 年配者の中には膝をつき涙を流しながら拝んでいる者もいる。


 ――本当に騙してすいません。


 俺は心の奥底で村人に謝罪した。


「リリス、魔法を止めてくれ」


 村を後にした俺たちは婆さん元へ急ぎ馬を走らせた。


「魔法の残量はどれくらいだ?」

「かなり少ない」


 やはり少ないか。あれだけ頑張ってくれたんだから仕方ない。

 アリアはどうなんだろう。場合によってはリリスの方へ魔力を分けてもらおう。


「アリアちゃんはどうかな?」

「認識阻害を使わなければ回せます」


 認識阻害とはどのようなものなのだろう。

 魔力をどれくらい消費するのか不明だが気になる。


「それは魔法なの?」

「えっと、詳しいことはそのうちお話しします」


 断られてしまった。


 彼女のステータスを見た限りでは、スキルは魔法のみだったから認識阻害は魔法なのだろうけど、詳細を話せないのが気になる。


「はい、魔法です」と言ってもらえればスッキリしたのだが。


 それと使える魔法の系統を確認する必要がある。

 リリスはSランクだからオールラウンダーだとして、問題はアリアだ。

 見た感じは支援系が得意そう。


「2人とも攻撃魔法は使えるのかな?リリスは心配なさそうだが…」


「私はなんでも使えるから心配しないで、ただ回復系は種類が限られてる。この私が回復魔法が必要なほどダメージを受けるはずがないわ」


 さらりと自慢を入れてくるリリス。

 しかし、それが原因で英雄に負けたんだろう。


「私は治癒とか支援系の魔法が得意なんです。攻撃は子供だまし程度です」


 アリアは俺の見立て通りだった。


「戻ったら戦闘になると思うけど、俺は念斬りを使うからリリスは適当に魔力を節約しつつ攻撃してくれ」


「節約するの苦手なんだけどな、ど~んとやってやりたいわ」

「霊力の切れたお前なんて、ゴブリン以下だろ」


 ちょっと言い過ぎたかな…。リリスは一言も発しなくなった。


 彼女は調子にのるところがあるので、しっかり手綱を握っておく必要がある。

 パーティー組んでも勝手に突っ込んでいって玉砕するタイプだからだ。


「アリアは負傷者の手当てを頼む」

「わかりました」


 みんな無事でいることを祈る。

 

「戦える人は家族にいるのかな?婆さんは魔法使えるんだろ?」

「はい、おばあちゃんも魔法は使えます。姉は剣術を極めています」


 あの爆発は婆さんが魔法でやり合ってるってことだろう。

 それに剣術のできる姉がいるなら、簡単にやられるはずがない。


「それは頼もしい」


 俺たちは街道を離れ婆さんたちのキャンプへ方向を変えた。

 剣を交える音が聞こえてきたところで馬を降りた。

 足早に音のする方向へ向かうと、傷だらけの姉プレイサが3人を相手に剣を振るっていた。


「大丈夫かプレイサ!」


 俺は傷だらけの姉に声をかけた。

 かなりのダメージを受けていたからだ。


「リリス、あの3人に攻撃を加えてプレイサを援護だ」

「わかった」

「アリアはプレイサに治癒魔法を!」

「はい」


 リリスは魔法で地面からゴーレムを作り出し3人と戦わせた。 

 これは支援者の連中だろう。


 アリアがプレイサの傷を癒そうとするが、彼女はそれを断った。


「アリア、私はいいから、おばあちゃんがヤバイのと戦ってるから援護してあげて」


 プレイサが指さした方向をみると、血まみれの婆さんが司教っぽい奴と戦っていた。

 足元には爺さんと司教の護衛が倒れている。


「アリア、プレイサを少し回復させろ。俺は司教を攻撃する」


 こういう時、体があれば各自分散して対応できるのだが、今はアリアにぶら下がってるしかない。

 人数だけで言えば3対4だが、こちらの2人はかなり痛手を負っているので実際は2対4に近い。

 

 俺は斬鉄剣で斬りつけるところをイメージ、司教に向けてそれを放った。

 手前にあった古木が切り倒され、攻撃が奴に届こうとした直前、司教は左手を広げそれを阻止した。

 念斬りは、あっさりとブロックされてしまったのだ。

 

 婆さんはその隙に退避しこちらへ逃げてきた。


「大丈夫か婆さん」

「見りゃ分かるだろ」


 どうみたって婆さんに魔力が残っているように見えない。


「アリア、回復魔法を!」

「まて、私はここまでだ。魔力を無駄にするんじゃないアリア。孫たちよ、よくお聞き」


 婆さんがアリアとプレイサに遺言ともとれることを話し始めた。

 だが司教や支援者らは話が終わるのを待つはずもなく、ゆっくりとこちらに近寄って来た。


 俺とリリスは視線を交代しながら使っているため、両方の動きを把握している。

 両方ともヤバイ状況だった。リリスが放ったゴーレムは既に倒されている。


「魔力が足りないのよ。万事休すよ」

「そうだな、俺の念斬りも司教には通じない」

「それはスキルの値が低いからよ、この危機を乗り越えたら修行しましょう」


 婆さんは孫たち、特にプレイサに俺たちのことを話している。

 そして一緒にここを脱出するよう言っている。


 その間にも司教と3人は間を詰めてきている。

 走って来ないのは疲れているからか、攻撃の準備をしているのか定かではない。

 ただ司教が不気味な笑みを浮かべているのは視認できる。


「リリス、攻撃対象を俺と交代だ。俺は3人に切り込むからお前は司教を足止めしてくれ」

「やってみる」

 

 続いて俺は投擲とうてき武器でよく斬れるブーメランをイメージした。

 妖刀ムラマサをブーメランにした感じだ。


 それで隣の木を倒し、そちらに気を取られている間に、奴らの足を攻撃しようと思ったのだ。

 ランクFでも木を切り倒せるので、足にもなんらかのダメージくらい与えられるだろう。


 リリスと俺は同時に攻撃を開始した。

あの司教はヤバそうだ。目がイッてる。

怠惰ですね~と言って舌を噛まないことを願うばかりだ。

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