45、石ロボを奪取せよ
街道を進むこと3時間、正面に石ロボを運んでいると思われる隊列が見えてきた。
マギアから港町マポは、通常であれば移動に1日かかる。
ここはマポまで1時間くらいの場所だ。
テイラは1日かかるところを3時間でやってのけた。
石ロボには大きな布を被して傍からは見えないようにし、運んでいる奴らは人足の姿をしてる。
商隊に偽装しているのだ。
大きさから推測すると、運んでいるんはオートマタかゴーレムだ。
『追いついたがどうする』
息を切らしたテイラが訪ねてきた。
俺たちは奴らに気づかれないよう少し距離を保って進んでいる。
俺はボロボロになっているサタニキアに視線を向けた。
ここにくるまでテイラは全速力で走っていたが、路面が凍結していたので何度も滑って転倒。
その度にサタニキアは地面に叩きつけられたり、引きずられたりしてドレスは破れ泥だらけになっている。
おまけに路面にはところどころに馬や牛のアレが落ちているので、今の俺達はそれらの臭いも放っている。
『テイラ、悪いが雪原をうまく進んで奴らより前に出てくれないか?』
『分かった』
『アキト君、いま私を見たけど何かさせるつもりかしら?』
『そうだ、ちょっと手伝ってくれ』
テイラは街道から雪原に入り奴らから少し離れた場所を進み追い越した。
『奴らを追い抜いたがどうするんだ?』
『テイラはネズミにでもなって、合図するまで雪の中に隠れてくれ』
『サタニキアには重要な任務をやってもらう』
『まぁ、何かしら?』
サタニキアは目を輝かせていた。
みんなに頼られたり特別視されるのが好きなのかもしれない。
さすがリリスの上位互換だ。
ややあって、石ロボを運んでいる奴らが俺たちの前に来て停止した。
「おい止まれ!女が倒れているぞ」
目の前にはボロボロになった女性が倒れている。サタニキアだ。
『テイラ、今の間に俺たちを運んでくれ』
『分かった』
テイラは目立たないように白ネズミになっていた。
これは子供が考えるような単純な作戦で、サタニキアを囮に使ったのだ。
奴らが停止した隙に目的の物を探すのだ。
俺たちはネズミになったテイラにくわえてもらって、石ロボの中からオートマタ型のバラムセーレを探した。
3体ともゴーレムとは考えにくいので、1体くらいはオートマタがあるはずだ。
その頃、先頭ではサタニキアをどうするか、男たちが集まって話し合っていた。
「この女まだ生きてるぜ。どうする?」
「ボロボロだが、いい体してるじゃないか。連れて行って今夜楽しまないか?」
どうやら人足風の奴らは、風ではなく本物だったようだ。
教会の奴らなら夜の話を持ち出すとは考えにくい。
そしてこちらではテイラが目的の物を見つけたようだ。
『アキト、こいつはバラムセーレじゃないかな』
首筋に石をはめ込むくぼみがあるので間違いない。
『助かったテイラ、くぼみに俺たちをはめ込んでくれ』
『任せておけ』
テイラは口先を器用に使って俺たちをはめ込んでくれた。
幸いにもバラムセーレは壊れておらず、すぐに起動画面が現れた。
『アキト、サタニキアに魔力を分けてもらったけど、十分な量じゃないわ。戦う場合は7分といったところね』
『単純に動かすだけならどれくらいだろう?』
『それなら1時間以上いけるわ』
リリスはさっきバラムセーレを動かした時の魔力の消費量を計っていたようで、すぐに稼働可能時間を割り出してくれた。
俺たちがバラムセーレの状態を確認していると、前方から人足たちの声に混ざって責任者と思われる男の声が聞こえてきた。
「お前たち何を騒いでいるのだ。そんな女は無視してひき殺せばいいだろう。さっさと持ち場に戻れ」
「しかし旦那、こんな美人滅多にいませんぜ。殺すなんてもったいないですよ」
「なら雪原にでも捨てておけ、報酬はたっぷり払ってるのだ、さっさと運ぶんだ」
サタニキアは手足を縛られゴミのように雪原へ投げ捨てられた。
縛ったのは、おそらく運び終えてから彼女を回収して楽しむつもりなのだろう。
『ちょっとアキト君、わたしこんな屈辱的な扱いされたの初めてなんですけど。いくら寛容なわたしでも、これは怒ってもいいわよね』
『もうちょっとだけ待ってくれ、ローブの奴らだけになったら暴れていいからさ』
俺の予想では、人足たちは石ロボを見たことないはずだ。
もし見ていたとしても、動いた姿を見れば逃げ出すに違いない。
バラムセーレの準備が整ったので、荷台から降りて剣を作り出し構えた。
それを目にした人足たちは俺の予想通り、恐れおののいてマポの方へ逃走。
残されたのはローブの男3人だ。
そのうちの1人はゴーレムを操る者だったらしく、さっそ起動し攻撃態勢に入った。
『テイラ、サタニキア、暴れても構わないぞ』
『了解』『この恨み、絶対に晴らしてやる』
テイラはフェンリルなり、サタニキアも雪原立ち上がり魔法を唱え始めた。
男たちも彼女に気づき目配せした後、戦い始めた。
俺の相手は目の前にいるゴーレムと言いたいところだが、操術者の男が本当の標的だ。
あれさえ仕留めれば面倒なゴーレムと戦う必要は無い。魔力も節約したいのでバラムセーレを使った戦いは避けた。
そこで俺は久しぶりにスチールのスキルを使うことにした。
かなり嫌なのだが、男たちが裸になるところを想像。
寸刻後、俺の目前には3人の脱ぎたてほやほや、ほんのり温かみが残る衣類が散乱した。
雪原で突如生まれたままの姿にされた男たちは一瞬怯んだ。テイラとフレデリカがその隙を逃すはずはなく、一瞬にして決着がつく。
テイラは猫パンチならぬ狼パンチで男を吹き飛ばし、フレデリカは炎で軽く炙った後、氷漬けにして気絶させた。
麻痺魔法を使えばいいものを、苦痛を味あわせているところを見ると相当苛立っていたのだろう。
残された操術者もやや焦っているようで、俺たちの攻撃を警戒していた。
次に俺がとった行動は攻撃ではなく、サタニキアとの合わせ技だ。
『サタニキア、片付いたのならこっちを頼む』
『すぐに向かうわ』
向かうと言っても十数歩程度なので、すぐにサタニキアと合流した。
『サタニキア、俺たちを操術者に近づけてくれ。そして同時にスキルを使おう』
『いいわよ』
以前、アリアの分析スキルと俺の探索スキルが同時に発動した時があった。そして得られた効果は洗脳。
これは偶然の産物だったのが、分析スキルに関してはサタニキアが錬丹術で作れるということだったので事前に用意してもらっていたのだ。今はアリアがいないのでサタニキアが代役だ。
洗脳内容は記憶の植え付け。まず、俺たちは彼よりも上位の存在であること。マポに攻め込んでくるであろうデシューツの軍勢は敵ということを刷り込んでおいた。
スキルを使うタイミングがズレたり、問題が生じるかと思ったが意外と簡単にできてしまった。
『これで準備は整ったわね』
サタニキアによる魔力の分配調整が終わったので、俺たちはマポへ向けて出発することにした。
出発前、俺たちは魔法でお湯を作り体の汚れを流した後、少々臭うが奪ったローブを纏って教会の者を装うことにした。
こちらには洗脳済みの本物がいるので、道中で教会やデシューツ軍関係者に遭った場合は彼に対処させればいい。
奪った個体は全部で3体。オートマタ型バラムセーレ1体とゴーレム型ラウムガープ2体だ。テイラにはラウムガープの操作方法を教えてたので、今は問題なく動かせる。魔力の消費量が高いバラムセーレはサタニキアが肩の部分に乗り、魔力を供給してくれている。
気絶させた男たちの記憶を探って得られた情報によると、デシューツ軍は4隻の船でマポを占領。
石ロボを手に入れた後、簡単な訓練後マギアに向け進軍。事前に伝染病によって抵抗できなくなっている町を占領するのが目的のようだ。
その後は恐らくライドランドを武力で脅し味方につけ、彼の領地からデシューツ軍が侵攻してエスターシアを落とすつもりなのだろう。マポにいる軍勢を叩けば、デシューツの侵攻を遅らせることができるのだ。
『ねーリリスちゃん、やけに静かじゃない。何かしゃべってよ、お姉さんが相談に乗るわよ』
といってサタニキアは石をいやらしく舐めた。暇なのでリリスをからかっているのだろう。
『汚い舌で舐めないでちょうだい!キャラが被ってるので静かにしてるだけよ』
リリスが2人いるとうるさいという自覚を持ち始めたようだ。
これは彼女にとって大きな進歩と言える。
そんなたわいもない話をしているうちに、正面にマポが見えてきた。
俺たちは今、町を見下ろせる丘にいるのだが、情報通り4隻の船が停泊していて町からは煙があがっていた。
占領されたのは間違いなさそうだ。
『それじゃみんな、町を奪い返すぞ!』




