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44、感染のマギア

 鉱山の町側の入口は、やはり立ち入りが禁止されている場所であった。

 警備していた者たちも全て捕らえているので、俺たちの進路を阻む者は誰もいない。


 外に出ると東の空が白みはじめていた。

 ただ町の様子がややおかしい。

 この時間であれば、少しの時間も無駄にしたくない行商人なら町を発つ準備をしているはずだ。

 

 それに関わる仕事をしている者たちも起きているはずなのに人影はまばらである。

  

『リリス、町が静かすぎないか』

『そうよね。私も気になってたのよ』


 俺たちはソッサマンの屋敷へ向け、朝の冷え切った空気に包まれた町を飛ぶ。


 もう一つ気になるのは、昨夜は無かった死体がところどころに積まれていた事だ。

 最初は路地裏から運び出したのかと思ったので、フェニックスに裏をまわってもらったが昨夜から変化はない。


 新たに死者が増えたのだ。


『これって死者がどんどん増えてるってことだよな』

『ええ、このままだと町が全滅するかもしれないわね』

『ローブの奴らはマギアを全滅させてどうするつもりなんだろうな』

『口封じでしょ。目当てが石ロボだったら、もうここは不要よね』


『でも、こんな目立つ方法をとれば、ライドランドが調査しにくるだろ?』


 どうも腑に落ちない。

 当主のリヒャルト・ソッサマンも感染している可能性が高いので、教会から見れば用済みだと思う。

 

 ただ本人はまだ気づいてない。

 分っていれば鉱山に兵を向かわせるはずだ。


 他国やデシューツ国民の商人だっているはずなのに、無差別に感染させている。


 誰が得するのだろう……。

 逆に損をするのは誰だ?怒るのは?


『損をするのってライドランドでしょ』


 俺の心を勝手に読んだリリスが答えた。もう慣れてきたので口にしてまで抗議はする気はないが、心の中ではつい呟いてしまう。


 ライドランドの損とはなんだろうか。


 ソッサマン領からの収益が減る。ただ、隠し鉱山は新たな場所に移しているので、その収益を得るのはライドランドということになる。


 彼は損どころか得をする側になってしまう。

 だが、ライドランドはデシューツとは通じていない。逆に嫌っているので教会と手を組むことは考えにくい。


 次にマギアが全滅して怒るのは誰だろうか?ここに住んでいる者の縁者は怒こるかもしれない。


 だが怒ったところで何かできることはない。するとすれば、ここに投資している者や商人の類だろう。


 ライドランドに対して、損失の補填を求めてくるかもしれない。

 でも鉱山を手に入れれば、その求めにも余裕で応じることができるだろう。

 ただ相手が国であればどうだろう。


 貧乏な国なら保証を要求してくるだろうが、ここを訪れる商人の多くはデシューツが多い。

 自国民を保護するという名目で侵攻を考えたりはしないだろうか?

 デシューツはライドランド領を含むエスターシアに侵攻する計画を立てている。


 少し乱暴な考えだが、侵攻の大義名分を立てるために?

 

『アキト、それ十分考えられるわよ』

『だよな』


 石ロボも大半を運び出したと言っていたし、例えば海側へ運んで増援が来たら合流し、その戦力をもって侵攻してくるのではないだろうか。


『リリス、式神の連絡網を使って至急パラケルススに連絡してくれ』

『分かったわ』


 本格的に侵攻されれば、サタニキアでも防ぐことはできないだろう。

 石ロボを奴らの援軍と合流する前に奪わなければならない。


 幸いなのは、石ロボが俺が思っているほど強大な破壊力を有していなことだ。

 全ての性能を見たわけではないが、高出力の粒子砲などで町を一瞬で破壊するような力はないとみている


 せいぜい炎を吐いたり、人を踏みつぶしたり大型の剣を振り回すだけだろう。

 それだけでもこの世界では十分兵器として役には立つ。


   ◇ ◇ ◇


 ソッサマンの屋敷へ行った俺たちはアリア達に鉱山での出来事を全て話した。


「アキトさんの考えで間違いないでしょう」


 アリアも俺と同じ考えに至ったようだ。

 次にすべきは石ロボの回収なのだが、俺たちの魔力は尽きかけている。


 今、ここで魔力に余裕があるのはフレデリカだけだ。アリアは並みの人間より多くの魔力を有するが、他人に分けるほど余裕はない。


『フレデリカ、魔力を分けてもらえないかな?』


 俺は唐突に声をかけたが「構いませんわよ」と言って、フレデリカは魔力を分けるため手を伸ばす。


 彼女の手のひらに乗せられると、暖かい光に包まれ俺たちに魔力が入ってくる。

 この心地よさは病みつきになってしまう。


『ところで、ソッサマンは何をしてるんだ?』

「私たちも先ほど目覚めたところですわ。ただ屋敷中が妙に静かですの。今プレイサさんが見に行っているところ…」


 フレデリカが話し終える前に扉が開かれ、プレイサが駆け込んできた。


「大変だ!屋敷中の者が高熱で動けなくなってる。ソッサマンも意識が混濁している」


 プレイサの表情はとてもこわばっていた。


『動ける者はいるのか?』

「私兵の一部は動ける。指揮官も無事だった」


 ということは、場合によっては兵を動かすことも可能というわけだ。


『ソッサマンには息子がいたはずだが、彼らは?』

「長男が残っていて話はできるが、高熱で動ける状態ではない。他の兄弟は留学してるのでここにはいない」


 こうなればフレデリカを最高責任者にして、動かせる部隊を使い敵に備えるしかない。

 それと町で動ける者をかき集めて、黒猫が守った井戸以外の封鎖と街中の死体の運び出しをしてもらう。


 回復魔法が使える者は治療班として、患者の重症度に応じた選別と治癒を行ってもらう。このことをアリアとフレデリカに伝えた。


 プレイサは動ける私兵を率いて敵を迎え撃つ準備をしてもらう。この状況だから指揮官も手を貸してくれるだろう。


 そして俺たちは、テイラ達と合流してから石ロボを収奪することにした。


『それじゃみんな、その手はずでよろしく』


 3人とも頷き返事をしたのち、それぞれの役割を果たすため部屋をあとにした。


 連絡手段は街中であれば念話で行い、それ以外はリリスが作った式神の元になる紙切れを2枚ずつ渡してある。


 本当はもっと渡しておきたいが、式神作りには魔力が必要なのでこれがぎりぎりの枚数であった。


   ◇ ◇ ◇ 


 俺たちは鉱山に戻りテイラと合流。役割分担について話した。


『私たちはリリスちゃんと一緒に石ロボを奪えばいいのね』

『そうよ』

『移動手段はどうするのかしら?』

『フェニックスとテイラの速さがあまり変わらないようなので、魔力節約のためにテイラに乗せてもらおうかと思ってるんだけど…』


 俺はテイラに視線を移してお願いしてみると、二つ返事で快く引き受けてくれた。


『まさか、わたしが狼に乗るなんて思いもしなかったわ。まるで、う…』『馬とか言ったら乗せないぞ』


 サタニキアが話終える前に、テイラは言葉を重ねてきた。


『冗談よ』


 テイラに乗った俺たちは石ロボを追うため、町までの長い坑道を進み、街中を通過して港町マポへ通じる街道へ出た。


 屋敷を出て鉱山を往復するのに1時間半を要している。

 その間にアリアとフレデリカが動ける領民をかき集めたようで、街中の表通りであった死体は片づけられていた。


 患者の選別についても順調に進んでいるようで、商隊や冒険者の魔術師を動員して症状の重い者から治療を行っている。ひとつ発見があったのは、サタニキアが教会の奴らが隠し持っていた抗毒血清を手に入れたことだ。

  

 数は多くないので、重症化している者のうち助かる見込みのある者へ優先的に使うことにした。


 血清は万能薬ではないので、症状が進み過ぎて体力がなくなっている場合は使っても意味が無い。これが複製できればいいのだが、冒険者で錬金術のスキルを持つ者がいろいろ試行しているが失敗を繰り返している。うまくいくことを祈るばかりだ。


 鉱山で捕らえた者は全て縛り上げ動きを封じ、奥にあった牢へ閉じ込めてある。教会の連中で魔術が使える者に対しては、サタニキアが魔力を吸いつくしているので当面の間、魔法を使われる心配は無い。


 それさえ封じれば、脱獄される可能性は極めてゼロに近くなる。



 マポへ通じる街道は幹線並みの幅員があり、石畳で舗装されているので進みやすかった。

 麓の修道院へ通じる道よりも整備されていて、ソッサマンが海を使った交易を、いかに大切にしていたかがうかがえる。


 石の表面には、わだち掘れができており、この道の古さや交通量の多さを物語っている。そんな街道をテイラは全速で進む。


 そのせいか、真冬なのに少し汗ばんでいた。吐き出される息も真っ白で、激しい心臓の鼓動も伝わってくる。


『あら、テイラさんの汗で、わたしのドレスが濡れてきちゃったわね』


 振り落とされないように、テイラの背に抱きつく形でしがみついているので、サタニキアの胸元から股にかけて衣装が濡れていた。


『嫌なら振り落とすぞ!』

『深い意味はないのよ、気を悪くしないでね』


 声に出して話しても風切り音がうるさくて聞こえないので、俺たちは念話を使っている。


『悪魔てやつはリリスも含めて、何でひと言多いんだ』

『え、なんで私まで入るのよ』


 リリスは抗議したが、テイラの言っていることは正しい。

 サタニキアは正式なメンバーではないが、俺たちの味方である間は行動を共にすることが増えるだろう。


 だがそれは、リリスが2人いるといっても過言じゃない。

 戦闘力だけ考えれば頼もしいが、それ以外の愚痴やらわがままを考えると先が思いやられる…。


『おや~、リリスちゃんが2人になったと思ってがっかりしてるのかしら?でもね、わたしは彼女と違ってしっかり情報収集してきたわよ』

『私と違うってどういう意味よ!またそうやって見下してるんでしょ』

『うふふふ』


 仲がいいのやら悪いのやらよく分からないが、キャラ被りしているところは自覚があるようだ。


 サタニキアが仕入れた情報だが、運び出した石ロボは3体で、重量があるため全て牛を使って運んでいるらしい。自力で移動させた方が確実に早いが、目立つのと魔力の消費を考えた上でそのような輸送方法にしたようだ。


 それと鉱山の追加情報として、石ロボが埋まっていた旧鉱山はメリトンと呼ばれていて、新しい鉱山はメリトン2と呼ばれているらしい。メリトン2は町に近い場所に入口がある。


 旧鉱山は20年前に閉山し、新鉱山は30年前から採掘をしているらしい。

 採れる鉱石は銀が多く、つぎに金、白金やコバルト、リチウムといった希少鉱石も含まれる。


 鉱脈としてはとても優秀だと思う。

 鉱石の名称が俺の世界と同じなのも驚きだ。


 情報交換をしながら俺たちは街道を全速で進む。


全速で進むのはいいが、路面が凍結しているので四輪駆動のテイラであっても滑ってしまい何度か転倒してした。その度にサタニキアも路面を転がるので、ドレスは破れ、泥がついてボロボロになっている…。

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