4 、石の秘密と避難民の村
俺とリリスは婆さんの話に疑問を持った。
話が事実だとすると、自然の摂理に反して長生きしていることになるからだ。
すると婆さんは懐から石の破片のような物を取り出して俺達に見せてくれた。
色は深紅で、大きさは5ミリにも満たない感じ。
「これって…、そうかそういう事だったのね」
リリスは石から何かを感じ取ったようで、長命の理由が分かったようだ。
「おいリリス、ひとりで納得するな」
「丁度いいわ、あんたの探索スキル使ってみなさいよ」
急に探索スキルを使えとはどういう事だろう。
その使い方もよく分からない。
「スキルってどう使うんだ?」
「あんた馬鹿でしょ、魔石を引き寄せる時どうしたの?」
確か手を伸ばして、それが欲しいーーーって必死に願ったり、そのシーンをイメージした。
石の欠片を見て、これが何なのか分かるように願えばいいのだろうか。
俺は精神を落ち着かせ石の中を見ようと試みた。
すると不思議なことに過去のものと思われる映像が俺の頭で再生された。
――これって石の記憶なのか?
「やるじゃない、探索スキルAは伊達じゃないわね」
錬金術師のような奴らがいろいろな物を混ぜ合わしたり、人や動物を使って実験しているシーンが見えた。
子供たちに正体不明の肉を食べさせたり、聖遺物と怪しげな鉱石を混ぜ合わせたりしていた。
数えきれないほどの生物が解体されているのは間違いない。
多くの犠牲を払って完成したのが「賢者の石か…」
婆さんは俺の方を見て微笑んだ。
作り方がとんでもなくグロテスクだ。生きたまま使ってないことを祈るばかりである。
「私はこれで生きながらえてきたの。石は元々私の母が管理していたのよ」
石を作ったのは邪神アポピスを崇拝する者たちで、婆さんの母で魔術師のメンドシーノが彼らを倒して石を封印して隠した。
賢者の石は不老不死をもたらす。
しかしそれは自然の摂理に反し、それを手にした者の魂を堕落させる。権力者が手にしたらデシューツのようになってしまう。
メンドシーノは石の破壊を試みたが失敗したため隠したのだ。
ただ彼女は破壊研究を続けるため石を砕き、その破片を手元に置いた。
石を砕くために彼女は己の全ての魔力を使ったらしいが、それでも砕けたのは目の前にある小さな破片だけ。
彼女はそれが原因で魔力を大幅に失うことになる。
「そして、老いて生に固執しはじめた英雄王に、邪神崇拝者の残党が接触してきたの」
彼らは王をそそのかして、メンドシーノに内緒で石を探させた。
彼女は魔力が衰えていたため、奴らの企てを察知できなかったのだ。それが出来ていてもメンドシーノに彼らを止める魔力は無かった。
そして、研究用に砕いた破片が目の前にある石だ。
「メンドシーノめ、私に隠していたんだな!」
「ふふふ」
婆さんはシワだらけの顔で笑っていた。
でもなんだろうか、今は幼少の頃のおてんば娘が笑っているようにも見える。
それくらい楽しそうなのだ。
当時の記憶がはっきりと蘇っているのだろう。
「でもね、いくらこの石があっても、私の寿命はそろそろ尽きようとしてるの。せめてこの子たちが安心して暮らせる場所に移動するまで生きていたのだけど…」
「そんな寂しいこと言うなよ。いざとなったら俺たちが守るよ、けど婆さんもしぶとく生きてみろって」
「まっ、頼もしいわ」
そうだ、ついでにこの子の年齢を聞いておこう。
「最後に質問。アリアって何歳なんだ?」
「数日前に9歳になったところよ」
どう見たって9歳に見えないな。
「こんなにチビっこいのは食糧事情か?」
「その通りよ、カトマイから迫害されてるから仕方ないのよ…」
婆さんはアリアを見つめながら少し辛そうな表情で話してくれた。
◇ ◇ ◇
この国の現状やアリアのことも分かったので、俺たちは村に行くことにした。
時間は深夜になろうとしている。
この世界の時間は太陽と月の位置で計ってるらしく、地球のように季節によって位置が変化したりしないそうだ。
四季の変化も少ないようで、北に行けば寒く南へ行くと熱い、その先はよく分からないらしい。
機会があれば地の果てまで旅してみたいもんだ。
アリアは村へ行くため変装することになった。
それは男装で聖職者を志す神学生に扮した。認識阻害は変身魔法ではないようだ。
俺たちはアリアの胸元にお守りとして袋に入れられ、ぶら下がっている。
「みんな聞いてほしいんだ」
「何かしら?」「なんでしょうか?」
「村に行ってからの作戦なんだけどさ、婆さんの依頼は村が安全かどうかだよな?」
「きっとそうね」「そうです」
村に教会の連中がいることは間違いない。だとすれば入れても安全に過ごせる保障なんてない。
「婆さん、場合によっては教会の奴らを追い出して欲しいんじゃないかな?」
「だけどそんな事したら、後日大人数で押し寄せてくるわよ」
「そうですよ」
「少し訂正。追い出すんじゃなくて始末すればどうだ?」
「しばらくは時間を稼げるかもしれないけど、結局同じことになるわよ」
俺のプランは、時間を稼いでいる間に村人を鍛えて教会の奴らを追い返す力を持ってもらう。
または、別の場所に集団で移動してもいい。
作戦を考えているうちに村に到着した。
村の入口で3人が火刑に処されていた。
正面から入るのは得策ではないので、裏からこっそり入ろうと提案しかけたその時。
「アキト、燃えてるの教会の連中よ」
「どういう事だ」
てっきり魔女狩りが行われて、避難している人たちが焼かれているのかと思ったら違っていた。
これならば正面から堂々と入れる。
「それでは、正面から入りますね」
「「うん」」
「アリアちゃん、状況によっては隣国からやって来た神学生の設定に変えてもらってもいいよ」
「わかりました。それと私は念話もできますので、ここからは切り替えますね」
「よろしく」
念話もできるなんて、魔女の血筋ってすごいな…。
俺たちが村に入ると直ぐに囲まれてしまった。
みんな手にクワなど農工具で武器になる物を握りしめていた。
「お前は誰だ?教会の手先か?」
これは明らかに教会の奴らを警戒している
『隣国でいこう、名はアキトでもいい』
『はい』
「いえ、私はアキト。聖職者を目指す聖学生で隣国から参りました」
「隣国というと、エスターシアか?」
「そうです」
周囲に居た村人にどよめきが起こる。
ややあって、代表者と思われる老人が出てきた。
「アウロラ教の方でよろしいかな?」
「はい」
「失礼ですが何をしに来られたのです?」
焼かれてるのがラフィエル教の関係者ということなら、討伐隊がやってくる可能性が高い。
彼らを導きに来たとか言って隣国へ逃がした方がいい。
『導きに来たといってくれ』
『はい』
「私はあなた方を導きに参りました」
『リリスさん、何か奇跡を見せることはできませんか?』
『光り輝けリリス』
『任せて!』
リリスは発光の魔法を使いアリアの体を輝かせ始めてた。
「き、、、奇跡だ!」
「神様が降臨された!」
村人はアリアの前にひれ伏し始めた。
この子、神じゃなくって魔女なんだよな…。
しかも演出してるの悪魔ときたもんだ。
村の人たちには本当に申し訳ないと思う。
『アリアちゃん、アウロラ教って何を崇拝してるの?神様とか動物とか』
『女神アウロラです』
『だったら、フードを取って女性の姿になってみて、風が吹き始めたら腕を斜め上にあげてくれ』
『はい』
『リリス、アリアがフードを取って髪を下したら、地面から空へ向けて弱い風を吹かせてくれ』
『悪魔使いが荒いわね』
アリアがローブを取ると髪の毛が風になびき始めた。
村人たちは突然現れた女の子を神々しい者を見るような目で見つめた。
『リリスもういいぞ』
リリスの発光魔法が終わると暗闇があたりを再び支配する。松明の灯りが辺りをほのかに照らす。
光量が減ったため、村人の表情がはっきりと見えないが、驚いた状態で固まっているようだ。
『アキトさんどうしましょう…』
ここから先は俺が直接話した方がいいのだが…。
『リリス、俺の声をアリアちゃんの声に変換して発することはできるか?』
『できるけどさ魔力が心許ないのよ』
『少しだけでいいから頑張ってくれ、魔力が尽きる前に合図よろしく』
『はいはい』
本当にそんな魔法があるとは思ってなかったが、Sランクにもなると魔力さえあれば不可能なことはなさそうだ。
これもある意味チートだ。
「みなさん、私の本当の名はアリア、女神アウロラの使徒です」
村人が再びどよめいた。
「お静かに。みなさんを導く前に質問があります。あの者たちを火刑にしたのは何故でしょうか?」
代表者と思われる老人が答えてくれた。
「アリア様、あいつらは村人の中に魔女や異端者が混ざっていると主張して、女子供をさらいに来たのです」
老人は話をつづけた。
この村は、隣国エスターシアへ逃げるため、各地から避難してきた者たちが集まる場所だった。
アリア達も噂を聞いてこの村を目指していたから、話自体は本当なのだろう。
さらに聞くと、みんな村を焼かれたり異端審問にかけられそうになった者が少なくない。
しかし俺は疑問に思う。
この村の情報を誰が広めたんだ?
「この村はいつからあって、この村のことを皆さんは誰に聞いたのでしょう?」
『リリス、村人が考えている最中は声を変換する魔法を止めて、魔力を節約しろ』
『分かってるわよ』
『リリスさん、いざとなれば私が魔力をさらに供給します』
『当然よね!』
お礼が言えない悪魔であった。
村人たちは話し合っている。お互い誰に聞いたのかなどを確認しているようだ。
そして代表者の老人が口を開いた。
「私はこの村に来て1年になります」
村の名前はデスパイズで50年前からあるらしい。
ここは隣国エスターシアのとある支援団体が運営している。
村の近くに畑や牧場もあるが、村の人口が意外と多いため、不足分と衣類などはその団体が提供しているそうだ。
そのためか、飢えてやせ細っている者は少ないように見える。
アリアの方が明らかに飢えているといった感じだ。
ちょっと演出しすぎたかもしれない。
まだ涙を流して感動している村人がいる…。