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33、ポーカーフェイスでイカサマ対決

 宿を出た俺たちはルイスを追って酒場に入った。

 

 中は商人達で混みあっていたが、ルイスの周りだけはなぜか席が空いている。

 彼の放つ異様な負のオーラが人を寄せつけないのだろう。


 子供のアリアが話しかけるのは不自然なので、唯一の大人である獣人のテイラが話しかけることになった。


「失礼するぞ。死人のような顔つきだが何かあったのか?」


 酒をごちそうしてやるから、話してみろと言ってルイスに近づいた。


 テイラは頭に獣の耳を持ち、お尻には尻尾を生やした典型的な獣人だが顔はかなりの美形である。


 本当の彼女はフェンリルだが、うまく美形な獣人に化けたもんだ。

 酒場で美人に話しかけられて無言でいる男などまずいないだろう。

 だがルイスは、彼女を一瞥こそしたが何も語らなかった。

 テイラは、立っていたアリア達に目配せし座るように促す。


 アリアがルイスの視界に入る場所の椅子に座ると、彼は重い口を開きポツリと語り始めた。


 おそらく娘を思い出したのだろう。


「俺は娘を賭けにつかって負けちまったのさ。なんてことをしてしまったんだ…」


 両手で顔を覆い泣き崩れてしまった。

 彼は雑貨屋を営んでいて家族は5人。嫁と娘が3人いて、末娘を賭けてしまったのだ。


「最初は少し勝ってたんだ。あまり欲張ると負けるだろうから切り上げて帰ろうとしたら、ヤンが精霊石を見せてきたんだ。そこから宝石の欠片が出てきて無性に石が欲しくなったんだ」


 ルイスが顔を上げたので見てみると、先ほどのような何かにとり憑かれたような感じは消えており、今はただ深い後悔の念がにじみ出ている。


 あの精霊石にも何か仕組みがあるようだ。欲を掻き立てる何かがある。


「そんなもの無視すればいいじゃないか?逃げるという手もある」

「無駄だ。奴の隣にいた手下に適う奴なんていないさ」


 テイラが訪ねるとルイスは顔をこわばらせて答えた。


 ヤンは昨日からあの宿に居るのは既に聞いていたが、最初に負けた奴らはヤンの取り立てを無視したらしい。


 賭けたのが嫁や娘だったので、無視するのも当然だろう。


 だが、あの小柄な男がとんでもない手練れらしく、仲間数人で襲ったが全員負けてしまい嫁と娘を取られたそうだ。


 仲間は全員重傷を負い今も床に伏していると聞く。


「昨日負けた人達は宿場の兵士に助けを求めなかったのか?」

「それがダメだったんだ」


 先手を打たれており、取り合ってもらえなかったらしい。

 賭けで負けた際、気づかない間に借用書にサインをしていたからだ。

 それがある限り、殺人でも起きなければ兵士たちは動かない。


 ドーラと似た件かと思ったが少し異なるようだ。

 自らサインをしているが、その時の記憶がおぼろげにしか残ってないらしい。

 

 とり憑いてサインさせたか、催眠術で操られた可能性が考えられる。

 あの石は調査しなければいけない。


「あんたもサインしたのかい?」

「そうだ、はっきりとは覚えてないがサインした記憶が残っている。だがポーカーのあと、すぐに借用書にサインなんてありえないだろ?いつどこでしたのかが思い出せないんだ。最初に負けた奴も同じことを言っていた」


 借用書にサインさせているところなんて見せたら、他の奴らもヤンと勝負する気にはならなにだろう。


 軽い気持ちでポーカーをさせるためには、借用書なんて見せたら逆効果。

 これは何かカラクリがあるに違いない。


「連れて行かれた嫁と娘はどこにいるんだ?」

「それが忽然と姿を消したらしく行方が分からないらしい」


 誰も宿場で嫁や娘を見ていない。まるで神隠しだ。

 人外の者が関わってる可能性が濃厚になってきた。その時。


「あんた!これはどういうことよ!!」


 酒場の扉が勢いよく開かれ、女性が叫びながらルイスのところにやってきた。

 そして机の上に借用書を叩きつけたのだ。これは例の借用書に間違いない。


「アンネローゼが突然消えて、この紙が置いてあったのよ!あんた娘を賭けたの??」


 この女性はルイスの嫁で間違いない。顔は怒りで真っ赤になっていた。


『フレデリカ、俺たちを借用書の上に置いてくれないか』

『わかりましたわ』


 俺はスキルを使って借用書がどのように作られたか見てみることにした。


『待って、これ悪魔の契約書よ』


 スキルを発動する直前、リリスが俺を制した。


『迂闊に調べたら罠にかかる可能性があるわ。ちょっと待ってて』

 

 リリスは小声で詠唱すると契約書に魔法を放った。

 推測だが、罠解除リムーブトラップを使ったと思う。

 ややあって、紙から煙が立ち上った。


『やっぱりね。この匂いは誰だったかな…』

『もう契約書を見ても大丈夫か?』

『いいわよ』


 探索スキルで見えてきたのは、ルイスがサインをするシーンだ。

 相手ははっきり見えないが、黒衣を纏った人物である。

 そこはポーカーをしていた部屋ではない。どこか分からないが、薄暗い地下室のようなところ。


『これサタニキアだわ…。なんであいつがいるのよ 』

『やばい悪魔なのか?』

『そ、そうね。私より少しだけ格上かもしれないわね』


 なんとも歯切れの悪い返事。

 リリスの様子からすると、相当格上の悪魔なのだろう。

 これは力技で勝負を挑んでも勝てる見込みはなさそうだ。


『今までのような戦い方では倒せない相手か?』

『ええ、私に体があれば余裕で倒せるけどね…』


 リリスは平静を装っているが、緊張しているのが伝わってくる。

 俺の世界でもサタニキアは上級悪魔だったはず。


 この世界も、悪魔に関しては共通している部分が多いので、おそらく強いのだろう。

 こういったらリリスに失礼だが、淫魔は下級悪魔だ。

 いくら彼女でも上級悪魔を相手にする場合は策を講じないと厳しいと思う。


 映像は続く。

 ヤンはサタニキアと契約してスキルを授かっている。彼の目的は不明だが、悪魔との契約によって力を得たことは間違いない。


 負けた相手にサインさせているのも、サタニキアが催眠をかけてやらせていることが判明。


 ヤンは金とスキルを奪い、女子供はサタニキアが頂いているのだ。


『サタニキアは女性や子供を閉じ込めて、精気を吸ってるようね。相変わらずやることが卑劣だわ』


 人から見れば卑劣だが、悪魔からすれば普通の行いなのだろう。

 リリスが特殊なだけなのだ。


『ポーカーで勝ったら、みんなを解放してもらえるんじゃないかな。俺たちを賭けの材料に使うんだ』


『それだったら応じてくれるかもしれないわ。サタニキアは賭け事も大好きだから』


 サタニキアは悪魔らしく、勝つためには手段を選ばないそうだが、こちらが勝った場合は必ず従うらしい。


 契約には常に忠実。ここは人とは違うところだ。

 人の場合は契約があっても平気で破る奴がいる。人の方が悪魔っぽいことだって多々ある。


『あいつらイカサマしてくる可能性もあるよな?』

『うん、バレなければ何をやってもいいと思ってるはずよ。私は好きじゃないけどね』

『わかった。フレデリカとテイラにお願いがあるんだ』


 俺たちは二手に分かれることにした。

 フレデリカ達にはポーカーとは別の役目を与えた。うまくいけば俺たちは勝てるはずだ。

  

  ◇ ◇ ◇


 宿に移動した俺たちはヤンとポーカー勝負することになった。

 中に入ると不敵な笑みのヤンがチップを並べて俺たちを待っていたのだ。


「お待ちしていましたよ。さあ、お掛けください。お互いの石を賭けて勝負しませんか?」


 ヤンは余裕の笑みを浮かべて俺たちを誘ってきた。

 こちらの正体もある程度わかった上でのことだろう。


「私が勝てば、この宿場で巻き上げた金品や人を返すのなら受けます」


 アリアの提示した条件にヤンは少し黙考したのち答えた。


「よろしいでしょう。私が勝てばあなたの石を頂きますよ」


 こうしてポーカーが始まった。

 ヤンとアリア、サシでドローポーカー。


 彼は、それぞれの後ろにお互いの仲間を立たせ、イカサマの監視役をさせようと提案してきたが、アリアは断った。


 アリアの後ろに彼の仲間が立った場合、念話や目配せなどでこちらの手札を知らせる恐れがあったからだ。


 相手が人なら問題ないが、リリスよりも格上の悪魔が組みしているので信用できない。


「周りにいる人達を横に移動してもらってもいい?」

「もちろん構わないですよ」


 今のところ、ヤンが彼らに対して目配せしている様子もないし、会話もしていない。


 だが、見物している人たちの中に仲間グルが居ないとも限らない。

 事前に取り決めた暗号で会話をされても困る。



 ディーラーは宿屋の主人が引き受けてくれた。

 今回、手持ちのチップは100枚づつ。


 5枚のカードを配り終えたところで、アンティが集められる。といっても2人なのでチップ2枚だが…。

 

 ここはカジノではないので、これは勝者が獲得する。


「手始めにチップ10枚から賭けるとしましょう」

「わかりました。コール」


 机に20枚のチップが置かれる。

 最初の手札はツーペア。まずまずといったところか。

 次に手札の交換を行ったところフォーカードとなった。これならば勝てるだろうと思って手札を出してみると。


「ストレートフラッシュ。私の勝ちですな」


 この調子で俺たちのチップをヤンがさらってゆく。

 不思議なのは、毎回俺たちよりもひとつ上のハンドになっていることだ。

 こちらがスリーカードの場合はストレートを出してくる。どういうカラクリだ?


 何かイカサマしていることは間違いないが、どうこでやっているのかが分からない。


 気がつけばチップは30枚を切ろうとしていた。


『アリア、うまく芝居して俺たちをヤンが捨てたカードの上に転がしてくれないかな?』

『落とせばいいのですよね』

『そうそう』


 アリアは袋から俺たちを取り出すと手で握り祈り始めた。


「おや、その石はお守りだったのですか?神に祈っても助けてくれませんよ」

「悪魔なら助けてくれると?」

「お戯れを」


 ヤンは一瞬だが目を泳がせた。

 動揺したのだ。

 本人は気づいてないのだろうが、俺にはわかる。


 祈りを終えたアリアが俺たちを袋に入れようとした瞬間「あっ」と言って手を滑らせ俺たちを落とした。


 それは机の上で一度跳ね上がり、次に落下した時にうまく目的の地点で止まってくれた。


 間髪入れずスキルを発動する。

 見えてきたのは、頻繁に入れ替わるカードの図柄であった。

 スロットのように数字がどんどん流れているといった方が分かりやすかもしれない。


『なんだこりゃ?』

『これイカサマじゃない!』

『そうか、カード自体を確認していなかった』


 周囲の人達ばかり気にしていたので、カードを調べるのを忘れていたのである。

 完璧なまでに俺のミス。

 だが、カードを調べられることくらいあちらも想定していただろう。例え俺たちが調べても見抜かれないような細工を施しているに違いない。


 言い訳に過ぎないけどね。


『どうやって図柄を変えているのかしらね?』

『ヤンが錬丹術師ってことは、それでカードを作り変えているんじゃないか』


 それしか考えられない。


「おや、石を落としましたよ」といってヤンが俺たち触れた――その時。

 女性の声が念話で聞こえてきた。


『誰かと思えばリリスちゃんじゃないの。石に入って何してるのかしら?』


 リリスを知っているってことはサタニキアだろう。


『ひ、久しぶりねサタニキア。あなたこそ何をしているのかしら?』

『質問に質問で返すのは無粋よ。まあいいわ。あなた達の負けは決まったも同然。せいぜい最後までポーカーを楽しみなさいな』


『あなたこそ、こんなイカサマなんかして卑怯よ』

『面白いことを言うわね。私たちは悪魔なのよ。勝てばいいのよ、勝てばね』

『そ、そうね。勝てばいいのよね。うん』


 いつもは強気なリリスであったが、今日は明らかに気圧されていた。


『それではごきげんよう』といって、サタニキアは念話を一方的に終えた。


『まずいわね…』

『こっちも錬金術でカードを調整できないかな?』


 錬丹術でカードの図柄が変えれるのなら、錬金術だってカード自体を錬成しなおすことはできないのだろうか?

 リリスに聞いてみる。


『やってみる価値はあるわね』


 ここから先はイカサマ対決となった。

 カードのカラクリが分かったので、こちらも錬金術を使ってカードを錬成し書き換えたのだ。

 最初からそうればよかったのかもしれないが、それはリリスが好まない。


 何度か勝ちを奪えるようになったが、チップが50枚まで回復することはなかった。

 それでもカード自体相手が作った物なので、こちらにとっては分が悪いのだ。


 俺たちが最初に勝った時は顔色を変えたヤンであったが、今は余裕のあるものに戻っている。

 このままではジリ貧。

 その時だった。


『アキトさん聞こえます?』

『フレデリカか、準備できたのか』

『そうですの、初めてもよろしくて?』

『やってくれ』


 錬丹術というのは万能に見えるが欠点がある。

 思い出してほしいだが、龍脈はこの宿に向かって不自然に曲げられていた。

 この術には龍脈が不可欠なのだ。それをねじ曲げているのはサタニキアであろう。

  

 上級悪魔がやっている技なので、俺たちが龍脈を断ち切ったり、さらに曲げたりすることは難しいし時間もない。


 少し話が変わるが、ラジオを聞いていて近くで雷が鳴った時、ノイズが入ったことはないだろうか?

 

 龍脈は気の流れのようなものだ。そこにノイズを入れればどうなるか…。


『アリア、そろそろレイズしてもいいぞ』

『わかりました』


 余裕の表情だったヤンから笑みが消えた。

 それでも負けじとコール繰り返してくる。そして公開されたヤンのハンド。


「フルハウスです。私の勝ちでしょう…って、え!」

「私はフォーカードです」


 それを見た彼は言葉を失った。目の前で何が起こったのか理解するのに少し時間が必要だった。

 その間にアンティと賭けたチップがアリアのもとに集められる。

  

 形勢逆転だ。

 

 その後もストレート、スリーカード、フルハウスとアリアは連勝を重ねてゆく。

 隣に積み上げられたチップは190枚に達した。


「そんな、俺が…」


 先ほどまでは青ざめていたヤンだが、今は顔を真っ赤にさせて苛立っている。カードを錬成しようにもうまくいかないのだ。


 なぜだ!という心の叫びがこちらにも聞こえてきそうなくらい真っ赤で悲痛な表情。


 そして最後。


「ロイヤルストレートフラッシュ」


 アリアはハントを公開した。

 キレイに並ぶ数字の10とアルファベットが描かれたカード達。

 ヤンと対照的に少女は満面の笑みを浮かべていた。


 一方のヤンは、まるで魂が抜かれたかのような放心状態に…。

 いや、悪魔と契約したのだから魂が抜かれたのかもしれない。


 ここで突然不思議な感覚に襲われた。

 周囲の喧騒が聞こえなくなり、時間がとまったかのように誰ひとり動かない。


『サタニキアの能力だわ』


 時間を止めるなんて、とんでもないチートだ。反則過ぎるだろ。

 俺にも教えろと言いたい。


『あら、覚えてくれていたのね、わたしの能力を』


 クスクスとサタニキアは笑っていた。

 銀髪に黒いヤギの角を生やし妖艶な顔立ちの女性。

 体の線も細く、黒のドレスを纏った彼女はまさに悪魔といった雰囲気を醸し出していた。


『あなたの勝ちよ、リリスちゃん』

『サタニキア、約束は守ってもらうわよ!』


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