3、魔女の血筋と英雄王
しばらくするとアリアは口を開いた。
「何かいる…」
「おいリリス、なんとかしろバレるぞ」
「大丈夫だって、魔女でもない限り私たちに気づくはずないもん」
魔女でもない限り?
「この子をステータスを見せてくれ」
「わかった」
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名 前:アリア
種 族:ヒューマン
職 業:無職
レベル:5
経験値:351
体 力:20/30
魔 力:190/400
幸 運:30
知 性:C
戦 術:F
速 さ:F
防 御:F
器 用:C
スキル:魔法A
称 号:--
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ステータスの表示と同時に石は輝きを完全に失った。
「リリス、ひょっとして…」
「魔力が尽きたわ…」
「そこまでギリギリだったのなら先に言え」
ツッコミを終えたところで、この子のステータスを見ることにした。
「この子、ひょっとすると魔女の血を引いているかもね?子供にしては魔力と魔法スキルのランクが高いのよ」
「な……」
俺はショックを受けた。魔女の血ではなく、その能力にだ。
魔力に関しては魔女の血を引いているなら納得だ。
レベル・知性・体力が子供より劣っているのが悔しい。
疑問に思うのが体力だ。この世界の子供の平均数値が分からないが、この子は低すぎると思う。
食糧事情の関係で発育が悪いのだろう。
「アキトの言う通り気づいてるかもしれない」
「そうだろ」
アリアは疑いの目で俺たちを見続けていた。
「そろそろ何か言わないと怪しまれるわよ。捨てられちゃうかも?」
「だな。あくまで普通の石ですよ、とでも言って誤魔化そう」
あとは賢者の石だとか、精霊石ですとか。精霊…、使えるかもしれない。
石に宿る精霊だ。
「リリス、俺に任せておけ」
「うん」
俺はアリアと話すために深呼吸をして気を落ち着かせた。よし!
「はじめましてアリアさん」
「あ!石がしゃべった。なんで私の名前知ってるの?」
『しまった!』
ステータスを見たとも言えないしな。
精霊パワーってことにしておこう。
「僕は石の精霊イッシー、見ての通り精霊だからなんでも分かるんだ」
「私のお母さんはどこにいったの?」
なんでも分かると言ったのが失敗だった。
無難に答えておこう。
「君のお母さんは元気にしているよ」
「ウソだ、お母さん死んじゃったもん」
まじかよ、悪いこと聞いちゃったな。
それと俺を試すのはやめて欲しい。
「それは天国で元気にしているよという意味だよ」
「天国ってどこにある国?」
この世界に天国って概念はないのかな。
対局の存在である悪魔に聞いてみよう。
『おいリリス、ここでは死後の世界をどのように教えてるんだ?』
『特に教えなんてないわよ。死んだら終わり、消滅よ。シンプルでしょ?実際は転生するんだけどね』
確かにシンプルだな。死後の世界は素晴らしいってことを説いて新たな宗教作ったら広まるかな?
それよりも、なんて説明すりゃいいんだ。
「天国とは…、死んだ人が楽しく暮らす平和な世界なんだよ」
「へ~、初めて聞いた」
『これは信じてないな…』
アリアは冷めた表情で俺を見ていた。なんかやりにくいなこの子…。
と思ってたら、今度は隣から笑い声が聞こえてきた。
『ウププププ。そんなの誰が信じるのよ、ばっかじゃないの?』全否定だ。
リリスが腹を抱え笑っているであろうことが容易に想像できる。
『そんなもん正直に言えばいいのよ』
『お前に任す』
俺はリリスと交代した。
「アリア、よ~く聞きなさい。私は大あく…」
『ストップ!悪魔はまずい。悪魔が封印されてる石なんて普通捨てるだろうが!よく考えてから話せよ脳筋悪魔』
『脳筋悪魔って何よ!』
「ちょっと、2人とも落ち着いて…」
5歳児に止められた。
「こういう事だよね?石の中に2人分の魂が入っていて、お姉さんのほうが悪魔で、おじさんは精霊じゃなくて…一般人?」
おじさんって、まだ23歳なんだが…。
ここはカッコよく自己紹介しておこう。
「俺は異世界からやってきた廃道探索家・黒松明人だ。アキトって呼んでくれ」
「私は単なる悪魔じゃなくて“大”悪魔リリスよ」
「面倒な人たちね…」
俺たちの方が子供だったようだ。反省しなければ…。
「えっと、廃道探索家さんと大悪魔さんだね」
物分かりが良くて助かる。
この世界が今どうなってるのか聞くために、俺たちは話を続けた。
「アリアちゃん、知っている範囲でいいからさ、この世界のことを俺たちに教えてくれないかな?」
「うん」
アリアによると、この世界の大半は英雄王カトマイによって支配されていて…。
「ちょっと待った!」
リリスが俺とアリアの会話を遮り口を出してきた。
話が進まない。
「カトマイって私を封じた英雄だわ。あいつが生きてるってことは、私が封印されてから数年しか経過してないってことかしら?」
アリスは話を遮られたので怪訝な顔になった。
そして興奮しているリリスを諭す。
「落ち着いて大悪魔さん、これじゃ話が進まないよ。まず、あなたがいつ封印されたのか分からない」
どこまでも落ち着いているアリアだった。本当に5歳なのだろうか?
案外中身は妙齢の魔女だったりして…。
「カトマイって何歳くらいなのかしら?」
「200歳を超えてるらしいよ。女神の加護と賢者の石のおかげで不老不死なんだって」
この世界には賢者の石が存在するんだな。不老不死の効果も俺がいた世界での設定と同じだ。
いつかこの石に吸収させてみたい。
「私が封印されたとき、あいつは17歳だったはずよ。ってことは少なくとも190年くらい経ってるのね」
リリスは賢者の石よりもカトマイが生きていることと190年もの歳月が流れていたことに驚いているようだ。
「カトマイめ、私の190年と青春を返せ…!」
「お前が悪いことしたから英雄に討伐されたんだろ?」
青春については敢てスルーしておいた。
「それはさ、あんた達の基準でしょ?私たち魔族だって生きていくために殺生くらいするわよ。でもね、私が狙ってたのは家畜とか犯罪者よ。仲間からは腰抜けとか言われて馬鹿にされたけどね」
私は至って無害な悪魔だと言わんばかり。
話が本当なら、リリスは無差別に人を襲ったり殺生はしていないようだ。
「リリス落ち着くんだ。まずはアリアちゃんの話を最後まで聞こう」
「落ち着いてるもん」
「大悪魔さんが落ち着いたようなら続けるね」
アリアは冷静に話をつづけた。
カトマイが魔物討伐に区切りをつけたのは彼が40歳になったころで、世継ぎのいなかった当時のデシューツ国王が、老いを理由に国民にも人気のある彼に譲位した。
ちなみにカトマイは王の親縁にあたる。
最初の頃は善政を敷いていて領民にも慕われたが、即位30年を迎えたころから生に固執するようになる。
怪しげな者たちが王宮を出入りするようになり、賢者の石を手に入れたという話が広まってからは、議会を解散して完全な独裁体制へ移行。
外交では、隣国に隷属要求し拒んだ国を次々に征服。デシューツは今や大陸の半分を支配下に置いている。
内政に関しても王に反旗を翻す恐れがある者は身内であっても粛清された。
王は女神ラフィエルの加護を盾に、神から認められた唯一の存在として、自らを神格化したらしい。
現在はラフィエル教を設立して、これを国教に定め全土に布教。
反対派は異端者とみなされ裁判の後、合法的に処刑される。
魔女の場合は邪悪な存在とされ、審問官に魔女認定されると火刑に処される。そして魔女を出した村も場合によっては焼かれてしまう。
こうやってデシューツは疲弊していったらしい。
聞けば聞くほど無慈悲な世界で腹が立つ。
気がつけば俺やリリスの怒りが石の外にも伝わっていたようで、「2人とも少し落ち着いてください。殺気だったら気づかれちゃいますよ」とアリアに注意された。
話を聞いて女神ラフィエルが俺をこの世界に連れてきた理由がなんとなくわかった。
『新たな世界で救世主となりなさい』
英雄王を討伐しろと遠回しに言っている気がする。
この石に入れられたのは、リリスと協力しろということだろうか。
「それでアリアちゃんの家族は何で移動してるんだい?」
「村が焼かれたからだよ」
アリアの家族は、村を追われ西にある避難民の村に逃げる途中だったようだ。
詳しくは語ってくれなかったが魔女絡みだろう。
となると、彼女たちより先に西へ向かった豪華な馬車が気になる。
「アリアちゃん、豪華な馬車が君たちを追い越さなかった?」
「それでしたら、事前に気づいたので隠れました。あれは教会の馬車です」
突然視界がリリスの方に引っ張られた。
「アキトあれ見てよ」
嫌な予感は的中した。
まだ村まで距離があるが煙が見えていたのだ。
馬車に乗れる人数は限られてるから、手練れの護衛でも連れて行き、見せしめに火を放った可能性がある。
このまま進むのは危険なので、アリアたちは街道から離れた森に隠れて様子を見ることにした。
今夜は森で夜を明かす。
◇ ◇ ◇
夕食はジャガイモのスープと干し肉だった。
アリアの祖母ティムナが俺たちのことを話し始めた。バレていたようだ。
「アリア、あなたさっき誰かとずっとお話していたわね」
「うん、この石とお話ししてたの」
可哀そうな人を見るような目で姉のプレイサが話しかけてきた。
「アリア、お姉ちゃんがもっと話しかけてあげたら良かったわね。寂しい思いをさせてしまってごめんね」
「アリアは栄養が足りてないから、そんな事になっておるんじゃろ。さぁワシの分も食べるんじゃ」
彼女の祖父プレスラもアリアを心配していた。
「そんなんじゃなくって、石の中に精霊のイッシーが入ってたからお話ししてたの」
『アリアちゃんナイスだ!そう俺たちは石の精霊さんダヨ』
「本当にごめんねアリア…。かわいそうな子」
そこに祖母のティムナが笑顔で再び話しかけてきた。
「よろしくね、石の精霊さん“たち”。あとで一緒にお話をしましょう。いいわねアリア」
「わかった」
婆さんには完全にバレている。彼女も魔女なのだろう。
問題は…。
――悪魔の存在に気づいているかだな。
『“大”を忘れてるわよ』
『いちいち俺の心の中まで入って来るな、鬱陶しい』
『なんか腹立つ言い方ね…』
夕食後、俺たちは婆さんに連れられてキャンプから少し離れたところに移動した。
ランタンはオイルタイプではなく光る石が入っていて、周囲をほのかに照らしている。
明るさは少し古いトンネルにある切れかけのナトリウム灯くらいだろうか?
オレンジ色の光が、婆さんの顔を不気味に浮き上がらせていた。
「さて、石の精霊さん。あんたにお願いがあるんだけど、頼まれてくれないかい?」
婆さんはアリアの手のひらに乗っている俺たちを見て話しかけてきた。
『リリス、俺が話すから笑ったりすんなよ』
『わかったわよ』
俺は息を整えてから口を開いた。
「我は石の妖精イッシーだ。汝の願いを言ってみるがいい」
隣からプっという声が一瞬聞こえた。
アリアも笑いを堪えていた。出会ってから彼女の笑顔を見たのはこれが初めてだ。
『妖精じゃなくて精霊でしょ』
『あ…』
婆さんが口を開き願いを言い始めた。彼女も俺のミスに気づいているようで笑みが浮かべている。
――もうこんな茶番はやめ!
「それで婆さんの願いってなに?」
「アリアと一緒に村へいって様子を見てきて欲しいんだよ」
「「「え?」」」
思わず3人とも声を出してしまった。
婆さんからのクエストは村の探索で俺たちはその護衛。石に護衛が務まるのか疑問だが…。
「3人揃ってなんだい。アリアのことはもう気づいてるだろ?この子は魔女の血を受け継いでいる。魔法だって私ほどじゃないが使えるよ」
この婆さんなら、リリスが入っていても驚かないような気がしてきた。
婆さんは視線を孫娘に移す。
「アリア、あんた認識阻害の魔法は使えるわよね?」
「大丈夫よ、おばあちゃん」
「だ、そうだ。あとは言わなくても分かるわよね?精霊さん」
「自己紹介しておこう。俺は異世界からやって来た廃道探索家のアキトだ」
『名前略しちゃったのね。そのほうが分かりやすいわ』
『いちいちツッコミ入れなくていいから』
認識阻害がというのが気になる。
変身を指すのか、誰にも見えないハイディングを指しているかどっちだろうか。
それはあとで聞くとして、依頼を引き受けることを伝えよう。それと魔力だ。
「そのご依頼引き受けましょう。ところで婆さん、お孫さんから魔力を分けてもらうことは可能かな?」
婆さんは再びアリアに視線を移す。
「認識阻害と、防御魔法を差し引いた分の魔力をわけてやりなさい」
「わかりました」
アリアは俺たちを握りしめる。
手のひらから魔力が注がれているようで、何かとても暖かく心地のいい気分になった。
『ぜんぜん足りないけど、無いよりはいいわね』
『分けてもらってその言い草はないだろう』
素直に感謝できない悪魔の声を聞いた祖母は不敵な笑みを彼女に向けた。
実は石の中で俺とリリスはポジションが決まっていて、左側は俺、右側はリリスになっている。
視野に関しては共有しているが、相手がリリスを見る場合、彼女も相手を見てしまうので視線が自然と引っ張られる。
村から煙が出ているのを発見した時も視線が引っ張られたが、これが石の欠点のひとつだ。
「おや、この感じ…、やはりリリスだったのね」
「げっ!なんで婆さんが私を知ってるのよ」
婆さんはリリスの事を知っているようで、彼女も心から驚いているのが俺に伝わってくる。
「私の名はティムナ・ミルヴィルよ」
「ミルヴィルって…あの?」
婆さんの母はメンドシーノ・ミルヴィルといって、その昔、偉大なる魔術師として知られていた。
悪魔リリスと魔術師メンドシーノは友人で、婆さんが小さいころリリスに会っている。
それで彼女の声と魔力を覚えていたのだ。魔力は個人によって特徴があるらしく、上級の魔術師になると違いが分かるらしい。
メンドシーノは、カトマイが独裁体制に移行してから粛清され、死を悟った彼女は魔女の能力を幼少の婆さんに受け継がせた。
その後、老いを感じた婆さんも、娘でアリアの母ネハレムに力を受け継がせたが、彼女もまた王によって粛清されたので、今はアリアが受け継いでいる。
娘に能力を移したのが原因で粛清されてしまったことに、婆さんは心を痛めているようだ。
メンドシーノ家の魔女の能力は、こうやって代々受け継がれている。
ただ、ここ数代は急いで無理に行なっていることが災いして能力が低下しているらしい。
これも婆さんの悩みの一つだ。
「あのおてんば娘が、こんな老婆になっちゃったのね…。ん?ちょっと待って、なんかおかしくない?」
俺も気づいた。婆さんの話が本当なら200歳を越えてねーか?
婆さん、どうやったら200年も生きれるんだよ。
爺さんも200歳なの?