27、魔獣の追憶
宴は2時間ほど続きお開きとなった。
酒の席で、パラケルススの勧めもありジルは俺たちのパーティーに加わることになった。
今日1日で2人のメンバーが加わることになった。
まだステータスの確認をしていなかったのでリリスのスキル調べることに。
その一部を抜粋するとこんな感じとなった。
なお2人にはお互いのステータスを見せていない。
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名 前:ジル・アンダーソン
種 族:ヒューマン
職 業:冒険者
レベル:31
スキル:簿記A・演算A・魔法B・治癒B・司書C・書写C・魔力回復C
称 号:演算マスター
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名 前:テイラ
種 族:魔獣/フェンリル
職 業:冒険者
レベル:68
スキル:体術A・扇動A・盾術B・妖術B・調教B・沈静C・魔法C
称 号:ヒューマンハンター
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まずはジル。
彼女は魔術師よりも演算が得意であった。
冒険者になる前は、お店で帳簿を預かる仕事をしていたそうだ。
その影響で演算マスターの称号がついたと思われる。
ジルには、開拓後の領地で会計責任者になってもらう予定だ。
治癒スキルも持っているので、急病人が出た場合も応急的な処置はできる。
医者は別に確保する必要がある。
次にテイラ。
彼女はレベルが高い。
狼になった時は肉弾戦で戦い、妖術スキルを使うと今のような獣人になれる。
意外なのが扇動と調教で、これがあればモンスター同志を戦わせることができる。そして沈静は興奮したモンスターを鎮めることができる。
テイラには、領地の集落にモンスターや凶暴な動物が入ってこないように見張りをさせようと思っている。
動物とも意思の疎通ができるそうなので、むやみに畑を荒らさないように説得したり、狼を従えることもできるそうなので、彼らを使って周辺を見張ることもできるらしい。
リリスの式神も加えれば領地の安全は確保できるはずだ。
明日からは領地の候補となる場所探しを最優先にする。
ただ、全員で日がな一日書物漁りとなると効率が悪い。手持ち資金の問題もあるので人員を二手に分けようと思う。
戦闘向きのプレイサ、テイラ、フレデリカはクエストで資金稼ぎをしてもらい、俺、リリス、アリア、ジルで開拓候補地を探そうと思う。
クエストチームにはサポートにフェニックスをつける予定で、問題があれば俺たちに映像が送られてくる手はず。
夜更けまでにはまだ時間がある頃、酒場を後にした俺たちはパラケルススと別れて宿を目指していた。
表通りに出たところでジルとも別れる。
今朝までは異なるパーティーに属していて、宿が異なるためだ。
明日からは同じ宿にしばらく逗留する。
「それでは明日、ギルドホールでお会いしましょう。おやすみなさい」
と言って手を振りながら人混みに消えていった。
この時間でも意外と人通りが多い。といっても大半は千鳥足状態。
路地裏と違い、まるで不夜城のごとく煌びやかに光を放つ通りを歩きながら、俺たちはテイラの生い立ちについて聞くことにした。
4人とも無言で歩くと不自然なので、リリスの声魔法を使って会話をする。
うちわ向けの話しなので、口調はいつもの俺のまま。
傍から見れば9歳児が「俺」という言葉を口にしているが気にすることはない。
「テイラは今までどんな生活をしていたんだ?」
彼女の断片的な記憶は、俺のスキルを使って見ているので大雑把には分かっている。
だがテイラ自身の言葉で語って欲しいと思ったのだ。
これは信頼を深めるためにも是非やっておきたい。
彼女は彼方を見つめながら口を開いた。
「私は神ロキと半神ペガサスゾーマの間にもうけられた子なのです」
神ロキ…。
俺が居た世界の神話に出てくる神物と、この世界の者は共通点が少なくない。
間違いなく繋がっている。
疑問なのは神と半神の間に生まれた子なら、獣の場合、魔獣ではなく神獣だと思うだが何故か違うらしい。
実は父親は神ではなく、間男の悪魔だったのいうヲチの可能性も否定できない。
俺の世界にも獣姦という言葉があるように、この世界の人外的存在は性に対して開放的なのかも。
「そして私には妹がいました…」
彼女にはユルムンガンドという毒蛇の化身の妹がいるらしい。妹もテイラのように獣人になれるそうで、その時はイオルと名乗っていた。
俺は蛇が極寒の世界で?と思ったが、魔獣の場合は関係ないようだ。
そのイオルがだが、100年前に別の道を歩むことになり、今はどこにいるかわからないそうだ。
姉妹はエスターシアより遥か北にある、アンデッドが支配する氷の世界に生まれた。
そこはとても過酷な世界で、神や魔物であっても生ある者は死者に襲われ、アンデッド化してしまう。
ゲームズオブスローンズの“冬来る”の世界に似ている。
ホワイト・ウォーカーがアンデッドに当るのかは謎だが、生体は似ている。
テイラが生まれてすぐに母に教えられたのは妖術。
このスキルでアンデッドに化ければ身を守れる可能性が高くなる。
過酷な世界で生きる術をテイラが7歳、イオルが6歳になるまで母が教えてくれた。
わずかに生息する獲物を探すつらい日々であったが、母に守られ温もりに包まれた生活は嫌いではなかった。
しかし、その時間は突然終わりを告げる。忽然と母が姿を消したのだ。
結果、家庭は崩壊し、姉妹は2人ぼっちとなった。
今思うと、動物でいうところの巣立ちだったのかもしれないとテイラは言う。
2人だけでも獲物がとれるようになっていたので、母から見れば独立させる頃合いだったのだろう。
それからはテイラが妹の面倒をみることになった。
来る日も来る日も餌を探しさまよう2人。
母から教わった通りに狩りをするがうまくいかない。
いろいろと工夫をするが、全てが裏目に出て失敗に終わってしまう。
栄養不足でみるみるうちに痩せていく妹。
そんな姉妹を見かねたのか、人の心を残す優しきアンデッドが、南へ行けば餌が多いと教えてくれた。
彼は人だった頃、猟師をしていて母とは違う狩りの仕方を教えてくれた。
そして2年ほど姉妹の旅にも付き合ってくれた。
その間に学んだことは人の言葉と優しさだ。
テイラは少しだが人というものに興味を持った。
彼と別れた姉妹は、それから8年かけてゆっくりと人が支配する地域まで南下。
アンデッドが教えてくれた通り、そこは北に比べれば餌が多く、飢えに苦しむことも少なくなった。
だが、そこで出会った人々は姉妹を見て襲い掛かってくる。
見た目がモンスターそのものだったので、仕方のないことであった。
生きていくためには、人にやられるわけにはいかない。
襲ってくる奴らのに対しては人であろうが容赦しなかった。
特に妹は、ご自慢の蛇体で人を絞め殺したり死体を切り刻んで遊んだり、とても残忍だっららしい。
そんな2人であったが、ある日出会った調教師の女の子が姉妹を変えることになる。特にテイラを。
その子の名はヘラといって、歳は8つくらいでテイラ達より若い。
ヘラは森で出会った狼と蛇姿の姉妹に恐れることなく調教を開始した。
「一緒に旅に出よう」
「ずっと君のようなペットが欲しかったのさ」
「君に巡り合えることを祈っていたんだよ」
などと言いながらテイラとイオルをてなづけようとする。
通常、強い相手を調教する場合は相応のダメージを与え弱らせる必要がある。
どちらがご主人様か畜生に理解させるためだ。
だがヘラは初心者だったのだろう、いきなり調教を始めたのだ。
姉妹はヘラの行動に驚いて思わず目が点となってしまう。
イオルは女の子の四肢を食いちぎって痛めつけようと言ってきたが、テイラは何も知らない女の子を愛らしく思った。
ヘラの調教は温もりを感じさせ、心が満たされる不思議なものがあったからだ。
彼女にとって初めての経験だ。
人の血が混ざるテイラは母性に目覚めたのかもしれない。
結局、調教された振りをして、彼女のペットになってあげたのだ。
イオルは反対し、隙あらばヘラを殺そうとしたが、テイラが粘り強く説諭すると理解してくれた。
「あ、宿に着いてしまったようだ。私の生い立ちなんて聞いても面白くないだろう。もうこのへんで…」
「いや、最後まで聞いてみたいな」
俺はテイラの言葉を遮った。
『ワイン浸りリターンズよ。宿にちっこいバーがあるから、そこで続きを聞こうじゃない』
「私も賛成」
「私もです」
「わたくしが閉じ込められていた間の話ですから、ぜひお聞きしたいですわ」
賛成多数により、バーで続きが語られることになった。
テーブルの小皿にワインが注がれ、リリスがぐびぐびと吸い取る。
他のメンバーも各々ワインやエールをあおっている。
「テイラ、そのヘラって子とはその後どうなんだ?食っちまったのか?」
「イオルではないのだ。そんなことはしないぞ。あれからさらに一匹ペット仲間が増えたんだ」
ヘラとの生活はとても楽しいものであった。
彼女は幼いころに両親を失い祖父母に育てられた。
幼いころから動物が好きであったヘラは自然と調教師への道を歩む。
ある日、山でドレイクと出会ったとき、ヘラはいつもの調子で調教を開始。
ドレイクとは小型のドラゴンで火龍に属する。
小型といってもドラゴンの力は持っており、簡単に調教できる相手ではない。
テイラとイオルはドレイク相手に死闘をし、やっとの思いで調教に成功した。
姉妹はボロボロになったが、ヘラは獣医のスキルは低かったため、姉妹を治療できなかった。
本当にお粗末な飼い主だと2人は嘆いたそうだ。
そして、ペット仲間にドレイクが加わった。
だが、このドレイクはモンスターの類ではなく龍族という人と同じ魂を持つ希少な種族だった。
彼らの特徴は龍人、人の姿になれることだ。
調教なんてしなくても、会話をすれば仲間になってくれるはずなのだが、ヘラを面白いと思い、テイラと同じように調教された振りをした。
「それってお前たちの死闘が無駄だったってことだよな?」
「そうなんだ。骨折り損のくたびれ儲けとはこのことだ。おまけに私たちはボロボロのままだ」
こんな酷い話があるか!と少し酔いがまわり顔を火照らしているテイラが愚痴る。
『アリアちゃん、ワインおかわり』
「まだ飲む気なんですか…」
アリアは呆れた様子でワインの追加注文した。
「続きはどうなったの?」
プレイサがテイラに話の続きを求めた。
「ドレイクが人の姿になると、アリアよりも小さな女の子になるんだ。名前はドラコって言ってね、変な名前でしょ」
ドラコは6歳くらいの赤髪の女の子だったらしい。
龍人は珍しい種族なので、田舎にいくと魔物の類と間違われることもある。
その頃ヘラは9歳になっていたが祖父母は既に他界している。
3人で話し合った結果、この不器用なヘラが立派になるまで面倒をみようということになった。
まず喫緊の問題として、子供の調教師がドレイクとフェンリル、ユルムンガンドを従えるなんてありえない点だ。
下手すればヘラが悪魔的な存在と間違えられても困る。
そこで姉妹はドレイクから人に変身する方法を学ぶことにした。
ヘラは村でモンスター退治の仕事を請け負い、森を巡回しながら生活していたため特に家もなく野宿が多かった。
人に接する機会は少ないのだが、それでも森では村の人達に遭遇することがある。
人に変身できるまでテイラは小型化して犬を装い、イオルは小さな蛇になってテイラの頭でとぐろをまき可愛さを演出した。
ドラコは人になったり、小さくなって人形を装ったりして適当にやり過ごすしていた。
その生活は意外と長く続き、結局ヘラが58歳でこの世を去る時まで続いたらしい。
彼女を埋葬したのち、ドラコとは別れ、100年前にはイオルとも別れた。
「そろそろ閉店のようです。リリスが飲み過ぎたので明日は節約したほうがいいかも」
プレイサは言ってお代を払いに行った。
「俺はヘラとの生活やその後も知りたかったんだけどな」
「それはまた別の機会に。270年も生きてるのだから一晩で語るのは無理というものだ」
「それもそうか」
部屋に戻る頃には日付が変わっていた。
さすがにこの時間になると外も静かである。
リリスは既に寝ているようで、寝息が聞こえてくる。
アリアと共に床につくと間をおかず睡魔に襲われた。
明日は開拓地探しだ。
ヘラの不器用さがなおらなかったので、人生を終えるまで3人で支えたらしい。
どんな子だったのか見てみたいと思うのは俺だけだろうか。
そのうち、イオルやドラコとも会ってみたいもんだ。




