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25 、怒れる悪魔と守護石

このクエストの報酬は確か20万ゴールドだ。

それだけあれば今夜は贅沢ができるはず。

テイラとジルのステータスを調べてなかったので、村に戻ったら見てみよう。

『フレデリカ、離れて!』


 リリスが念話で叫んだが少し遅かった。

 フレデリカを貫いたのは少女の右腕で、その手には精霊石が握られている。


 フレデリカは目を見開いたまま、自分の血で染まった少女を見ていただが、微動だにしない。


 精霊石が体から離れたので、活動を停止しているようだ。死んでいるといっても過言ではないかも。


「ウヒヒヒ、こいつは精霊だったか」


 顔に滴る血を舌で舐める少女。

 それを見たリリスは少女が何者なのかわかったようだ。


『アスモデウス!私の仲間に何してくれてるのよ!!クソ悪魔め』


 アスモデウスは倒れた姿勢のまま直立すると、右腕を引き戻してフレデリカを地面に倒した。

 右手に握られた精霊石をぺろりと舐める。 


「すごく臭いと思ったら、おバカのリリスじゃない。死んだって聞いてたけど石になってたのね。お似合いよ」


 どうやら、お互い顔見知りのようだ。

 ただ、アスモデウス自身は霊体で、少女にとり憑いているのだと思う。

 そうでなければ、倒れている少女を見た時点でリリスが気づいているからだ。


 その時、倒れていたフレデリカのネックレスが赤い光を放ち始めた。

 やがてそれは少女の体をゆっくりと包み込む。


『あんたも十分臭いわよ。でも……、終わりよアスモデウス』


 リリスは、フレデリカから発せられた光を見て、ネックレスの石が覚醒したことを認識。


 これからアスモデウスの身に起こることも分かった上で「終わり」と発言したのだ。


 鈍感なのか、アスモデウス自身は光に気づいていない。

 

『リリス、あの石って…』

『魔女が作ったお守りのような物ね、守護石といった感じかしらね。そろそろ気づくかしら』


 今まで、あざ笑うかのうような表情だったアスモデウスが、苦しみのものに変わった。


「何よこれ、リリスの分際で何してくれてるの!」

「私じゃないわよ」


 赤い光は、体の右肩から腕をすっぽりとつつみ輝きを増していた。

 アスモデウスは身動きが取れないようで、かなりイラついている様子。

 悪魔も痛みを感じるようで、からだを震わせながら悲鳴をあげる。


「痛いじゃない!こんなことしてタダで済むと思ってるの?」


 あくまで、強気の姿勢を崩す気はないようだ。

 もしここで、反省の弁を述べていたら、リリスはフレデリカを守っているそれに対して、止めるように命じたかもしれない。


 しかし、少女の顔に反省の色は全く見られず、この状況でも煽っている。

 リリスは、アスモデウスの始末を決意した。

 その意を感じたのか、フレデリカを守る守護石は即座に刑の執行に取り掛かった。


 光が収まると、少女の右肩から腰のあたりが腕も含めて消えていたのだ。


 精霊石の回収を終えたフレデリカは、そっと立ち上がり少女の背後に立つ。気配を消しているようなので、アスモデウスは気づいていない。


 普段は澄んだ青い目のフレデリカだが、今はネックレスの石と同じ深紅になっている。今彼女を動かしているのは守護石だろう。


 5人の視線が少女の右側に集中した。ここでやっと、アスモデウスは自身の体に異常が起きていることに気づく。


 なぜ、みんな私の右肩をみているのだろう…。そう思って視線を向けると地面が見えていた。


 最初は意味が理解できないアスモデウスであったが。


「あたしの体が消えている…。痛い痛い痛い痛い。痛いじゃない!なんて酷いことするのよバカリリス」


「私は何もしていないと言っている」


 今のところリリスは何もしていない。

 全てはフレデリカを守っている守護石の仕業なのだから。


 深紅の目を輝かせたフレデリカは刑を次の段階へ進める。

 右腕でアスモデウスの後頭部をわしづかみにして、動けないようにした。

 少女の体から悪魔が逃げるのを封じたのだろう。


「今度は……って、せ、精霊?…はあ?死んだはずでしょ。なんで動いてるのよ。リリスの仕業ね」


 あまりの鈍感さに呆れたリリスだったが、アスモデウスを始末するためにアリアに指示をだした。


『アリア、私をあいつの前まで連れて行って』

「わかりました」


 アリアは俺たちを手のひらに乗せ、アスモデウスにゆっくりと近づいた。 

 リリスのいう始末とは、俺たちの石に吸収させることだ。


 フレデリカの守護石がアスモデウスを始末した場合、見るに堪えない残虐なものになるだろう。


 悪魔を体に閉じ込めたままいたぶるに違いない。

 顔見知りの悪魔が泣き叫ぶところを見たくないのかもしれない。

 それならば、まだ俺たちに吸収されているほうが痛みが少ない。

 という判断なのだろう。


「何する気よリリス」

『フェンリルに術を施したのはあんたよね?』


 リリスは念のため、今回の主犯がアスモデウスかどうか確認をした。


「ええそうよ。解除したようだけど、あたしのプレゼントは受け取ってくれたかしら?」


 悪魔らしくしらばっくれると思っていたが、あっさり認めた。

 やはり、リリスのテンションがおかしくなっていたのは、こいつが犯人らしい。


『目的は何かしら?』

「何いってるのよリリス、私たちは悪魔よ。気晴らしに悪魔っぽいことやっただけじゃない」


『5人も死んでるのよ。命をもてあそぶのは悪いことよ』

「悪魔だもん、それくらい問題ないでしょ。あんただって悪魔じゃない」


 だが、リリスは悪魔としては珍しく、無駄な殺生は好まないタイプだ。

 今回は仲間にまで手を出しているので相当怒っている。


『言い残すことはそれだけかしら?』

「あんたまさか、あたしを始末する気?」


 鈍感なアスモデウスだったが、やっと気づいたようだ。


『私が直接手を下さなくても守護石があなたを屠るでしょうけどね。私の方が痛みを感じないはずよ』

 

 アリアが手をさらに近づけると、石が少女の体を吸収し始めた。


『無駄に人を殺め、私の仲間を気づつけた罪は償ってもらうわよ』


 リリスから悪魔のような殺気が伝わって来た。

 俺たちを手に乗せているアリアも、それを感じたのか少し顔が強張っていた。

 他の仲間も同じことを感じているようだ。リリスを怒らせるなと。


「ちょっとやめてよ。冗談でしょ?なんでもするからさ」

『精霊に手を出した時点でこうなる運命だったのよ。さようならアスモデウス…』


「同じ悪魔仲間じゃない。男も紹介するわよ!あんたと私ってキャラ被ってるけど、だからこそ…」


 最後は悪魔らしく悪あがきをしたが、俺たちの石は容赦なく少女のアスモデウスを吸収した。


『黒松明人はレベルが上がりました』

『吸収のレベルが上がりました』


 おなじみのレベルアップのお知らせが、どこからともなく聞こえてきた。

 リリスのレベルはカンストしているので、経験値は俺の方にまわってくる。

 あとでどれだけ上昇したか見てもらおう。パーティーメンバーの経験値も上がっているはずだ。


『お疲れさま。リリス』

『あなたもよくがんばったわ。私に魔力を送っていたでしょ?』

『気づいてたか』


 リリスが、テイラにかけられた術を解く時に、大量の魔力を消費していたことが分かったので。


 いつもは勝手に使われる俺の魔力を、量を調整しながらリリスに送ったのだ。

 わからないように送ったつもりだったが、バレていたようだ。


『あの少女も犠牲になってしまったな』

『アスモデウスに憑依された時点で死んでるのも同然よ。心を食われてたからね。これで転生できると思うわ』


『次は悪魔に捕まらないように祈るわ』と言って〆た。


 ジルが属していたパーティ―の5人も次は平和な場所へ転生できればいいのだが…。


 そのジルだが、今しがた目の前で起こった出来事が理解できないようだった。

 目を見開いたまま動かない。脳の処理が追いついてないのだ。

 彼女は冒険者だからモンスターとの遭遇は日常茶飯だろう。


 しかし、今回は悪魔や精霊の登場に加え、石に少女が吸い込まれるところまで目前でみている。非日常の現象が一気に起こったのだ。

 

 それを察したアリアが俺たちの代わりに、ジルに声をかけてくれた。


「ジルさん、こういった光景は初めてみるのかな?」

「……はい。私はまだ信じられません」


「少し説明すると、あの少女があなたの仲間を殺した狼を作り出した悪魔です。全てあいつの仕業だったのですよ」


 アリアはテイラに関する部分を伏せた上でジルに話した。


「そんなことが実際にあるのですね」

「うん、あるのです。ジルさんが普段目にしているのは、この世界のほんの一部に過ぎませんよ」


 ジルは本物の悪魔を見たことが信じられないのだろう。

 それにフレデリカの身に起きたことも。


『アリア、ジルにうまく話せるか?フレデリカのことは、もう誤魔化せないので話してもいいと思う』

『任せておいてください』


 ここでゆっくり話していると日が暮れてしまうので、歩きながら話をすることにした。

 傷が完全に癒えていないジルとテイラは、それぞれ馬に乗せてある。


 アリアはジルに、俺たちが今まで体験してきたことを話していた。

 俺とリリスは神の使徒という設定で話をしていた。

 リリスが悪魔だということは、まだ話すには早いと判断したからだ。

 

 ジルは、ゆっくりと世界の真の姿を知ったほうが精神的にも良いと思う。

 急激な変化は混乱を招くだけなのだから。


 西の空を見ると太陽が沈もうとしていた。

 早く村に戻って酒が飲みたい気分だ。


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