21 、錬金術師と初クエスト
冒険者登録を行うため、俺たちはギルドホールを目指した。
場所は村の中心地である。
その建物は二階建てのシンプルな木造作りだ。
中はとても閑散としていた。この時間帯、冒険者は郊外でクエストをこなすために汗を流している頃だ。
受付嬢も手持ち無沙汰なのか同僚と雑談で盛り上がっている。
俺の世界だったらスマホで撮影され、ネットにアップ&炎上コースだろう。それに比べれば大らかな世界と言える。
それ以外ここに居るのは、俺たちのような新参者や、それを食いものにするごろつき連中だ。
今でも、いかにもといった奴らが品定めするような目つきでしげしげと俺たちを見ている。
一階はクエストに関する窓口業務、二階は新規登録の受付となっていた。
俺たちは初めてなので、二階へ上がる。
「初めての登録ですね。失礼ですが、年齢を確認したいので身分証を見せてください」
受付のお姉さんは、俺たちは子供のように見えるだけで実際は相応の年齢だろう。しかし、念のため年齢を確認しておうこう。そんな感じで身分証を要求しているように見える。
ちなみに、身分証に関しては、仮のものだがパトリックが用意してくれたので、それを提示することにした。
「え、9歳と11歳?」
「年齢制限があるのですか??」
お姉さんは、ミルヴィル姉妹の年齢を見て驚いていた。
子供のように見えたけど本当に子供だった。
しかも…。
「貴族様が冒険者登録なさるのですか、本当によろしいのです?」
「何か問題があるのですか???」
お姉さんは、顔がこわばるほどの驚いていた。
疑問に思ったアリアが聞き返した。
「いえ、登録はできますが、珍しいことだなって……」
次にフレデリカの身分証を見たお姉さんは、さらに驚いた様子で視線を彼女に向けた。
「あ、あの、フレデリカ様はライドランド様のお身内でらっしゃいますか?」
「そうですわ。何か問題でもございますの?」
「ございます!少々お待ちください…」
お姉さんは血相を変え席を立つと、小走りで奥の部屋へ消えて行った。
上司に相談しに行ったのだろう。
『冒険者登録って面倒そうだな。ライドランドの名前を出せばギルド施設は利用できるんじゃないの?』
『確かにそうね。私なんてさ、ギルドから討伐対象にされてたのよ?できれば関わりたくないのですけど』
『リリス様は悪魔ですから仕方がないですわね』
もし、利用ができるなら面倒なギルド登録なんてしなくても開拓地の候補地を探すことができる。
わずかの間をおいてお姉さんが戻ってきた。
そして俺たちは別室へ案内される。VIPルームなら嬉しいが。
「コンコン」
重厚な扉をノックして中に入ると、正面の机に血色の悪い妙齢の女性が座っていた。
腕や首元に縫った跡があり、美形のフランケンシュタインといった感じだ。
しかも、近寄ると若干死臭がする。ゾンビか?
『なんかヤバそうな奴だよな』
『臭うわね、ゾンビじゃないの?』
「久しぶりだね、フレデリカ君」
驚いたことに、フレデリカのことを知っている人物だった。
本格的に怪しい。
「どちら様です?なぜ私のことをご存じで?」
「前回会ったのは、君が10歳の頃だから覚えてないのも無理はない。まさかこの世に存在していたとはね。その様子だと精霊になったのかい?」
「そうですの」
「私はエイヴリル・パラケルスス。ギルドの支部長だよ」
偶然なのか、罠なのか、アリアの祖母ティムナが言っていたパラケルススが目の前にいる。
だが、同名の別人の可能性も否定できない。
「失礼ですが、錬金術師のパラケルスス様でしょうか?」
「そうよ。魔術師メンドシーノ・ミルヴィルの子孫たち」
次にパラケルススはアリアの首にぶら下がってる俺たちに視線を向けてきた。
気づかれているようだ。
「それに悪魔リリスともう1人、……ラフィエル?の加護を受けた者がいるわね。人外のみなさんが、当ギルドに何のご用かしら?」
やはり気づかれていた。
なんでもお見通しと言ったところが不気味だ。
500年前のフレデリカを知っていて、かつ、200年前のメンドシーノを知っている。さらに悪魔リリスや女神ラフィエルも知っている。
どう考えても現役の人間ではない。元人間だった何かだ。
『そうそう、念話もできるから質問があれば普通に話してもらっていいのよ』
パラケルススは俺とリリスに直接話しかけてきた。
俺たちは自己紹介した後、今までの出来事を全て彼女に話すことにした。教会やカトマイを倒す方法があるのなら知りたいからだ。
『なるほど、事情はわかりました。壁で聞き耳を立てている子がいるので、念話で続けます』
聞き耳を立ててる子が居るのには驚いたが、パラケルススは、教会やカトマイを倒す方法はあると断言した。
しかし、現状では圧倒的に力不足で、もっと自分たちも強くなり、仲間を集める必要があると助言してくれた。
詳細については追々話してくれるらしい。
今日は時間が足りないため、ステータスを計ってから冒険者ランクを決めることになった。
その後、実力を試すために支部長自らが課すクエストをこなさなければならない。
『それではステータスを測定するわね。アリア、認識阻害は私には通用しませんよ。それとアキト君、探索スキルは今のレベルじゃ私に対して使えないわよ。試してみてもいいけどね』
お言葉に甘えて試してみたのだが、何も見えなかった。それどころか別荘で見た魔女のように、視界の、今度は右端から得体の知れない化け物が出てきた。
昨日ほどではないが、やはり驚いてしまった。
すかさずリリスは『今日は耐えたわよ!』と自慢げな表情を見せる。チビらなかったという意味だろう。
『あら、ごめんなさい。悪気はないの。悪魔にも違てなものがあるのね』
『うるさいわね!』
パラケルススはそう言ってからクスクスと笑っていた。
ついでなので、俺は別荘にあった老婆の絵についても聞いてみる。
『リリスの見立てでは、あの絵の老婆は本人を分身させた生き写しということなんですけど、合ってます?』
『正解よ。あの老婆はカイエン・パックスビルといって、古代の魔女よ。今は行方をくらませているわ』
『別荘にあった一番古い肖像画の男性と契約したようでした』
あの男性は、おそらくライランド家を大きく強固な地位にした人物で間違いないだろう。
『彼はアルフォンス・ライドランド。私は635歳だけど、さすがに800年前に魔女とアルフォンスの間に起こった出来事までは分からないわ。でも、アルフォンスはライドランドを力を持つ大きな一族にした立役者には違いない』
目の前に、また新たな化け物が現れた。どうやればそんなに長生きできるのだろうか。長生きして楽しいのだろうか。
少し整理してみよう。その前に1人だけ年齢不詳の奴が居る。
『おいリリス、お前何歳だ?』
『唐突に何よ、レディーに向かって失礼ね』
『今、長生きしている奴を年齢順に整理してるところなんだ。お前が何歳なのか知りたい』
『なるほど。はっきりとは覚えてないけど、500年以上この世界で暮らしているわね』
『ありがとう』
となると…。
カイエン・パックスビル(魔女)今も存命なら800歳以上。
エイヴリル・パラケルスス(錬金術師/ゾンビ?)635歳。
リリス(悪魔)500歳以上。
フレデリカ・ライドランド(精霊)515歳くらい。
トマイ・タラク(デュシーツ国王)207歳。
俺の周りは超後期高齢者で溢れている。俺とカトマイを除けば、平均年齢が411歳のハーレムができる。
これは萎える…。老婆を除けば美形だけど萎える……。
ただ、人間として生きている者はミルヴィル姉妹を除けば1人も居ない。みんな怪異の類だ。
『ちょっと、なに失礼なこと考えているのよ!エルフだって長命の筋なら400年は生きてるのよ』
俺の心を勝手に読んだリリスが抗議してきた。
『俺の世界とは違い過ぎて戸惑ってるだけだ。頭で整理しないと訳がわからないんだ』
『そういうことか…。分かったわ』
おそらくだが、この世界でもこれだけ特色のある者が集まってるのは俺くらいじゃないかと思う。
これも女神の加護なのだろうか…。
『そろそろ時間よ、お話はここまで。順番にステータスを測ります』
ステータスは、フレデリカ、プレイサ、アリアの調べられた。
アリアの誤魔化していないステータスを見るのは初めてだ。
=====
名 前:アリア
種 族:ヒューマン
職 業:魔術師
レベル:36
経験値:351
体 力:66/105
魔 力:340/850
幸 運:55
知 性:A
戦 術:F
速 さ:F
防 御:B
器 用:B
スキル:魔法S・魔法抵抗S・治癒B・分析B・召喚B・古代魔法C・魔力回復C
称 号:魔術マスター/準貴族
=====
やはり俺が一番雑魚に変わりない。
『古代魔法と召喚が使えるとは、幼いのに大したものだわ。さすがミルヴィル家といったところね』
パラケルススに褒められたアリアは少し嬉しそうな表情になった。
アリアのスキル構成は、パラケルススが言った通り、大したものだった。だからこそ教会に狙われるのだろう。
この先レベルが上がっていけば末恐ろしい子になるのは間違いない。
『みんなレベルが高いわね。上級クラスよ』
結局、アリアA、プレイサS、フレデリカAという結果になった。
アリアの魔法が攻撃系だったなら、ランクはSになっていただろう。支援系は重要なポジションなのに、ギルドでは低めに評価されているようだ。
ただ、この姉妹がペアでダンジョンに入ったならば、ドラゴンクラスも彼女たちだけで倒せるだろうと俺は思う。
姉妹だけあって連携はうまい。これにフレデリカを加えた3人での連携がうまくいけば必ず強くなる。
連携の訓練は、今後の予定に加えておこう。
『さて、リリス君とアキト君、2人も冒険者登録をしておくわ』
体を持たない俺たちが登録しても意味が無いと思っていたのだが、実体化と呼ばれる魔法を取得すれば、一定時間人型にできるらしい。
ただ、石が変形して人型になるのか、霊体のような感じで現れるのか、魔法の取得、習得、修得方法も含めてパラケルススにも分からないそうだ。
それができれば、この世界に来て初めて体を得ることが出来る。なんとしても覚えたい。
『ランクは、リリス君がS、アキト君はFね』
『ですよね……F』
『あなたのレベルが上がらないのは女神の加護が原因よ。何か理由があるのかもしれないわね』
やはり女神の加護は俺にとってマイナス要素だった。
ラフィエルめ、高齢者が寄って来る件も含めて、いつか問い詰めてやる。
『ただ、申し訳ないのだけど、新人にいきなりAやSランクを与えることはできないから、Eランクからスタートしてもらうわ。プレイサはDでも大丈夫でしょう』
新人、しかも子供に上級ランクを与えると、癒着など不正を疑われてあとが面倒なのだろう。
俺とリリスは今のところ体がなく、ランク偽装する必要がないため、そのままSとFになった。
体があったとしても俺はFだけどね…。
続いてはクエストだ。
『中級者向けの森で、冒険者が襲われる事件が多発しているの…』
現在、上級者が調査をしているそうだが、原因が解明されていないので、新人の俺たちが行くことになった。
ランクを偽装しているのに、そんなところで新人が活躍して大丈夫なのかと聞いてみたが『気にしなくていい』ということだった。
『早速、向かってちょうだい。クエストをこなせばランクも上がるわよ。それとフレデリカ、私はこれからヤムヒルと会うから、あなたの事を話しておくわ。本当のあなたをね』
『いえ、わたくしはこのままでも構いませんの』
『悪いようにはしないわ。みんなと旅ができるように、うまくしておいてあげる』
といって、パラケルススは部屋から出て行った。
◇ ◇ ◇
ギルドホールを出た俺たちは、今夜泊まる宿を押さえてから森へ向かうことにした。
村の厩舎に預けている馬を引き取って、アリアとプレイサが騎乗、フレデリカは1頭借りることになった。
お嬢様のフレデリカが馬に乗れるか心配だったが、杞憂に終わった。彼女は乗馬の訓練を受けていたので難なく乗ることができたのだ。
衣装もドレスからパンツスタイルに衣替えしている。
風になびく金髪がとても美しく、俺もリリスも思わず見とれてしまった。
『あのまま脱がしてみたいわね、アキト…』
リリスは宿で一杯やっているため、絶賛ほろ酔い中。
『アキトさん!フレデリカさんに見とれてないで前を見てください』
突然、緊迫した声でアリアが俺たちを呼んだ。
言われた通り視線を前方へ向けると。
女性が血まみれで倒れていた…。
この世界にも、子供料金なるものが存在することが分かった。
プレイサが「アリアは9歳だから子供料金にして欲しい」と上目遣いでお願いし、アリアが「アリアは9歳なの。かわいいでしょ?」と芝居をしたところ、3人で1500のところ1000ゴールドで泊まることができた。
宿屋の主がオヤジの場合は交渉(演技)すれば、なんとかなるのかもしれない。




