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2、ユニークな石の仕組み

 異世界にやってきた俺は、悪魔が封印されている石に上書き封印されてしまった。

 そして今、同居人の自称大悪魔リリスと異世界の光景を見ているところだ。


 まずは視界の端にあった木に磔になっている物を見ている。


「あれは先週焼かれたのよ、お前は異端者だとか言われてね。魔女を焼けって叫んでる奴もいたわ」

「狂ってるな、まるで魔女狩りだ」


「そうね、どうみても普通の女性だったのに酷いことするなって思ったわ。私が魔法を使えたら、こうやって水をかけて…」


 遺体の周辺だけ少量だが雨が降りだした。

 空は雲ひとつない快晴なのに…。


「お前、魔法を使ったのか?」

「え?ウソ!ってことは…」


 リリスは何かを詠唱した。


 間をおかず、遺体が磔られていた木が勢いよく燃えはじめる。どうやらリリスは炎系の魔法を使ったようだ。


 一緒に燃やされる木が少し可哀そうな気もするが…。


「これで灰になって地に還りなさい。いつまでも放置されるよりいいわ」

「確かにそうだな。安らかに眠ってくれ」


 少しすると、光の粒のようなものが空に向かって昇っていった。

 肉体は炭となり地に還り魂は天に召されたのだろう。


「なんで急に魔法が使えたんだろうな。ひょっとして俺が来たからか?」

「う~ん、その可能性は否定できないわね。もしそうだとしたら、あんたも魔法が使えるんじゃない?」


 俺の影響で魔法が使えるようになったのなら、俺だってその可能性は十分にある。

 ただ、この世界の魔法の仕組みを知らない。


「どうやって使うんだ?」

「この世界の魔法は上級者になればイメージするだけで発動するわよ」


 上級者という条件が付くが、スペルなしで魔法が使える世界のようだ。

 異世界ものの本に出てくるキテレツな話も、ここでは通用するかもしれない。


 ――イメージするだけか。やってみよう。


 リリスが水と火を使ったので、俺は風魔法を試すことにした。長大なトンネルの上部に設置されているジェットファンをイメージする。『ブーーーーーン』という独特な音と共に排気ガスを全て吸い出すシーンを脳内で再生する。


 ――いい感じだ、トンネルの空気がキレイになってきたぞ。


 1分ほど再生したが何も起きなかった。実に無慈悲な世界だ。


「…あんた魔法の素質なさそうね」

「そのようだな…」


 やはりダメだった。石になってるのが原因に違いない。


 と、そこになんの脈略もなくモンスターがやってきた。ゴブリンだろうか?背は低く緑色の皮膚をしている。


「なぁ、あれってゴブリンか」

「そうよ、なんで知ってるの?前にいた世界でもゴブリンがいたのかしら」

「俺の世界では空想のモンスターだな」


 呼んでもないのに、それは俺たちに近づいてきた。


「おい、なんか近づいてきたぞ、お前こっそり呼んでないか?」

「そこまで暇じゃないわよ、それに低級モンスターに用事なんてないわ」


 ゴブリンは俺たちの前で止まった。そして…。


「こいつ何をするつも……って、これ小便するつもりだろ!」

「ギャーーー、焼き払ってやるわ」

「止めろゴブリン!」


 俺は咄嗟に斬鉄剣でゴブリンを両断するシーンを強くイメージした。

 すると…。


「おい、嘘だろ」


 ゴブリンが真っ二つになって倒れていく。

 噴き出した緑色の血が俺たちの石にべっとり付着した。


 ――斬鉄剣すげー。


 剣をイメージすると具現化するのかもしれない。


「あんたもやるじゃない、でも余計に汚れちゃたわね」

「気持ち悪いから洗い流してくれないかな。しかも臭いぞ」

「あんたが吸収したフンコロガシの臭いも混ざってるからね」


 フンコロガシの時は臭いを感じなかったので、石だから嗅覚は無いと思っていたのだが違うようだ。


 石の表面に血が付着したせいか、俺がこの世界に馴染んできたせいかは分からないが、今は臭いを感じる。


 確かに臭い…。


 リリスは水魔法を使い付着した血を洗い流すと、次に風魔法を使って濡れた石を乾かした。

 その頃にはゴブリンの死体が消え光り輝く石が残されていた。


「あの輝く石はなんだろう」


 俺は手を伸ばして、それを引き寄せるイメージをすると、輝く石がこちらに移動してきた。


「これは魔石ね」


 魔石とはモンスターを倒した時に現れる物で、この世界のモンスターは全て魔石を原動力として活動している。

 それは山沿いや森の奥深く洞窟などに多く眠っているので、そういった場所はモンスターが多いらしい。


 と、ここでいきなり魔石を俺たちの石が吸収してしまった。

 同時に声が聞こえてくる。


『アキトは念斬りを覚えた』

『アキトはスティールを覚えた』


「リリス、何言ってるんだ?」

「私じゃないわよ。でもこれって……」


 リリスが『オープン、ステータスウインド』と口にすると目の前にステータスらしきものが現れた。


=====

名 前:黒松明人

種 族:石

職 業:廃道探索家

レベル:1

経験値:5

体 力:20/20

魔 力:20/20

幸 運:100

知 性:F

戦 術:F

速 さ:F

防 御:S

器 用:F

スキル:念斬りF・スティールF・探索A

称 号:ゴブリンキラー

=====


 それはツッコミどころ満載のステータスだった。残念ながらチートスキルなんて無い。


「知性Fって酷いな、防御のSランクは石のおかげだろうからな…。俺ってダメじゃん」


 探索スキルがAなのと幸運100が救いだろうか?それ以外は絶望的な数値だった。

 称号のゴブリンキラーは意味があるのだろうか?


「これがあんたのステータスね。黒松明人って名前だったのね」

「まだ挨拶してなかったな、わるい。アキトって呼んでくれ」

「私は知っての通り、大悪魔リリスよ!」

「アキトの職業、廃道探索家ってなによ?と~っても弱そうに見えるんですけど~、ウププププ」


 リリスに笑われてしまった…。

 確かに、この世界で廃道探索が役立つとは思えない。

 そもそも国道や県道が無いからだ。


 ――勇者とか賢者だったら嬉しかったのにな…。


「いきなり転生してきて、勇者になれるわけないじゃない」

「ですよね~」


 心の中を読むのはやめて欲しい。プライバシーの侵害だ。


 ――しかし不思議だ、リリスの心の中は読めないのに、なんで俺だけ読まれるんだろう。


「言われてみればそうね…、でもアキトの心が全部読めるわけじゃないのよ。細切れになってることが多いからね」

「よく分からない仕組みだな」


「さて、楽しませてもらったから私のステータスも見せてあげるわ。せいぜい驚きなさい!」


=====

名 前:リリス

種 族:石

職 業:魔術師

レベル:100

経験値:--

体 力:1500/1500

魔 力:3/1000

幸 運:100

知 性:F

戦 術:F

速 さ:F

防 御:S

器 用:F

スキル:魔法S・魅了S・エナジードレインS・錬金術A・薬学A・治癒A・ステータスウインドB

称 号:魔術マスター

=====


 リリスは知性が壊滅的に低かった。


「ちょっ、知性がFに下がってるじゃない!前はSだったのに…。石になったせいかしらね」


 本当に以前はSだったのか?石になっただけでFまで下がるとは考えにくい。思考を停止させたのが原因の可能性もあるが…。

 しかし、スキルの修得数と値は目を見張るものがあった。


「スキルは凄いことになってるぞ。それに経験値の--ってなんだ?」

「それは私がレベル100だからよ。この世界では100が上限なのよ」


 俺の世界でレベルが数値化されているのはゲームくらいだ。

 そして上限まで行くのは難しいことではない。特にアイテム課金タイプでは金さえつぎ込めばどんどん上がる。

 ある意味、お金がチートアイテムと言っても過言ではない。


「この世界はレベル100の人で溢れているとか?」

「それはないわ。私の知る限り数人よ」


 リリスによると、それは長命でおなじみのエルフの長と一部の賢者や神官だけらしい。

 彼女を倒した英雄ですらレベルは96だ。

 いずれも、リリスが封印された当時の話なので、現在どうなっているのかは不明。


「スキルは7つまで覚えることができるの。地の果てにあると言われている教会の霊石をつかえば、不要なスキルを消したりできるそうよ」

「そうだったのか。まだまだ知らないことだらけだな」


 あるオンラインゲームではソウルストーンと呼ばれるスキルを保存したり削除したりするアイテムがあったが、あれと似たような仕組みかもしれない。

 次に気になるのは魔石だ。なんで吸収しちゃったんだ?


「さっきの魔石なんだけど、なんで吸収しちゃったのかな?リリスも魔石で動いてるのか?」

「ちょっと失礼ね、悪魔はモンスターじゃないわよ。あんたと一緒で魂があるから、こうやって石に封印されてるのよ」

「なるほどな」

「魔石を吸収した理由は分からないけど、少し魔力が高まった感じがするわね」


 ちなみに俺は何も感じていない。

 この石が魔石を吸収して魔力がアップしたのなら、他の効果を持つ物を吸収すると石のパワーが上がるかもしれない。

 それは俺達のパワーアップにもつながりそうだ。この世界にミスリルとかオリハルコンといった希少な鉱石や賢者の石も存在するなら吸収してみたい。


 少しだけ封印石の仕組みがわかったような気がする。


「試しにモンスターを狩って、魔石を集めてみましょう」

「どうやって引き寄せるんだ?」


 俺たちは何か方法がないか考えた。

 リリスは魔法が使えるようになったのだから、変身系の魔法で何かに形を変えたり、この石をストーンゴーレムなどに変化させることはできないだろうか?

 それがダメな場合は、念話を使って話が通じる相手を探すかだ。


「リリス、変身魔法は使えないかな?」

「さっきからやってるんだけど、うまくいかないのよね。たぶん魔力が足りないと思うの」


 リリスの魔力は3/1000だったからガス欠状態だ。

 自然回復はするのだろうか。


「リリスの魔力ってさ、自然に回復しないのかな?魔石で回復させないとダメとか?」

「今は魔石が無いと回復しないようね、ゴブリンの魔石は3、いやステイタスを見るやつ2回使ったから…その前にも魔法使ったな。あれ?わかんないや!」


 計算も苦手なようだ。知性Fは伊達ではない。


「魔力3で使える変身魔法はないのかな?変身できなくても例えば石を目立たせるとか」


 道端に光り輝く石があれば人は足を止めるはずだ。モンスターであっても気になるだろう。


 廃道探索で光り輝くものといえば、ガードレールについている反射板のデリネーターか誰が飲んだかわからないがワンカップの空瓶だ。


 後者はハズレだが、デリネーターはアタリだ。

 特に廃道にあるものは高確率で地面に埋もれている。

 これは大きな落石でガードレールが破壊された時に地面に落ちて、時間の経過とともに枯葉などに埋まってしまうから。


 そういったデリネーターは時間の経過とともに魔力を宿し、廃道探索家達を引き寄せる。


 魅了された者は足を止め掘り起こしてしまう。魔物といっても過言ではない。


「そうね、輝かせることならできるわ」

「人やモンスターが来たらやってみて欲しい」

「やってみる」


 今はここから動くことが先決だ。人が来れば移動できるし、モンスターが来れば魔石が手に入る。


 この場で議論ばかりしていても何も進まないし、女神が言っていた救世主にだってなれない。


「この街道って、どれくらいの頻度で生き物が通るんだ?」

「そうね、ここ数日は人をよく見るけど、それまでは10日に1回くらいしか見かけなかったわね」


 そんなに通行人が少ないなんて、ここは辺境か過疎地域なのか?


「この作戦はダメかもしれないな…」


「いや、待って誰か来るわよ。運がいいわ」

「運がいい?俺たち2人合わせれば幸運が200になるな」


「それよ!私もこんなすぐ人に会えるなんて、おかしいなって思ったもん」


 街道の左から現れたのは家財道具を荷車に乗せた家族のようだった。

 痩せたロバが荷車を引き、老夫婦と2人の姉妹と思われる女の子たちがとぼとぼと歩いていた。


 姉妹の両親と思われる者の姿は見当たらない。衣服も汚れてボロボロなので、村が襲われて一家で避難しているといった感じだ。


「リリス、いまだ輝かせて」

「任せて!」


 彼女がスペルを唱えると石が輝きだした。


「その魔法はスペルが必要なんだな」

「黙ってて」


 先月、観光特急しまかぜに乗って鳥羽へ行ったとき、真珠工場を見学したが、そのとき見た真珠の輝きにそっくりであった。


 俺たちは悪魔が封印された石ではなく、美しく光り輝く石になりきった。


 この輝きに気づいたのは一番ちいさな女の子だ。おそらく妹だろう。

 背丈は5歳程度に見えるが、この世界の栄養状況を考えると8歳くらいの可能性もある。


「綺麗な石みつけた!」


 食いついた、第一段階クリアだ。


「プレイサ、見てみて綺麗な石拾ったよ」

「普通の石じゃない、アリア」


 ――ヤバイ、リリスの魔力が尽きたか…、まだ魔力が残ってるなら少し抑えろ

 ――わかった抑える。でも、その辺の石よりは目立つように努力するわ


「おかしいな、さっきは輝いてたのに…」

「その辺の石よりはキレイな色だけどね。大切に持ってなさいな」

「うん!」

 

 アリアは石をポケットに入れた。

 作戦成功だ。


「リリス、これはどこに向かってるんだろうな?」

「私に聞かれても分からないわよ」


 俺たちは街道を右方向、西へと進んだ。

 アリアは時々俺たちをポケットから出して眺めていたが、見るたびに輝きが落ちていることをに疑問を持ち始めていた。


 日も西に傾いたころ、石の輝きはほとんど失われていた。


「リリス、そろそろ限界か?俺の魔力20も使えるようだったら遠慮せず使えよ」

「もう使い切ったわ」


 勝手に使うのはやめて欲しい。

 アリアは俺たちを急に顔の前に近寄せ、じっと見つめている。何かに気づいたのだろうか?


 俺たちは普通の石ですよ!


お願いだからバレないで!バレても捨てないで!

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