表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/60

19 、屋敷に隠された古の記憶と謎の魔女

 キッチンは火災でも起きたような黒煙に包まれていた。

 中からは咳き込む2人の声。


 フレデリカに連れられ、中に入ってみるとアリアとプレイサはしゃがみ込んで苦しんでいた。

 不完全燃焼を起したわけじゃないので、一酸化炭素中毒の心配はなさそうだ。

 フレデリカは呼吸をしないので、咳き込む様子もなく窓を開け換気しはじめた。


 黒煙を出していた食材は、かまどから離されていたので新に煙がでるといった心配はない。

 その横には、元の食材を特定するのは困難なほど焦げた何かがあった…。


「いい感じに焦げてますわね…」


 味見が専門のフレデリカも少し呆れた様子だ。


 部屋の換気は意外と早く終わった。鳥タイプの式神2体が戻って来たので、羽をばたつかせ換気を手伝ってくれたのだ。

 落ち着いたところで、プレイサに事情を聞くことにした。


「確認したいんだけど、プレイサは料理ができるのか?」


 これは基本的な質問だ。

 もしできないのなら、なぜ挑戦したのか理由を聞いてみたい。


「料理は上手じゃない…」


 と短く答えたプレイサに、妹のアリアが足りない言葉を補ってくれた。


「プレイサは料理好きで、やり方を丁寧に教えればその通りに作れるんです。初めての見る食材は、調理方法が分らないのでこんな事になるのです」


 これはアリアも同じらしい。

 フレデリカは味見専門。結局、体を持っている者は誰も料理ができないということが判明した。

 考えてみれば、今までは俺たち以外の誰かが料理を作っていてくれたのだ。

 

「リリスは料理…」

「んなもん作るわけないでしょ。こう見えてわたくし、昔はお城に住んでいたこともございますのよ。オホホホ。自分で作るなんてあり得ないわ」


 俺が話している途中でリリスは言葉を重ねてきた。


「ですよね…」


 となると俺しかいないな。

 廃道探索ではテントに泊まることもある。そこで俺は最低限の料理は作れるようになっている。レトルトがメインだが…。

 ただ、この世界では体が無いので調理できない。


「それだったら、作るイメージをアリアとプレイサに送ればいいじゃない」


 俺の心を勝手に読んだリリスがアドバイスしてくれた。

 確かに手順を丁寧にイメージで送ればうまくいくかもしれない。


「それじゃ調理手順を送るからその通り作ってくれ」


 使用する食材は、ジャガイモ、ソラマメ、牛乳、干し魚で、それをスープにしてパンと一緒に食べるシンプルなものだ。

 香辛料はキッチンに揃っている。牛乳はカピトラで分けてもらった物で、気温の低い冬季のみ持ち運びができる。

 2人とも調理の手伝いは慣れていたので、今のところ順調に進んでいる。

 フレデリカは手持無沙汰そうに眺めているだけだったので、フェニックスを使ってパンを温めてもらうことにした。


「完成ですわね。パンもいい感じに温まりましたわよ」


 調理をはじめて30分、ジャガイモスープは完成した。

 早速、料理をダイニングへ運び、みんなで食べることにした。

 俺たちも小皿に乗せられ、ワイン、スープ、ワインの順で浸され、石が吸収したものを味わった。

 試しにパンもチャレンジしたが、こちらもうまく吸収できた。

 すでに司教を2人と多くの石類を吸収してるので、パンも成功するだろうとは思っていたけど。


「美味しいですわね。賑やかな食卓は500年ぶりですわ」


 リリスの200年間封印も驚きだが、フレデリカは覚醒した状態で、その倍以上あの洞穴に閉じ込められている。


「自分で作ったものは美味しい」

「教え方が上手だったので、うまく作れましたね」


 プレイサとアリアも満足そうな顔をしてスープとパンを食べていた。 

 俺たちの皿にも、おかわりのワインとスープが次々に注がれ足される。

 スープがなくなった頃には、リリスはすっかり出来上がりオッサンと化していた。

 

「アリアちゃ~ん、ワインおかわりだ!フレデリカは脱げ!プレイサは、わらわの足を舐めるのじゃー!」

「断る!だいたい、今のお前に足はない…」


 プレイサは両手でテーブルを叩き、即答で拒否。


 そしてアリアは俺に目配せしてきた。あれは「どうしましょうか?」という視線だ。

 今日はエスターシアに入れためでたい日なので、あと一杯は許すという意思を送ってみた。

 以心伝心だっけ、なんか俺も酔っていて、その四字熟語が適切なのかよくわからないが…。

 だが、アリアは分かってくれたようで小皿にワインが注がれた。


 リリスが泥酔してダウンしたところで、ささやかな宴は幕となる。


 食事が終わった後は風呂なのだが、思った以上に浴槽が広く、あったまるまで時間がかかりそうなので屋敷の中を探索することにした。

 ちなみに湯を沸かすのはフェニックスの役目だ。

 泥酔状態のリリスが指示を与えていたが、フェニックスは酔いつぶれてる主を見て「やれやれ」といった感じで釜に向かっていった。

 あとでお詫びに魔石を与えておくとしよう。


「ここがわたくしの部屋ですの、どうぞお入りになって」


 二階に移動した俺たちは、当時フレデリカが使っていた部屋に案内された。

 公爵令嬢の部屋ということもあって、広めの部屋になっている。18畳はあるだろうか?

 暖炉の熱で壁が温まっているため、部屋も比較的温まっている。

 

 現在は客室として使っているのか、当時使っていたベッドに加え、キングサイズのベッドも置かれている。


「今日はこの部屋に泊まりましょう」


 次に案内されたのは両親の寝室だ。ここには不気味な絵画があるらしい。

 部屋の広さは20畳ほど、公爵様の部屋というだけあって屋敷の中では一番広い。

 問題の絵画は、本棚の隣に飾られていた。


「この絵なのですが、目が光ることがあるのです」

「呪いでもかかってるのかしらね」

「お前、起きてたのかよ」


 酔いつぶれていたリリスが蘇ったようだ。


「アキト~、スキルで絵を見たら何か分かるんじゃない?」

「そうだな」


 アリアにお願いして、俺たちを絵の前に移動してもらった。

 キャンドルの光に不気味に照らし出される老婆の絵。なんだろうか、今にも動き出しそうなほど不気味だ。


 俺は精神を落ちつけて絵の記憶を探りはじめた。

 この絵が今までに見てきたものが走馬灯のように流れてゆく。

 途中で幼少期のフレデリカも出てきた。

 絵は相当古い。800年ほど前に魔女によって作られた物で、描かれているのは…。


『探っているのは誰じゃ?』

「うわーーー」「ギャーーー」

 

 突然、視界の左側からドアップの老婆の顔が現れたのだ。

 ホラー映画さながらのシーンに、俺とリリスは思わず叫び、誤ってスキルを終了させてしまった。


「チビっちゃったじゃないの!死ぬかと思ったわ。なによ、あのお化け!!」

「マジでビックリしたぞ。あれは、絵に描かれている老婆だな」


 体を持ってないので、実際にチビったわけではないが、幽霊やお化けが苦手なリリスにとって衝撃的なシーンだったようだ。

 3人とも絵の老婆に視線を向けると、かすかに目が光っている。


「め、、、目が光っていますわよ」

「剣で斬っていいか?」

「姉さん落ち着いて!これ、フレデリカさんに反応してるんじゃないかと思うのです」


 常に冷静なアリアは、怪奇現象が起きても動じず、じっとその原因を探っていたようだ。


 確かに絵の記憶の中で、目が何度か光ってるのを見た。その時、絵の前にいたのは少女だ。もちろんフレデリカも含まれている。

 声をかけられる直前に見えたのは、老婆が絵に魔法を唱えているところで、その後ろには鏡が置かれていた。


 俺は、今見たことをみんなに話してあげた。


「わたくしも居たのですね。他の少女も一族の者でしょうね」


 その可能性は高いと思う。顔つきがみんな似ていたのだ。

 一族の少女に対してのみ目を光らす不思議な絵。描かれている老婆は生きているんじゃないかと思えるくらいだ。

 だとすると…。


「この絵って、老婆が自分自身を封印したんじゃないか?」

「そんな事ができるのって魔女しかいないわよ。何か契約でもしたのかしら」


 落ち着きを取り戻した俺たちは絵の裏側を見ることにした。

 何かまじないや、呪文を書くとすれば裏側が多い。


 絵を取り外して見てみると、消えかかっているが血文字が見えた。

 それは古代魔法の文字に酷似しているので、リリスが調べることに。


「リゲルの記憶を探してるんだけど…、残念だけど該当する文字はないわね。近いものはあるのよね」


 分かる範囲で当てはめてみると、守護するという意味の文字が含まれているようだ。


「誰を守護するのか分かりませんわね。でも、この家にあるのですから、わたくしの一族でしょうけど」

「その可能性は高いと思う。アキトのスキルを使ったら、もう少し分かるかもね」

「魔力が少ないから、これで最後だぞ」


 探索スキルは意外と魔力を使う。さっきは、わりと深いところまで見れたので、かなり消費した。


 俺は血文字の記憶を探るため再びスキルを使用した。

 見えてきたのは本棚だ。周囲の様子からすると、この部屋に備え付けられているものに違いない。

 一冊の本を動かすと隠し扉が出てくる。わりとメジャーなカラクリだ。

 奥の部屋は6畳くらいだろうか、ロウソクの灯りに照らされた不気味な老婆と男性が羊皮紙に自らの血でサインをしている。

 血の契約といったところか。


 男性の方を向いていた老婆が、突然視線を俺たちに向けてきた。

 探っていることに気づいたのだろう。老婆は何かを詠唱し、直後、右の手のひらを開いて俺たちの視覚を塞いだ。

 視界が真っ暗になると同時にスキルは強制終了となった。


 記憶を探っている途中で拒否されたのは初めて。


「あの男性、どこかで見た気がするな…」

「階段にあった絵の男だわ、飾られていた位置からすると一番古い奴ね」


 リリスはいい加減なように見えて、重要なところはしっかりと見て覚えている。

 視覚を彼女と共有しているので、俺も見ているはずなのだが、記憶力に関しては彼女の方が良い。


 次にやるべきは、映像に出てきた隠し部屋探し。


「どうやら、隣に隠し部屋があるようだ。そこに行ってみよう」

「そんな部屋がございますの?初めて知りましたわ」


 本の並び順は信じられないが当時と同じだ。

 この世界は、古い時代から紙がある。ただ、あれだけの年数が経過しているので、酸化や虫食いで傷んでいる可能性が十分に考えられる。


「この本ね」


 リリスが言って、アリアが本を手前に引っ張ると、紙が破ける音と共に分厚い表紙を残して本が崩れてしまった。

 やはり傷んでいた。

 崩れた紙をどけてみると針金が見えてきた。これを引けば扉が現れる仕掛けなのだろう。


「プレイサ、この針金を引っ張ってくれないかしら?」


 リリスに指名されたプレイサが力いっぱい引っ張ると「ミシミシ」という音と共に本棚が少しだけ動いた。

 本当はもっと動くはずなんだろうが、カラクリが老朽化して動きが悪くなっているに違いない。

 プレイサは力を入れ本棚を横へ押すと古めかしい扉が見えてきた。

 ドアノブの辺りは絵の裏と同様、血で書かれた文字が見えている。


「これはフレデリカが触れた方がいいんじゃいか?」

「そうですわね」


 と言って、彼女がノブに触れると少し光を放った後、扉が開いた。

 中は暗闇になっているが、ロウソクが幾つかあったのでキャンドルの火をつけてやる。

 すると映像で見たのと同じ雰囲気の部屋となった。

 

 老婆と男性がサインするのに使っていたテーブルの上に、赤色の宝石がはめ込まれたネックレスが、古めかしい人形にかけられていた。

 隣には金属製の小箱が置かれている。


「懐かしいですわ。このお人形は私が使っていた物です。ネックレスは母が身につけていましたわ」


 金属製の箱は、父がフレデリカにプレゼントしたオルゴールで、開くと優しい音色が部屋に響き渡った。

 フレデリカが幸せだった頃の思い出の品々。彼女の目尻からは氷の粒が落ちている。

 それはテーブルの上で跳ねて光の届かない床へ消えて行った。


「さすがは雪の精霊ね、涙が凍ってるわ…」


 言った後、リリスはオルゴールの下に、二つ折りにされた紙を見つけた。

 アリアに言って見せてもらう。


 それは彼女の父が残したフレデリカ宛の手紙だ。


 そこには、意外なことに、フレデリカが古代魔法を使うアカーシャ達に連れ去られ、行方知れずになった事が書かれていた。

 もし、精霊に改造されて生きながらえているのなら、妻のつけていたネックレスをつけるようにとあった。

 これはいにしえの魔女との契約によって作られた物で、身につけることによって悪しき者たちから身を守ってくれるようだ。

 フレデリカにつけさせていれば、こんな事にはならなかったはずと後悔の念が綴られていた。


 魔女とはあの老婆のことだろう。

 何故に魔女と契約する必要があったのかなどは書かれていない。

 謎解きをしたつもりが、逆に増えてしまっている。


「アリア、ネックレスの赤い石に近づけてくれないかしら」

「いや、近づきすぎてこの石に吸収されたらまずいだろ?少しだけ距離を置いた方がいい」


 アリアは俺の指示通り、少し距離を置いた位置で止めてくれた。

 

「凄い霊力の石だわ。これを身につけたらフレデリカの霊力の回復が早まるんじゃないかしら」


 リリスの鑑定から察するに、ゲームでいうところのレアマジックアイテムといったところか。

 早速、ネックレスをつけることにした。


「どうかしら、似合ってます?」


 フレデリカがそれを身につけるとお姫様のようにも見える。元が公爵令嬢なので当たり前だが…。

 装着時、体からエフェクトが発生するなどの現象は全くなかった。


「十分似合ってるよ。お姫様のようだね」

「まあ、アキトさんはお世辞がお上手ですこと…」


 この部屋での戦利品は、魔法のネックレスとオルゴール、古びた人形、父の手紙の4品。

 全てフレデリカの思い出の品なので、当然だが彼女が持って行くことになった。


  ◇ ◇ ◇


 屋敷の探索を終えた俺たちは風呂に入ることにした。

 浴室に入り湯加減を調べるとベストな温度だ。

 これも全てフェニックスのおかげだ。式神の使い方を誤ってるような気もするが、主がアレなので仕方ない。


 風呂は広いので、3人一緒に入ることになった。

 雪の精霊が湯に入れば、凍ったり、逆に彼女が熱で融けるんじゃないかと心配したが、問題は起きなかった。


「500年ぶりのお風呂は最高ですわ」

「私も200年ぶりかしらね」


 俺は一週間ぶりのお風呂だ。この石はあたかも湯につかっているような心地よさを俺たちに感じさせてくれる。

 逆に雪の上に落とされると寒いわけだが…。


「しかし、双丘の胸のからの眺めはいいわね。私はもっと大きかったけどね」


 さりげなく自慢を入れてくるリリス。


 俺たちは、フレデリカのふくよかな胸に乗せられて入浴している。正面では、アリアとプレイサが湯につかっていた。

 湯は温泉ではなく普通の水を温めただけだ。透明度があるため2人の体型が嫌でも見えてしまう。


 アリアは栄養不足もあって痩せたままだ。テハスでお金を稼いでもっと食べさせてやりたい。

 プレイサも第二次性徴期に入ってるはずだが、やはり痩せ気味だ。

 剣術を極めるためにも、もっと食べる必要がある。

 フレデリカはプレイサよりも少し年上なのだろう。成長期は令嬢だったので女性らしい曲線の美しい体形になっている。

 成長が止まっているので、体型だけは永遠に15~6歳だ。


 風呂を出た後は、フレデリカの部屋で寝ることになった。

 夜は冷えるが、寝る前に暖炉を見たら火が消えかけていたので、フェニックスに交代してもらい家の中はとても暖かい。


 明日はフェニックスに必ず魔石を与えようと心に誓って、寝ることにした。


明日はいよいよテハスだよ!

村の人達は無事についたのかな…。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ