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18 、感謝と別れ

本日から第二章、エスターシア編に入ります。

この国は、デシューツの北側に接しており、エスターシア侵攻作戦が練られているところです。

エスターシア側も計画は知っており、対抗策を考えてるところにアキト達が入国します。



 なぜ、リチャードが俺たちの正体を知っているのかと思ったら、アリアが全て話したようだ。


「ごめんなさい。全てお話ししました」


「いや、黙っていた俺も悪いんだ。実を言うと、アリア君にかけられた魔法なんだが、ディクソンに到着する前に解けていたんだ…」


 リリスは気を利かせて、俺が頼む前に声の魔法をかけてくれた。


『アキト、話せるわよ』

『助かる』


 俺はリリスに軽く礼を言って、アリアを介してリチャードと話すことにした。


「それなら、ディクソンで俺たちの正体をバラせば、ここまで危ない思いをせずに済んだのに、なぜ黙っていたんです?」


「幾つか理由はあるが、俺はあの仕事が嫌いでね…」


 彼は潜入して仲間を騙し、スパイ活動するのが性に合わなかったらしい。

 確かに、ニセの指令書で護送隊の指揮官に仕立ててから、彼はイキイキと職務をこなしていた。

 本来はあのような仕事が好きなのだろう。

 

「それに教会のやり方も気に食わない。教会ってのは助けを求める人たちを救ったり導くために存在すると俺は思ってる。しかし、奴らは搾取して人を不幸にする」


 その意見は俺も賛成だ。デシューツのあれは教会ではない。


 悪魔のリリスが嫌うのだから、悪魔以上に邪悪な集団と言ってもいいだろう。デシューツ悪魔協会とでも改名した方がいいと思う。


『プププ、それなら私が協会の会長をやるわ』


 俺の心を勝手に読んだリリスが茶々を入れてきた…。


「だからニセの指令書に騙されたことにして、奴らから逃がしてやりたかったんだ」

「そういう事か。それなら、これからもよろしく頼むよ」

「いや、俺の仕事はここまでだ」

「え?」


 予想外の答えに、俺は少し戸惑った。

 理由は、彼は国に仕える軍人なので、エスターシアには入れないということなのだ。

 それで、俺たちに同行することを拒んだ。

 

「ここから先は君たちだけでも十分だろ?どう考えたって俺が一番足手まといだ。一番人に近いプレイサだって、俺より剣術は上なんだぜ?」


 人外扱いされたプレイサが抗議の視線をリチャードに向ける。とても不服そうな表情をしている。


「大悪魔・雪の精霊・大魔術師の子孫に、女神が異世界から拉致ってきた廃道探索家だっけ?そんな中に一般人の俺が入れるわけがない」


「そう言われたら返す言葉も無いよ…。でも、だからこそ、人であるあなたが俺たちを先導してくれた方が助かるのですけど?」


 それにリチャード以外は見た目がまだ子供だ。1人、保護者的な大人がいてくれたほうが正直助かる。


「それは理解するが、国を裏切るわけにはいかないんだ。妻や娘が眠る地から離れられない…」


 彼の意志は固そうだったので、説得はここまでにした。


「わかりました。ここまでありがとうございました。また機会があればお会いしましょう」


 俺は最後に自分で自己紹介を行い、リチャードと固い握手を交わした。

 

  ◇ ◇ ◇


 俺たちはリチャードと別れ、峠をテハスに向け下りはじめた。


 2頭いた馬のうち1頭は彼に渡して、物資も分けようとしたのだが「鉱山の警備をしている同胞に分けてもらう」といって固辞された。


 鉱山は壊滅状態だったが、軍の警備兵用の屯所は無事なので、なんとかなるだろう。

 人生で一度くらいは、あんなかっこいいこと言ってみたい…。


 俺がリチャードだったら「お願いですから食料を分けてください。馬も無いと死んじゃいます」と言って泣きつくに違いない。


 そんなことを考えていたら、リリスに再び心を読まれていたようだ。


「あんたには私がいるんだから心配しなくていいのよ。ちゃんと養ってあげるって!」


 悪魔に養ってもらう俺ってどうなんだろうか…。

 

「リチャードさん、奥さんと娘さんが亡くなってるとおっしゃってましたが、私って娘さんに似てたらしいのです」


 彼の娘が生きていたとしたら、アリアと同じくらいだったらしい。

 俺たちについてきた理由を彼は話してくれたが、これが本当の理由かもしれない。

 アリアが安全にデシューツから出るまで護衛をする、といった感じだろう。

 

 ちなみに、妻と娘は魔女の疑いをかけられ、5年前に亡くなったそうだ。

 彼は軍人であったため、国と関係のある教会には逆らえず、何もできなかった。

 それも教会が嫌いな理由の一つだろう。


「あの国に住んでたら不幸なことしか起きないわね。エスターシアに移動して正解よ」


「これ以上、不幸を世界に広げないためにも、俺たちが力をつけて教会や王を倒さないと!全て終われば俺も元の世界に帰れるはずだしな」


 俺たちは全て念話で話しているので、話し声は外には漏れていない。

 寡黙な3人が馬を引き連れて歩いてるようにしか見えないだろう。


「私は牛丼が食べたいから、あんたについてくけどね」

「わたくしもご一緒させていただきますわ」


 そんな雑談をしているうちに日は沈み、夜の帳がおりつつあった。

 テハス村までは、まだ距離があるので少しでも明るい間に泊まれそうな場所を探すことにした。


「そういえば、わたくしの家の別荘がこの辺りにあったはずです」

「500年前の建物はさすがに残ってないんじゃないか?残骸ならありそうだけど…」


 俺の世界にも数百年前の石造りの屋敷や城なら残っているが、個人宅やホテルなど管理されているものばかりだ。

 放置された建物は石造りであっても住める状態のものは少ない。

 

「確か森を抜けたあたりに…」


 峠からは、かなり下りてきているので雪も少なく道筋もはっきり見える。

 別荘へ向かう道は今も使われている形跡があった。

 そして森を歩くこと20分(体感)別荘は確かに存在していた。


「ここですわ。少々くたびれてますけど、ちゃんと残っていたのですね。うれしいですわ」


 しっかりとした石造りで、屋根も残っているので定期的に管理されているのだろう。

 中に入って泊まれるのなら助かるのだが、どうだろうか…。建物に人の気配は全くない。


「誰も居ないし、どうやって入るんだ?」

「ふふふ、我が家の者しか知らない秘密の入口があるのです」


 フレデリカは自慢げに言って俺たちを建物の裏手に案内した。

 そこには炭焼き小屋や納屋、井戸、馬小屋があり、井戸に向かって彼女は歩いて行った。


「ここが秘密の出入口ですわ。裏口の扉を開けますから、馬から荷物を降ろしてお待ちくださいな」


 幸い梯子は腐っておらず、令嬢らしからぬ動きで下りて行った。

 俺たちは裏口へ行き馬から荷物を降ろしたあと、馬を小屋へ連れて行った。


 しばらく待っていたが、扉は開く気配が全くない。

 日は完全に沈み辺りは暗闇に包まれたが、俺たちの横にはフェニックスがいるので、それなりに明るい。


 しかし、森からは時おり動物の鳴き声や、パキッという枝が折れる音が聞こえてくる。夜の森は不気味さは半端ない。


「おっそいわね。フレデリカは何やってるのかしら。もうドアを吹き飛ばしましょうよ」

「いや、それはダメだろ。お前がやったら建物が吹き飛ぶ」


 とその時、扉の鍵の部分が氷が割れるような音と共に砕け落ちると共に、フレデリカの靴が見えた。

 足蹴りで鍵の部分を吹き飛ばしたようにも見える。


「お待たせしましたの」

「フレデリカ、鍵はどうしたんだ?これ破壊して大丈夫なのか?」

「昔と鍵の開け方が変わっていたので、魔法で凍らせて足蹴りで砕きましたの」

「・・・」


 足蹴りとは…、彼女は、おてんばな令嬢だったのだろうか…。


 それと、凍らせるという方法は面白い。確か液体窒素でマイナス200度にすれば鉄は割れるはずだが、魔法でそこまで下げれるとは驚きだ。


「どうぞ、お上がりになって」


 別荘は石造りの二階建てで、暖炉も完備していた。

 予想外だったのは、風呂まであったところだ。


 エスターシアは昔から風呂に入る習慣があったそうで、貴族の家には必ず備え付けられており、風呂を持てない者向けに公衆浴場も整備されている。

 

「懐かしいですわね…」


 フレデリカは二階へ上がる階段に飾られていた肖像画の前に立ち止まって、描かれている人物を眺めていた。


「父親か?」

「そうです」


 リリスの問いかけに、フレデリカは短く答えた。


 階段にはライドランド家代々の肖像画が飾られており、父の隣にはサイズは小さいがフレデリカそっくりの少女も描かれていた。


 おそらく本人だろう。

 今は青色の髪に透き通った白い肌だが、当時は金髪で血色のよい肌だったようだ。

 精霊石を埋め込まれるだけで、ここまで変化するとは思ってもみなかった。


 改造されている最中の痛みは想像を絶するものだろう。心の中に悪魔を作ってしまった彼女だが、それでも自我を保っているのは尊敬に値する。


 アリアとフレデリカが肖像画を見て感傷に浸っている間にプレイサは暖炉に火を入れ、ロウソクに火を灯し、カピトラで分けてもらった物資から食材を選んで調理を始めていた。


「おや、いい匂いがしますわね」

「いけない、任せておくと危ない!」

「今、危ないとか言ってなかったか?」


 アリアは俺の質問を無視し、フレデリカに俺たちを預け、キッチンへ走って行った。

 

「料理ができるなんて羨ましいですわ。わたくしは味見が専門でしたから」

 

 公爵家に生まれると、料理は使用人がするから味見が専門になるようだ。

 それで味見スキルが高かったわけだな。裁縫は趣味でやっていたというところか。


「フレデリカ、ちょっとキッチンへ移動してくれないか?嫌な予感がするんだ」

「わかりました。なんだか焦げ臭いですわね…」


 俺たちは足早にキッチンへ向かったのだが、近づくにつれて黒い煙が濃くなってきた。


「ゲホゲホ…」


 キッチンから2人の咳き込んでいる音が聞こえてきた。

 やはり、あのヲチか…。モザイク料理が出来上がってるに違いない…。


誰か料理できるやついないのかな?

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