17 、デシューツ脱出作戦10国境越え
プレイサが警告してくれたので、俺たちは咄嗟に岩陰に隠れた。
それは銃を持った2人組の巡回兵のようだった。
地面には雪が積もっているので俺たちの足跡が残って、いない?
『風魔法で足跡を消しておいたわよ』
『リリス様凄いですよ!、そうでしょう。もっと褒めてもいいのよ』
調子に乗られても困るので、褒めるのはここまでにしておいた。
しかし、この先に進むと俺たちの馬車がある。見つかるのは時間の問題だろう。
『リリスさ、麻痺の魔法を彼らに使ってもら…』
「ドサッ」という音と共に、兵士たちが気を失って倒れた。
『リリス様、仕事が早いですね』
『リリスさん助かりましよ』
フレデリカやプレイサもリリスを褒めたたえていた。
「いやー、司教様。仕事が早いですな。後始末はお任せください」
情報将校をやっていただけあって、気絶した者を縛って隠す作業は手慣れたものだった。
次は馬車の処分だ。戻った俺たちは、必要な荷物を馬に背負わせて、旧道よりも古い時代の道を探すことにした。
馬車は谷底に落とし、足跡は魔法で消したので、教会の奴らが来てもすぐに見つかる心配はない。
俺たちは、フレデリカが示した地点を目指すべく、山の斜面を登り始めた。
幸い、この辺りの傾斜は雪が積もっていても登れるくらいだったので、非常に助かった。
森林限界点には達してないので、麓よりは少し低いが木も生えているので、身を隠すこともできる。
斜面を登ること30分(体感)、80メートルほど登った付近で道らしきものを発見した。
「フレデリカ、この道に見覚えは?」
「まだ、わかりませんわ。少し進めば見たことある風景に出くわすかもしれません」
俺たちは道を進むことにした。
彼女によると、当時の道幅はもう少し広かったが、馬車を通すことはできなかったらしい。現在は1メートル程の幅になっている。
500年も経過すれば、雨風で道幅も削れて狭くなるなるだろう。
岩を削って作った道は、数百年経過しても平気で残っているが、土の斜面の場合はどうしても雨で流されてしまう。
放棄された道は、驚くほど早く自然に還ってしまうのだ。
ふと麓を見ると、大きく見えていた鉱山が、ずいぶんと小さくなっていた。
俺たちは鉱山のエリアから順調に離れつつあった。途中から徒歩移動となったが、追手が俺たちと同じ道を進んでいるなら既に捕まっているはずだ。
うまく撒けたのだろう。油断はできないが幾分気持が楽になった。
『あの鉱山吹っ飛ばしてやりたいわ』
突然、なんの脈略も無く、リリスが物騒なことを口にした。
ついに悪魔に目覚めたのだろうか。
『急にどうしたんだ?そんなことしたら大惨事になるぞ』
『だって、鉱山の中はオークでしょ。あそこの裏を見てみなさいよ』
鉱山から少し離れた裏側に、何かがうず高く積まれていた。リリスが気を利かしたのか、偵察の式神から映像が入って来た。
オークの死骸だ。
積まれていたそれは、オークの死骸だった。通常モンスターが死んだ場合は、魔石を残して消えるのだが、ここのオークは何故か残ったままだ。
鉱山の影響なのか、教会の仕業なのかは判然としない。
『モンスターだとしても、あんなゴミのように積んでるのって私は嫌だなー。だから、いっそのこと吹き飛ばそうかなって、ね…』
リリスは悪魔ではあるが、命を軽く扱う奴が大嫌いなのだ。相手が悪人の場合は命を奪うこともあるが、意味もなく大量に虐殺することは好まない。
その辺りは俺が知っている悪魔の概念とは異なっている。この世界に来て6日になるが、教会の方がリリスより悪魔的だと思う。
『わたくしも賛成ですわ。見るに堪えませんもの。よろしければわたくしの魔力を使ってくださってもよろしくてよ?』
『そんなこと言っちゃって大丈夫なの?遠慮なく使わせてもらうわうよ?』
話がどんどん進んでゆく。ただ俺は爆破に関しては賛同できない。
リリスの魔法は破壊力があり過ぎるので、二次災害を心配しているのだ。
一つの山が消えた場合、周辺の圧力のバランスが崩れて、他の山が崩れる可能性もある。それは大規模な自然破壊にもなる。
それに軍の兵士が巡回していたのだから、オーク以外にも人が居ることになる。彼らも巻き込むことになってしまう。
最小限の犠牲で、負の連鎖を断つという考えも確かにあるが…。
『でも、派手な爆破したら衝撃で雪崩が起こるぞ?それに他の山だって崩れるかもしれない』
『そんなの防御魔法展開すりゃいいじゃない。なんだったら、もう少し安全な場所まで進んでさ、フェニックスちゃんに私たちをくわえてもらって、上空から魔法を放つこともできるわよ』
少なくともフェニックスは目立ちすぎるので止めたほうが良い。
『それなら安全そうですね』
『確かにそうだな。やるならそれがいいな』
沈黙を守っていたアリアに加え、普段は話さないプレイサも加わり、攻撃派が多数を占めた。
あとはリチャードがどのような返事をするかだ。彼と同じ兵士もあそこにはいる。すんなり賛成するとは思えない。
「リチャード殿、私は神託によりあの鉱山を破壊しようと思います」
「はい?急にどうされたのです。司教様」
アリアは、先ほどリリスがしていた話をリチャードにした。
その話を聞いているリチャードの顔が徐々に厳しいものへと変わっていくのがよくわかる。
「確かにそうですな。鉱山の中は恐らくオークだけでしょう。監視役もオークにさせているはずですよ」
「人的な被害は少ないと?」
「多少は出るでしょうが、先ほど見た限り教会関係者が大半です。奴らなら自力でなんとかするでしょう。軍の関係者は周辺の警備だけのようでしたから、私としては別に破壊しても問題ないと思います」
国に仕える軍人なのに意外な返事であった。軍もいろいろと中で分かれていて、彼はこの鉱山とは全く関係が無いのだろう。
兵士が巡回している場所は、攻撃を加える場所から少し離れているので、リリスの意見に賛同している可能性がある。
「それと、隠れてこそこそやってるのが私は好きじゃないのです。どーんと破壊してやりましょう」
ついに反対派は俺一人になってしまった。いや、慎重派かな。
賛成が多数なのでそれに従うしかない。俺が懸念していたことが起きないことを願うばかりだ。
俺たちは少し安全な場所まで進んだあと、鉱山破壊作戦を開始した。
リリスは、フレデリカから魔力を融通してもらい半分程度まで回復している。
俺は同じ石に入ってるので、知らぬ間に魔力を盗まれて使われているケースもあるが、他人から融通に関しては初めて知った。
『全ての魔力を使うんじゃないぞ』
『わかってるわよ』
フェニックスではない、鳥タイプの式神にくわえられた俺たちは一路、鉱山を目指した。
上空から見ると、鉱山の規模はかなりの広さだ。
よく見ると教会の追手が到着している。
攻撃を加えるとしたらチャンスかもしれない。魔法を放つ場所を確認するために、少し低く飛ぶことにした。
教会の先遣隊と思われる奴らは10人、1人を除き標準的なローブ姿てある。
問題は残りの1人だ。
『リリス、あれリゲル司教じゃないのか?』
『外見は同じだけど別の個体ね、気の色が違うの』
悪魔は人から発せられる気やオーラを色で判別することができるのかも知れない。
リリスは、男のことを別個体と言ったが、司教が全てあの顔だとしたら間違いなくクローンだろう。
ただ、クローンであっても個々の気は異なる。どういった技術で作っているのかとても気になる。
アカーシャと名乗る古代魔法を使う集団との関係性もはっきりとしないし、謎だらけである。
その時、リゲルそっくりな奴と俺たちは目が合ってしまった。というより、俺たちに気づいたのだろう。
口を開き何かを詠唱し、手を俺たちの方へ向けた。
『リリス、補足されてるぞ!攻撃がくる!』
『わかってるわよ、先にぶっ放すわよ』
直後、リリスの破壊魔法が司教を貫き鉱山を直撃した。
鉱山のあった山は山体崩壊をお越し、多くの瓦礫が谷筋を覆いつくす。
その衝撃音と砂煙は俺たちも巻き込んだ。
『早くここから離れよう』
『わかってるんだけど、何かおかしいのよ。式神が反応しない』
おや?俺たちはくちばしの中のはずなのに、いつの間にか誰かの手の中にいる感じがする。
『俺たち、誰かに握られてないか…?』
『空を飛んでたのに、そんなはず……、あるようね。これはリゲルそっくりな奴だわ…。私たち捕まっているわ』
「ごきげんよう、捕まえちゃいましたよ。何ですかこの石は?式神を操る石ですか?面白そうな石ですね。ライルはこの石に興味を持ちましたよ」
ライルと名乗る男は、口を開けると俺たちを歯でかじり始めた。
とてつもない衝撃音が俺たちに響き渡る。
『おいおい、石が割れるんじゃないか?』
『さっさと吸収しなさいよね。封印石!』
「やけに硬い石ですね。一度でかみ砕けないとは恐れ入りました。オリハルコンより硬いということですね」
この石はオリハルコン以上の硬さがあるようだ。ミスリルよりも強度があるかもしれない。
ライルの歯の強度は、それ以上ということになる。化け物すぎるだろ。
男は口から俺たちを取り出して、まじまじと眺めはじめた。
砂煙が落ち着き、視界が戻って来たので視線をライルから移動させると、きれいな空が見えている。
『ここは空の上か?』
再びライルを見る。驚いたことに、彼は爆風のためか下半身が吹き飛んでいた。
なぜ飛んでいるのかというと、背中から悪魔のような翼を出して羽ばたかせていたのだ。
しかも下半身はゆっくりと再生している。
『リゲルと同じ不死身野郎じゃねーか…』
これはもう飛行系のモンスターと言っても過言じゃない。
防御Sクラスの石なので簡単には破壊されないだろうが、何度も噛まれたらどうなるか判らない。
今すぐに奴を吸収するか、攻撃を加えて逃げる必要があった。さてどうする。
『魔力の残量は?』
『四分の一よ。しかし、まずいわね。ライルにダメージを少しでも加えないと、石がうまく吸収できないみたい。魔法抵抗が高いのでしょうね』
リリスの話だと、この石は魔法を使って吸収をしていることになる。魔法抵抗の強い相手が現れた場合は吸収するのが困難ということになる。
リゲルは幸いその抵抗が低かったのだろう。
「さてさて、石の中には何が入ってるのでしょうね。興味深いです。砕いて調べる必要がありますね」
男は再び口を開き、同じことを繰り返した。二度三度繰り返した時、ついにヒビの入る音が響き渡った。
「やっとヒビが入りましたね。中から漏れ出す濃厚な魂の匂い。何故か女神様の香りもするじゃありませんか。食べてしまいたい…」
魂を食らう司教なんて聞いたことない。こういう奴は早く始末しないと、罪もない人たちが犠牲になってしまう。
こんな人々を苦しめるような教会は絶対に認められない。
『リリス、効果があるかどうか分からないが、口の中に入った時に破壊魔法を使ってくれないか?俺も同時にスキルを使う』
『いいけど、破壊じゃなくてどんぐりメテオを使うわ』
『え?』
どんぐりメテオって流星だっけ?ゲームでは攻撃系の魔法として使われていたような気がするが…。
『リゲルが研究していた魔法よ。効果は不明だけどね』
ライルは口を開き俺たちを中に入れた。
『今だ!』
リリスのどんぐりメテオが放たれ、俺は同時にスティールスキルでライルの魂を盗むことにした。
ライルに物理攻撃は通じない。一時的に体は破壊されてもやがて再生する。細胞単位まで破壊すれば倒せるのかもしれないが、リリスと俺の魔力がそこまで持たない。
だとしたら、こいつの魂に相当するものを盗めばどうだろうか。こいつは魔石で動くタイプじゃないので、何か原動力になるものがあるはず。
ダメもとで盗んでやる。
さてどうだ?
おや?
少し時間が経過したが、噛んだ衝撃が伝わってくる気配がない。
石の周りを見ると、薄い霧のようなものに包まれて視界がきかない。
『黒松明人はレベルが上がりました』
『スティールのレベルが上がりました』
成功だ。
『アキト、成功よ!』
それから1分もしないうちに石はライルを吸収した。
落下してゆく俺たちをキャッチしてくれたのはフェニックスだった。
鉱山は山ごと姿を消し、魔素の石で作られたモヤも全て瓦礫の中。
教会の奴らは全滅し、周辺を警備していた軍の奴らは突然の出来事に驚いている様子だ。
怪我をしている者も見受けられたが、動けるようなので命に別状はないと思われる。
教会の追手も始末できたし、これで間違いなくデシューツを脱出できる。
俺たちはアリアの元へ向かうことにした。
◇ ◇ ◇
アリアと別れた場所には誰の姿もなく、足跡が残されているだけだったので追うことにした。
誰かに捕らわれたのではなく、少しでも時間を稼ぐために移動したのだろう。
道は細く、ところどころで途切れているが、うまく迂回した跡が残っていた。
アリア達は国境となっている峠で待ってくれていた。
俺たちに気づいた4人が手を振っている。みんな無事でよかった。
フェニックスがアリアの手の上に俺たちを置くと、リチャードが話しかけてきた。
「お帰り、アキト君、大悪魔リリス」
なぜ俺たちの正体を知っているのだ?
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名 前:黒松明人
種 族:石
職 業:廃道探索家
レベル:10
経験値:866
体 力:110/110
魔 力:95/95
幸 運:100
知 性:F
戦 術:E
速 さ:F
防 御:S
器 用:F
スキル:念斬りE・スティールD・探索A・吸収C・イメージE
称 号:爆弾魔
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