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14 、デシューツ脱出作戦7 人工精霊

「この少女は一体?」


 リチャードは少女を見て思わずつぶやいてしまった。


 驚いたことに、リチャードやアリアにも見えていたのだ。

 足もあるので幽霊には見えない。


 透き通った肌に薄いブルーの髪を持つ少女。幽霊ではないとしても、人にも見えない。

 だとすれば精霊なのだろうか。


「私が話しかけてみましょう。お嬢さん、どうして泣いているのですか?」


 彼女はアリアの問いかけに答えず泣き続けている。

 

『アリア、俺たちを彼女に近づけてくれ』

『はい』


 袋から取り出された俺たちは、アリアの手に乗せられて少女に近づいた。

 スキルを使って彼女が何者なのか調べることにした。魔力が限られているので、深いところまでは見れないだろうけど…。


 俺は彼女の横顔をみつめて意識を集中した。やがて見えてきたのはお城のような建物だ。


 これは今から500年前のできごと…。


 この子はフレデリカといって、ライドランド公爵家の令嬢のようだ。幼少期は幸せそうな生活を送っている。

 問題は彼女が大きくなって婚約をしてからだ。


 お相手は、ジョージ・タラク王子。婚約が決まり2人は付き合い始めた。

 しかし、王子を狙っていた令嬢は他にも居たのだ。

 フレデリカは結果的に罠に嵌められ、婚約者の座から引きずり降ろされる。


 彼女を罠に嵌めたのはケイト。クラカマス公爵家の令嬢で、フレデリカとは親友だったが、王子との婚約が決まってからケイトの態度が一変する。

 そして気づいた時には牢獄送り。よくある公爵令嬢もののお話と似ている。


 本人は何が起こったのか理解できないまま獄中の生活が始まる。

 そんなある日、彼女の牢獄前にケイトが現れこう言った。


「命があるだけありがたいと思いなさい」


 この時やっとフレデリカは理解したのだ。全てはケイトの策略だったと…。

 彼女はその後、牢から出され密かにディクソンの森に連れていかれ、捨て置かれた。

 牢獄では命を奪わないけど、あとは野垂れ死ぬなり好きにしなさいといったとこだ。

 見知らぬ森で少女が、しかも公爵令嬢が1人で生きて行けるはずもなく、数日のうちに彼女は力尽きた。 


 彼女は最後の力を振り絞り空を見た。「こんな仕打ちをするなら、牢獄で死刑にされたほうがよかった…」ケイトに恨みを抱きながら暗い闇へ沈んでいった。

 通常なら彼女の物語は終わるのだが、ここはとても残酷な世界。物語には続きがある。


 フレデリカが捨て置かれた場所がとても悪かった。

 そこは、リゲル司教が研究をしていた古代の魔法を使っている奴らの末裔が暮らしていたのだ。

 奴らは自らの集団をアーカシャと名乗っている。


 この洞穴群はアーカシャ拠住地すまいだったのだ。


 衰弱して意識を失った彼女は、アーカシャに捕らえらえた。

 森で拾った素性も分からない少女を奴らが放っておく理由はない。

 目を覚ましたフレデリカを待っていたのは更なる苦痛であった。

 罪人から実験体となり果てた彼女は、多くの実験の後、最終的に古代の精霊へと改造されてしまう。


 当時、アカーシャを含む古代魔術を扱う者たちは、現代魔術や軍を持つ国家によって淘汰されつつある存在であった。

 とても残忍で、悪魔や邪神を崇拝するため、討伐対象になってしまったのだ。多くの国が協力して連合軍を創り、奴らと戦い勝利をおさめた。

 危機感を募らせたアカーシャは自分たちの復権のため、道具として、武器として精霊や邪神の復活を試みた。

 多くの人体実験を行ったが、その犠牲者の1人がフレデリカなのだ。


「なぜ、わたくしだけがこのような苦痛を味合わなければならないのでしょう?この世界はひど過ぎます」彼女は世界に対して恨みを抱き始めた。


 アカーシャ達はフレデリカの精霊化に成功したが、実用段階に入る前に連合軍と戦い破れてしまう。

 敗走前、彼らは施設の入口を破壊し精霊を隠した。後の時代、子孫たちがこれを使ってアカーシャを復興してくれることを願い…。


 そしてフレデリカは500年振りに俺たちによって発見された。


『なんかすごく重い気分なんですけど。おとぎ話かと思って見ていたけど、実際に起きた出来事なのね…』

『この子、どうすればいいんだ?人工精霊だぞ』

『あのー』


 アリアが何かを思い出したようで、俺たちの話に割って入って来た。

 彼女はリリスの魔法で、俺が見ている過去の映像が見れるようになっている。

 姉は魔術師ではないので見ることができない。


『ライドランドって、私たちが目指してるテハス地域の領主ですよ。そしてジョージ・タラクは、多分カトマイ・タラクの縁者だと思います。そしてケイト・クラカマスは、ラフィエル教の大司教がクラカマスのはずです』

『えっ!英雄王ってタラクって名だったの?』

『知らなかったのかよ…。しかも大司教がクラカマスって…』

『信じられないけど、全部繋がってるわね』

 

 俺も残酷な昔ばなし程度の気持ちで過去を見ていたのだが、ここまで繋がっているとは思わなかった。


『リリス、また声の魔法頼むわ。俺が話しかけてみる』

『わかった』


 確認したいことがあったので、リリスにお馴染みの声魔法をお願いした。


「フレデリカさんですよね?」


 その名を聞いた彼女は泣くのを止め、アリアの方に視線を移した。

 泣き続けていた目は真っ赤になっている。何年泣き続けたのかは知らないが、よく涙が枯れなかったなーというのが正直な気持ちだ。


「あなたはケイトさんに裏切られて、そして森に捨てられ古代魔法使うアカーシャ達に捕らえられ、今は人工的な精霊になっているのですか?」


 精霊という言葉を聞いたテュアラティンは驚いた様子だ。まさかそんなものが実在するとは…。

 あくまの奇跡を見てきたリチャードも、実物の精霊を見て驚きを隠せないようだ。


「あ…、あなたは誰?わたくしを助けだしてくださるのかしら?」


 フレデリカの青い瞳を見ていると、身を挺にして助けたくなってしまう。彼女の目は不思議な力を持っている。

 ここで、彼女を見ていた3人の様子が一変した。


「私でよければあなたのお役に立ちましょうぞ。ポール・テュアラティン中尉です」

「いや、俺が助けよう。リチャード・ポトマック少佐だ」

「下級勲爵士を持つ私が助けます」

 

 テュアラティンやリチャード加えプレイサまで彼女に手を差し出した。


『リリス、なんかこれおかしくないか?』

『姉さんまで…、どうかしてる』

『これはダメなやつに乗っ取られてる!私がなんとかするわ』


 リリスは魔法抵抗と麻痺の呪文を唱え3人に使用してからフレデリカに語りかけた。


『ちょっとフレデリカ聞こえてるかしら?』

『あなたは誰なのです。わたくしの邪魔をしないでください』

『よく聞きなさい!あなたは三下の悪魔に操られてるの!!目を覚ましなさい』


 三下という言葉を聞いたフレデリカの瞳が、青色から赤色に変わった。

 なんだかヤバそうな雰囲気だ。


『私は大悪魔リリス様よ!』

『悪魔だと?俺を三下と言ったのは貴様か?』


 フレデリカの美声が、突然オッサンの声に変わってしまった。


『アリア、もう少し近づけれるかな?あいつを石で吸収するわ』


 しゃがんでいたフレデリカが立ち上がり、アリアの手に乗っている俺たちを掴み取った。


『あぅ』

『大丈夫よアリア、これも計算ずみだから』


 フレデリカに石を奪われたので、アリアはたじろいでしまった。

 石を奪った彼女は指でそれをつまみ、真っ赤な瞳でまじまじと見つめ、不敵な笑みを浮かべた。


『大悪魔とかぬかすから、凄いものが出てくると期待してたのに、石ころかよ。笑わすなよ雑魚が!握りつぶしてやる』

『私もなめられたものね…』


 右手で石を握り粉砕をしようとしたが、握った拳が光りを放ちだした。


『なんだコレ』


 フレデリカは体に異変を感じたようだ。

 やがて、彼女の周囲に空気の渦ができ、光が全身を包む。


『どうなってやがる?』

『フレデリカ、目覚めたのならそいつを切り離しなさい!』

『は…い』


 彼女をつつむ光は一段と輝きを増し、アリアも目視できない程になっていた。


『やめろ!俺を作り出したのはお前だぞ!今さら見捨てる気か?』

『ごめんなさい…』

『頼むから助けてくぅ』


 これを最後にオッサンの声は聞こえなくなった。石に吸収されたようだ。

 彼女を包んでいいた光も消え、辺りは元の暗さに戻った。


『黒松明人はレベルが上がりました』


 俺は何もしていないが、レベルが上がってしまった…。

 フレデリカは、瞳の色がブルーに戻ったが魂が抜けたように固まって動かない。


 リチャードたち3人は麻痺の魔法が効いており動かないままだ。まるで時間が止まっているようにも見える。


『片付いたわよ。おかげで魔力も1/4まで回復したわ。あんたもレベルが上がったし良かったじゃない』

『やっとレベル8だよ』

『相変わらず遅いわね、壊れてるんじゃないの?』


 ここでアリアも我に返ったようで、会話に参加してきた。


『フレデリカさんは抜け殻になったのでしょうか?』

『いや、すぐに戻ると思うわ』

『結局、オッサンの声主は悪魔だったのか?』

『そうね』


 フレデリカは精霊に改造されてからも、過去の記憶を引き継いでいた。恨みも含めて。

 裏切られ嵌められて森に捨てられ、痛い思いをして体を刻まれ改造され、なぜ私だけが?

 憎い、全てが憎い。この世界全てを呪ってやる。神がいるなら呪い殺してやる。

 フレデリカに入っていた悪魔は、そんな彼女の憎悪が作り出したものだった。

 やがて悪魔の存在のほうが大きくなり、フレデリカを支配し、彼女は眠らされた。本人が眠りたいと願ったのかもしれない。


 ただ、この悪魔はアカーシャが作ったものではなく、閉じ込められていた500年の間に彼女が心の中に作り出したものだ。

 もし閉じ込めてられてなかったら、人に害をなす悪魔の精霊となっていた可能性もある。


『わたくしは…』

『気づいたようね、フレデリカ。悪魔のことは覚えてる?』

『あのような恐ろしい者を作り出してしまったのですね…』


 俺たちはフレデリカに現在の状況と、彼女が閉じ込められている間に起こったできごとを話した。

 そして…。


『わたくしをテハスまで連れて行ってくださいませんか?』

『いいわよ』


 雪の精霊フレデリカが仲間に加わった。



=====

名 前:黒松明人

種 族:石

職 業:廃道探索家

レベル:8

経験値:266

体 力:95/95

魔 力:21/74

幸 運:100

知 性:F

戦 術:E

速 さ:F

防 御:S

器 用:F

スキル:念斬りE・スティールE・探索A・吸収C・イメージE

称 号:放火魔

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