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1、今日も元気に廃道探索

毎日更新はできませんが、がんばります!

『あなたは新たな世界で救世主となりなさい』


 神秘的な声の女性との会話を終え目を覚ますと、目前は砂利道で周囲を見渡すと草原が広がっていた。


 視線は360度自由に回転するが、首を回している感覚はない。それと限りなく地面に近い…、というより地面に転がってる感じだ。

 

 ――どうなってるんだ。俺は地球にでもなってしまったのか、いや地面が見えるから岩や石の類か…。


 自分のおかれた環境に戸惑っていると、視界の右から唐突に昆虫が現れた。フンコロガシだ。小動物のフンを後足で懸命に転がしている。


 俺は昆虫が苦手だったので、何気なく「あっちに行け」「潰れちまえ」と思った瞬間、奴は圧縮されるように潰れていきフンと合体。最後は米粒ほどの大きさとなった。

 

 そしてあろうことか、俺が入っている石に吸収されてしまったのだ。


『黒松明人は経験値が上がりました』


 間をおかず、どこからともなくシステム音のような女性の声が頭に響き渡る。


 ――経験値が上がっただと?まさか、俺は本当に異世界に来たのか…、だが、どうやって…。


  俺はここまでの出来事を自問自答しながら思い出してみることにした。


  ◇ ◇ ◇


 ――また崩れてるな、どうやって迂回すっかな…。


 俺の名は黒松明人。

 趣味は廃道探索だ。 オブローダーともいわれている。

 今日はとある国道の旧道のうち、20年前から放置され廃道状態になっている区間を探索している。


 廃道はおおまかに分けると二種類。

 ・将来に渡って必要がなくなったので用途廃止の行政手続きをおこない民間に払い下げられた道。

 ・廃止手続きはされていないが、土砂崩れなどの災害で復旧に膨大な費用が必要になるといった理由で放置され続け使い物にならなくなった道。


 今俺が探索しているのは後者のほうだ。

 そして目の前にボスモンスターと言っても過言ではない深い谷が現れた。

 難易度★★☆といったところか。


 ここは谷筋にあたるので、大雨で土砂が崩れ道路ごと流されてしまったのだ。土石流というやつだ。

 谷底に下りようにも傾斜がとてもきつく、登山の装備じゃないと危険である。

 その場合の攻略法は、山の斜面を登り迂回することだ。


 ただ、ここは傾斜が尋常ではない。ボルタリングの選手なら余裕で登れるだろうが廃道探索家には難易度が高すぎる。


(そうだ思い出した!俺はこの谷を迂回しようと思って手前にあった獣道まで引き返したんだった。それからどうなったっけ…)


 獣道に入り先へ進んだ俺は、早速お宝に遭遇した。といっても金銀財宝ではなく、あくまで廃道探索家にとってのお宝だ。


 それはお地蔵様や灯篭、石柱の道しるべなど大昔の構造物だ。

 歴史的に価値があるんじゃないか?と思うような碑が倒れて落ち葉に埋もれてたりする場合もある。


 気をつけないといけないのが、ミミックのようなお宝だ。

 油断して近づくと命を落としかねない。

 街道や廃道の道路構造物は放置されているのもが多いので、下手に足を乗せると崩れてしまう場合がある。


 お宝を見る前の安全確認は鉄則だ。

 さらに山奥なのでクマー的なクリーチャーも要注意。


 俺が発見したのは苔むして半分埋まっているお地蔵様だった。

 少し掘り起こし、元の状態にしてから手を合わせ道中の安全を祈り先を急ぐ。

 3月なので少し日は長くなったが、油断しているとあっという間に暗くなってしまう。

 

(このお地蔵様は覚えてるぞ、確か100メートル進んだらさっき出くわした谷の上側にたどりつくはずだ)


 迂回のつもりで谷の上にやってきたが、これが意外と深かった。それでも注意すれば進めそうなので、俺はゆっくりと谷を下り始めた。だが、今思えばこの判断が失敗であった。さらに山の斜面を登り谷が浅くなってるところを通るべきだったのだ。


 最近、廃道探索に慣れてきていたこともあって、俺は油断していた。

 しっぺ返しは直ぐにやってくる。谷に下りる途中、足を置く場所を間違え滑落…。

 

(そうそう。ここで頭をぶつけて意識が飛んだんだ…。その後は臨死体験したんだっけ)


 気がつくと、足元に頭から血を流して倒れている俺が見えた。

 周囲を見ると水が流れているが、積石も渡し舟もないので三途の川ではない。


 どうやら俺は、道から100メートル近く転がり落ちて気を失い、二級河川の河原で臨死体験をしているようだ。


 普通、この高さから落ちれば高確率でゲームオーバーなのだが、その場合は臨死体験する暇なんてないはず。


 体に戻れば意識を取り戻せるというわけだ。

 先ほどのお地蔵さまに助けられたに違いない。ありがたい。


(確か臨死体験なんて滅多にできるもんじゃないから、人生を振り返ろうとしたら、あの声が聞こえてきたんだよな)


『あなたの願い叶えましょう』


(とても優しい女性の声だったけど、まだ何も願ってないのに、わけの分からないことを言ってたな)


 その時、唐突に対岸からサイレンが鳴り響いた。上流にあるダムの放水を知らせるものだ。これが鳴った場合は速やかに避難しないと流される可能性がある。


(サイレンが鳴った後、声の女と会話したんだよな。確か…)


「早く体に戻らないと流されてしまうのだが」

『あなたは新たな世界で救世主となりなさい』

「ちょっと待って!あんた誰だよ?救世主ってなんだよ」


『私は女神ラフィエルです』


「女神だって?いや、それより俺はまだ死んでないぞ。そこに転がってる俺はまだ息があるんだ」

『そんな事はどうでもよいのです。さあ、お行きなさい新しい世界へ』

「生死は重要だぞ!待ってくれよ!早く体に戻らないと川が増水するじゃねーか!」


『最後に、あなたに女神の加護を授けます。これであなたは新しい世界で祝福されるでしょう』

「祝福するなら、転がってる俺にやってくれよ」


(それから…、確か自力で体に戻ろうとして意識を失ったんだっけ…。臨死体験中なのに)


『あなたは新たな世界で救世主となりなさい』


 大切なことなので二度言ったのだろうが、あの女の声を聞いたのはこれが最後だ。

 俺はここまでの記憶を全て思い出した。


 やはり異世界に来てしまったようだ…。


「ちょっとあんた、なんでフンコロガシなんか吸収するのよ!馬鹿じゃないの?臭いじゃない!!」


 今度は違う女の声が頭に響き渡る。

 どこにいるのだろうか?周囲を見渡すが誰もいない。


「外じゃないわよ、あんたと一緒で石に入ってるのよ」

「え?、お前誰だよ」

「よくぞ聞いてくれました。えっへん、私は大悪魔リリスよ」


 ――なんだこいつ、自分で悪魔とか言ってやがる。頭は大丈夫なのだろうか…。


「いたって正常よ!失礼な奴ね」


「さっきから気になってたんだが、俺が心の中で思ってることが聞こえてるのか?」

「同じ石に封印されてるのだから当然じゃない、あんたが思ったことは全部聞こえてるわよ」


 ――封印という新しい言葉が出てきたぞ。あの女神、俺を封印しやがったのか。


 これは斬新すぎる仕打ちだ。

 石の中に変な奴が同居しているのも気に喰わない。


「自称悪魔が入ってる石なんてごめんだぞ!」

「ほんと失礼ね!自称じゃなくて本物の悪魔よ。大悪魔リリスよ!」

「知らん」


 ――サタニキア、ヴィネット、サキュバス、グレモリー、リリムなら聞いたことある。


「リリムを知っていてリリスを知らないって、あんたどこの田舎から来たのよ?」

「どこから来たって地球だよ。俺の星では御伽噺に出てくるメジャーな悪魔なんだぜ」


「地球ってどこよ?」


 地球を知らないってことは、太陽系にある異世界ではなさそうだ。

 となると、こいつは本物の悪魔か…。

 この世界について聞いてみよう。元の世界に帰るヒントがあるかもしれない。

 まずは自称悪魔のことからだ。


「なぁリリス、お前なんで石に封印されたんだ?」

「女神の加護を受けた英雄に負けて封印されちゃったのよ」


 ん?女神の加護といったか、俺も授かっていたような…。


「その女神ってラフィエルか?」

「そうよ」


 リリスは話をつづけた。


 この世界は剣や魔法があって、リリスのような悪魔やモンスターに加え魔王も存在する典型的なファンタジー世界だ。


 それらは討伐対象となっていて、女神の加護を受けた勇者や英雄が彼らを討伐してきた。

 しかしリリスは、何故か消滅を免れ石に封じられたらしい。


 その後、山中の真っ暗な洞窟に長年閉じ込められていたが、いろいろあって街道沿いまで転がって来たそうだ。


「俺も女神の加護を受けたんだが、お前を倒さないといけないのか?」

「えっ、まじで?ちょっと勘弁してよ」


 ちょろそうなので簡単に退治できそうな悪魔だが、今は戦う方法も分からないし、この世界のことを知る必要がある。


 しばらくはこのままにして情報を引き出そう。


「お前が封印されたのっていつなんだ?」

「そんなの分からないわよ、いちいち数えてられないもん」


 確かにそうだ。真っ暗な洞窟に閉じ込められたら時間の感覚なんてなくなってしまう。

 もし俺が閉じ込められたら気が狂うと思う。


「洞窟に閉じ込められてる時は何をしてたんだ」

「最初は魔法を使って変身できないかって試したんだけどさ、全くダメだったの…」


 覚えてる魔法を全て使ったり、魔法詠唱スペルを組み合わせてみたり、いろんなこと念じてみたり試してみた。

 しかし、効果がなかったので思考するのをやめ眠りについたそうだ。


「それじゃ本当に何もできないってことなんだな?」

「そうなの、でもあんたが来たから話し相手ができたわ。その点は女神に感謝ね」


 眠りについていたので、この世界の現在の状況を聞き出すことはできなかった。

 使えない悪魔だ。


 しかし、救世主になれと言われたが、石じゃなにも出来ないじゃねーか。

 この石は吸収する能力を持ってるようだが、俺自身にチートスキルもないし、ハーレムのハの字もない。


 俺はダメ元で、もう一度女神様に呼びかけてみた。


「ラフィエル!石ころが救世主になるなんて無理だよ。俺を元の世界に戻せよ!」

「言っても無駄だって、あいつら地上には下りてこないわよ。ご愁傷様」


 ダメだ、女神に話しかけるのはもうやめよう、悲しくなってくる。

 この世界から脱出する手段は他にないのだろうか?死んでみる?


 ――そうだ、もういっぺん死んでおくとか?


「おいリリス。石の中に入ったまま死ぬ方法を教えてくれ」

「そんなの知らないわよ!なんでそんなことする必要があるの?」


「この世界から脱出するためさ。死んだら新たに転生できるだろ?噂でもいいから耳にしたことないか?」


「そんな方法あったら私が先にやりなおしてるわよ!」


 ――それもそうか…。


 となると、女神の言った通り救世主とやらになるしか戻る方法はないのかもしれないな。


 ――おや?何か来るぞ。


 そのとき砂利道の左側から音が聞こえてきた。その方向が見えるように視線を移動させる。


 やがて砂煙とともに馬車が見えてきたが、それはあっという間に目の前を過ぎて行った。


 通過するとき馬車の装飾が見えたのだが、元の世界でいうところの17世紀後半といったところだろうか?

 

「私が封印される前は、あんな豪華な馬車なんてなかったから、随分と時間が経っているようね…」


 リリスは少し寂しそうな声でポツリと口にした。


「最近見たことで、何か気になることはあるか?」

「そうね、みんなの表情が暗いわね。生気がないのよ」

「疫病とか凶作が続いているとか?」


「そんなんじゃなくて、例えばだけど魔王に世界が支配されて絶望したって感じかな。あそこの木を見てご覧なさいな」


 俺は強制的に木の方を向かされた。そこには黒焦げになった何かがはりつけられていた。


 こうして俺の異世界生活は大悪魔リリスと共に始まった。


8/14 第一話、加筆修正行いました。

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