新たなる出会い
意識を取り戻したタクトの目の前には、見覚えのない草原が広がっていた。
「ここはあの世なのか?」
タクトはそう思った。
しばらく歩いていくと、3mをゆうに超えているであろう石碑が建っていた。その石碑には文字が書かれているが、象形文字のようなので全く読むことが出来なかった。
「ちょっとそこの人間」
その石碑を眺めていると突然タクトの背後から彼を呼ぶ声がした。驚きながら振り向くとそこには、猫と犬を足して2で割ったような姿で、ピンクのもくもくした、今にでも飛びつきたくなるような可愛らしい生き物がそこにはいた。
「おっおれのこと?」
「当たり前でしょ!こんな神聖な場所に1人でぽかんと。一体何をしてたの?」
強い口調で質問してくる生き物にタクトは驚きを隠せないでいた。
「ここはあの世の世界なの?俺はもう死んでる?」
タクトの質問にその生き物は汚物を見るかの様なジト目で彼を睨んだ。
「なに?あんた馬鹿?何、死んでるはずがないじゃん。そんなに死にたいなら殺すよ?」
そう言うとその生き物の手からは炎の様な物が現れた。
「まさか、異世界に転移しちゃったのか?」
タクトはまだじぶんが死んでいないことを気づいた。
「いっその事殺しくれ。」
タクトの呟きにその生き物は手から出ている炎を消した。
「なんかあったのね。ちょっとあなたのあんたの過去見てみようかしら」
そお言うと、可愛らしい肉球でタクトの額を触った。その瞬間頭に激痛が走り気負うしなってしまった。
気が付くとさっきの生き物が、オドオドして空をフワフワ浮いていた。そしてタクトが気が付いたのに気づくと凄い勢いで飛んできた。
「あんた、何してくれるのよ!もう最悪!」
何が何だかタクトは全く分かっていない。
「なっ何が?」
「何がじゃ無いわよ!いきなり倒れて来て!なんでこの私があんたなんかと契約しなくちゃ…」
「え?契約?何の話?」
「はぁ〜、何もわかんないのね。それもそうか、あんたこの国の人間じゃないわね。って!契約の話は置いといて、あんた自らの手で命を絶とうとするなんて…死がどれだけの物か教えてあげる」
すると先ほどのように額に手を当てたとたん、タクトは心臓を握られているかのようとてつもない痛みに襲われた。数秒後やっとその痛みがやわらいだ。
「どう?きつかったでしょ?」
小さな生き物は腕を組んで堂々としていた。
「自ら命を絶つことはだめよ、本当に…あんたが死んで悲しむ人は絶対に1人はいるの!わかる!?」
タクトはその話を聞いた途端、過去の事を思い出した。
それはタクトがまだ幼い頃のこと、タクトの父親が友達の葬式に行って帰って来てた時のことだ。
「タクト、自ら命を絶つことはほんとに無念なことだ。今日葬式に行ったやつは、高校の時の親友だ。あいつは、遺書を残していてそこには、(俺が死んでも悲しむ奴はいない)そう書かれていたそうだ。そいつとは去年飲みに行ってからあっていなかった。でもその時は学生の頃みたいとても仲が良かったように見えたよ。悩みも何もなさそうだった。なのにあいつは…もっと信用してもっと話して欲しかった…でも」
その後、父親は泣き崩れた。
そんな事を言っていた父は自ら命を絶った。
タクトももっと信用して欲しかった。当時の父親の気持ちが今身にしみてわかった。その瞬間タクトは泣いていた。
「まだ、死にたくない。まだ生きたい。」
タクトはその生き物を抱きしめていた。
「うぅ、く、苦しい…分かったから離れて!」
怒った。
吹っ飛ばされたタクトはやっと正気を取り戻した。
「君の名前はなんだい?」
「私は精霊、ネ・ノアル・フェルマータ。ノアルとでも呼んで」
「分かった、ノアル。俺は、久保 拓人。タクトって呼んで」
「分かったわタクト。あなたは今日から私との契約者になったの」
「契約者?どうして?」
「どうしてって、あなたが私にキスしてきたんじゃない。精霊との契約には、接吻が必要なの。あなたの肩に紋章が入ってるはずよ」
そう言われるとタクトは自分の肩を見た。やはり言われた通り肩に紋章の刺青のようなものが入っていた。
「契約は解除出来ないの?」
「出来ないわ。あなたが死んだら私も死ぬ。その代わりあなたが死なない限り私は死なないわ」
「なるほどね」
「でも一つだけ解除する方法があるの」
「それは何?」
ノアルは少し間を置いて答えた。
「自分の寿命が来て死んだ時だけ。前の私の契約者は寿命が来て…」
「そうだったんだ、ゴメンなんか思い出させちゃって。」
「構わないわ。だからもう解除は出来ないの。分かった?」
「わかったよノアルこれからよろしく」
「ええ、よろしく」
こうしてタクトの異世界での人生やり直しがスタートしたのであった。