2 たんこぶできた!
あたしが住んでるこの町、土井中町は、超がつくほどド田舎なのでして。
ろくな名産もなく、観光資源といえば、この美しい星空くらいなものなのです。
そして今、あたしが立ってる、ここ! このなだらかで小さなお山は、昔はお城が建ってたらしくって。何度も攻められたり、受けたり、やられたりを繰り返して、それはそれは多くのお侍さんが、屍になってしまったそうです……って、歴史の先生が言ってた。
歴史って言えば、郷土の歴史の授業って、ほんとつまんないよね! 退屈! あんまり退屈だから、隣のかよ子とデブバイブ・ガンシャインの推しメンの話で盛り上がってたら、歴史の先生に「コラ!授業をちゃんと聞け!」って怒られちゃってさー、もーホント最悪~!
……って、脱線しすぎたね、ごめんごめん。
とにかくあたしは、心が読めるエスパー女子と、満天の星空のもと、出逢ってしまったのだったのでした。
*
えっ、えっ? 心の声が聞こえるって……どーゆーこと!?
なにこれなにこれ、これが未知との遭遇ってやつ!?
「未知との遭遇じゃないわよ。……そうね、どちらかというと、コンタクトって感じかしら」
エスパー女子は、イラマハン……じゃなくて、ツインテールの右束を、右手でふぁさっと持ち上げたあと、パッと手を離して髪束を落として見せて。いかにも「私、才女なの」といった仕草をしてみせるのです。
ヒッ……やっぱりあたしの思考が読まれてる! これって、なんだか、なんだか、……ギモヂワル~イ……。
「やめてやめて! わかった! あたし喋るから! 心を読まないで~~っ!」
あたしは初対面のナマイキエスパーになぜか卑屈に謝りながら、心では別のことを考えていたのです。それは……。
「ね、ねえ……エスパーさんって……まさか……幽……」
「違うわよ」
ぎゃわあああああ!!!
いつの間に接近されていたのか、急に耳元で囁かれて、小心者のあたしは思わず飛び上がって、草むらに転げ回って、落ちていた石に頭をぶつけてしまったのです。
痛い! 痛い! 頭がカチ割れんばかりの勢いだったので、こぶがみるみる大きくなっていきます。
「もう……オーバーね。ほら、こっちおいで」
エスパーさんは地面に膝をついて座り、あたしを手招きすると、自分のふとももにあたしの頭を乗せてくれて、ぶつけた箇所を右手で優しく撫でてくれました。
「いたいの、いたいの、とんでけーっ」
エスパーさんはその幼い見た目と声に似合わず、まるでおかーさんみたいに、ドジな子供を慰めてくれたのです。
ああ……なんか……落ち着く……。女の子のふとももって、こんなにやわらかくって、温かかったんだ。同性なのに、なんかドキドキする。
それに……エスパーさんのふともも……なんだか……いい匂い……。
「あ、あのですね、エスパーさん。このおまじないに、治癒効果は……」
「ないわよ」
エスパーさんのドヤ顔、ローアングルで初めて見ちゃった……。
「ですよね~」
やっぱり本物のエスパーにも幽霊にもそうそうお目にはかかれないものでして。
あたしの腫れ上がったたんこぶは、ますます大きくなる一方なのでした。
「それとね」
「はい?」
「私の名前、エスパーじゃないから」
どこからか、涼しい風が吹いてきて、膝枕をキメてるあたしとエスパーさんの肌を、ふわりと撫でました。
「……セナ。……私ね、流セナっていうの」
ながれ……せな……。
懐かしいような切ないようなその響きは、あたしの胸をトクンと波打たせたあと、どこか遠くへ消えていってしまいました。