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イレンディア・オデッセイ  作者: サイキ ハヤト
第五章 正義の在処
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いざサファールへ

 カラスのピックを加えたヒートヘイズ一行は、買いすぎない程度にアーマナクルで物資を手に入れた後、街を出て北西に進んだ場所にある空き地へやってきた。


「例の洞穴とゲートで繋ぐ。怪物たちが出てくるかも知れんから、全員臨戦態勢でな」

「いつでも、掛かってこい!」

 バラルの言葉にスネイルは即反応し、揺らめく短剣を構えてゲートが開かれるであろう場所に狙いを定めた。


「臨戦態勢過ぎる」

 ガンドはスネイルを見て苦笑している。


「用意無き者、危急が時にチカラ使えず!」

 スネイルは構えを崩さず、イレンディアの諺を声に出した。


「スネイルが優勢ね!」

 マーシャも杖を持ち、すぐに魔法を使えるように心の準備を整えた。


「むぐう……」

 ガンドは遅まきながら、ハンマーを手に持った。


「バラルさん、いつでも良いよ!」

「アァ! アァ!」

 ジャシードの声に合わせて、肩にいるピックが羽をばたつかせながら鳴き声を上げた。


「よし、行くぞ!」

 バラルは、杖で地面をコンコンと叩いてから、一気に振り上げた。バラルの杖の動きに合わせ、地面から蒼白い光を放つゲートが作り上げられる。


「……」

「……」

「…………」

「来ないね?」

 スネイルが、構えのまま呟く。


「おれが見てくるよ」

 ジャシードがゲートに飛び込むと、すぐに戻ってきた。


「何もいなかった」

「何だ。なんもいないか」

「ああもう、緊張したじゃないのよ」

「アァ!」

「何も来なくて安心したね」

「サファールへ行くに当たって、とても良い中継地点を手に入れたな」

 ヒートヘイズの一行は、それぞれゲートを通り抜けて洞穴に到着した。


「あとは、フォラーグルがいなければ万全だ。スネイル、付き合ってくれ」

「あいよ、おっちゃん!」

 バラルは背中にスネイルを風の魔法で吸い付けると、洞穴から飛び立った。


 しばらくして、二人は洞穴に戻ってきた。


「鳥いないから、行こう!」

 スネイルは元気に片手を上げる。


「おー!」

「アァ!」

 ガンドとピックが、元気に返事をした。


 バラルはスネイルと共に付けてきた記録石で、新たなゲートを開き、一行はゲートを通じて新たな場所に到着した。


 一行が到着したのは、ネヴィエル山脈の最東端だった。少し山道を下り、平原に近づく。

 平原には予想通り、怪物たちが待ち構えていた。クリンガンと、泥が集まっているマッドクロッド、頭が二つある巨人エティンだ。


「こんなの余裕! 行こうアニキ!」

「ああ、行こう。バラルさん、ピックお願い」

 ジャシードは剣に分かてと命じ、双剣となったディバイダーを持ってスネイルと平原へと下りていった。


「こら! また二人だけで行かない!」

「私も今回は頑張っちゃうんだから!」

 ガンドとマーシャも、後に続いた。


「……」

 羽づくろいしているピックを肩に乗せたバラルは、置いてきぼりを食らった。


「おい、ピック。お前も戦ってこい」

「アァ!」

 ピックはバラルの耳たぶを甘噛みする。


「むっふぁ! ややや、やめんか!」

 バラルが変な声を上げて身体をよじったため、ピックは少しだけ飛んで、近くの岩に着地した。


 戦闘の方は、少しの心配も要らなかった。ジャシードとスネイルは、ガンドを加えて前回のクリンガン戦のように暴れ回り、マーシャは魔法で的確にサポートした。十五分程度の戦いで、五十ほどいた怪物たちは、四人の活躍で殲滅された。


「よし、ネヴィエル山脈に沿って行くぞ!」

 バラルは杖を担ぐように持って下りてきた。杖の先にはピックが止まっている。


「あら、ピック。良い場所を見つけたわね」

「このカラスを引き取ってくれ」

「あら、バラルさん。鳥嫌いだったの?」

「そうではないのだが……とにかく引き取ってくれ」

「いいわよ。ピックおいで」

 マーシャが手招きすると、ピックは羽ばたいてマーシャの肩に止まり、マーシャの耳たぶを甘噛みした。


「あら、ピック。おなか空いてるの?」

 マーシャは、荷物からトウモロコシを取り出し、ピックに食べさせた。


「アァ!」

 ピックはトウモロコシを食べ、ご満悦の様子だった。


「アレは、腹が減っていると言うことか……」

 バラルは、耳たぶを触りながら独り言ちた。


◆◆


 一行は、ネヴィエル山脈の谷間を進む。ネヴィエル山脈は、北山脈と南山脈があり、その中間は深い谷になっている。更に南にはヘニムス荒野がある。荒野の方が谷よりはましな道のりだが、フォラーグルから逃れるため、そのような場所を進む方が良い。

 もっとも、今はバラルが共にいるため、いざとなればゲートで脱出する手を使える。とは言え、一旦フォラーグルに見つかれば、その場所に暫く戻ってくることはできない。

 結局別のルートを辿らなければならなくなり、行程は遅れるばかりだ。そう言った意味でも、フォラーグルに見つからないに越したことはない。

 スネイルが少しでもフォラーグルの気配を探知したら、速やかに大きな木の陰や、岩の陰に隠れながら、あるいは水の魔法で姿を隠しながら進んだ。


「怪物たち、ここにはいないね」

 ガンドは、辺りを見回している。


「フォラーグルに喰われたんだろう。アレを見ろ」

 バラルが指さした先には、地面が巨大なスコップで削られたような跡がある。


「奴が捕食するときは、地面の土ごと丸呑みしていく」

「根こそぎ食べられちゃったのね……」

 バラルの言葉に、マーシャは辺りを見回して息をのんだ。


――その後何度かスネイルがフォラーグルを探知し、歩みが止まることがあったものの、概ね順調にネヴィエル山脈の谷を抜けた。


「ようやく、着いたぞ」

 バラルは大きな滝の目の前に立って、杖を滝に向けた。


「でっかい! すげえ水が!」

「これはネヴィエル滝だ。この上に湖があって、その湖から水が落ちてきている」

「へええ……滝!」

 スネイルは、バラルの説明も上の空で、落ちてくる大量の水を見ている。


「すごいな……レムリスの街中にあるような、小さいものしか見たことがないから、こんなに大きな滝は初めてだ」

 ジャシードも、初めて見る滝の大きさに圧倒されている。


「その湖の水は、どこから来るのかしら?」

「恐らく、湖の底から噴き出してきている」

 バラルは、上空から見た景色を思い出しながら答える。ネヴィエル湖は山の頂上にある湖で、見たところ、どこからも水が供給されていない。となれば、湖の底から出てくると考えるのは自然だ。


「そしてこの滝の裏に、サファールの入口がある」

 バラルは滝の裏側へと続く、幅の狭い段差を杖で指し示した。


「馬じゃ行けないな」

 ジャシードは、段差の幅と馬の幅を見比べた。ぎりぎり通れなくもないが、もし馬が足を踏み外せば、滝壺に落ちることになる。


「どのみち、馬は街へ置いてから行く。アーマナクルへゲートを開いて、わしが馬を返してくる。お前たちは、滝の裏のサファール入口そばで待て。フォラーグルから身を隠しておくのだ。だが、まだ踏み込むなよ」

「分かった、みんな行こう」

 バラルが馬を引いてゲートを通るのを見送り、ジャシードたちは滝の裏側へと歩を進める。


「わあ。滝の裏って、なんか面白いわね」

 マーシャはごうごうと流れ行く水と、その水飛沫に見とれた。


「あんまり余所見すると、足を踏み外すよ」

「平気よ。でもありがとう」

 マーシャが微笑むと、ジャシードも微笑で返し、二人の間に暖かい空気が流れた。


「サファールって、どんなとこかな!」

 スネイルは、この先の冒険が楽しみで仕方が無いらしい。


「レグラントさんの話を思い出したけど、罠がたくさんって言ってたよね。やだなあ」

 ガンドは渋い表情をしている。


「ガンドは後ろから付いてくるだけだから、平気でしょ」

 スネイルはニヤニヤしながらガンドを指さした。


「いやまあ、そうなんだけど……」

「ま、罠はおいらが頑張って見つけるから、安心して付いてくればいいんだよ」

 スネイルは、握り拳に立てた親指を自分に向けた。


「うわあ……今、スネイルが凄く逞しく見えたよ」

「何せ、おいら、成人だからな!」

「あー……それは、今の今まで、忘れてたよ。反応が子供っぽいから」

「なあにい!」

「あっはは、半分冗談だよ」

「半分、だとぉ!」

 スネイルとガンドは、いつものようにじゃれ合いをしている。


「ふふ。スネイルは、そう言うところが子供っぽいからね。でも、スネイルっぽくて私は好きよ」

「うん、おれもそう思う。何か二人のやりとりを見てると、ちょっと癒される時があるよね」

「アニキとアネキがそう言うなら、おいらはこれでよし!」

 スネイルは、両手を腰に当ててふんぞり返った。


「戻ったぞ……って、何をやっておるんだ」

 バラルが滝の裏側に入ってきて、最初に目に飛び込んできたのは、スネイルのふんぞり返る姿だった。


「スネイルは成人なのに、子供っぽいよね。って言う話」

 ガンドがニヤリとして言う。


「それでどうして、ふんぞり返るんだ?」

「違う! おいらが罠発見で頼りになるオトナだって話!」

「おう、おう。それは頼もしい。頑張ってもらおうじゃないか」

「まかせろ、おっちゃん!」

 スネイルは再び、ふんぞり返った。


「まあ、『十五になったら成人』はオトナが勝手に決めた事だ。わしから見れば、お前たちは全員、子供みたいなものだ」

「そりゃあ年齢が何倍も違うもんねえ」

 ガンドがぼそっと言う。


「なんだ、ジジイだと言ったのか、今ジジイだと言ったか?」

「ちちち、違いますよぉ……」

 ガンドは慌てて否定する。


「わっはは。実際、ジジイは自覚しておる。ちょっと、からかっただけだ。……よし、行こうか! 頼もしい罠発見のチカラを確かめてみたい」

 バラルはスネイルの肩に手を置いた。


「まっかせろい!」

 スネイルは先陣切って、サファールへと足を踏み入れていった。


「バラルさんにまで、からかわれるなんて……とほほ」

 ガンドは皆の背中を追っていった。


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