第81話 準決勝
コラボ14話目。
「残る試合は二回。山上国下&博麗霊斗ペアはシード枠獲得のため、準決勝は休みよ。それじゃあ、準決勝、時龍&相沢絢斗ペア対、幻真&白谷磔ペア。試合開始」
アデルの掛け声と共に戦いは始まる。時龍は龍神剣、絢斗は刀、幻真は真神剣、磔は真楼剣をそれぞれ構える。
暫くの間、沈黙が続く。観客たちは息を飲み込んで、彼らがいつ動くのかと心待ちにしていた。
一番手は時龍だった。剣を大きく振りかぶって、磔に斬りかかる。磔は咄嗟に攻撃を受け止め、ギリギリと音を鳴らして両者の刃が交じり合う。そして、磔は思いっきり刀を押して時龍との距離を離す。
「いきなりだが……想符『アクセルモード2』!」
磔が叫ぶと、身体に青緑色のオーラを纏う。更に、超技術——縮地によって時龍との距離を一気に詰める。彼は目の前に現れた磔に驚き、動きが鈍る。
磔が刀を振った瞬間、何者かがそれを受け止めた。その正体は、彼と同じ世界の住人である絢斗だった。彼もまた超技術による縮地で、一瞬にして磔の刀を受け止めに行ったのだ。
「絢斗か。この際、他世界同士で戦わないか?」
「それもそうだな〜。よし、時龍頑張れよ〜」
絢斗はそう言うと、先程と同じように縮地で幻真の目の前へと移動した。幻真は一瞬驚いたが、咄嗟に我に返って剣を振る。絢斗は冷静なままニヤリと笑い、幻真の攻撃を難なく防ぐ。
「くそッ、舐められたもんだ! 斬符『炎魔斬』!」
幻真は剣に炎と闇のオーラを纏わせ、絢斗に斬りかかる。彼もまた、攻撃に応じてくる。
「斬符『現世斬』」
観客席で絢斗が使ったスペルを見た妖夢が、ふとこんなことを思う。
「絢斗さんって、私と同じスペルを使うんですね」
その呟きを聞いたパルスィが、絢斗のことについて妖夢に話した。
「絢斗は彼の世界の妖夢……まあ、簡単に言えば貴方のスペルを使うことができるわ。知ってるかもしれないけど、彼は妖夢と結婚してるらしいわよ」
「け、結婚⁉︎」
妖夢はその話を聞いて顔を真っ赤にする。すると、パルスィたちが話してた所にアルマがやって来る。
「なんの話してるんだ?」
「絢斗についてよ」
「じゃあ、なんで妖夢は顔が真っ赤なんだ?」
「結婚の話をしていたからよ」
アルマは察した様子を見せる。そして、ニヤリと笑って見せると大きな声で言った。
「幻真と仲良くいくといいな〜」
その言葉を耳にした妖夢は更に顔を真っ赤にし、ヒートアップしてその場で気絶してしまった。パルスィとアルマは慌てて妖夢に駆け寄る。
「アルマ、言い過ぎ」
「悪い悪い。永琳を呼んでこようか?」
パルスィが頷くと、アルマは永琳のいる場所まで走って行った。だが予期せぬ事に、彼女が現れた。
「あらら〜? 妖夢はどうしてこんな所で倒れてるのかしら〜?」
「幽々子……」
「貴方は確か、アルマって言う男と来たパルスィだったかしら? それで、この子はどうしたの?」
パルスィは、簡潔にわかりやすく幽々子に状況を説明した。彼女は頷いて聞いていた。恐らく分かったのだろう。いつもお気楽な彼女であるが、頭は悪くない。
「そんな事があったのね〜。それじゃあ、永琳が来るまで私もいるわね〜」
「御自由に」
場面は試合に戻る。磔は一方的に時龍を押していた。さすがの時龍も焦りを感じたのか、ある力を解放しようした。
彼の周りに黒色と白色の龍が現れる。彼が腕を広げると、二匹の龍が彼の体に飛び込み、吸収された。
眩い光の後に現れたのは、黒と白に分けられた髪に、左右対称の白黒の翼、白黒に分かれた尾。そして、透き通ったような純白の瞳を左目に、何者にも染まる事の無い漆黒の瞳を右目に持った時龍だった。黒が右半分、白が左半分になっていた。
その光景を見た磔は驚く。時龍が龍が取り込んだ姿となったのだ。それに、幻真さえ初めて見る。タッグバトルが開催される前に黒龍に精神を奪われた姿を見たが、まさか両方を取り込むとは思いもしなかったのだろう。
「さて……始めようか」
時龍がそう言うと、一瞬にして磔の背後へと回る。そして、剣を振って切ったのかと思いきや磔はその攻撃を瞬時に防いだ。相手も既に身体強化をしている。一筋縄ではいかないだろう。
「時龍も自分を強化したか〜。じゃっ、俺も……解放『ブレイクソウル』」
絢斗がそう言うと、彼は紫色のオーラを纏う。幻真は警戒を強め、構え直す。
「ほら、幻真も」
「……俺はまだいい。龍符『水龍』……龍符『氷龍』」
幻真が叫ぶと、二匹の龍が現れる。幻真は自信げにドヤ顔をするが、水龍から水を掛けられ、氷龍から氷漬けにされてしまう。その様子を見ていた磔は、やれやれと首を振った。
幻真は氷漬けから解放されると、気を取り直して二匹の龍に命令した。
「龍符『水潮想龍心』」
幻真の目の前に"心"という字が現れたかと思うと、水龍がその字を突き破り、絢斗に直進して来る。絢斗は咄嗟に刀で防ぐが、勢いに押されて吹き飛ばされる。
「絢斗!」
「他人の心配なんてしてられないぞ」
磔は悪役のような台詞を言うと、真楼剣に炎を纏わせ時龍に斬りかかる。だが、白い翼が攻撃を弾き、磔の手から離れてしまう。磔は驚きを隠せずにいたが、なんとか冷静を取り戻して再び構えた。
「なかなか厄介だな……」
磔は警戒しつつ、背中を見せずに真楼剣が突き刺さっている場所へと歩み寄る。磔が刀に手を翳した瞬間、白龍の影が磔へと飛んで来る。咄嗟に彼は刀を振って、白龍の影を切り裂いた。
続いて黒色の翼が動いたかと思うと、空中に漆黒の炎の弾幕が一つ現れ、磔へと飛んでいく。真楼剣は大抵のものを切ることができる。この炎も切れると信じ、炎を真っ二つに切ろうとする。しかし、いつの間にか出現していた純白の炎によって彼の腕は焼かれてしまう。
「磔!」
「大丈夫だ。他人の心配より自分の心配だ」
幻真はふと我に帰ると、既に絢斗が斬りかかってきていた。幻真は対応できないと諦めたが、氷龍の氷のレーザーによって絢斗の刀が凍らせられる。
「あれま〜、凍らされちゃった〜」
絢斗は敢えて油断している様子を見せ、凍った刀を仕舞う。そして、掌を幻真に向けてスペルカードを唱えた。
「破符『蒼火墜連』」
幻真は避けずに、絢斗の飛ばして来る大量の弾幕を斬り裂く。彼は一通りの道を開けて弾幕を薙ぎ払うと、剣を早急に仕舞って構える。
「炎砲『溶岩熱砲』!」
幻真は魔理沙のスペルカード、マスタースパークの炎版とも言えるレーザーを勢い良く絢斗に放つ。彼がニヤリと笑うと、凍らされた刀で熱砲を防ぐ。幻真はチッと軽く舌打ちした。絢斗は少々ダメージを負ったが、気を取り直して構える。
「解放『ブレイクソウル2』」
絢斗は先程の状態から、更に紫色の雷を身に纏った。そして、縮地によって幻真との距離を一瞬にして詰めると、斬りかかってきた。彼は攻撃を受け止めることしかできず、苦戦していた。
「マズイ……想符『イリュージョンソード』」
時龍との相手をしていた磔は幻真の様子を見て、隙を伺って刀から鎌鼬を飛ばした。絢斗はその攻撃を瞬時に避け、磔に視線を向ける。
「協力プレイも必須だね〜」
「ああ。奥義『観音刀』」
磔の背後では、数本の刀が扇型に配置されており、時龍が指を鳴らすと、一斉に磔へと襲い掛かった。
——今の状態じゃアレは使えない……
磔の言うアレとは、超技術の一つでもあるものだ。磔が諦めた様子で立ち竦んでいると、水龍と氷龍が飛んで来る刀に飛び込んで行き、それらをモロに喰らった。
「協力プレイは必須だろ?」
「それ俺がさっき言った台詞!」
幻真は苦笑しながら磔の隣に歩いて行く。そして、二人は同時に同じスペルを使用した。
『想符『アクセルモード3』!』
磔は白金色のオーラと雷を纏い、幻真は赤と金が混じったオーラを纏った。観客はよりいっそう盛り上がり、歓声を上げた。
絢斗はその様子に、自身も強化しようと二人と同じように構える。
「解放『ブレイクソウル3』」
絢斗は額に紫色の炎を灯す。更に、その宿した炎を刀に移したことによって、刀の強度と切れ味が増した。
時龍は再び龍神剣を構えた。
「さあ、第二ラウンドと行こうか!」
屋敷では終作、活躍、耶麻人、ニック、和正、狼、火御利、喜響、想起がヒビの入った空間の裂け目を巡って討論を行っていた。これからどうするか、どう対応するかという話を。
時龍にはタッグバトルが終わった後に事情を詳しく話すことにしていた。すると、その場に龍人三人と霊斗、国下がやって来た。
「あれ? 次決勝戦あるだろ? 大丈夫なのか?」
「ああ。俺たちも空間の裂け目を確認しておこうと思ってな。それで、どういった状況だ?」
「簡潔に言うと、今は大丈夫……と言った感じでしょうか。今は……ですけど」
ニックは終作の代わりに、霊斗に現在の状況を簡潔に説明した。龍人たちと国下もわかった様子を見せる。
「相手はどんな種族とか分かったりするか?」
「少なくとも、神や魑魅魍魎の類ではないと思います。それ以外の……全く別の存在……あるいは私たちと同じ……」
自信なさげにニックは説明する。霊斗は頷きながらメモ帳に記入する。そして、次の質問を投げかける。
「相手の力量は?」
「遥かに人を超えています。でも、神には達していない。その間の存在……」
「案外悪魔とかだったりな」
終作は笑いながら言う。ニックは少しの間笑っている終作を見つめていたが、可能性はあるかも知れないと思った。
「他に考えられるものは?」
「んー、なんだろう……可能性として、少なくともなら神とかの場合もあるんだよね?」
「ああ。それが最悪なパターンだ」
狼の問いに霊斗は顔を俯いて言った。すると、龍人のハイドが手を挙げて話に割り込んだ。
「そのための対策を取らないといけませんね」
「勿論だ……おっと、そろそろ試合も終わりそうだな。国下、戻ろうか」
「おう」
後の話を龍人たちや終作に任せた霊斗は、次の試合である決勝戦のために、闘技場へと国下と共に向かって行った。
戦況は既に両者とも息が上がっていた。あちこちが血だらけで、見るに絶えない景色だった。そして、いよいよ最後が来ようとしていた。
「幻真ぁ……磔ぅ……そろそろ……最後にしようかぁ……?」
「怖いぞ絢斗。まあ、そろそろ良いよな」
絢斗と時龍は勝手に話を進めて、ラストスペルを放つ為に構える。幻真と磔も同じように構えて、彼らは同時に唱えた。
「ファイナルワード『一刀静閃』」
「友符『ヘクセンチア』」
「『終焉之龍』」
「龍符『冷却氷真砲』」
四人のスペルがぶつかり合い、辺り一帯を巻き込む程の巨大な爆発と爆風が起きた。
「——さあ生き残っているのは……おおっと⁉︎ 二人の影が見えます! 時龍&相沢絢斗ペアの二人か、或いは幻真&白谷磔ペアの二人か⁉︎ しかし、お互いのチームが一人ずつ残っているという可能性もあります。いったいどちらが残っているのでしょうか⁉︎ アデルさん!」
「え……あ、そ、そうね。両者一人ずつ残ってたら試合が長引くし、どちらかのチームが残っていたら決勝戦進出になるわね」
急に振られたアデルは、上手く纏まらない言葉で返事をした。そして、爆煙が止む。
「おおっと⁉︎ あれは幻真と……磔だぁぁ!」
『おおおおおお!』
観客たちは一斉に歓声を上げた。幻真と磔は疲れ果てた様子を見せるが、喜びの様子も伺える。
二人はお互いの拳を合わせた。
「——やっぱ磔は強いな〜」
控え室で絢斗は独り言を言う。だが、実際には独り言ではない。
「お疲れ様です。絢斗さん」
「おっ、ニックか。丁度いいところに」
絢斗はそう言って、椅子に座っているニックと面と向かってある事を聞いた。
「裏で何かやってるでしょ〜?」
ニックは表情が見えないものの、少し笑った声が聞こえた。絢斗もニッと笑うと、上を見上げて言った。
「手伝える事があったら言ってくれよ〜。まっ、女の子のお願いじゃないと聞かないけど」
「じゃあ、妖夢さんだったら?」
「即承認するよ。どこの世界の妖夢ちゃんだろうと、妖夢ちゃんは妖夢ちゃんだからね〜」
ハハハッという笑い声が部屋の中で響いた。
次回でいよいよタッグバトルも最後。
迫力のある戦いにしますよ〜。