第73話 タッグバトル当日
コラボ6話目。
森の中に闘技場を製作する想起と時龍。作るというより、創るの方が合っているだろう。
「明日のタッグバトルに出ない奴はいるのか?」
時龍が作業を続けたまま、想起に問う。
「この世界の人は博麗の巫女の母親だけだろう。後は龍人たちぐらいか。ふむ……イマイチだな」
腕を組んで答える想起。時龍は興味無さげに鼻を鳴らす。それにしても、なぜ想起はタッグバトルをしようとしたのだろうか。悪いことが起こらなければいいのだが……
博麗神社の中は、活気で溢れていた。ハイドたち龍人や、その他の別世界から来た酒を飲める者たちは、酒やワインなどを飲んでいた。一方で酒が飲めない者たちは、ジュースやお茶を美味しそうに飲んでいる。しかし、そのまた一方で二つの影が怪しげな行動を取っていた。
「主、秘蔵写真を……」
「新人が来るまでの辛抱だ。絢斗、お前は何かないのか?」
「あります! ありますとも! こちらは妖夢ちゃんが入浴しているところをシャッターした写真です!」
絢斗の声が大きかったのか、妖夢は食べ物を喉に詰まらし、幻真はブチ切れていた。幾ら他の世界の妖夢でも許せなかったようだ。
「絢斗……」
「やべ、幻真いるんだった! にっげ——」
「槍符『光槍』!」
幻真は光で作った槍を、逃げる絢斗に向かって投げる。絢斗が振り向いた時には、眩い光となっていた。
「……止められた?」
「幻真、ここで暴れたら神社が壊れるでしょ?」
「霊妙さん……すいません」
幻真は霊妙に深く頭を下げる。彼女の隣にいた霊夢も呆れていた。絢斗は酷い間に合わず一安心した。
「貴方も、あまり迷惑事は起こさないでねッ!」
「ぐへっ!」
一瞬にして絢斗との間合いを詰めた霊妙は、彼の腹部に拳を入れた。絢斗は丁度そこに現れた時龍に衝突する。
「あいだだ……お、絢斗! 大丈夫か⁉︎ 霊妙は手強いからあまり無理しない方がいいぞ!」
「いや、時龍、お前バカか」
突っ込む想起。絢斗は苦笑していた。
「それに、どうやら幻真が原因ぽいしな」
「あ、ああ。俺のせいだ……言い訳なら幾らでもあるが、ここは大人しく謝る」
湯飲み茶碗を片手に持つ幻真。その隣に、喜響が現れる。
「明日のタッグバトル、楽しみだねぇ……幻真くん?」
「お前か。くたばるなよ」
「君こそ……ね?」
ニヤリと微笑む喜響。幻真は気味が悪そうに喜響を見ていた。
「え? これってトーナメント方式なんですか?」
「そうだぞ妖夢。組み合わせはクジで抽選する」
「クジか〜。誰となるか楽しみだ」
少し酔っているアルマが笑いながら言う。
「これは殺し方式ですかね?」
「怖いこと言いますね、ハイドさん」
「ふっふっふ。狼くん、よろしければ美味しい物……食べてみませんか?」
ハイドの誘いに、狼は首を傾げる。
「ちょっと台所を借りますよ」
「え、ええ。わかったわ」
「それでは……おっと、貴方にも来てもらいます」
「え、俺⁉︎」
狼と共に連れて行かれたのは時龍だった。H.S同盟を狙うハイド。様子を見ていた終作は、マズイと思った。だが、手は出さずに時龍を試すことにした。
「そうだな……この鬼神は不死身だったね?」
それは和正だった。なぜ台所で寝ているかはわからないが、ハイドは彼の頭を掴んで腕を引きちぎる。その光景に、狼と時龍は恐怖を覚えた。
「んあ……腕が再生している? 不死身だし、どうでもいいか……」
「これをフライにしようか」
「お、おいハイド……?」
「なんでしょう? あ、片栗粉ですか? ありますよ」
これはもう何を言っても無駄だと、狼は確信した。それに、今にでも逃げ出したかった。
「出来ました。狼くんから如何ですか?」
「あ……ぼ、僕は大丈夫です! お腹いっぱいなんで!」
「そうかい? じゃあ、作業で疲れてるだろうから時龍くんにあげるよ」
「え……嘘だろ……」
皿の上に乗っているフライにされた和正の腕。時龍は体を震わし、悲鳴を上げた。
「ぎゃぁぁぁぁあ!」
「——悲惨な事になったな。まあ、これも我が同盟への加入試験だと思ってくれ」
次元の狭間で終作は、H.S同盟を狙うハイドを観察していた。それにしても、彼は大分酔っているようだ。それともう一つ、和正が不死身であるということもわかった。
「そんで、お前が現れる事も予知していた」
「ありゃ、予知されてましたか。まあ、だから来たんですが」
終作の後ろにいつの間にかいた謎の人物。昼間にも会ったあの人物だ。
「俺に何か用でもあるのか?」
「用はありませんが、ただ貴方の行動を見たくて」
「行動……?」
終作には話があまり呑み込めなかった。だが、人物はクルリと回り、背中を見せる。そして、あっという間に姿を消してしまった。
「……またか」
祝が終わって皆が酔い眠った後。博麗神社から遠く離れた場所に移動している二人の人物。その二人とは、幻真と霊斗のことである。
「明日はタッグバトルがあるわけだが、お前はあれから強くなったか?」
「ん〜、少しだけかな」
笑って答える幻真。霊斗は腕を組みながら、夜の星空を眺めていた。
「……終作が変な奴を見つけたらしくてな」
「変な奴?」
「ああ。もしかしたら明日、予期せぬ事が起こるかもしれない。その時の為にも、幻真の強さを確かめたくてな」
幻真はふむふむと頷く。だが、幻真は戦おうとはしなかった。
「大丈夫だ霊斗。俺を信じてくれ」
「……そうか」
霊斗は苦笑いして、空へと飛んでいく。幻真も彼の後を追いかけるように飛んでいく。その様子を一人の人物が見ていた。霊斗に気付かれているのを知りながら。だが、霊斗は無視していた。きっと大丈夫であろうと……
翌日。早朝から想起、時龍、絢斗、緋闇が闘技場へと来ていた。実際、作業しているのは時龍だけだが。
「緋闇ちゃ〜ん、大丈夫だからね〜」
「近寄るな」
「いでっ!」
ニヤニヤしながら近付いて来ていた絢斗の顔面に、緋闇が弾幕を撃つ。緋闇は想起のお供のような感じで付いて来ていた。一方の絢斗は緋闇を狙って来ていた。
「よっと、お疲れ様です」
そこに空から降りてきたハイドが丁寧に礼をする。だが、時龍は身震いをしていた。無理もないだろう。昨夜あんな恐ろしいモノを見させられ、食わされたのだから。ハイドが酔いすぎると危ない。そう確信した時龍だった。
「あともう少しですかね」
「ああ。朝食後には完成するんじゃないかな」
「それは楽しみですね。僕の世界でもあったようなタッグバトルなのでしょうか」
「そうだな。お前の世界での事は聞いている。全く、あのトリックスターは……」
想起は終作の顔を浮かべる。ハイドは苦笑い。時龍は窶れていた。
「ほら、時龍。この写真でも見て元気出しなよ〜」
「ん……おぉ! 昨日撮ったウィスプたちの写真! これで元気が溢れて——」
『燃えちゃえ〜!』
いつの間にか居たウィスプとランタンによって、写真が灰にされてしまった。時龍と絢斗は絶句する。
『ついでに二人も燃えちゃえ〜!』
「ぎゃぁぁぁぁあ! 熱い熱い!」
「ドンマイだな、時龍」
ウィスプたちの炎を避けた絢斗は、地獄の炎を浴びる時龍を指しながら苦笑していた。
「さっさと作業をしろ、遅れるぞ。ほら、ウィスプ、ランタン、その辺にしてやれ」
『はーい』
ウィスプとランタンは想起に止められ、炎を消した。時龍は丸焦げとなっていた。
「それじゃあウィスプ、戻ろっか」
「戻る戻る〜」
二人は空へと飛んで行った。その様子を想起と緋闇が見届けた。
「それじゃあ、僕も戻ります」
そして、ハイドも神社へと戻っていった。想起が一旦溜息を吐き、時龍の側に来る。
「へ?」
「さっさとしろ」
時龍は想起のパンチによって、近くにあった木に激突した。時龍はドサッと倒れる。絢斗が直ぐに時龍の元に行き、様子を伺う。
「そこまでしなくても?」
「緋闇、色々な事で呑み込んでくれ」
「は、はい……」
色々とは、なんだろう。その時の緋闇には、一つしか思い浮かばなかった。
「絢斗、時龍を頼んだ」
「え、俺? 仕方ないな〜」
想起と緋闇は空へ飛んでいく。時龍を担いだ絢斗も、二人の後を追う。時龍が気絶しているため、移動手段が担いで飛んでいくしかなかったのだ。
台所では霊斗、活躍、幻真、火御利が料理をしていた。だが、活躍の料理は危険だと終作に注意されていた。
「なんでだ?」
「まず火を使わせるのは危険。包丁もだ。飛んでくるから気をつけろ。特に幻真だ。火御利はナイフを使うなら何とかなる。だが、お前の剣では防ぐのが遅い」
「あ、ああ。忠告ありがとう」
終作は忠告だけして次元の狭間へと消えていく。幻真は台所へと戻っていった。
「そ、それじゃあさっさと作っちまおうか」
「おう。取り敢えず和食を何人前かだな。やってやるぜ」
活躍は沢山の野菜などを机に置く。そして、野菜を素早く切っていく。とても速い。だが、ここで忠告通り活躍が使っていた包丁が幻真に飛んでくる。幻真はギリギリで避け、その包丁は壁に刺さる。
「危ねぇ……」
「幻真、早く作りなさい」
「へい」
火御利に言われた幻真は炊飯器の準備をする。チラッと活躍の方を見ると、先程まであった食材が全て切り終わっていた。それに、包丁が足元に沢山落ちている。と、包丁が火御利の方へと飛んでいく。
「火御利!」
「何? 早くしなさいよ」
終作の言っていた通り、火御利は飛んできた包丁をあっさりとナイフで止めてしまう。幻真は唖然としていた。
「幻真、どうした? 危険は常に付き物だと思っておいた方がいいんだぞ?」
「お、おう……」
料理をしていた霊斗が幻真に囁く。幻真は頷く事しかできなかった。
朝食の時間となった。料理をしていなかった者は、闘技場の方にいたか、寝ていたか、それとも自主トレーニングをしていたかだ。今回のタッグバトルでの景品などはないが、気合が入っているものもいるようだ。
「幻真と妖夢は付き合ってどんぐらいなんだ?」
「アルマさん、それを聞きますか……」
「最近かな。別にイチャついてたりしないからな?」
幻真は顔を赤らめながらもアルマに答える。妖夢も顔を赤くしながら、顔を見られまいと俯いていた。
「緋闇、タッグバトルで昨日のリベンジを果たさせてもらうよ!」
「私も手加減はしない」
熱くなっている狼と緋闇。その様子に、サテラは自分も力を見せてやりたいと思っていた。
「そういや、ハイドたちはなんで参加しないんだ?」
「偶にはいいかと思いまして」
想起は龍人たちと雑談していた。想起の問いに答えていたのは、ハイドだ。
「偶にはアリかな〜みたいな?」
笑って答えるジラ。
「想起さんも、頑張ってくださいね」
「おう」
カスミの応援に対し、威勢良く返事をした想起であった。
「耶麻人とタッグバトルで当たればいいな」
「そうですね。喜響さんも強そうですし」
耶麻人に興味を持っている喜響は、彼と雑談をしていた。その話には、霊斗も混ざっていた。
「そういや喜響、なぜ幻真を狙っている?」
「それは企業秘密だよ」
「き、企業秘密?」
「聞かない方がいいってこと」
「そうか、まあ頑張れよ。俺はどっちを応援しようが関係ないからな」
霊斗は話し終えた後、お茶を飲んでいた。耶麻人と喜響も同じようにお茶を飲んだ。
「和正、そんなものか⁉︎」
「国下こそ、まだまだ甘い!」
相変わらず仲がいいのか分からない鬼神二人。その様子を見ていたウィスプとランタンが、どうしようか話し合っていた。
「どうする? ウィスプ」
「取り敢えず、監視!」
頷くランタン。その様子をアデルが見ていた。
「どうするか見ておこうかしら」
アデルは鬼神二人と姉妹二人の様子を、間合いを取って観察する事にした。
「時龍さん、もしタッグバトルで当たっても、変なことしないでくださいね!」
「時龍、春姫に何かしたら容赦しないぞ?」
「わ、わかったって。春姫には何もしないから」
相変わらず危険に晒される時龍。良太は丁寧に食事をしていた。と言っても、この世界の霊夢と話しながらだが。
「へ、へぇ……霊夢さんが幻真さんの名前を」
「ええ。いいと思わない?」
「は、はい! とてもいいと思います!」
良太は自分の世界の霊夢と結婚している。別世界の霊夢だが、同じ霊夢と思ってしまうのだろう。
「俺は……この世界の妖夢ちゃんに……」
「させん」
「いだだ!」
幻真が咄嗟に絢斗の耳を引っ張る。そして、降参を示すかのように両手を上げる。
「全く……幻真は甘くないな〜」
「当たり前だ」
苦笑するアルマ。すると、パルスィの近くに火御利が寄ってくる。
「コレ、作ったんだけど食べる?」
「……頂くわ」
火御利がパルスィに差し出したのは、玉子焼き。一般的な味とは違っていた。
「……美味しい」
「本当⁉︎ ありがとう!」
火御利に感謝され、パルスィは少し顔を赤らめる。アルマはなんだか嬉しそうにしていた。
「あの料理の仕方は便利なようで危ないわね」
「まあ早いから良いじゃないか」
縁側に居るのは、霊妙と活躍。先程の料理の事について話しているようだ。
「お陰で片付けが面倒くさかったわ」
「……悪い」
頭を下げる活躍。霊妙は首を振った。
「でも美味しかったわよ。貴方の世界で他に料理が上手い人が居たりするの?」
「いない事はないな。というか、一度来ている」
首を傾げる霊妙。その様子を時空の狭間で見ていた終作。そして、またあの人物が現れる。
「俺に何か用なのか? あるならさっさと言って早くどこかに行け」
「無いですよ。私が貴方を好いてる様なものです」
終作は、ふーんと顔を向けずに言う。
「害は与えるなよ?」
「勿論です」
謎の人物は、そのまま去って行った。
次回からいよいよタッグバトル開始です。終わり方どうしようかな。