第7話 幻真の能力
戸が開くと、紫色の髪に花飾りを付け、若草色の長着の上に花が袖の部分に描かれた黄色の着物、そして赤いスカートを履いた少女が出てきた。
「はい。あ、霊妙さんですか。そちらのお方は?」
問われた俺は、彼女に自己紹介をする。加えて、彼女が阿求さんであるか確かめるために名前を聞いた。
「ええ。私は幻想郷の歴史を知る者、稗田阿求です。立ち話もなんですし、中へどうぞ」
俺と霊妙さんは、阿求さんに中へと案内してもらった。阿求さんの後を追って廊下を歩いていると、古い本がたくさんある部屋を目にする。たぶんそれは、幻想郷の歴史を綴った本かなにかであろう。
「阿求さん、失礼ですが、どんな能力を持っておられるのでしょうか」
問われた彼女は、なぜか笑いながら答えた。
「そこまで丁寧に話さなくてもいいですよ。私の能力は『一度見たものを忘れない程度の能力』です」
なんだかすごそうな能力だな。
「霊妙さん、今日もお話しの相手になってくださりありがとうございます」
霊妙さんは気にしないでと言い、俺が阿求さんに会いたがっていたことを伝えた。なんだか恥ずかしくなってしまった俺は、顔を隠すようにして俯いた。
「そうだったんですか。なんなら、幻真さんがいいならいつでも遊びに来てくださって構いませんよ」
そいつはいいな。たぶんなにかとヒマになりそうだから、お邪魔させてもらうおうかな。
「それじゃあ阿求、話し足りないけど今日は帰るわね。また明日も来るわ」
「はい、いつでもお待ちしております。幻真さんも、いつでも来てくださいね」
「はい! ありがとうございます!」
俺と霊妙さんは阿求さんの屋敷を後にした。その帰りに和菓子屋へと寄っていき、いくつかの和菓子を買って神社へと帰った。
帰りは特に何事も無く、無事に博麗神社へ到着。
「ふぅ、着いたわね」
「霊妙さん、なんかスゴく疲れました……」
「それは霊力を消耗したせいじゃないかしら? 今日は早く寝なさい。ゆっくり休めば、霊力は回復するはずよ」
俺が疲れきった声でそう言うと、それは霊力を消費しすぎたせいだと説明した。ということは、飛ぶときに霊力を消費して、なおかつ俺にも霊力があるということか。ちなみに、霊力は睡眠を取って休めば回復するらしい。
霊妙さんから話を聞いた俺は、中へとあがる。霊妙さんは台所へと夕食を作りに向かい、俺は霊夢を探すことに。思い当たるのは縁側だが、案の定、彼女はそこでお茶を飲んでいた。
「霊夢、もうすぐ夕飯だけど、買ってきた和菓子でも食うか?」
すると、彼女はこちらに勢いよく顔を向けて言った。
「和菓子大好きなのよ! 早くちょうだい!」
霊夢がお菓子を食べすぎて夕食を残してしまったことは、言うまでもない。その後、霊妙さんが罰として霊夢に食事の片付けをさせた。
その間に俺は風呂へと向かい、入浴する。
「なんかすんなりと飛べたけど大丈夫かな。まあ、霊力をほとんど消費してしまって疲れ果てた。のぼせちゃいかんし、もうあがろう」
その後、着替えた俺は布団で横になる。直後、さらなる眠気に襲われて熟睡した。
〈博麗霊夢〉
もう! なんで私がこんなハメに……幻真にまんまとやられたわね。あ、そうそう。私が今日なにをしていたか話してあげるわ。
時刻はお昼前。
「あーあ、置いて行かれちゃったわね。まあ、実際あまり行きたくなかったのよね。面倒くさいし」
私は独り言を吐き捨てる。すると、空から気配を感じてそちらを見上げる。そこには、お馴染みの魔理沙の姿があった。
「よお、霊夢! 今日も弾幕ごっこを——」
「今日はしないわ。毎日してたら体がおかしくなっちゃうわよ」
魔理沙はブーと頰を膨らませながら下に降りてきて、箒を壁に立てかけてから私の隣に座る。私は彼女が座ったのを横目に確認し、幻真のことについて聞いてみた。
「幻真、強くなりそうじゃない?」
「なんでだ? 幻想入りした普通の人間だろ?」
「まあ、そうなんだけど。明日鍛えてみようかな」
どうやら、魔理沙はよくわかっていないようだ。その話はすぐに途切れ、雑談へと移ったのだった。
〈幻真〉
「ん……ああ、もう朝か」
俺は太陽の光で目を覚ました。といっても、外は少し明るいくらいで、夜が明けたばかりのようだ。
俺は布団から出て、そのまま外へ向かう。霊力が完全回復したおかげか、昨日帰ってきたときよりも体が軽い。
「スペルカードだっけ。なんとなく考えてみたけど、俺にもできるかな」
魔力が使えるかわからないけど、やってみよう。ちなみに、カードは無い。唱えるだけで使えるようにしている。まあ、スペルのみって言ったところか。
「炎符『炎之勾玉』」
勾玉の形をした、炎でコーティングされた弾幕をイメージ通り正面に飛ばしてみる。なんとか飛ばすことはできたのだが……
「はぁ、はぁ、はぁ……魔力は使えたっぽいけど、まだまだ消耗が激しいな……」
すでに息があがってしまっていた。弾幕ごっこになったら、絶対に魔力がもたない。どうしたものかと頭を悩ましたが、俺はある力――霊力に着眼する。霊力を体に巡らせてなんとかもちこたえる。これを試してみよう。俺はその場に座り込み、休憩した。
神経を集中させていたら、だいぶ日が昇っていた。俺は立ち上がり、次のスペルを唱える。
「龍符『炎龍』」
炎を纏った龍が現れ、俺の周りを飛んでみせる。
「お〜よしよし」
俺は龍の頭を撫でながら、龍を出せた自分に感心してしまった。まさか自分が龍を出せるとは思わなかったからな。
「あら、幻真。その龍は?」
目を覚ました霊妙さんが、縁側の方から龍のことについて尋ねてきた。
「えっと、俺のスペルです。まだ完全にできてはいませんが。まぁ、今は魔力が少なすぎで弱いのは弱いのですが……」
俺が話している途中に、炎龍の姿が消えた。俺の魔力が消耗しかけていたからだ。疲れてしまった俺は、また地面に座り込む。
「大丈夫? むりは禁物よ。そんなところで座ってないで、中で休みなさい。肩を貸すわ」
俺は霊妙さんの肩を借りて、社殿へあがった。
「——幻真の能力は『炎を扱う程度の能力』と言ったところかしらね。炎龍を召喚したことについては驚いたわ」
霊妙さんは感心した様子をみせた。
「う〜ん、でもなあ……魔力を多く消費してしまうんですよね。なんとか抑えられないものか……」
俺の悩みに霊妙さんも頭を悩ます。すると、布団のほうから声が聞こえてきた。唸るその声は、先ほどまで寝ていた霊夢のものだった。
「霊夢も起きたし、朝ごはんにしましょ」
霊妙さんの案に賛同した俺たちは、食堂へと向かった。