第62話 付き合わされる鍛治職人
文花帖、始動。
「文々。新聞! 文々。新聞ですよー!」
人里にて新聞を号外する一人の鴉天狗——名は射命丸文。落ちてきた新聞を拾い、読む里の人たち。この新聞を作り上げるため、彼女は数々の取材をしてきた。
〈射命丸文〉
どうも、文です! 現在取材をするために、リグルさんとルーミアさんを探索中です!
「で、なんで俺を連れてきた……」
「そんなに嫌がらないでくださいよ! ほら、リラックスリラックス!」
こちらの方は想起さん。生憎、狼さんが不在だったのでお呼びしました。鍛治職人としての仕事があるとか言って、行きたくないのを誤魔化してましたね。
「あの金髪、黒い闇……ルーミアさんじゃないですか⁉︎ シャッターチャンス……」
「盗撮マンみたいになってるが」
むっ、失礼な! 新聞屋に盗撮は付き物ですからね!
「カチッと……ふぅ、撮れまし……た……」
「貴方は食べれる人材?」
ひえー! 急に目の前に来られちゃびっくりしますよー! 心臓が止まりかけました……
「いや、俺は食べられないが、この鴉は食える」
「食べれませんからね! というか食べないでください! えーっと……盗撮して申し訳ないのですが、インタビューをさせてもらってもよろしいでしょうか?」
「いいのだー」
さすがルーミアさん! 話が分かる!
「——幻真? あー、最近会ってないのだー」
「それで、どう思ってらっしゃいますか?」
「強いのだー。食べたくても食べられないしー」
メモメモ……っと。
「ルーミアさん、ありがとうございました! この辺で失礼しますね!」
「わはー」
やりました! 一番最初からやっちゃいました!
「そんな簡単にいくものなのか……」
続いて、リグルさんを捜索中。この森にいらっしゃると思うのですが……
「むっ……あの緑髪の子じゃないか?」
「そうですね、間違いありません! あの羽に触覚! リグルさーん!」
「ん? 誰か私を呼びました?」
「——幻真さんですか? そうですね……強いです」
「ルーミアと同じか」
「最近お会いしてないですし、久しぶりに会いたいですね」
メモメモ……
「リグルさん、ありがとうございました!」
「はーい」
二人目完了です!
次はチルノさんとレティさんを探しています。チルノさんは霧の湖にいると思うのですが……
「あの黄緑の髪……」
「チルノちゃん、どこだろう……」
間違いないです。大妖精さんですね。
「大妖精さーん!」
「あ、文さん。どうしましたか?」
「チルノさんを呼んでいただいてもいいですか? 取材したいもので」
「お呼びしたいのは山々なんですが、かくれんぼをしてまして……チルノちゃんを探さないと出てきてくれません」
これは遊びの予感。頑張ってチルノさんを探しますよ〜! 取材の為です!
「絶対後回しにしたほうがいい……」
はぁ……想起さんの呟き通りでした。チルノさんを見つけた時には、既に夕方……後悔しましたよ……
「幻真? 弱っちいね!」
「え?」
「知らないの? あたいは最強なんだよ!」
メモメモ……チルノさんは相変わらずですね。大妖精さんは苦笑、想起さんは呆れてます。
「チルノさん、ありがとうございました!」
「へっへ〜ん! お安い御用!」
さて、レティさんはどこにいるのでしょうか。というか、こんな暑い夏ですけど……まあ、チルノさんもいましたし、どこかにいるとは思うのですが……それにしても暗くなってきましたね〜。
「あれは誰だ?」
木の影から覗く想起さんの言葉に、私も顔を覗かせる。あれは……レティさんに間違いないですね。
「レティさーん」
「ん?」
「——幻真? あぁ、あの人か。対して考えたことがない。冬じゃないとやる気が起こらないわ」
チルノさんとは真逆みたいですね〜。
「それじゃあ、私は忙しいんで」
「え……あ、ありがとうございました!」
さてさて、もう日が暮れたので泊まる所を探したいんですが……因みに、次の取材相手であるアリスさんと慧音さんを探しています。泊まれるとしたら、アリスさんの家でしょうか。確か魔法の森に——
「文、帰っていいか?」
「ダメです! 最後まで付き合ってもらいますからね! 決して帰らせません!」
想起さんは落ち込む。無理矢理ではあると思いますが、これも仕事のためです!
「もう解放してくれ……」
「だーめーでーす!」
魔法の森を彷徨っていると、一軒の家が見えてきました。恐らくアリスさんの家でしょう。
「この人形……アリスさんのに間違いないですね」
「こんな時間に何の用かしら」
窓の奥に置いてある人形を見ていると、金髪の髪にカチューシャを付けた人が出てきました。良かった、当ってたみたいです。
「夜遅くにすみません。取材しに来たのですが、序でに泊めてもらっても良いでしょうか?」
アリスさんは迷ったような表情をしてらっしゃいます。無理なら博麗神社行きですね。
「構わないわ。取材ぐらいなら幾らでも応じる。布団は引いとくから。それと、ご飯は食べたのかしら?」
「い、いえ……」
「なら丁度いいわね。ちょっと遅いんだけど、今から晩御飯にしようと思ってね。早く上がって」
私は勢いよく頭を下げ、家に上がらせてもらった。想起さんの言葉を耳に入れておけば良かったです……
「——幻真? ああ、幻想入りした彼ね。まあ、強いみたいね。私は戦ったことないけど。それぐらいかしら」
メモメモ……あ、想起さんは今お風呂に行っています。
「ねぇ、この取材はなんのために?」
「ちょっと纏めたくてですね」
「ふーん」
あ、想起さんが上がってきました——って、寝るの早! そんなに疲れましたか⁉︎
「彼は鍛治職人なんでしょ? そんなに出かけられないから、体力が付いてないんじゃないの?」
そ、そうなんですかね……取り敢えず、私もお風呂へ行きましょう。
翌朝、隣には誰も寝ていませんでした——って、なんでですか!
「想起さん⁉︎ アリスさん⁉︎」
「俺はここだが……」
椅子に座って剣の刃を研ぐ想起さん。もう、びっくりさせないでくださいよ。私はアリスさんがいない事について聞いてみる。
「彼女なら外で花に水をやってるぞ」
そうでしたか、良かったです。私だけ取り残された気がしたので。全く……ホラーですよ! 起きたら隣で寝ていたはずの人がいないんですよ!
「というか、疲れてるのはお前じゃないか?」
「……へ?」
「だから、お前が一番疲れてるってことだ。一番長く寝てただろ」
私は壁掛け時計に目をやる。時刻は既にお昼を指していた。ふむふむ……って、ええ⁉︎ もうこんな時間ですか⁉︎
「無理するなよ」
「あー……御心配ありがとうございます」
私は想起さんに頭を下げた。想起さんは鼻で笑った。
ちょっと遅い朝食をいただき、アリスさんの家を後にする。さて、寺小屋に向かいましょうか。
「なあ、文」
「はい、なんでしょうか?」
「なんで最初に一番近い慧音、妹紅……つまり寺小屋にしなかった。わざわざ俺を連れ去りに来たくせに」
ふっふ〜ん。想起さんはわかっておられませんね〜。
「これが計画性です!」
「絶対ちげぇよ!」
あちゃー、突っ込まれましたか。まあ、実際お尋ねする順番を決めてたものでしてね。決めた時はそんな事考えてなかったわけです。例え狼さんと一緒に来ていたとしても。
本当は昨日で半分終わらせるつもりでした。まあ、チルノさんを探すかくれんぼに付き合わされたのが大失態でした。狼さんの嗅覚があればなんとかなったかもしれませんね。
「おっと、寺小屋が見えてきましたね。見た感じ、今日はお休みでしょうか?」
「今日は休みっぽいな。おーい、慧音〜」
想起さんが慧音さんを呼ぶ。すると、奥から返事が返ってきた。恐らく、慧音さんだろう。
「なんだ? 今は少し忙しいんだが……」
「忙しい所失礼します。直ぐに終わらせますので、少しだけよろしいでしょうか?」
「……幻真か。まあ会ったことはあるが、戦ったことはないな。見た感じ強そうだが」
メモメモ……戦った事がない人も結構いらっしゃるんですね。まあ私もなんですが、敵いそうにないです。
「それでは、失礼しますね」
「ああ」
さーてさて、続いては鈴仙さん、てゐさん、メディスンさんですね。そして只今、迷いの竹林を探索中。
「永遠亭に行けば、二人はいそうだな」
「そうですね。あ、見えてきましたよ、永遠亭」
迷いの竹林の中にひっそりと建つ建物、永遠亭。というか、中がなんだか騒がしいですね。
「こらー! てゐー!」
「捕まえられるもんなら捕まえてみろー!」
「はぁ……追いかけっこか?」
想起さんは呆れていました。取り敢えず中へ入ってみたはいいものの、輝夜さんや永琳さんは居ないのでしょうか? とにかく、二人を止めなければ。
「あ、あの〜……」
「あ、文さん。ちょっと待っててください! てゐを懲らしめたら伺いますので!」
あちゃー、これは手伝うべきなのでしょうか……
「想起さん、どうします?」
「饅頭を食う」
「……はぁ」
次回は弐。想起との仲が深まる文。