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東方人獣妖鬼  作者: 狼天狗
序章
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第6話 初めての人里

 〈博麗霊夢〉



 私はいま、夕食ができるのを待っている。その間、お母さんとお茶を飲んでいた。台所からはいい匂いが漂う。


「霊夢、彼は幻想入りしたのよね?」


 お母さんに聞かれた私は、その問いに頷く。そして、昨夜帰ってくる途中で彼に会ったこと、彼が幻想郷に迷い込んだのは紫のしわざだと思って彼女に問いただしたが、当の本人はは何も知らないと言っていることを伝えた。


 それにしても、彼はどうやってこの辺境の地に来たのかしら……


 私がそう悩んでいると、台所の方から声がした。


「霊夢〜、霊妙さ〜ん、ごはんできましたよ〜」


「やっとね。お母さん、行きましょ」


 疑問より空腹が勝っていた私は、思考をやめて食堂へと向かった。








 〈幻真〉



 ふぅ〜、なんだかひと仕事終えた気分だ。味付けも悪くなかったし、上手くいったと思うんだが……


「どうですか?」


 俺は期待を胸に、ふたりに聞く。


「……いける」


 霊夢は食事を次々に口に運ぶ。よっぽどお腹が空いていたのか、それともそんなにおいしかったのか。真理は彼女に直接聞かなければわからない。


 一方、霊妙さんにも満足してもらえたようで、さらには料理が上手いと褒めてもらえた。俺は一安心した。


 その後、食器の後片付けをし、風呂に入るために脱衣所へと向かった。






 俺は脱衣所に着くなり衣服を脱いで浴室へと入り、さっそく体を洗っていく。


「それにしても、疲れたな。昨日……というか、まったく寝てなかったもんな」


 そんなことを呟きながら、俺は湯船に浸かった。


「ふぅ……疲れが取れる……」


 ん〜、そういや、なんで俺は幻想入りしたんだろうな。霊妙さんに聞けば何かわかりそうだが、ここは幻想郷の管理者をしている紫さんに聞いたほうが良さそうだな。


「幻真〜、替えの服、置いとくわよ〜」


 霊妙さんの声だ。俺は感謝の言葉を述べて返事をした。


 しばらく浸かっていると、だんだん眠たくなってきた。ここで眠るわけにもいかない。そろそろ上がるとするかな。






 風呂から上がって、霊妙さんが用意してくれた着替えの服に目をやる。青色の和装……とてもいいじゃないか。


 俺はその服に着替えて、部屋に戻った。


「気に入ってもらえたかしら?」


 聞かれた俺は、大満足だと答えた。


「それはよかったわ。それじゃあ、今日はもう寝なさい。昨日から寝てないらしいし。ほら、霊夢も。早くお風呂に行きなさい」


 霊夢は返事をして風呂へと向かった。霊妙さん、まるで俺の母親でもあるみたいだな。


「それじゃあ、おやすみなさい」


 俺は挨拶をして、床に就いた。






 翌朝。目を覚ました俺は隣に視線をやる。そこには、ぐっすり眠る霊夢の姿があった。さらにその霊夢の隣に、一つの布団がたたまれていた。おそらく、霊妙さんの布団だろう。


「寝すぎたかな?」


 俺は布団を片付け、台所に向かった。すると、そこには作り置きの食事と置き手紙があった。内容は、散歩をしてくるとのこと。


 霊夢を起こすか起こさまいか悩んだ結果、そのまま寝かせておくことにし、俺の分の作りおきの食事を食べることに。といっても、食事は簡単に済んだ。


 食事を終えた俺は縁側に向かい、そこに腰を掛ける。今日も今日とて天気がいい。そんなことを思いながら日を浴びる俺の目の前に、見覚えのあるものが現れる。


「あら、幻真」


 そこに現れたスキマから姿を見せたのは、紫さんだった。俺は彼女に挨拶をし、今日はどうしたのかと彼女に聞いた。


「今日はこの子たちを紹介しておこうとね」


 彼女に言われてスキマから姿を現したのは、ふたりの人物。ひとりは九つの尾を持った妖怪で、もうひとりは二本に分かれた尻尾を持った化け猫だった。


「初めまして。私は紫様の式神、らんだ」


「私は藍様の式神のちぇんです!」


 ふたりの自己紹介を聞きながら頷いていた俺だが、一応自分も名乗っておくことにした。


 そういえば、式神って妖獣に式がついたものだったよな? となると、藍さんと橙ちゃんは妖獣に当たるのか。


 種族のことはひとまず置いといて、俺は紫さんにある質問をした。


「あの……紫さんたちも、能力ありますよね?」


「あら、もう能力のことを知っているのね。私の持つ能力は『境界を操る程度の能力』よ」


「私の能力は『式神を操る程度の能力』だ。ちなみに、橙は『妖力を扱う程度の能力』持っている」


 へぇ〜、藍さんの能力は自分自身が式神なのに式神を操れるんだな〜……だから橙ちゃんが式神でもあるってわけか。そんで、以前霊夢が言ってきたような気がするけど、また詳しく知らない単語が出てきたな。


「えっと、わからないことだらけで申し訳ないんですが、橙ちゃんの能力で言っていた『妖力』ってなんですか?」


「妖力っていうのはね、妖怪が持つ特殊能力のうち、それぞれの妖怪に宿る特有で多種多様な能力を妖力、または妖術と呼ぶのよ」


 うわぁ、また難しい。ちなみに、魔力や霊力、神力などもあるらしい。


「なるほど。あ、あともうひとつ聞きたいことが——」






 外の世界で幻想になってしまったものが幻想郷に入ることがある。これにより勢力の薄くなった妖怪が幻想郷に呼び込まれ、妖怪の勢力を強めている。


 八雲紫の仕業もあるかもしれないが、今回は本人はしていないという。なんらかの理由で結界を超えてしまうといった具合。他にもパターンがあるようだ。


「でも、記憶が無くなるパターンは珍しいのよね」


 俺は運がついてなかったってことか。落ち込む俺だったが、鳥居のほうから足音と共に気配を感じる。そう、霊妙さんが帰ってきたのだ。


「ん? あら、紫に藍に橙ちゃんじゃないの」


 紫さんは霊妙さんに軽く手を振り、藍さんと橙ちゃんは会釈した。


「それじゃあ幻真、私たちは帰るわね」


 先に式神の二人がスキマへと入り、紫さんもスキマへ入っていく。彼女の姿が見えなくなると、スキマがまもなく閉じた。


「さて、そろそろ人里に行こうかしら。あの子はちゃんと起きたのかしら?」


「いえ、たぶんまだ寝てると思います」


 俺は霊妙さんにそう返事をして、社殿にあがって霊夢を起こしにいく。


「霊夢〜、起きろ〜」


 霊夢を揺さぶり起こすも、彼女は寝言を言うだけだった。


「はぁ、仕方ないわね。疲れてるんだろうし、私たちだけで行きましょ」


 結局、人里に行くのは俺と霊妙さんのふたりになった。


 身支度をする中、気になった俺は人里へと向かう道中がどうなっているか霊妙さんに聞いてみた。どうやら、人里から博麗神社までは見通しの悪い獣道しかないらしく、道中妖怪に襲われる危険性が高いのと、妖怪がよく来ることもあって参拝客が訪れることは稀であるとのことだ。


「人里って、どんな感じのところなんですか?」


「そうね〜、幻想郷において人間が住む里……狭い幻想郷の中では、里と言えばここを指すわ。 昔ながらの木造平屋が軒を連ねていて、主要な店の多さもあっていつも人間で賑わっているのよ」


 なるほど。というか、思ったんだが……


「ただでさえ危険で長い道なのに、歩いてたら間に合わなくないですか? 俺は飛べないですけど、霊妙さんは霊夢と同じ能力を持っているんですよね?」


「ええ、持ってるわ。でも、どうしようかしらね……」


 彼女が悩んでいるのは、俺の移動手段だろう。当てもなく空を見上げていると、何かを思いついた彼女が突然声を上げる。


 その案とは、なんとも大胆で飛んでいる鳥を想像するというもの。そんな無茶な……と思いながら、たまたま飛んでいた鳥に視線を移す。俺は鳥が飛ぶ様子を目に焼き付け、自分が飛んでいるところを目を閉じながら想像してみた。すると、いとも簡単に飛べてしまった。


 ……幻想郷ってこんなものなのか? それとも、俺の運がよかっただったなのか?






 博麗神社から飛行を始めて数十分。なにやらたくさんの背の低い建物が見えてくる。おそらく、あれが人里だろう。俺と霊妙さんは人里の入口門前の道へと降り立った。


「阿求の屋敷まで少しあるわね。歩いて行きましょうか」


 里はとても賑やかであった。途中で声をかけてくる人もいた。


 しばらく歩くと、阿求さんの屋敷らしき場所に着く。霊妙さんは戸を叩き、阿求さんの名を呼んだ。

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