第5話 能力について
〈幻真〉
爆煙が止み始めると、煙の中にひとつの人影が見えてくる。それは霊夢か、はたまた魔理沙か。俺はひとり、緊張した。
「——今日も私の勝ちね」
そこに立っていたのは霊夢だった。一方の魔理沙は倒れていた。俺は反射的に倒れた彼女へと駆け寄る。
「魔理沙、大丈夫か?」
俺は魔理沙に近づいて手を差し伸べる。
「な、なんとか……」
ヘトヘトだった彼女だが、俺の手を取って立ち上がる。
「まだ霊夢には敵わないか……師匠にもっと鍛えてもらうしかないな」
それはたぶん、幽香という人にだろう。
「でも魔理沙、以前より強くなってると思うわよ」
霊夢は魔理沙を褒める。褒められた彼女は、照れくさそうにした。
「ねえ、疲れたでしょ? 休憩がてら、お茶でもどう?」
「いいのか? それじゃあ、お言葉に甘えさせてもらおうかな」
霊夢が社殿の中へあがった後に魔理沙もあがり、俺も続いてあがる。こんな感じであがるのは二回目だな。
「私はお茶を淹れてくるわね」
霊夢はそう言って、奥へと行った。
「魔理沙、弾幕ごっこってあんなにも迫力があるんだな」
俺の感想に、魔理沙は笑って答えた。
「いや、霊夢が強いだけだぜ。当然、私の師匠も強いけどな」
そういえば、さきほどから思っていたが魔理沙の師匠——幽香とは、いったいどんな人物なのだろうか。
「なあ、魔理沙。その師匠ってどんな人なんだ?」
気になった俺は、彼女に聞いてみた。
「師匠はだれよりも花を愛す、フラワーマスターなんだぜ!」
フラワーマスターか。幻想郷にはスゴイ人がたくさんいるということを、改めて思わされた。
すると、霊夢がお茶の注がれた茶碗を三つ茶托に乗せて持ってくる。そういや、こんな非常識なことが繰り返されたせいもあって聞かなかったことがあるけど……
「霊夢、お前も空を飛んでたよな? 幻想郷で、そこまで驚くことではないのかもしれないが」
スペルカードとかいうやつを唱えたら、弾幕とかが出てきたしな。
「ええ、そうね……そうだわ、能力についてまだ話してなかったわね。みんな、なにかしら『程度の能力』を持っているの。たとえば私なら、主に『空を飛ぶ程度の能力』」
「私は『魔法を使う程度の能力』を持ってるぜ。ちなみに、師匠の能力は『花を操る程度の能力』なんだぜ」
なるほど、いろんな能力があるんだな。
「その能力って、俺も持ってたりするのか?」
「うーん、わからないわね。でも、もしかしたら気づいてないだけですでに使えるかも」
そいつは楽しみだな。
話が一段落着いたところで、ひとりの女性がやって来た。
「ただいま〜。あら? 魔理沙ちゃんと……」
「あっ、初めまして。幻真です」
背が高めの、霊夢と似た巫女服に赤の要素が多い服を着た女性が中へとあがってきた。
「私は霊夢の母、霊妙よ。よろしくね」
その人は霊夢のお母さんだった。俺は彼女に挨拶を返して頭を下げた。
「お母さん、どこに行ってたの?」
「阿求のところよ。昔からの付き合いってやつでね」
阿求さんと霊妙さんは仲がいいのかな。
「霊妙さん、阿求さんってどんな方なんですか?」
霊妙さんは勘づいたかのように言った。
「会ってみたい?」
「——えっ? あーっと……もしよければ……」
動揺した感じで答えてしまった。本当はそうなんだが……鋭いな、霊妙さん。
「いいわよ。霊夢も久しぶりに阿求に会ったら?」
「そうね、たまには阿求に顔を出しとかないとね」
どうやら、霊夢もいっしょに阿求さんに会いに行くことに。
「魔理沙も行く?」
「私はパスするぜ。師匠に鍛えてもらうからな」
魔理沙は行かないようだ。
「じゃあ明日、阿求に会いに人里へ行くわよ」
人里か〜。幻想入りしてから普通の人間に会うのは、初めてになるかもな。
その後、魔理沙が帰宅して夕食の時間に。
「あ、霊妙さん。よかったら、俺に夕食を作らせてくれませんか? 助けてくれた霊夢と、身を置かせてもらえることへの感謝がしたくって」
俺は料理はできるほうだからな。記憶は無いが、なんと言うか、体が覚えているような気がするし。
「いいわよ。材料は帰りに買ってきたから、ある程度のものは作れると思うわ」
お、それは助かる。霊夢も俺も、昨夜から何も食べてなくてお腹ペコペコだからな。
「よぉ〜し、たくさん作るぞ〜!」