第44話 三途の川
〈火御利〉
風見幽香——彼女は一年中、幻想郷で花が咲いているところを放浪している妖怪で、だれよりも季節の花を愛してる。そんな彼女の主な活動場所が、太陽の畑だ。
彼女にはこれといって目的意識も無く、花を楽しみつつ寝たり起きたりの日々を繰り返しているらしいわ。
そんな彼女だが、以前は夢幻館という館の住んでいたらしい。そこにお邪魔したことがあったと思うんだけど、よく覚えていないわ。たしか、住人は彼女だけじゃなかったような気がするけど。
彼女の能力は『花を操る程度の能力』。どこまで操れるかは詳しく知らないけど、花を咲かせたり、向日葵の向きを変えたり、枯れた花を元通り咲かせたりすることができるということは聞いた覚えがある。でも、他の強力な妖怪に比べればこの能力はおまけのようなもので、戦闘に使えるようなものではないわね。
そんなこんなで彼女のことを思い出していると、太陽の畑に到着した。そこはどんなところかというと、一面にひまわりが咲いているところである。いまの季節は春で本来なら咲いていないはずだけど、異変の影響で満開に咲いていた。その畑にぽつんと建っている家こそが、私が訪ねに来た幽香の家だ。私はある程度その家に近づいたところで彼女の名前を呼んだ。
しばらく待っていると、家の縁側にひとりの女性が現れた。彼女は癖のある緑髪に真紅の瞳を持ち、服は白のカッターシャツでチェックの入った赤のロングスカートを着用。その上から同じチェック柄のベストを羽織っている。そして、首には黄色のリボンをつけていた。
彼女を呼んだのが私だとわかった彼女は、私がだれであるのか遠目で確認したのち、私の名前を呼んで手を振って手招きした。
それを確認した私はひまわりの上を飛んで、彼女のもとへと向かった。
「久しぶりね、火御利。元気にしてた?」
「ええ。私ならいつでも元気よ。それより幽香、今日あなたに会いに来たのは、この異変について話を聞くためよ。知っていること、聞かせて欲しいんだけど」
それを聞いた彼女は、申し訳なさそうに首を振って言った。
「ごめんなさい、わからないわ」
それを聞いた私はがっかりしたが、彼女に全然大丈夫と返事をした。あっさりと用が終わってしまったのでその場を後にしようと思ったが、せっかく久しぶりに来たのだからゆっくりしていきなさいと彼女に呼び止められた。異変解決に動こうとしたが、どうやら大きな被害などは起こっていない様子だった。つまり、放置していても問題はなさそうだということ。
彼女との時間も過ごしたいし、なにしろ朝食を食べていなかったことをいいことに食事を誘われてしまった。私はそんなに冷酷ではない。異変解決の専門家がいるんだし、心配する必要はない。私は彼女の誘いに甘えて、彼女とともに久々に語り合うことにした。
〈狼〉
僕はいま、文とともに幻想郷の上空を飛行している。異変解決の手がかりがまったくつかめず、ただ無意味な時間を過ごしているだけだった。
さすがに文もまいったみたいで、隣で溜息を吐いて落ち込んでいた。すると、なにかを見つけた彼女は下に見えていた竹林の方を指して僕の視線を促した。僕の目に映ったのは、ヨレヨレなうさぎ耳の少女。彼女の名前を思い出していると、文は僕を放って少女のもとへと飛んでいった。僕は慌てて彼女を追った。
先に少女のもとに着いた文は、その少女に声をかける。振り向いた彼女の正体は、永遠亭に住んでいる鈴仙だった。彼女は僕が向かってきていることに気づき、手を振った。彼女のもとについた僕は挨拶をして、ここでなにをしているのか聞いた。
彼女の話によると、仕事をサボってどこかに行ったてゐを探しているとのこと。てゐはたしか、鈴仙とは耳が違ううさぎ耳の女の子だったっけ。あの子、いたずら好きだったよね。
彼女を手伝うにも異変解決の調査があることを伝えようとした僕だったが、あろうことか文が手伝うと言いだした。
「異変解決はどうするの?」
「このまま続けても収穫は得られなさそうですし、ここは鈴仙さんを助けましょう」
それもそうかと彼女の意見に賛同した僕は、てゐ探しを手伝うことにした。
〈時龍〉
なんか変なうさぎたちが通って行ったな。ひとりリーダー的な存在感を出してるうさぎもいたし……
そんなことよりも、俺の前に歌いながら飛び回っている奴がいるんだが……たしかミスティアだったか。耳を塞ぎながらその様子を見ていると、彼女は歌うのをやめて俺に感想を聞いてきた。俺は正直に感想を述べた。
「うん、耳が痛い」
それを聞いた彼女は、カチーンとなって怒りをあらわにした。これはまずいと思った俺は、慌てて逃げるのであった。
〈幻真〉
「着いたわよ、ここが三途の川」
その川は流れが少なく、音もほとんどせず静かな場所だった。深い霧に覆われたここには、昼夜がないらしい。俺たちが辺りを見渡していると、陽気な歌声がどこからか聞こえてきた。
その声が聞こえてくる方に向かうと、岩陰で休む少女の姿が見えた。俺たちの足音に気づいた彼女は、すくっと立ち上がって俺たちの方へと歩いてきた。
彼女は癖のある赤髪をトンボでツインテールにしており、赤い瞳を持っていた。服装は半袖にロングスカートの着物のようなものを着用しており、腰巻をしていた。
そしてなにより目を引いたのが、彼女の背負っていた大きな鎌だ。俺は身構えたが、魔理沙の放った一言で呆気にとられてしまった。
「へぇー、死神って本当にいたんだな」
「し、死神……?」
混乱する俺を見かねた大鎌を背負った少女は、俺に説明してくれた。
彼女ら死神は彼岸に住む種族で、地獄の運営を担っている。その役目は大まかに三つあり、ひとつは死者の魂を迎えに行き刈り取る係、もうひとつは死者の霊を船に乗せて三途の川を渡らせる係、さらにもうひとつ、地獄の雑務一切を請け負う事務係の三種類がある。ちなみに彼女は二つ目に上げた役目の船頭であり、一般的に想像されるような本来の死神らしい仕事——一つ目に上げた仕事はしないらしい。
「おっと、自己紹介が遅くなったね。あたいは小野塚小町。まあ適当に呼んでくれたらいいよ。それよりも、お前さんら死者じゃなさそうだけど、ここへなにしに来たんだい?」
彼女に問われて目的を思い出した俺は、四季映姫に会いたいと彼女に頼む。それを聞いた彼女はしばらく黙ったのち、笑い出して言った。
「悪いね、四季様なら朝方に幻想郷に向かわれたよ」
「えっ、入れ違いってこと⁉︎」
霊夢は驚いて言った。小町はただ笑っているだけ。なんだかしてやられた気分だ。俺たちは急いで幻想郷へと戻るのであった。
〈狼〉
てゐを探し始めて数時間が経過。やっとの思いでてゐ見つけることができた。鈴仙はカンカンに怒っていた。だが、溜息を吐いて心を落ち着かせ、てゐに一言だけ言った。
「また勝手にどこかに言ったら、お師匠さまに言いつけるからね?」
「ぶ〜、わかったよ……」
てゐも反省してるみたいだし、一件落着かな。僕たちはふたりと別れ、その場を後にした。それにしても、なにか忘れてるような気がするけど……まあいいか。




