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東方人獣妖鬼  作者: 狼天狗
第壱章 龍使い
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番外編 母の日宴会(前編)

 〈幻真〉



 おっす、幻真だ。今日はどうやら母の日らしいが、俺には感謝する母親がいない。だが、俺には母親のように振舞ってくれる人がいる。それは霊妙さんだ。


 というわけで、俺は霊夢と協力して霊妙さんにサプライズをすることにした。


「おいおい待てよ。俺はどうなんだよ?」


 作戦を聞いていた時龍は、自分はどうするのかと聞いてくる。彼自身、ここでお世話になって間もないのだが、彼にもこの作戦に協力してもらうことにした。


 振り分けは、俺が料理を作っている間に霊夢は霊妙さんと外出。時龍には参加者を集める役目を与えた。


「俺が人集めかよ。この世界に来たばっかりだっていうのに」


 時龍の不満はあったものの一通り相談を終え、作戦を実行。霊夢が霊妙さんと人里に向かったのを確認した俺は、さっそく料理を開始する。だが、外から霊妙さんを呼び止める霊夢の声が聞こえてきた。なにかあったのかと察した俺は、身支度をしていた時龍に彼女の用件を聞いてくるように頼んだ。


 社殿に戻ってくる霊妙さんを呼び止め、用件を聞く時龍。しばらくして、話を終えたであろう時龍が俺のもとへと戻ってきた。


「どうやら財布を忘れてたみたいだ」


 彼はそう言って、ちゃぶ台の上に忘れてあった財布を手に取って霊妙さんに渡しに行った。霊妙さん、たまにお茶目なところがあるんだよな。


 なにはともあれ、改めてふたりが出かけていったのを確認した俺は、料理を再開するのであった。








 〈時龍〉



 霊妙に財布を渡して身支度を済ませ、博麗神社を出発したわけだが……霧の濃い湖へと来てしまった。視界が悪いが、だれかがいる気配は感じる。


 湖岸周りを歩いていると、感じ取った気配の正体であろうひとりの妖精を見つけた。俺が声をかけると、こちらに気づいたその妖精——緑髪の少女が、こちらに視線を向けた。ある程度近づいたところで、彼女は挨拶をして何か用かと聞いてきた。


「ちょっと作戦に付き合ってくれないか?」


「作戦ならあたいに任せてよ!」


 俺の要件に答えたのはその少女ではなく、別の少女だった。声が聞こえた空を見上げると、水色髪の少女が降りてきた。どうやら彼女も妖精らしい。それにしてもすごい乗り気だな。


 混乱はしてしまったものの、まずは自己紹介からすることに。俺が名乗ると、先に出会った緑髪の少女が自分の名前を大妖精だと言った。また、皆からは「大ちゃん」と呼ばれているらしい。


 続いて名乗った水色髪の少女。名はチルノ。どうやら、自称最強らしい。本当かどうかは戦ってみないとわからないが。すると、彼女が話し続けていたにも関わらずひとりの少女が乱入してきた。


「わはー。なにしてるのだー?」


 その子は金髪に赤いリボンを付けていた。だが、彼女はふたりと同じ妖精ではないみたいだ。おそらく妖怪だが、彼女からは闇の力を感じた。


「あ、ルーミアちゃんも協力してくれる?」


「協力? なんか知らないけどいいのだー」


 大ちゃんに誘われ、何も知らないのに協力するルーミアという妖怪。バカなのか優しいのか……


 俺は一度咳払いをし、彼女に自己紹介をした。


「俺は時龍だ。よろしく、ルーミア」


「あ、大ちゃん言っちゃったのかー。まあでも、自己紹介するのだー。ルーミアなのだー」


「そうなのかー?」


「そうなのだー」


『わはー』


 自己紹介をした後、チルノに問われて答えるルーミア。しまいには合わせてなにか言っていたが……いったいなんだって言うんだ。大ちゃんは苦笑いしていた。まあ、茶番といったところか。


 気を取り直して、三人にはなにか驚かせるような出し物を用意してほしいと頼んだ。チルノとルーミアは乗り気でさっそく準備を始めていたが、戸惑いを見せる大ちゃん。俺はふたりに合わせれば大丈夫だと言って彼女を励ました。それを聞いた彼女は元気に返事をして、ふたりのもとへと向かった。


「さてと。狼は妖怪の山に住んでるらしいが、火御利はどこに住んでるんだ?」


 唯一といっていい知り合いを思い出したというのに……とりあえず、狼の家へ向かうか。








 〈博麗霊夢〉



 お母さん、財布を忘れるなんて……相変わらずおっちょこちょいね。そんなお母さんに微笑していると、私に話しかけてきた。


「ねえ霊夢、和菓子でも食べよっか」


「和菓子⁉︎ 食べたい!」


 私は無邪気に返事をし、お母さんといっしょに和菓子の売っている甘味処へ向かった。






 甘味処の外にある床几台で大福を頬張っていると、ある人物と出会った。それは、阿求だった。これは好都合だと思った私は、お母さんに待っているように言い残し、阿求の手を引いてその場から離れた。


「霊夢さん、どうかしたんですか?」


「あんたに協力してほしいことがあってね。その——」


「母の日だから、お母さんにする感謝のサプライズの手伝いをしてほしい、ですか?」


 さすが阿求。ちゃんとわかってるわね。


「そう。で、協力してもらいたいんだけど……」


「構いませんよ。私も彼女には、お世話になってますからね。さっ、お母さんが待ってますよ。早く行きましょう」


 笑顔な阿求に背中を押され、私はお母さんのもとへと戻った。








 〈幻真〉



 だいたいの料理は作ることができた。自信はそこそこ、マズくはないはずだ。だが、少し疲れた。こんなときに、都合よく助っ人が来てくれたらな〜。


「そんなあなたのために手伝いにきたわ。心配しないで、料理はできるから」


 そう言って現れたのは、火御利だった。もしかして、時龍が呼んだのか? でもあいつ、彼女の家知ってたっけ? 気になった俺は、彼女に聞いた。


「時龍に呼ばれたのか?」


「ええ、狼といっしょに。家は彼が教えたんでしょ。私の家を知ってるのは彼だけだったから」


 狼、いつの間に火御利の家に行ったんだ?


「ほら、サプライズと宴会に向けて準備中なんでしょ? やるからには盛大にやるわよ」


 火御利もやる気満々だな。俺は気合いを入れ直し、彼女とともに料理を再開した。








 〈狼〉



 妖怪の山にあるという情報だけで僕の家を探し当てた時龍。彼から詳しい話は聞いた。まあ、この話は前日に幻真から聞いて知ってたんだけどね。べ、べつに忘れてたわけじゃないよ!


 ちなみに、時龍とは別行動をしていてる。人を集めるのにいっしょに行動していたら効率が悪いからね。とまあ、そんなこんなで着いたのが紅魔館なんだけど……門番の美鈴さん、寝ちゃってる。しょうがない、起こしてあげよう。


「美鈴さ〜ん、起きてくださ〜い」


「むにゃむにゃ……ん〜? あなたはたしか、天狗の……」


「狼です。宴会のお誘いに来ました」


「……ええっ! これまた宴会に誘ってもらえるんですか⁉︎ 報告しに行かないと——」


 内容を聞かずに行ってしまおうとする彼女に焦った僕は、彼女の腕を掴んで少し待ってと言った。いったん彼女を落ち着かせ、詳しい内容を伝えたあとで報告に行ってもらった。その間、僕は門番の仕事を引き受けた。








 〈博麗霊夢〉



 私は今、鈴奈庵で小鈴ちゃんの許可をとった上で立ち読みしている。そういえば、幻真が本を借りてたけど、まだ読み終わってないのかしら?


「霊夢さん、幻真さんが借りた本は……」


「ごめんなさいね、まだ読んでるっぽいのよ」


 昨夜も読んでたわね。あの本、面白いのかしら?


「いえいえ、大丈夫ですよ。忘れないように確認しておきたかっただけですから」


 小鈴ちゃんはそう言って椅子に腰をかけ、読書を再開した。私も他の本でも読もうかしら。








 〈幻真〉



「……作りすぎたか?」


 机には置かれたたくさんの料理を見て、俺はつぶやく。こうなったわけは、火御利の調理の速さにあった。手馴れた裁きで食材を切っていたため、調理は自然と早くなっていたのだ。


「何人来ても大丈夫ね」


 まあ、そうだな。いやー、料理を見ていたら腹が減ってきた。少しくらいならつまみ食いしてもいいよな——


「いてっ⁉︎」


「あなた、つまみ食いなんて行儀が悪いわよ」


 俺は火御利に手を叩かれ、つまみ食いを止められてしまった。まあいいや。宴会のために腹でも減らしてこよっと。








 〈狼〉



「許可いただきました〜って、狼さん?」


「……ふぁっ⁉︎ あ、寝ちゃってた」


 僕のその様子を見た美鈴さんは軽く笑った。僕も恥ずかしさからいっしょに笑った。


「それじゃあ、後ほど行きますね!」


「うん、また後で」


 僕は彼女と別れ、一足先に博麗神社へ向かった。








 〈幻真〉



 料理を終えて一休みしていると、鳥居の方に狼と時龍の姿が見えた。どうやら仕事を終えたようだな。


 俺は彼らのもとへと向かい、礼を言った。その際、この世界に慣れていない時龍に大丈夫だったかと尋ねたが、問題なしとのことだった。


 すると、鳥居の先の階段の方から声が聞こえてきた。それが霊夢と霊妙さんだとわかった俺は、霊妙さんにあるものを渡すために心の準備をする。


「ただいま〜。あら、狼くんいらっしゃい。もしかして、火御利ちゃんもいるのかしら」


「ええ、いますよ。霊妙さんにサプライズをするために、みんなに手伝ってもらいました。そこで、感謝を伝えるために俺はこの花をプレゼントします」


 俺は照れながらも花束を渡す。その花は、カーネーション。感謝を伝えるのにピッタリな花だ。彼女はそれを、喜んで受け取った。そんな彼女を社殿の中に案内し、宴会のために出しておいた長机の前へと座ってもらった。すると、彼女が座ってまもなくある人の声が聞こえてきた。


 その正体は神出鬼没のスキマ妖怪、紫さんだった。彼女はいつの間にか座布団の上に座っており、なんならその隣には式神の藍さんと橙ちゃんもいた。


 扇子で口元を隠しながら手を振る紫さん。そんな彼女は藍さんになにかの合図をし、橙ちゃんとともにスキマの中へと消えていってしまった。そんないとの読めない光景に呆然としていると、紫さんがいつのまにか霊妙さんに花束を渡しており、そのまま彼女のことを怪し見ていた狼と火御利のもとへと歩いて行った。


「あなたたちと話すのは初めてかしらね。私は八雲紫。さっきの子たちは私の式神で、九尾は藍、化け猫は橙よ」


 彼女に名乗られ自分も名乗ろうとした狼だが、彼女はそれを止めて言った。


「自己紹介は必要ないわ。あなたたちのこと——知ってるんだから」


 彼女はそう言い残して、スキマの中へと消えていった。彼女の言っていた言葉にはどうも気になったことがあったが、ひとまず硬直しているふたりのもとへと向かう。だが、外から聞こえてきた大変そうな声に意識がいってしまった。


 声が聞こえてきたのは参道に続く階段からで、そちらへ向かうとチルノがなにやら大きめの装置のようなものを手に持って運んでいた。そんな彼女の後ろには、心配する大ちゃんと笑って見ているルーミア。またチルノが意地でも貼っているのだろう。それを見かねた時龍は、チルノが運んでいたものを無理やり取りにいって足取り軽く運んだ。疲れ果てていたチルノは意地を張ることなく、その場に座り込んで時龍に礼を言った。


 そんなチルノの強情を見た俺たちだったが、階段の下の方からほかの参加者たちが来ているのを目にした。


「続々と集まってきたな。俺たちも中に入って、宴会を始める準備をしよう」

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