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東方人獣妖鬼  作者: 狼天狗
第壱章 龍使い
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番外編 異世界からの来訪者(剣編)

 異世界から来たさとり妖怪との一件があった翌日。博麗神社にて、一人の男がその境内で剣を振っていた。彼の名は時龍。この世界とは別の世界から来た青年である。


 その日はなかなか暑く、水分をしっかり取らなければ熱中症になってしまいそうなほどだった。、


 彼が振っていた剣の名は、創龍剣。その名のとおり、創造された剣である。本当は夢龍剣という剣を愛用していたのだが、破損してしまったため人里の鍛冶職人に新しい剣を作ってもらっている最中である。


 ちなみに、剣が完成したらスキマから出るようになっている。スキマの使用については、八雲のスキマ妖怪から許可を得ていた。


 そんな彼は、新しい剣ができるのを楽しみにしていた。そんな感情を胸に、彼は剣を振るう。しかし、剣を振ったっきり彼は動かなくなってしまった。彼の視線は——そう、鳥居の方へと向いていた。


 彼の目線の先には、一人の少女が立っていた。彼女は燃えるような紅の髪と紅い瞳をしており、背丈は低くだいたい百五十センチ。そして、胸は小さめである。


 容姿はあどけない顔から小学生ぐらいに見えるが十八歳で、顔は整っており髪はボブで切り揃えている。服装は半人半霊の魂魄妖夢と全く同じで、黒い大きなリボンと白いシャツの上に緑のベストを着ていた。だが、パッと見おとなしそうで、戦いなど好まなさそうである。


「俺は時龍だが……君は?」


 彼は自分から名乗ったあと、彼女の名前を問う。問われた彼女は笑顔で答えた。


「魂魄妖緋(ようひ)です。お師匠様に送られ、この地へとやって来ました」


 魂魄妖緋——その名前と発言から、彼女は別世界の妖夢の子であると彼は予想した。


 彼女がいったい何者なのか詳しく考える彼だったが、それよりも気になること——自分になにか用があるのではと思い、彼女に尋ねた。


「あなたとの手合せをお願いしたく、やってまいりました」


 とても丁寧な口調だった。少しドキッとした彼だったが、彼女の申し出を承諾した。






 ふたりは境内で互いに間合いを取り、戦闘態勢へと入る。だが、あろうことか時龍は自身が先ほどまで振っていた剣を消してしまった。これから試合が始まるというのに、いったいなにを考えているのだろうか。一方の妖緋も、剣を抜かない。傍から見たら異様な光景である。その沈黙の時間は、数秒で終わった。


「直感術」


 彼は前触れなしに術を使う。この術は気力を高め、集中力を上げる直感——つまりは、気配を感じ取って先制するものである。また、術だけでなく目を閉じることによってさらに集中力を上げていた。それを見た彼女は、ようやく剣を抜いた。


「これは百斬剣……と言っても、目を閉じられているので見えてないと思いますけど。この剣はあらゆるものを斬ることができる……というわけではないですが、斬れぬものなどあんまりない!」


 彼女は時龍に向かって剣を振った。だが、集中力を上げている彼は先読みして攻撃を躱した。


「……そろそろ約束の時間だ」


 彼はそう言い、術を解いて目を開く。すると、彼の右側にスキマが出現し、彼はその中に手を突っ込んだ。何かを掴んだ彼がスキマから手を抜くと、その手中には剣が握られていた。


 その剣の名は、龍神剣。彼の力が込められている剣であり、普通の剣とは一味違う代物である。


 彼はその剣を妖緋に向けて構え、大きく振り上げて斬りかかる。だが、その攻撃を見越していた彼女は素早く躱した後、スペルを発動した。


「炎戒『ヒノカグツチ』」


 彼女は炎の塊を時龍に目掛けて放つ。その炎は、彼を飲み込まんとばかりに襲いかかった。彼は飛んでくる炎を素早く避けるが、通り過ぎた炎は方向を変えて再び追ってくる。


「キリがないな。龍派『真怪斬』」


 彼はオーラのようなものを纏わせた状態で剣を振り、炎の塊を斬った。


「ふう……君は炎を操る能力でも持っているのかな?」


 彼は一旦落ち着いた後に、妖緋に聞いた。


「はい、私には三つの能力があります。一つはさっきも仰られたように『炎を操る程度の能力』です。火力はかなり強いので……そうですね、肉を一瞬で焼き焦がせます」


 なかなか恐ろしい例えに息を呑み込んだ時龍。そんな彼の様子を見た彼女は、軽く笑って次のスペルを発動した。


「斬戒『タケミカヅチ』」


 彼女は斬撃が決して消えない空間を作り出す。それは指定した範囲内で斬撃が反復するような技である。斬撃一ひとつひとつの威力はかなり低いが、数が多い。


「多すぎるだろこれ。龍派『回縁斬』」


 時龍は体を回転させながら、剣で斬撃を斬る。だが、飛んでくる斬撃は一向に減らない。さらには、対処しきれなかった斬撃を同じ場所に受けて致命傷を負うばかり。


「このままじゃジリ貧だ。龍派『殲滅斬』」


 彼はそう言って、戦況を変えるために別の技を駆使して飛んでくる斬撃を一掃した。


「ほう、斬撃を一瞬で……思ったよりはやるようですね。ですが、今のあなたに勝ち目はないですよ」


 先ほどの攻撃で、かなりの痛手を負った時龍。彼女の言葉通り、勝つことは不可能だろう。だが、彼は降参せず剣を構え直す。


「忠告どうも。あいにくだが、俺は諦めるのが嫌いなんでな」


 時龍は剣に炎と水を纏わせ、技を叫んで剣を振る。


「龍派『火水真刹斬』」


「炎剣『レーヴァテインもどき』」


 対する妖緋もスペルを唱える。すると、彼女が所持していた剣に巨大な炎が付与され、レミリアの妹、フランドールが所持しているレーヴァテインと同じような状態の剣へと変化した。彼女はそれで、彼の攻撃を受け止めた。だが、その受け止め方には違和感があった。それは、あまりにも右寄りだということである。


 そうなるように仕組んでいた時龍は、妖緋の空いていた左側に斬撃を与えた。しかし、これまた違和感を感じることに。たしかに彼は攻撃した。そうなると、彼女には切り傷が残っているはずだ。しかし、それがないのだ。


「おかしいって顔をされてますね。その原因は、私の二つ目の能力——『回復する程度の能力』のせいです。正確には、この所持している護符によって肉体を回復させています。壊れても直りますので、壊すという考えはやめてくださいね」


 いわゆる不死身だということに、彼は困った。だが、彼は諦めなかった。


「龍派『連界異真斬』」


 彼は高速で妖緋との間合いを詰めて斬り裂く。しかし、あまりにも早い再生力に圧倒されてしまう。


「これもダメか……」


 彼は諦めかけているように見えるが、心の中ではこれっぽっちも思っていない。かといって、勝利の兆しも見えてはいなかった。やれるだけやろうといった気持ちだろう。


「龍派『時限斬』」


 彼は何を思ったのか、なんでもないところに剣を振る。


「時限斬りですか。なんでもいいです。炎戒『ヒノカグツチ』」


 彼女は勝利を確信した様子で、先ほども使用していたスペルカードを使用する。だが、彼女は油断した。その技がどれほど強烈なものか知らなかったがゆえに。


 スペルを唱えて動いた直後、彼女に猛烈な勢いで斬撃が襲いかかる。その正体は、彼が先ほど繰り出した時限斬りだった。


「この技は龍派『脈龍剣』とは違って時間を置いて切り裂く技だ。直ぐ回復するだろうが、致命傷は与えられる」


 説明し終わるまでには、妖緋の体にあったであろう傷は癒えていた。しかし、彼女の息が少し荒かった。


「まさか、ダメージを与えられるとは……これはこの剣を抜くしかありませんね。乖離剣」


 妖緋は百斬剣を収め、乖離剣という名の剣を時龍に向けて構えた。


「減多に使わないこの剣を手合わせで使うことになるとは……時龍さん、あなたが初めてです。存分に楽しみましょう」


 妖緋は俊速で間合いを詰めて彼に斬りかかる。だが、彼はうまく攻撃を躱す。しかし、奇妙なことが起こった。


「く、空間が……」


 彼女が先ほど斬ったところには、境界のような空間ができていた。


「境界——これを超えることはできません。越えようとしたら体がグチャグチャになります。後悔してくださいね……私にこの剣を抜かせたことを!」


 彼女は剣を時龍の頭に目掛けて振り下ろす。


「これはさすがに避けないとヤバイな。白刃取りなんてしたら体がバラバラになるだろうし」


 彼は斬撃を避け、体勢を整えて剣を構える。


「すまんが、次で終わらせる」


「いいでしょう。受けて立ちます!」


 彼に合わせるように、妖緋も剣を構えた。


「奥義『神龍始終』!」

「ラストスペル『フル・アヴソリュート』!」


 時龍はいくつもの剣を生成し、妖緋へと飛ばす。一方で、彼女は彼の足元に地面すらも溶かす炎を作り出す。炎を作り出す場所は地面だけでなく、彼女の腕や身体中からも噴出されていた。彼女は痛さ熱さには平気であり、今の彼女に触れると、一瞬にして触れたものの体を燃えカスにしてしまう。やけどでは済まない。そんなふたりは、煉獄の炎に飲まれた。






 煉獄の炎が止むと、そこにはふたりが立っていた。一人は重症で、最後の力を振り絞り、よろけながらも立っている。もう一人は少し息が荒いが、余裕の表情。


「さすが、だな……」


 時龍は膝をつき、妖緋を見上げた。


「はい! それはもちろん、『霊斗師匠』の弟子ですから!」


 謙遜しない彼女に対し、時龍はわずかな余力で笑ってみせた。そんな彼に、彼女はあるものを差し出す。それは、『不死鳥の加護』——彼女を即座に回復させていた加護だった。


 それを彼が受け取ると、一瞬にして傷を癒してしまった。彼は礼を言って、彼女にその加護を返した。


「それでは、私はこれで。お手合わせ、ありがとうございました」


 彼女はそう言い残し、スキマの中へと消えていった。


 彼女との別れを告げた時龍は、次に彼女と再開した時には必ず勝ってみせると、心に誓ったのであった。

コラボお相手【甘味処アリス先生】

登場キャラ《魂魄妖緋こんぱくようひ

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