第40話 夢中の異変
夢中異変、始動。
その日の夜は、いつもとなんら変わりのない夜だった。
しかし、夢の中の世界は違った。
龍を統べし先代との協力。
結末はいかに——
その夜、幻真は例の本を読んでいた。いや、正確には読み漁っていた。また、彼のほかに狼、火御利の姿もあった。
「うーん、ねぇな」
「ないの?」
「なかったら吹っ飛ばすわよ」
幻真は火御利の言葉に体を震わせる。すると、突然なぞの眠気が火御利を襲った。彼女の様子に幻真と狼は首を傾げた。しかし、ふたりにも同様にして眠気が襲ったのであった。
目覚めた場所は、例の場所。そう、昨晩三人が見たあの夢の場所である。
「うーん……ここは?」
狼が寝起きの眼を擦りながら起きる。辺りを見渡すと、そこは小さな丘が見える場所。その先に、あの人物がいた。
「危ない!」
そう、あの場面からのスタートだった。三人はそれを見切り、素早く振り向く。振り向いた彼らは、影の正体が黒い塊のようなものであることを知る。
「なによこれ!」
それを見た火御利が叫ぶ。その黒い塊は、容赦なく彼らに襲いかかってきた。
「龍派『蒼龍剣』」
そんな彼らの後ろから技を叫ぶ声が聞こえたかと思うと、黒い塊はバラバラに切り裂かれていた。
「ふぅ……君たち、大丈夫だったかい?」
その男は赤色が少し混じった黒色の短髪に青色の薄シャツ、下はジーパンと靴を履いていて、龍の頭部を象ったヘルメットのようなものをかぶっていた。そして彼の右手には、一本の剣が握られていた。
「俺の名前は時龍だ。お? この剣が気になるか? こいつは夢龍剣っていってな。俺の大事なモノだ」
そう説明して、彼は自身の得物を見せる。刃先は鋭く尖っていて、鼠色の刃をしていた。
「夢龍剣……カッコいいわね」
火御利が素直な感想を呟く。
「時龍、あの黒い塊はなんだったの?」
狼が問う。幻真もまた、思い出したかのように時龍に視線を向ける。
「ああ、あれは『黒魂』っていう妖怪みたいな怪物だ。操られてもなさそうだし、どこからか発生しているかのように思える」
黒魂——その名は彼らによって命名された名である。それを退治するため、時龍は奮闘していた。
「まあ、実際は夢の中の昔……うーむ、ややこしいな。なんていうか……あの本を読んだのと、選ばれたから君たちはここにいる」
狼と火御利はわかったようだが、幻真は理解できてていなかった。
「ここは幻想郷じゃないのか?」
幻真が一番聞きたかった質問をする。
「幻想郷は幻想郷だが、年代は違う。結界が張られたばっかりなんだ」
しかし、この者は幻真たちのいた現在において存在しない——つまりは、伝説とされている。
「だから、紫が対処できていないんだ」
単純に言うと異変。大昔の夢の中で異変が起こっているというわけである。
「とりあえず来るんだ。ここは危険すぎる」
辺りを見渡すと、数体の黒魂。しかし、幻真と火御利は下がる気配がない。むしろ、戦う気満々だ。
「おい! やめとけ!」
「あまりなめてもらっちゃ困る。龍符『灼熱之龍剣』……斬符『炎魔斬』」
「ええ、同感ね」
幻真は出現させた炎の剣を黒魂に突き刺す。火御利もまた、大量の銀色のナイフを黒魂に飛ばす。
「……君たち、なかなかやるね」
ここまで戦えると思っていなかった時龍は、ポツリとつぶやいた。
「そういや、まだ名前を聞いていなかった。順番に教えてもらおうかな」
彼に言われ、順番に自己紹介をすることに。幻真は自分が幻想入りしたことと、その際に名前をつけてもらったことを話す。続いて狼と火御利も自己紹介をしたが、幻真のような詳しいことは言わなかった。
一通り自己紹介を終えた彼らは、、時龍によってとある家へと案内されるのであった。
「——どうだ? 手伝ってくれるか?」
黒魂の退治、そして湧き出てくるなぞを解明するために、時龍は幻真たちに協力を仰ぐ。
「私はいいわよ。異変を解決しないと戻れなさそうだし」
「僕もいいよ。体を動かしたいからね」
ふたりは快く承認。幻真も受け持ったものの、彼は条件を押し付けた。
「俺ももちろんいいが……時龍、おまえの剣術と実力を見せてくれ」
頼まれた彼は、なにも迷うことなく即答した。
「いいだろう。ひと勝負といこうじゃないか」
彼はそう言って立ち上がり、夢龍剣を取り出す。そのまま外に出ていった彼に続いて、幻真たちも外へ出た。