第36話 強敵の真相
俺は右手に持った武炎剣の刃先を相手に向ける。
「では、いくぞ。『無数の小刀』」
ふむ、大量にナイフが投げられてくるな。こんなもの、弾き落とすまで。
「なかなかだな。しかし、片腕が使えない状態で私に勝てるとでも?」
「たしかに、この状況で勝つことはできないかもしれない。まあ、これがちょっとしたハンデだったりするんだよな」
「……相変わらずの自信だな」
あまり俺を嘗められちゃ困るな。炎龍を召喚した俺は、スペルを発動する。
「龍符『参方龍・炎』」
「この技か。『手刀』」
炎龍の攻撃が腕だけで受け止められてしまう。一筋縄じゃ、いかないか。
「ふんっ……これならどうかな?」
白銀のナイフ——はぁ⁉︎ どんだけ速いんだよ!
「ぐはっ……」
高速で飛んできたそのナイフは、俺の左腕を深く抉る。
「所詮こんなものか……どうする? 今の攻撃でさらに不利になっただろう。勝算は皆無、諦めるがいい」
「諦める……だぁ? んなこと、するわけねぇだろ。俺は覚悟を……決めたんだからなぁ!」
そう叫ぶとともに、己の魔力が増えていくのを感じた。
「……なにをした」
「はっ、知らねえよ。だが、ひとつだけ言えることがある。俺は……負けない」
「図に乗りやがって……『魔小刀』」
ははっ、止まって見えるぜ!
「……速いな」
「燃え尽きろ! 熱符『熱火柱』!」
「……そんな簡単にはいかんな」
やっぱ簡単にはいかねぇか。
「んじゃ、これならどうだ。龍符『龍獣怒楽炎神狂』」
これをまともに食らったら、ただじゃ済まないだろうな。
「『滅残弾幕』」
うおっ⁉︎ 炎龍が特大にデカイ弾幕に飲まれて……こっちに来る!
「チックショウ! 炎防『灼熱結界・参』!」
弾幕は結界によってみるみる溶かされていく。
「……反則級じゃないか?」
「そんなことねぇよ。ぎりぎりだったけど、今放った弾幕とか、レーザーとかぐらいしか溶かせないからさ」
「そうか」
奴は再び構える。
「んじゃ、さらに本気出すか。消炎」
「炎龍の炎が消えた……? ぐっ、火花だと?」
火を消す際に火花が飛び散る。
「龍符『闇龍』」
「大きくなった……うぐっ⁉︎ 視界が……」
ははっ、また掛かったか。
「そう、能力さ。相手が能力を受けなかったら意味がないんだがな。まっ、俺の方が有利ってわけだ」
「こんなものを二度も……卑怯だぞ」
弱音を吐いてやがる。勝負だし仕方ないが……
「卑怯ねぇ……んまぁ、おもしろくないし、能力解除っと。じゃ、いくぞ。龍符『呉散闇龍』」
さて、相手はどうするかな?
「『切り裂き小刀』」
んなっ⁉︎ ナイフが大量に⁉︎
「くっ、闇龍が! それにあれ、全て金色のナイフなのかよ……!」
「手加減してもらったが、私は容赦なしだ」
なんだよそれ。不平等じゃねぇか!
「まあ、手加減とかしてたらおもしろくないか……正々堂々、やってやる。龍符『深・闇龍』」
「……『魔小刀』」
またマジカル……? さっきのといっしょ——
「んなっ⁉︎ デカくなって——ぐはっ……」
巨大化したナイフは闇龍を貫き、そして再び小さくなって俺の腹を貫く。
「はぁ、はぁ……血が……」
俺は必死に腹を抑え、体勢を整える。
「ぐふっ……」
昼間の傷もあり、俺は吐血した。耐えられず、その場に座り込む。もう……無理なのか?
「強さを見るだけだったのに殺しかけてしまったな。まったく、話が変わってしまったものだ」
そう言い、やつはフードを取る。やつの容姿は白髪で、赤い瞳を持つ少女だった。
「私の名前は火御利。深手を負わせてしまったことは悪かった。ちゃんと話せていればよかったんだが」
「……なんで、男みたいな口調だったんだ?」
俺は息を切らしながら問う。
「悪い?」
即答……まあ、単純に口調を変えてただけだろうけど。
「おまえは結局、人間なのか?」
「人間か……さあ、どうかしらね」
なんだそれ。まあでも、普通の人間って少ないんだっけ。霊夢とか人里の人間ぐらいしか知らないしな。
「あ、忘れてた。おまえの手当てをしてやる」
彼女は勝手に社殿の中へと入っていた。
「わぁ⁉︎ だれだい君! あ、もしかしてさっきの……」
「火御利だ。それより、救急箱はないか?」
「ここにあるわよ」
目を擦りながら、霊夢が渡す。
「……感謝する」
彼女は小さな声で礼を言って、俺の方に戻ってきた。
「少し痛む」
「いでで……終わったか?」
火御利は包帯を巻き終える。
「これでよし。そうだ、聞くのを忘れていた。おまえの名前は知っているんだが、詳しいことは知らなくてな。軽い自己紹介でもしてもらえるか?」
なんだそれ。というかおまえ呼びかよ……
「まあいいや。俺の名前は幻真。幻想入りした……たぶんだけどな。んで、あっちにいるのが、萃香さん、霊夢、魔理沙、妖夢だ」
魔理沙は笑って火御利に手を振る。
「そうか。それと、どんな能力を持っているんだ?」
「能力は『龍を操り炎を扱う程度の能力』だ。まあ、それは初期のときで、闇龍になれば炎が闇に変わる」
「えっ、そうだったの?」
霊夢が聞いてくる。
「ああ。実はな」
それを聞いた霊夢はあくびをして言った。
「ふーん。まあ、とりあえず用は済んだみたいだから寝るわね。火御利はどうするの? 布団なら余ってるけど……」
「私は遠慮する。また彼の様子を見に来る。それじゃ」
彼女はそう言い残し、森の方へと走って行った。
「幻真〜寝よ〜」
「あ、ああ……」
どこかすっきりしない俺だったが、中へと戻って布団の中に潜った。