第35話 芽生える思い
〈幻真〉
「ふぅ、終わった終わった」
やと洗い物が終わった。霊夢たちはまだ風呂かな?
「妖夢、お疲れ様。霊夢たちを待つ間、お茶でも飲もうか」
「そうですね」
妖夢は返事をし、椅子に座った。俺は急須にお茶を沸かし、湯のみに淹れる。
「……やっぱり、このお茶は美味しいですね」
妖夢はほんわりとした表情で呟いた。そんな彼女のかわいらしい表情に、釘付けになってしまう。
「あの、幻真さん? 私の顔になにか付いてますか?」
「あ、いや……なにも付いてないよ」
俺は焦りながら答え、お茶を飲む。うむ、美味い。
「……風呂上がったら、酒でも飲もうか」
俺はなにを思ったのか、そう呟いた。
「いいですね。今宵は月も見えますし、縁側で飲みましょうよ!」
「そうだな。んじゃ、霊夢たち……丁度上がってきたみたいだな」
髪を拭きながらこっちへ来る魔理沙、笑いながら来る萃香さん、そして顔を赤らめている霊夢がこちらへと歩いて来る。
「霊夢、まだ照れてるのか?」
「ち、違うわよ! ちょっとのぼせちゃっただけよ!」
正直じゃないな〜。
「んじゃ妖夢、俺からでいいか?」
「あの、幻真さん……よければいっしょにに入りませんか?」
「ぶはぁ!」
予想外の返事に、俺は飲んでいたお茶を吐いてしまった。
「ご、ごめんなさい! でも……いっしょにに入りたいんです」
妖夢は嘘を吐いてないようだな。でも、なんでだ? 心当たりがあるとしたら、あのとき手伝ったことぐらい……しかしだなあ、さすがに俺のメンタルが……ぐぬぬ……
「わ、わかった……先に行っててくれ」
俺は妖夢にそう言って、風呂場に向かったことを確認した。
「ふーん……あんた、いつの間に妖夢を彼女にしたのよ」
「はぁ⁉︎ そんなんじゃねぇよ!」
「断らなかったじゃないか〜」
「それはだなあ……断るのがなぁ……」
「まあ頑張れよ!」
うわああああああ! くっそぉぉおおお! 俺は頭を掻き回してから、風呂場へと向かった。
〈魂魄妖夢〉
なんであんなことを言ってしまったのだろうか。私が幻真さんを意識し始めたから?
でも、なぜ?
異変のときは敵同士だった。今ではこの仲。手伝ってもらったりもした。剣術を教えたりもした。
なにか意識するようなきっかけがあっただろうか……?
〈幻真〉
「はぁ、難しいなぁ……」
異性と風呂に入るなんて初めてだ。気絶するかもな。一応言っておくが、俺は変態じゃないからな? ヤラシイことはしない。
俺は下半身にタオルを巻き、覚悟を決めて浴室へと入る。
「ま、待たせたな」
「だ、大丈夫ですよ」
おどおどしながらも顔を見合わす。それから体に軽く湯をかけ、向き合う感じで湯船に浸かった。
「狭くないか?」
妖夢を気遣い、聞いてみる。聞かれた彼女はコクりと頷いた。案外、ここの風呂はふたりでも広いんだな。スペースに余裕はある。
ふと彼女の顔を見てみると、顔が赤い。俺自身も顔が赤くなってるのはわかっている。頰が熱い。
「体、洗うか」
妖夢より先に体を洗おうと湯船から上がると、身体にタオルを巻いた妖夢も湯船から出る。
「背中、洗いますね」
俺はやばいと思った。なんだかすごく恥ずかしい。俺は真顔を保ちつつも、照れ顏になりかける。そして、妖夢に背中を流してもらう。
「じゃ、俺も背中洗うぞ」
そう言って妖夢を座らせ、背中を洗う。やっぱり照れるな……妖夢の肌はすべすべしていて気持ちよかった。
そうこう考えてたら、一通り背中を洗い終えたので、背中を流した。
「浸かりましょうか」
妖夢が先に入り、俺も後に続いて入る。
「あ、あの! 幻真さん!」
俺が風呂に浸かった着後、彼女はなにやら覚悟を決めた表情になり、こちらを見て言う。
「私、幻真さんのことが——」
少々マズいと思った俺は彼女に先に上がると伝え、逃げるかのようにして浴室を出た。
「幻真さん……照れちゃってるんですかね?」
妖夢がそう言う声が聞こえた。きっとあの後、あの台詞が来たんだろうな。うん、俺にはまだ早い。
俺はそうやって自分に言い聞かせながら、身体を拭いて服を着る。頭を拭きながら霊夢たちのいる場所――布団が敷いてあるところに向かう。だが、俺は異様な光景を目にした。
「なにやってんだ……?」
三人は布団の上で枕投げをしていた。お泊まり会気分全開だな……
「お、幻真!」
魔理沙が俺の名前を呼んで枕を投げてくる。枕は俺の顔面にヒット。その勢いのあまり、その場に倒れてしまう。
「あっはは! 幻真〜ダサいよ〜?」
「う、うるさい! これでも食らえ!」
俺は萃香さんに枕を投げる。枕は見事ヒット。
「やったねぇ⁉︎ それじゃあ、私はこっちだね!」
萃香さんは霊夢に向かって枕を投げた。しかし、ヒットせずに飛んでくる顔面の前でキャッチ。
「萃香〜?」
「ええ⁉︎ そこはのらなきゃ! 受け止めちゃだめだよぉ!」
「そんなの私の勝手よ。ほら、幻真!」
霊夢が俺に向かって枕を投げてきた。なんとか避けた俺だったが……
「ぶはぁ!」
髪を拭きながらこっちに来ていた妖夢に、俺が避けた枕が顔面にヒットする。
「よ、妖夢——」
「やったなあ? 私も参加するよ!」
「ふふっ、いいわねぇ!」
まあ、何分か枕投げが続いた。
「——はぁ、疲れた……」
枕投げという名の乱闘を繰り広げた俺たちは今、布団の上に寝っ転がっている。
「みんな、ここらで一杯やらない?」
「一杯と言わず、うーんとやろうよ! ほらほら! こっちこっち!」
「今酒切らしてるわよ?」
「あれ? そうなのかい? まあ、私が出してあげるから安心しなよ!」
切れてる酒は萃香さんがなんとかしてくれるということで、俺たちは縁側へと向かった。
「はい、これ」
霊夢は皆に酒器を渡す。そして、それぞれの酒器に萃香さんが持っていた瓢箪の形をした物からお酒を注いだ。
「んじゃ、かんぱーい」
俺の掛け声の後、酒器を合わせて鳴らして一気に飲み干す。たった一杯なのに、なんだか酔いが回るのが早かった。萃香さんのお酒が特殊だったからだろうか。だが、なかなか美味かったため、俺と妖夢はさらに注いでもらった。
「あんたたち、程々にしときなさいよ」
一応、永琳さんにあの薬を飲まされたからな。たぶん、あまり酔わないはず……
「——ふぅ。萃香さ〜ん、もっとくらは〜い」
「幻真、大丈夫かい? 他の三人は酔いと眠気から布団の方で寝ちまったよ?」
んぁ、あ、そうだったかぁ。
「これチャンスかもねぇ……」
んん? 萃香さんはなんのことをぉ?
「幻真、妖夢と風呂でどんな話をしたんだい?」
「んん? 告白されかけたかなぁ?」
なに言ってんだ俺ぇ……
「さすがだねぇ、幻真。ほらほら、もっと飲みなよ。遠慮はいらないよ〜」
「んん、ありがとぉ……」
はぁ〜。正直飲みすぎたなぁ。さっき変なこと言ってたしぃ……
「なんだこの状況は」
「ん? だれだい、君」
この声って……
「ああ! おまえは昼間の!」
「酔いが覚めたか。まあまあ、そう威嚇するな。相手ならしてやる」
上等だ。酔いを完全に覚ますのにちょうどいい。
「萃香さんは中に。なにが起こるかわからないんで」
「そうかい、わかったよ。あんたも気をつけるんだよ」
萃香さんはそう言い残し、中へと入って行った。
「んじゃ、いかせてもらうぜ。言っておくが、昼間の俺とは違うからな?」
「ほう、だったら期待に応えてくれ」
銀色のナイフか。
「改めてお手並み拝見だ。開眼『青眼』」
「青眼? ほう、瞳の色が変わったな」
集中力を上げたからな。同時に速さ、強さも上がる。
「ふっ、炎砲『溶岩熱砲』」
「『結界』……なにっ⁉︎」
これぐらいの結界、溶かしてやる!
「ぐっ、『多弾』」
「弾幕を溶かせ! 炎防『灼熱結界・弐』!」
「やるな……たしかに昼間とは違う。認めてやろう」
相変わらず上から目線か……
「狼と言ったか、彼の容態は?」
「は? なんで心配すんだよ。お前がやったくせに。調子に乗るなよ」
「ふむ、いい度胸だ。そんなおまえにこれをやろう。」
金色のナイフ……なにッ⁉︎ 速度変化――
「チッ……」
「油断したな。これで左腕はしばらく動けまい」
金色のナイフによって切り傷を与えられた俺の左腕は、痺れて動かなくなる。これは麻痺効果か? これじゃあ二刀流は不可能か。
「二刀流だったのか。しかし、左腕がその状態では片腕しか使えまい」
「それぐらい問題ない。いくぞ……ここからは容赦なしだ!」